大鶴佐助・大鶴美仁音のオンライン二人芝居『いかけしごむ』初日直前レポート

レポート
舞台
2020.6.17
大鶴佐助・大鶴美仁音『いかけしごむ』

大鶴佐助・大鶴美仁音『いかけしごむ』

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 “オンライン型演劇場”にリニューアルした浅草九劇で、大鶴佐助大鶴美仁音の姉弟俳優(父親は唐十郎)による二人芝居『いかけしごむ』(別役実 作)が生配信される。本番は2020年6月17日(水)&18日(木)で、配信前日の16日夜、最終的な通し稽古が行われた。稽古後の囲み取材では、「本番では新しい仕掛けがある」と意味深な飛び道具(?)演出プランも明かされ、期待が高まる。注目作の内容をレポートしよう。

暗い劇空間に風が起こり、吹き寄せられるように役者が現れ、言葉が置かれ、時間が動き、詩情が立ち上がる――。コロナ禍で劇場に足を運べない日々が続く今、ライブに焦がれる演劇ファンにとっては、この別役劇らしいオープニングから、愛してやまない“演劇の時間”が、ふっと体によみがえるかもしれない。

舞台の天井からは電話の受話器がぶら下がり、占い師のための小さな机と椅子、「ココニスワラナイデクダサイ」と書かれた看板、そしてベンチが置いてある。「正直になんでも打ち明けなさい」と迫る女、「そんなものはない」と戸惑う男。女が男に「子殺しをした現実を直視」するようにと言い始めると、舞台は不気味な空気を帯びてくる。すると男は、自分はイカを原料とする消しゴム(イカのすり身と消石灰を七三の割合で混合しているとか)を発明し、そのことで“ブルガリヤ暗殺団”に命を狙われていると妙な話を語り始め……。

平行線を辿る会話は終始、珍妙でコミカル。何が本当で何がウソかも分からないままに、ミステリアスな対話が連なっていく。ただ、親が子どもを殺すという不穏な話題や、どことつながっているのか分からない「命の電話」が相談者に「死ね」と言ったなどという言葉を聞くと、ふっと現代社会にもつながる回路が見えてくるから不思議だ。別役実が徹底した日常語に磨いて組み立てた会話から、静かに暮らす小さな人びとの、狂気や孤独や怯えがにじみ出す。同作の初演年を調べると、昭和が終わった年の1989年、渋谷にあった地下劇場ジァン・ジァン。時代の変化にそこはかとない不安が漂う“今”との符号、浅草九劇という小空間にぴったりな作品が選ばれたと感じた。

この不思議で魅力的な作品にチャレンジした役者二人は、広い宇宙の暗闇に、明滅する星のようで実に劇的でチャーミング。大鶴佐助演じる男が、「いかけしごむ」という世紀の発明をしたと自慢げに話すところは秀逸! ちょっと興奮気味に妄想的な言動に走るマッドサイエンティストっぽさは笑いを誘う。大鶴美仁音は、こちらの心に語りかけるような風景描写の台詞、透明感のある佇まいがとてもイイ。台詞の中に何度か登場する「リアリズムの世界」という言葉が印象的なのだが、“リアル”が分からなくなってしまった不穏な現代のことのようでもあり、リアリズム演劇に向けた皮肉のようでもあり、ここは色々な深読みもできる面白い箇所。

別役は生前「リアリズムは時間をとらえるが、始まりから終わりまでが短い。本来、長い時間をふくめて描けば人格はぼやける。ミケランジェロよりもフェルメールの方が人格がぼやけて見えるのは、時間が作品の中に描かれているからだ」(内田洋一著「風の演劇 評伝別役実」)とも語っているが、絵画的な想像力も使って演劇の時間と空間を設計してきた別役の美学を感じられて、意味を想像(妄想?)していると、ふつふつと楽しくなってくる。自作のアンチ・ロマンな体質を指しつつ「ロマン派というものに対するコンプレックスがある。どうしても唐十郎なんかに対しては、これはもう、抜き差しがたく、もうこりゃダメだっていうところまで(笑)」(扇田昭彦「劇的ルネッサンス」)と語った別役の戯曲に、唐十郎の子どもたち――DNAを受け継いだ若き役者たちが挑んでいるというのも、なかなかに心憎い企画である。

通し稽古後に行われた囲み取材で、生配信にかける思いを聞いた。

――通し稽古を終えての感想を伺えますか。

佐助 無事に明日の本番を迎えられる段階まで来られてよかったです。稽古場でやってきたことと、お互いが作ったことを信頼して初日を迎えたいです。

美仁音 そうですね。舞台を楽しむことに集中しようと思います。明日は本番でもっとシンッとしているはずなので、緊張しますけれど。

佐助 本番では新しい仕掛け、ある飛び道具を考えているので、楽しみにしていただきたいです!

――お二人の共演というのは初めてですか?

佐助 唐組の芝居では共演していますけれど、二人芝居は初めて。「こうやって役を作るんだ」とか、いっぱい新鮮なところがありましたし、刺激的でした。

美仁音 以前共演した時、すごく心強くて面白かったので、また共演したいとは思っていたんですよね。なのでこういう機会をいただけてありがたいです。姉弟で意見が食い違うこともあったのですが(笑)、ここまでたどり着きました。

佐助 今回は二人で演出したこともあって、客観的な視点の大切さを感じましたし、面白い経験でしたね。

――どういったきっかけで生まれた企画だったのでしょうか。

佐助 浅草九劇のプロデューサーの方とリモートで飲んでいた時に、“オンライン型演劇場”としてリニューアルするというお話を聞いたのがきっかけでした。

美仁音 九劇はすごく好きな劇場なので、ラッキ~!という感じで(笑)、お話をいただいて、すぐに「やらせていただきたい!」とお答えしました。

――別役作品を選んだ経緯を教えてください。

美仁音 以前、唐組の劇団員から「美仁音がやったら面白いかもよ」と教えてもらっていた戯曲だったんです。それをふと思い出して読んでみたら、「わぁ、面白い」ってすぐに決まりました。

佐助 どれが“リアリズム”なのか分からないような、作品の空気感に今の状況とつながる部分も感じられますしね。

――別役さんとお父様の唐十郎さんは全く違う世界観を持つ作家ですが、同時代をつくられた演劇人です。演じてみて気づいた共通部分はありますか?

佐助 言葉の面白さ、あとは登場人物各々にとっての真実があって、ヘンな人でも、その人にはその人の存在する方向性があるっていうのは似ているのかなぁ、と思います。

美仁音 どこにつながっているのか分からない電話というのも、父の戯曲に出てきたことがあるんですよね。

佐助 そうそう。『吸血姫』という作品でも、電話を取ると赤ん坊の泣き声が聞こえる……という場面がありますしね。何か共通する世代的感覚があるのかもしれません。

――生の演劇が上演しにくい現状ですが、現在、どんなことをお感じですか?

佐助 単純にやるかやらないかで言ったら、マスクをつけてでもやるのが役者。芝居をしていないと生きていることにならないので、どんな形でも諦めずに、能動的になって抜けられる道を見つけてやらないと、と思っています。ある意味チャンスなんだと。お客様を驚かす表現ができる可能性もありますし。

美仁音 やっぱり生のお客様の前でいつかという気持ちはありますけれど、配信は、新しい演劇の形。先日柄本明さんの生配信も拝見して、集中しながらも家でリラックスして観られるという不思議な体験で、面白さも感じられたんですよね。カメラの向こうにいる人たちに笑ってもらえるように、一生懸命やれたらいいなと思っています。

取材・文=川添史子

浅草九劇 配信情報

大鶴佐助・大鶴美仁音ふたり芝居『いかけしごむ』
 


■作:別役実(べつやく・みのる)
■構成/演出/出演:大鶴佐助、大鶴美仁音
■公演日:2020年6月17日(水)19:30開演、18日(木)19:30開演
■場所:浅草九劇
■ライブ配信料金:1,500円
■申込:下記公式サイトにて。
■公式サイト:https://asakusa-kokono.com/
■あらすじ:暗い夜、幾晩も無駄に過ごす女の所へ、何かに追われてサラリーマンで発明家の男がやってくる。女はやけに事実にこだわりながら男にココロのヒミツを話させようとする。1人のリアリズムの世界がもう1人のリアリズムの世界をゆっくりと侵食した先に残るものとは、そしてもともとあったものとは。

※劇場での観覧の有無に関して、新型コロナウイルス感染症の状況を鑑み、今回はオンラインのみでの上演とさせて頂きます。楽しみにして頂いていたお客様、申し訳ございません。

 



ふたり芝居『タンスのゆくえ』

■作・演出:田村孝裕(たむら・たかひろ)
■出演:中村まこと&藤間爽子ver. 山口森広&町田マリーver. (※1公演で両ver.上演いたします)
■公演日:2020年6月24日(水)19:30開演、25日(木)19:30開演、26日(金)19:30開演
■場所:浅草九劇
■ライブ配信料金:2,000円
■申込:下記公式サイトにて。
■公式サイト:https://asakusa-kokono.com/
※劇場での観覧の有無に関しては、新型コロナウイルス感染症の感染状況を鑑みて判断させていただきます。
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