帝国劇場が古代エジプトに! ミュージカル『王家の紋章』ゲネプロレポート(浦井健治×神田沙也加×平方元基×新妻聖子ver.)
ミュージカル『王家の紋章』
2021年8月5日(木)、4年ぶりの上演となるミュージカル『王家の紋章』が東京・帝国劇場にて開幕した。
少女漫画の金字塔である『王家の紋章』(細川智栄子あんど芙〜みん作)を原作に、脚本・作詞・演出を荻田浩一、作曲・編曲をシルヴェスター・リーヴァイが務め、2016年に初演されたミュージカル『王家の紋章』。世界初演時にはが即日完売するほどの注目を集めた人気作だ。4年ぶり3度目となる本公演では、メインキャラクターの多くに新キャストを迎えて満を持しての上演となった。
初日前夜に、浦井健治、神田沙也加、平方元基、新妻聖子、岡宮来夢、前山剛久らが出演するゲネプロが行われた。その模様を写真と共にお届けする。
ミュージカル『王家の紋章』の魅力、それは唯一無二の独特な世界観にある。少女漫画ならではのドラマチックなストーリー展開、3000年前の古代エジプトという壮大な舞台、そしてシルヴェスター・リーヴァイが生み出す優美な音楽。これらが融合することで、他では味わえない世界が舞台上に誕生する。客席の私たちをその魅惑の世界へと誘ってくれるのは、個性的かつ魅力的な登場人物たちだ。物語のあらすじを追いながら、力強く生きる登場人物とそれを演じる実力派キャスト陣を紹介していきたい。
物語は、現代エジプトで考古学を学ぶアメリカ人の少女キャロルが、とあるピラミッドの発掘調査に参加したことから始まる。実はそのピラミッドは若き少年王メンフィスの墓。愛する弟の墓を荒らされたことに怒るメンフィスの異母姉アイシスが怨念となって現れ、キャロルに呪いをかける。このアイシスの呪術により、キャロルは3000年前の古代エジプトへとタイムスリップしてしまうことになる。
(左から)浦井健治、神田沙也加
考古学を愛してやまない好奇心旺盛なキャロルを演じるのは、本公演から初参加となる神田沙也加。近年、数々のミュージカル作品で主演・ヒロインを務め、日本のミュージカル界に欠かせない存在となっている。神田が演じるキャロルは、まるで原作漫画から飛び出してきたのかと思うほど、キャロルそのもの。彼女の持つ愛らしいビジュアルと変幻自在の声色から、少女漫画のキャラクターは間違いないと思っていたものの、第一声からあまりにもキャロルなので心底驚かされた。作品を通して豊かな表現力を存分に発揮し、天真爛漫な少女キャロルを見事に体現していた。
古代エジプトでは若きメンフィスが王に即位したばかり。多くの人々から讃えられ、その強大な権力を誇示する。そんなメンフィスが偶然キャロルと出会う。キャロルの持つ白い肌と金色の髪という物珍しさから、メンフィスは彼女を手元に置くことに決める。王である自分の言うことに歯向かって抵抗してくるキャロルに対し、メンフィスは困惑しながらも次第に惹かれていく。
浦井健治
若き少年王メンフィスを演じるのは、初演から続投の浦井健治。もはや”ミュージカル界のプリンス”ならぬ、”ミュージカル界のファラオ”と言っても過言ではないだろう。王の風格は申し分なく、一挙手一投足からそれが滲み出ている。一方で、キャロルと出会って愛を知ってからの変化が顕著で新鮮だった。サソリに噛まれて瀕死の状態をキャロルに救われたあと、目を覚ましたメンフィスはまるで別人だ。「あ、恋に落ちたんだな」ということが歌声からすぐにわかる。物語後半では王ではなく一人の男としての弱さが垣間見えるシーンもあり、メンフィスの人間味を感じることができた。宿敵イズミル王子との決闘シーンでは、得意の殺陣をマントを翻しながら披露。圧巻の剣さばきで魅せてくれる。
メンフィスに近づく女という女を憎しみに満ちた目で見つめるのは、メンフィスの異母姉の女王アイシスだ。幼い頃からメンフィスをその手で守り抜き、いつか姉弟で結婚する日を夢見て生きてきた彼女にとって、突如現れたキャロルや隣国のミタムン王女は邪魔な存在。あの手この手を使ってメンフィスから排除しようと試みるのだが……。
新妻聖子
迫力の歌と芝居で劇場中を震わせたのは、初演・再演でキャロルを演じ、本公演でアイシス役に挑戦した新妻聖子だ。今回の新妻からはキャロルの面影は全く感じられず、身も心もアイシスに染まりきっていた。元々原作ファン(王族)でもある彼女の『王家の紋章』に対する愛は並々ならないものがあり、それが作品全体の熱量を高めているのではないかと思うほど。キャロルに夢中なメンフィスから拒絶されて歌う「Unrequited Love(想い儚き)」では、絶望故に膝から崩れ落ちる場面も。劇中、あらゆるシーンでメンフィスを見つめるアイシスの眼差しに注目してほしい。
キャロルに夢中なのはメンフィスだけではない。考古学の知識と現代の知恵を持つ美しい少女を、多くのエジプト人が”ナイルの娘” ”黄金の姫”と崇め奉っていた。その噂を聞きつけた隣国ヒッタイトの王子イズミルは、巧みな話術でキャロルを攫って自国へと連れ去り、エジプトに宣戦布告する。
平方元基
聡明な王子イズミルを演じるのは、本公演で3度目の出演となる平方元基。常にクールな口元に鋭い眼光、衣裳の魅力を存分に発揮する美しい所作に惹きつけられる。イズミルの普段の冷静な姿と歌唱シーンで激しく歌い上げる姿には大きなギャップがあり、メンフィスに負けない魅力的なキャラクターとして存在感を放っていた。
植原卓也
綺咲愛里
現代パートの多くを担うのは、キャロルの兄ライアンだ。植原卓也は妹想いの優しい兄を繊細な演技で表現した。メンフィスを巡ってアイシスと火花を散らすミタムン王女を演じたのは、元宝塚星組トップ娘役の綺咲愛里。王女にぴったりのかわいらしい容姿とは裏腹に、アイシスと壮絶な戦いを繰り広げた。
岡宮来夢
(中央)神田沙也加、(右)前山剛久
イズミルの腹心の部下であるルカは、岡宮来夢が堂々とした歌と芝居で好演。要所要所でキャロルを助ける兵士ウナスを演じた前山剛久は、その朗らかな笑顔と、献身的にキャロルを支える姿が印象的だった。また、初演から続投の宰相イムホテップ役の山口祐一郎をはじめとするベテラン陣が本作を支えていたのは言うまでもない。
(左)山口祐一郎
上演時間は1幕1時間15分、休憩25分、2幕1時間15分の計2時間55分。東京公演は帝国劇場にて8月28日(土)まで、福岡公演は博多座にて9月4日(土)〜26日(日)まで上演される予定だ。
古代エジプトと現代を行き来しながら、舞台上で生き抜く登場人物たちのエネルギーがほとばしる本作。キャロルと共に悠久の時を遡り、ナイルの流れに身を委ね、唯一無二の世界観を堪能してほしい。
なお、本記事では紹介できなかったWキャスト(海宝直人、木下晴香、大貫勇輔、朝夏まなと、前山剛久、大隅勇太)が出演するゲネプロ回も別途レポートする予定である。
取材・文・写真=松村蘭(らんねえ)
公演情報
日程・場所:
<東京公演>2021年8月5日(木)~8月28日(土)帝国劇場
<福岡公演>2021年9月4日(土)~26日(日)
原作:細川智栄子 あんど芙~みん(秋田書店「月刊プリンセス」連載)
脚本・作詞・演出:荻田浩一
作曲・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ
【出演者】
メンフィス:浦井健治/海宝直人(Wキャスト)
キャロル:神田沙也加/木下晴香(Wキャスト)
イズミル:平方元基/大貫勇輔(Wキャスト)
アイシス:朝夏まなと/新妻聖子(Wキャスト)
ライアン:植原卓也
ミタムン:綺咲愛里
ナフテラ:出雲 綾
ルカ:前山剛久/岡宮来夢(Wキャスト)
ウナス:大隅勇太/前山剛久(Wキャスト)
イムホテップ:山口祐一郎
製作:東宝株式会社
公式サイト:https://www.tohostage.com/ouke/