劇団民藝『パレードを待ちながら』田中麻衣子×いまむら小穂×金井由妃〜第2次大戦中のカナダで銃後を守る女たちの物語が、コロナの収束を願う我々に重なる

インタビュー
舞台
2021.9.3
(左から)いまむら小穂、金井由妃、田中麻衣子

(左から)いまむら小穂、金井由妃、田中麻衣子

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カナダの劇作家ジョン・マレルが、カナダ西部カルガリーの市民の証言を集め、第2次世界大戦の記憶を劇化した『パレードを待ちながら』を、2021年9月4日(土)~13日(月)、劇団民藝が東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて上演する。名誉と栄光に駆られて勇んで戦地に行進していった男たちに対し、おしゃべりと流行歌とダンスで「非常時」を耐え、銃後を守り、奉仕活動に励みながら愛する男たちを待ち続ける5人の女たち。しかし、戦争が長引くにつれ、彼女たちにはある気づきが芽生え始める……。劇団民藝といえば、名のあるベテラン俳優が揃っていることもあり、彼らを主軸とした作品が多くなる。その中にあって、本作は、若手を中心とした公演。出演者として意気込む いまむら小穂金井由妃 の二名に加え、串田和美や栗山民也の演出助手などを経て活躍している演出家の田中麻衣子に話を聞いた。


 

――田中さんは民藝さんとのご縁はいつからですか?

田中 今年の2月に三好十郎さんの『地熱』で初めてご一緒させていただき、今回が2回目です。民藝さんでは今旅公演も含め4本の作品が同時に動いていて、つまり関わっている方々がたくさんいらっしゃるわけですが、コロナ禍にそれができることが劇団ならではというか、劇団力のすごさを感じています。そしてまたお客様がそれを楽しみに待ってくださっているということも含めて、底力があると感じています。

 私にとっても民藝さんにとっても新しい出会いだと思うんです。セリフへの向き合い方にしても、戯曲への取り組み方にしても、それぞれがこれまで培ってきた方法や時間の種類が違うかもしれませんので、知らないものと出会いたいという欲求がお互いにあるのではないでしょうか。少なくとも私自身は、稽古場でいろいろな気づきをいただいています。

――金井さんは『地熱』でも田中さんの演出を受けていらっしゃいますが、どんな印象を持たれていますか?

金井 麻衣子さんは、まずやってみる!というタイプの演出家さん。私はなかなか期待通りに演じられなかったりするんですけど、劇団だとできないなりに形にしていくことも。麻衣子さんは最後の最後まで、そうじゃないよね、こうやったらどうと寄り添ってくれる。ある意味では、役者が試される厳しい現場でもあります。これもいいんだ!それもいいの?という驚きの毎日で、今回は、外国の戯曲への挑戦でもあり、明るく、ポップにという感じで楽しいです。

いまむら 私は劇団で今回のような大きな役に挑戦させていただくのは初めてなので、まずは呼んでくださった麻衣子さんとの出会いに感謝しています。まだまだ金井さんのように自由に振る舞うことはできないんですけど、もちろんそこを目指しつつ、限界にチャレンジしていきたいと思っています。麻衣子さんとは、それこそ千秋楽まで試行錯誤していくような思いを共有していますので、期待に応えられるように頑張りたいです。

いまむら小穂

いまむら小穂

――キャスティングに関しては田中さんも関わられているのですか?

田中 『地熱』の前、2020年の夏に、幅広いキャリアをお持ちの俳優さんたち30人くらいと、5日間ほど読み合わせをやらせていただきました。今回は、そのときにお会いさせていただいたり、これまで作品を拝見させていただく中で、制作の方と相談しつつ、中堅若手の女優さん5人に集まっていただきました。

(左から)森田咲子、藤巻るも、吉田陽子、いまむら小穂、金井由妃

(左から)森田咲子、藤巻るも、吉田陽子、いまむら小穂、金井由妃

――『パレードを待ちながら』と聞いて、民藝さんのテイストとはひと味違う印象がありました。

田中 そうですね。でも作品って、だいたい紆余曲折を経て決まっていきますよね(笑)。『地熱』の時も、今回もいくつかの候補を民藝さんからも出していただき、私からも提案させていただきました。『地熱』『パレードを待ちながら』も気になる作品として自分の中に秘めていたものではあります。この作品に関しては、時期的にもコロナが収束しない中、音楽が劇場に響いているような作品がいいなという思いがありまして、音楽を演奏したり、役者さんが歌ったりするような戯曲はないかと探したんです。そして、登場するのが5人だけ、しかも女性だけで面白そうだというのも入り口の一つでした。日本風に言えば銃後を守る女たちの物語です。パレード=終戦ですが、戯曲を読み直したときに、男性たちを待ち続ける女性たちの様子が、コロナが思っていたより長引いて、どんどんひどくなっていって、いつ来るかわからない終わりを待っている現代の私たちと重なったんですよね。そういう意味で、1977年にカナダで初演されたこの作品が、2021年の東京のお客様と共有できるものがありそうだと思いました。

――お二人の役について、作品について紹介してください。

いまむら 私はキャサリンという主婦を演じるんですけど、娘もいるのに、旦那さんが自ら軍隊に志願して、兵士として戦場に行ってしまいます。そういう大事な相談をせずに出征した彼に対し、また止められなかったことへの怒り、不満から始まります。ずっと愚痴ってますね(笑)、愚痴りながら終戦を、旦那さんを待ち続ける。これまで日本の作品で、銃後を守る女性というのは劇団の芝居では割とあるように思いますが、今回は戦争に巻き込まれ、また勝利する側という設定であり、今までとはまったく違う視点で第2次世界大戦に向き合うことは一つの挑戦です。しかも考えて立ち止まる、押し黙るというのではなく、開放されていく女性たちを麻衣子さんとディスカッションしながらつくろうとしています。つらくとも前に向こうとする女性たちのパワーが作品に込められていて、先ほど麻衣子さんもおっしゃいましたが、今の時代にもリンクしているし、また明日から前を向いて生活していこうというような作品にしたいなと思っています。

金井 私はイーブという役で、20代後半の設定で、この芝居に登場する女性たちの中で一番若いんです。だいぶ年上の旦那さんがいて、とても平和を願う彼女は、自分の高校の生徒だったり、カナダの若者たちが戦争に駆り出されることに怒りを覚えるんです。そう言うときちっとした女性のようですが、ちょっとおっちょこちょいなところもある。そこは私と共通しているので、うまく利用できるかなと(笑)。イーブは戦争や政治のことについて、お客さんに向けて語りかけるんですね。日本でも若い人が自分の意見なんか政治に反映されることはないと思いがちですけど、それを自分の問題として悶々と考えて、すごい怒りを持っている。劇団でも戦争ものはいろいろやってきましたが、私は自分自身がすごく苦しくなるんです。でも今回は、つらい中をどう楽しく生きようとするかがポイント。麻衣子さんからもっとカラッとと言われるんですけど、悲しさではなく、明日に向かってどう生きるか、今日1日をどう生きるか、あるいは目の前の問題をどう解決するか、そういったパワーを感じる作品です。

金井由妃

金井由妃

――作曲は国広和毅さんですね。どんな曲が流れるのか楽しみです。

田中 本来なら戯曲に書かれた曲や、時代設定に即して選曲してもらうのですが、今回は、スイングミュージックなどがそれに当たるんですけど、日本でスイングというと、戦後の焼け跡に流れていたとか、そういうイメージが先行してしまうので戯曲の意味合いが違ってきてしまうんではないかと思ったんですね。ですから、そのへんは相談しながら、戯曲に指定された音楽が登場人物にとってどういう意味なんだろうかと掘り下げながら、ほぼ9割を新たに書き下ろしてもらいました。合わせて作詞もしてもらっています。

――先ほどもお話がありましたが、民藝さんは敗戦をへた日本人の頑張りだとか、反戦を掲げる作品が多いから、今度の作品は特殊じゃないですか?

いまむら そうですね。日本の戦中戦後の人びとのことを描いた芝居を数多くやってきた私たちとしては初めての視点、経験でもありますし、それをまた音楽に乗せてパフォーマンスを入れてという経験も初めてです。お芝居としてリアリティだけで見せるわけではないということも新鮮ですし、お客様にも、民藝の新しい一面を感じていただけるでしょう。戦争だからつらいというよりも、生きていく人びとのチャーミングさが際立つ作品になるんじゃないか、そのへんが見どころだと自負しています。

左から藤巻るも、金井由妃、いまむら小穂

左から藤巻るも、金井由妃、いまむら小穂

――作品選びには田中さんも狙いがあったのでしょうか?

田中 もちろん奇をてらうつもりはありませんが、普通なら民藝さんのラインナップには並ばないような作品であることは意識していました。1950年創立の劇団民藝、その戦後71年というこの時代に何がいいか考えたとき、翻訳の吉原豊司さんから、この戯曲は1977年にカナダで上演された際に、終戦から30数年が経っていたけれど、実際に戦争を体験したお客様が当時を思い出してものすごく盛り上がったと伺いました。民藝さんが取り上げられる敗戦国としての日本の話を見ていらしたお客様のお持ちになっている感覚は、『パレードを待ちながら』がカナダで上演されたときと似ている気がするんですよね。実体験とつなげて観ていただくことで、カナダ初演からさらに44年後の東京という仕掛けもついて、重層的な世界がつくれるんじゃないかという思いはあります。

(左から)吉田陽子、金井由妃、いまむら小穂、藤巻るも、森田咲子

(左から)吉田陽子、金井由妃、いまむら小穂、藤巻るも、森田咲子

――5人の出演者、この世代のメンバーで本公演一本つくられるというのもすごく貴重な機会じゃないですか?

いまむら たった5人で、女性だけで、しかも中堅以下の劇団員だけでというのは、少なくとも私が知っている中では初めてだと思います。劇団の中からもいろんな声が聞こえてくるのですが、みんな楽しみにしてくれています。

金井 劇団の3階にいろいろな戯曲が置かれていて、誰でも読めるようになっているんです。いろいろな方が『パレードを待ちながら』を読んでくれているみたいで、後輩から「金井さん、こんなにセリフをしゃべるんですか? 大丈夫ですか?」と言われてしまいました(笑)。私からすれば、共演する4人の方々は皆さん先輩ですけど、みんなで歌をうたったり、踊りの練習をしたり、シーンについて話したり、休みでも自主練に来たりというのは楽しいですね。そして、こんなにもフラットに悩みを言い合ったり、意見をたくさん出し合ったりする作品づくりは初めてです。日々貴重な時間を過ごしています。

田中 『地熱』をやらせていただいたときに、民藝のお客様に感動したのは、すごく温かいんですよね。私が多くの劇団さんとあまりお仕事していないので、ほかのところもそうなのかもしれませんが、この俳優さんは次にどんな役をやるんだろうということを、本当に心待ちにしていらっしゃる。こういう時ですから、観にきてくださいとは言いづらいこともありますが、現実を忘れながら、同時に現実とつながっていかれるのが劇場でしかできない演劇体験です。この時期だから新しいことにチャレンジしよう、静かに心動かそうというときに、一緒に『パレードを待ちながら』で時間を共有していただければいいなと思います。

いまむら小穂、田中麻衣子、金井由妃

いまむら小穂、田中麻衣子、金井由妃

取材・文:いまいこういち

公演情報

劇団民藝『パレードを待ちながら』
 
■日程:2021年9月4日(土)~13日(月) 
■会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
■作:ジョン・マレル 
■訳:吉原豊司 
■演出:田中麻衣子  
■出演:吉田陽子 藤巻るも いまむら小穂 森田咲子 金井由妃
料金(全席指定):一般6,600円/一般夜4,400円
 U30(30歳以下)3,300円(劇団のみ取り扱い)
 高校生以下1,100円(劇団のみ取り扱い・枚数限定)
■開演時間:13:30(9月6日・9日は18:30)
■問合せ:劇団民藝 Tel.044-987-7711(月~土 10時~18時)
■公式サイト:https://www.gekidanmingei.co.jp/performance/2021_waiting-for-the-parade/
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