「ラルクを好きになってくれてありがとう!」L’Arc~en~Ciel、結成30周年を祝したツアー完走
ラルク アン シエルが結成30周年を記念した『30th L’Anniversary TOUR』を完走、国立 代々木競技場 第一体育館4Daysでファイナルを成功裏に終えた。アニバーサリーにふさわしく、デビュー以降現在に至るまでの大ヒット曲を中心に、最初期曲などのレア曲も織り交ぜたセットリスト。回転する円形のセンターステージとLEDを駆使したアーティスティックな光の演出で視覚的にも楽しませた。5月の“L’APPY BIRTHDAY!”を序章とし、9月に彼らの聖地 大阪で幕開けたこのツアーは全国8カ所19公演を実施。最終日の終演直後には、2022年5月21日(土)、22(日)に東京ドーム2Daysを開催することを会場内で発表、ファンを興奮させた。ラスト2Daysにあたる12月25日(土)、26日(日)の模様をレポートする。
これまでの成功実績が認められ、フルキャパシティーで開催された本公演。飛沫感染防止のため歓声や歌唱などは引き続き自粛を求めており、コロナ以前のライヴと同じとはもちろん言えない。しかしそれに代わって、光の色を切り替えられるバットマラカスライト(公式グッズ)を駆使した、光と音による新しい応援の形が浸透。12月25日(土)、ファンは赤と緑を中心とした光を灯し、クリスマスカラーで客席を彩り開演を待っていた。
スリリングなオープニング映像に続き、流れ響いた「get out from the shell」の不穏なイントロ。円形ステージ全体を柵のように囲うLEDスクリーン越しに、hyde(Vo)、ken(Gt)、tetsuya(Ba)、yukihiro(Dr)の姿が透けて見えるのを凝視した。サビに差し掛かりようやく囲いが上昇し全貌が現れると、赤一色の世界に白煙が噴き出して緊迫感が上昇。一気に深遠な世界へと引き込んだ。直後に「Caress of Venus」を放ち明るい空気に切り替わると、ステージの外周が回転をスタート。「“30th L'Anniversary TOUR”へようこそ! ラルク アン シエルです」とhydeが挨拶、「昨年は予定されていた代々木公演ができませんでしたが、今日はどうでしょうか? 100%入っております。そして全国の映画館でも流れております。いやぁ、ワクワクするね!」と満面の笑み。この発言の背景には、2020年1月に開幕した“ARENA TOUR MMXX”がコロナ禍で中断、同年3月に予定されていたこの代々木競技場 第一体育館での公演が中止となった経緯がある。また、映画館で流れているとは、この2日間の模様が全国の映画館にてLIVE VIEWINGの生中継で届けられることを指す。メンバーはカメラの向こうで見守るファンの存在もしっかりと意識し、様々なアクションを繰り出していた。
hyde
「X X X」はゴージャスで妖艶なムードを、「winter fall」では白銀の世界に駆け出すような軽やかさを、いずれも30年というキャリアならではの成熟した歌唱と演奏で表現。円形ステージから四方に伸びる花道へとメンバーは頻繁に歩み出て、ファンと至近距離で生き生きとパフォーマンスをしていく。hydeがハーモニカを吹いては止め、その都度バットマラカスライトなどでリアクションするファンと“声を出さないコール&レスポンス”を楽しんだ「flower」。「三十路になりました、ラルク アンシ エルです。今日も大人っぽく」(hyde)とイントロに乗せて予告した通り、「metropolis」は官能的なグルーヴを醸成。どの曲でも、メンバーが奏でる音は一音一音が粒立って耳に届きつつ、互いに絡み合って溶け合いもする、心地良いバンドアンサンブルを味わわせた。
激情が迸るkenのギターリフで「DAYBREAK’S BELL」が幕開けると、嵐に荒れる海原をステージ下方に巡らされたLEDスクリーンに投影。起伏に富んだメロディーに寓話的な歌詞が映え、切迫感に満ちたパフォーマンスで引き付けていく。その直後tetsuyaが足元の台に乗り、ひずんだサウンドメイクを施したダイナミックなベースソロで沸かせると「STAY AWAY」がスタート。外周とは逆方向に円の中心部もゆっくりと回転し始める。曲に合わせたリズムで観客はクラップを繰り出して、会場には一体感が広がった。硬派で骨太な歌唱、及び演奏を聴かせると同時に、見せ方はポップでフレンドリー。“ARENA TOUR MMXX”で初導入したセンターステージ演出は回転のヴァリエーションが増え、見える景色も多彩になってヴァージョンアップ。前人未到のロックショウの形をつくりあげていた。
ken
内円部が回転を止め、ステージの正面となる方位が変わって「NEO UNIVERSE」がスタート。UFOを思わせる幾つものリング状LEDがステージの外周を上下に浮遊し、曲が持つ近未来的なイメージが視覚化されていた。「あなたに巡り会えてよかった」と歌うhydeはファンに手を差し伸べるようなアクション。通奏低音であるエレクトロニックなビートは次曲「CHASE」のイントロに引き継がれて、“CALLING”という巨大な文字が警告のようにスクリーンに大写しに。花道でhydeは這うような体勢でカメラに接近しパフォーマンス。ロックンロールとエレクトロが華麗に融合したこのシングル曲リリースから早10年。1990年代、2000年代、2010年代そして2020年代とどの時代も新たなトライアルを重ね、楽曲の幅を広げ続けてきたことが伺える。
yukihiro
トーチに囲まれた神秘的な空間でミリオンヒット曲「花葬」を披露。ステージは赤く染め上げられ、ファンが灯すバットマラカスライトもほぼ赤一色、会場全体が赤い海に沈んだような壮観な眺め。ステージ下方のLEDには、暗闇に花弁が舞い散るイメージが映し出されている。1998年、前代未聞の3枚同時リリースで世を驚かせたシングルの1つであるこの曲は、当時からその完成度に定評があったが、より深まった4者の表現は異次元の美を出現させていた。続く「EVERLASTING」では雲海のようなスモークがメンバーの足元を覆い、赤の世界は、止まない雨に閉じ込められたような冷たい青の世界へ。tetsuyaはベースに代わりエッフェル塔を象ったギターを奏で、kenのフレーズと互いに呼び合うようにプレイ。yukihiroのドラムは、終盤で覚悟を決めたようにテンポを上げて刻み始め曲を牽引。目元はフードで覆われ表情が定かに見えないにもかかわらず、溢れる情感が伝わってくる、hydeの歌唱の凄みには圧倒されるほかなかった。
前曲の雨のイメージを引き継ぎながら、ドラムセットの下に設けられたソファ部分にkenは腰掛けてギターを爪弾き始めた。やがて晴れ間が覗いたことを音から感じ取れるような、明るい兆しを帯びたフレーズがまるで蕾が開くように生じ、自然に「MY HEART DRAWS A DREAM」へとリンク。ゆっくりと回転していたステージは再び方位を変えて停止し、曲が本格スタートした。かつてファンがコーラスし大合唱となるのがこの曲恒例の場面だったのだが、コロナ禍の今、ハミングに形を変えている。hydeはイヤーモニターを外して耳を澄まし、慈しみ深い笑顔を浮かべファンのハミングを指揮するようなアクション。tetsuyaは台に飛び乗って、背を向けている側にあたる方位のファンにも意識を配っていた。
tetsuya
クリスマスやお正月にまつわるMCで場を和ませた後、ジャジーなクリスマスソング「Hurry Xmas」を披露。下方LEDにはトナカイやツリーなどが描かれたクリスマスモチーフのアニメーションを投影。軽やかな歌と演奏で会場にはハッピーなムードが満ちていき、間髪入れずにエンジン音が鳴り響くと「Driver’s High」へ突入。勢いよく特効が爆ぜ、ボルテージは本編終盤へと急上昇を見せていく。hydeはyukihiroの背後に設けられた階段の上に立ってパフォーマンス。kenも花道へ歩み出てファンを見渡し笑顔で生き生きとプレイしていた。目を奪われたのは、「HONEY」では花道でコーラスをするken、ステージでギターを搔き鳴らしながら歌うhydeが互いに向き合い、tetsuyaはyukihiroの方を見て、4人が縦一列に並ぶシーン。フォーメーションを様々に変えつつこのツアーでは恒例となっていた名場面の1つであり、それぞれの場所で音を鳴らしながらも、一つの軸で貫かれている4人の姿には胸が熱くなった。
「東京、30周年のお祝いしてくれよ! 皆の元気なとこ見せてくれ! 声出せなくても元気なとこ見せれんじゃないの? やれんのか東京!」などとhydeが観客を思い切り煽り、「READY STEADY GO」を放つと、高速回転するステージ外周にhydeとtetsuyaが乗ってアクティヴにパフォーマンス。kenもプレイに没入。怒涛のテンポでリズムを刻み続けていたyukihiroは、曲が終わって一人ステージに残り、力強くもストイックなプレイを披露。4人は一旦ステージを去った。
小休止の後スクリーンに映し出されたのは、ラルク アン シエルが産声をあげた大阪のライヴハウス、難波ROCKETSを訪れる、マスク姿の女子高校生の姿。彼女が映像内でスマートフォンのライトを灯すのを合図に、ファンもそれぞれの手元で光を灯し、会場は暗闇から眩い星空へと様変わりした。歌い届けたのは、30周年を記念したシングル第一弾「ミライ」。虹を表現する照明演出とファンがかざすスマートフォンの白い閃光が織り成す、美しい世界。hydeは振り返り、「“一人じゃないんだ”って。実はコンサートのこの星空をイメージして、“寂しくなんかないんだ”ってことを言いたかった曲です。寂しくなったらこの曲を思い出してもらえたらいいな、と思います」とファンの孤独に寄り添い、語り掛けた。
30周年を祝したシングル第二弾「FOREVER」は、「これはただでは聴かせられない」(hyde)と冗談めかして語り始め、会場の端から端までウエーブが綺麗に揃ったのを起動合図に演奏スタート、というある種の“儀式”をツアーを通して練り上げて来た。1度目で揃ったもののメンバーの準備が整わない、というやり取りもコミュニケーションの一環となっており、綺麗なウエーブを成し遂げたファンを「さすがドL’!」と讃えたhyde。2周目で無事に披露に漕ぎ着けることとなった。この後、kenが小気味よく刻む印象的なリフでスタートしたのは、最初期曲の1つである「As if in a dream」。繊細さとダイナミズムの共存するロマンティックな名曲で、ラルク アン シエルというバンドの根幹にある世界観が初期から確立されていたことが分かる。続けて「Link」ではメンバーもファンもジャンプして全身でライヴの楽しさを堪能。花道でtetsuyaとhydeが肩を組んでパフォーマンスする場面もあった。
「新曲からの『As if in a dream』の流れ、30年の歴史が変わる瞬間ですけども、“昔からいい曲やってんなぁ”と思いながら……今日も演奏が始まるとときめくというかね。そういうの、なかなかいいですよね」と感慨深そうに振り返った。キャパシティーの上限が解除されたことを受け「とうとう100%まで辿りついて、更に劇場で流れて。一つ一つ皆で勝ち取ったリベンジの席だと思います」とhyde。「最後は『虹』。虹(※ラルク アン シエルは虹を表すフランス語)で『虹』を奏でたいと思います。今日はありがとうございました」との挨拶から、かねてから節目を彩って来た大切な曲を丁寧に届けた。虹色を成す重層的なライティングに加え、舞い降りてくる銀の紙吹雪も美しく光を反射。hydeとtetsuyaは逆方向に外周を回ってファンに手を振り、行き交う瞬間にハイタッチから固い握手を。最後に残ったリーダーtetsuyaは「ありがとう、まったねー! メリークリスマース!」と挨拶。温かな余韻を残し、聖夜の公演を終えた。
12月26日(日)、ついに迎えたツアー最終日は、M3に「the Fourth Avenue Café」を投入。前夜とはまた違った趣を感じさせた。直前のMCで「とうとうツアーファイナルまでやってきたぜ!」と喜びを抑えきれない様子だったhydeは、ステージに寝そべって歌唱する一幕も。序盤をポップにまとめるかと思いきや、艶めかしい「X X X」に続けて放ったのは、ツアー後半でセットリストに加わった「fate」。静と動のテンションを行き来し、狂おしい昂りを見せていく各メンバーのプレイから目を離すことができなくなる。凍てついた極北を想起させる異世界へと誘った後は、ステージ全体がゆっくりと回転をスタート。深紅の煽情的なライティングの下「REVELATION」でラウドに。「生きてるって……生きてるって示してくれよ、東京!」とhydeはイントロで焚きつけ、リズムに乗せてファンは手を振り上げバットマラカスライトを強く鳴らした。たとえ声は出せなくても、ファンが全力で想いを伝えようとしていることはひしひしと肌で感じられた。
hyde
「NEO UNIVERSE」ではこの日、<遠い空が導いて>と歌いながらhydeがkenに歩み寄り、まるで演劇のワンシーンのように、同じ方向を二人で微笑みながら見やる場面も。その直後には「DRINK IT DOWN」をぶつけ、音と音とが拮抗し火花を散らすロックバンドとしての骨太な側面を示した。「花葬」から「EVERLASTING」へと繋げるディープなシークエンスは、直前までの移動の多さとは対照的に、メンバーはほとんど立ち位置から動かずして観客の目を釘付けに。その世界にメンバー自らが深く集中、あるいは曲の世界の住人が憑依したかのようなパフォーマンスにも思えた。
「MY HEART DRAWS A DREAM」でファンとハミングで心を通い合わせた後、「こんばんは、お元気~?」と口火を切ったのはtetsuya。「やっと……2年越しになっちゃいましたけど、ツアーのファイナルを本日迎えられております。前回のツアーは途中で終わっちゃったので」と、思わぬ形で中断となった“ARENA TOUR MMXX”を振り返った。前回は8年ぶりのツアーだったため、ツアーファイナルを迎えるのは2012年のワールドツアーぶりであるとも言及。初日終盤で肉離れに見舞われたkenを「kenちゃん、大丈夫?」と気遣ったtetsuya自身、10月の愛知公演ではステージから転落、後日骨折が判明するというハプニングを経験している。コロナ禍の制約に加えそういった出来事も乗り越えながら、1本1本ファンの協力の下積み重ねてきた今回のツアー。その時間が充実したものであったことは、演奏だけでなくMCのムードからも伝わって来た。「クリスマス終わっちゃったけど、あと364日ぐらい経ったらクリスマスやからね」(tetsuya)と場を和ませ、前夜に続き「Hurry Xmas」を披露。「HONEY」「READY STEADY GO」と畳み掛け、終盤に向けて勢いが衰えるどころかやや前のめり気味のテンポ感で駆け抜けた。
tetsuya
ブレイクを挟んだ「ミライ」の後、「FOREVER」を披露する前に会場全体でウエーヴする場面では、「美しいウエーヴが成功しないと演奏してはいけない、と総理に言われております(笑)」とジョークを飛ばすhyde。スタートすると一周目で見事に美しいウエーヴが成功、yukihiroは一人でイントロを堂々とプレイし始める、という斬新な展開に3人は笑顔を見せた。この日は最初期曲として「Dune」を奏で、瑞々しさは宿したまま、より磨きのかかった表現力で魅了。未来へと進む勇気を与えてくれる「GOOD LUCK MY WAY」では、hydeとtetsuyaはそれぞれに花道を渡り歩いてパフォーマンス。こうして全方位の観客と間近でコミュニケーションを取ることのできるセンターステージで巡ったこのツアーも、いよいよ最後の時を迎えようとしていた。
ken
「あと1曲になりました。皆のお陰で何とか完走できそうです。前回は途中で止まってしまいましたが、このツアーも、いつどこでどうなるか分からない中でスタートしました」とhydeは語り始め、コロナ禍のツアー中に抱えてきた葛藤を吐露。「なんとか、あと1曲」と言葉を区切ると、観客は大きな拍手を送った。「声はなくても、マスクしてても、本当に気持ちはすごく響くし、僕らもお互いにそれを感じているのが伝わっていると思います。今日も感動しました。皆さんに感動させていただきました」と述べると、ひときわ拍手の音は大きく響く。「こんなにも長い未来を考えておりませんでしたが、皆が繋げてくれた未来だと思います。ありがとうね」と30周年を迎えられた感謝を述べると、メンバーも観客も、一同大きな拍手で想いを重ね合った。「マスクして声出さないライヴがいつか笑い話になればいいなと思うし、買ってくれた(バットマラカス)ライトも笑い話になればいいなと思います」(hyde)と未来に想いを馳せて、最後に届けたのは「あなた」。合唱の代わりに、yukihiroのライドシンバルの音ととピアノを伴奏にハミングを響かせたオーディエンス。銀の紙吹雪がすべてを祝福するように降り注ぎ、虹色の光に包まれた広大な会場。最後に4人は互いに向き合って音を止めパフォーマンスを完遂した。
yukihiro
kenは去り際に笑顔で大きく客席に手を振り、いつもならクールに去っていくyukihiroがこの日は花道に歩み出てしゃがみ込み、さらには寝そべるという異例の場面も。このツアーがいかに特別なものであったかを物語る姿に思えた。hydeは柵に腰掛けてtetsuyaを待ち、互いに固い握手を交わすと「お疲れ」(hyde)と労って一足先にステージを後にした。tetsuyaは「皆、ラルクを好きになってくれてありがとう! まったねー!」とリーダーとして感謝を述べ、笑顔で手を振ってステージを下りた。大拍手の中、「ミライ」のインストゥルメンタルをBGMに、ツアー初日からの日付と会場名をエンドロールのようにLEDスクリーンに投影。THANXと締め括ったかと思いきや、2022年という文字が出現。5.21(SAT)、5.22(SUN)、TOKYO DOMEという文字が続いて映し出され、「SEE YOU NEXT YEAR.」という再会の約束を残してツアーは幕を下ろした。それを受けた割れんばかりの大拍手から伝わってきたのは、ファンの喜びと未来への希望。開催にあたっての詳細は2022年1月1日17時に発表されることとなる。波乱を乗り越えてツアーを走り切り、より一層タフな存在となったラルク アン シエル。”30th L'Anniversary”の旅路はこれからも続いていく。
文/大前多恵 カメラマン/石川浩章・岡田貴之