Aimer、ずっと真夜中でいいのに。、米津玄師、King & Prince、エレファントカシマシ、ゆず、水樹奈々等、幅広く活躍するギタリスト、佐々木“コジロー”貴之。知られざるキャリアに迫る【インタビュー連載・匠の人】

インタビュー
音楽
2022.6.9

■自分のやっていることに少し自信を持てるようになったのは劇伴がきっかけ

――最近は若手アーティスト仕事も増えています。ずっと真夜中でいいのに。にも関わっていらっしゃいますが、キャリアのある方々との現場とはスタンスが違いますか?

そうですね。トップのアーティスト、大御所の方々はしっかりとスタイルが完成されているので、そこに乗っからせてもらうところもあります。でもずとまよはどちらかというと、みんなと一緒に押し上げていく感じなんですよね。作品作りにしてもライブにしても、こちらから「こういうのはどうだろう?」と提案するし、バンドっぽい雰囲気がある。もちろんACAねさんのクリエイティブがもとになっていて、すごい才能なんですよ。「こういうイメージでやりたい」というディレクションもしっかりしてるし、そこに僕らがアイデアをぶつけていく感じですね。ライブの規模も目に見えて大きくなってるし、ビックリしています。

――さらにKing & Princeからさだまさしさんの作品まで、驚くほど幅広いジャンルで演奏されていて。まさにオールマイティなギタリストだなと。

それは目指してたことでもあるんですけど、同時にコンプレックスだったんです。「何でも弾けるね」「どんなジャンルも対応できる」と言ってもらえるのはいいんですけど、過去には「何がしたいんだ?」みたいな言葉を投げかけられることもありました。実際、「何が得意なの?」と訊かれても答えられなかったんですよ。すごいギタリストって「この人はロック」「この人はジャズ」みたいなイメージがあると思うんですけど、それもなくて……。自分のやっていることに少し自信を持てるようになったのは、劇伴がきっかけですね。劇伴はどんなジャンルでも弾けないといけないし、ギター以外の楽器を頼まれることも多い。それまでやってきたことがすべて活かせたし、「報われた」という気持ちになれたんです。

――なるほど。劇伴の数もどんどん増えてますよね。2022年の春も、『17才の帝国』『やんごとなき一族』『持続可能な恋ですか~父と娘の結婚行進曲~』などのドラマのサウンドトラックでギターを弾いています。

2020年の『半沢直樹』の新シリーズをやっていた時期はすごかったですね。1作品以外、21時、22時の時間帯のすべての民放のドラマの劇伴で弾いてました(笑)。劇伴のレコーディング現場って、その場で譜面を渡されて、「よろしくお願いします」っていきなり聴いたことの無い楽曲がクリックと共に流れるんです。3時間くらいで20トラックから30トラック録るので、結構壮絶なんですけど、めちゃくちゃ楽しいんですよね(笑)。スケジュールが決まっていて時間内に必ず終わらせなくちゃいけなくて、試されてる感じもあるんですけど。さっきもお話しましたけど、ギター以外の楽器も色々弾くのですが、自宅スタジオで劇伴などを録ることも結構な頻度であって、譜面に“ウード”(アラブ音楽圏で使用される弦楽器)って書いてたり。所有していない必要な楽器は、すぐに民族楽器の専門店に注文して送ってもらって、YouTubeで弾き方を調べてそのままレコーディングすることも多々あります。バンジョーやマンドリン、ブズーキーやウクレレなどを弾くこともあるし、楽器の数もそうやって増えていきましたね。

――米津玄師さんの「POP SONG」でも民族楽器を弾いてますよね?

あの曲で弾いてるのは、マカフェリというジプシー音楽で使われる楽器ですね。編曲は『大豆田とわ子と三人の元夫』の劇伴を手がけた坂東祐大さんなんですが、以前僕が『大豆田とわ子と三人の夫』の劇伴で弾いたジプシーっぽい雰囲気のギターを聴いてくれたようで、米津さんのレコーディングに呼んでもらいました。スタジオで坂東さん、米津さんとディスカッションしながら、いろんなフレーズを弾いたんですよ。いい意味で「普通じゃないものを目指している」という感じがあったし、やっぱりすごいアーティストだなと思いました。

■それまではきちんと弾くことを意識してたんだけど、宮本浩次さんを見て「これがロックなんだ」と思った

――数多くのレコーディングに関わる一方、今年の2月から6月にかけてAimerさんのツアーに参加されてます。

週末はツアーで平日は様々なレコーディングにお声掛け頂いたり、自宅スタジオでアレンジ作業もしているので、結構ヤバいスケジュールですよね(笑)。ただ、ライブはストレス発散でもあるんですよ。ありがたいことに常に締め切りに追われているんですけど、ツアーに出ると地方で美味しいものを食べて、大勢の前で演奏して、晴れやかな気持ちになるんです。そこでバランスが取れてるんでしょうね。

――ライブパフォーマーとしても、キャリアを重ねるごとに向上している手応えがあるんでしょうか?

そこに関しては、エレファントカシマシの現場の経験が大きいですね。アレンジャー&プロデューサーの村山☆潤くんが声をかけてくれたんですけど、とにかく宮本浩次さんに圧倒されたんです。それまでは割と正統派のギターというか、きちんと丁寧に弾くことを意識してたところがあったんですが、宮本さんを見て「これがロックなんだ」と思ったし、感情むき出しの魂で弾く荒ぶるようなプレイスタイルをしないと確実に振り落とされるな、と。きれいにしっかり弾くことがすべてではなくて、ときにはぶち壊しにいくようなスタイルも大事だし、それが今の時代のニーズに合ってるのかなと。一つ一つの経験の一つ一つに意味があるし、すべてが活かされてますね。

――素晴らしい。今後の目標は?

海外の仕事に挑戦してみたいです。ハリウッド映画の劇伴だったり、海外のアーティストの制作などにも参加してみたくて。こうやって声に出すと仕事が舞い込んでくることがあるんですよ(笑)。

――なるほど! それにしてもコジローさん、自分でつながりを掴みにいく姿勢がすごいですね。

昔から人に恵まれてる部分はすごくあるなと思います。ギターが上手い方はたくさんいらっしゃって、「こんなふうには自分は弾けないな」と思うこともあるんですよ。でも、僕はいろんな方に助けてもらえた。引きの強さ、運の強さもありますが、やっぱり人とのつながりでここまでやってこれたんだと思いますね。

取材・文=森朋之

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