NUMBER GIRLが地元・福岡シティで伝説のナンバー、10組がしのぎを削りあった2日目ーー福岡で3年ぶり開催『CIRCLE'22』が愛される理由とは
『CIRCLE '22』
『CIRCLE'22』2022.5.13(FRI)〜5.15(SUN)福岡・マリンメッセ福岡B館
■1日目・13日(金)のレポートはこちら
福岡で3年ぶり開催『CIRCLE'22』が愛される理由とは
ーー初日は岡村靖幸ら10組出演、福岡への想いに溢れた全身全霊のステージ
『CIRCLE』2日目。まず、何よりも昨日の雨が嘘かの様に晴れている。野外テントの「KOAGARI STAGE」は、朝11時前からテント内はもちろん外まで人で溢れかえっていた。やはり雨は野外フェスの醍醐味っちゃ醍醐味だが、ストレスっちゃストレスなわけで。ピーカン照りでの観客の開放感が伝わってくる。マリンメッセ福岡B館の「CIRCLE STAGE」から「KOAGARI STAGE」まで歩いてみても初日以上に快適だし、長年の『CIRCLE』ファンからすればこれまでの会場が恋しいのもわかるものの、屋内と野外を行ったり来たりというのもいいなと思えた。屋内と野外の良いとこどりをできているというか。考えてみれば、主催「トーン」代表の是澤さんは、「インドアフェス」と銘打って、2019年春に両国国技館と神戸ワールド記念ホールで『Q』も開催しているので、野外でも屋内でもどんな形で開催されようと何の心配も無い。また、マリンメッセ福岡はポートタワーがシンボルの博多港に面しているので、海の雰囲気を身近に感じられるのも心地よかった。
角張渉(KAKUBARHYTHM)
2日目なので気持ちに余裕も出て、DJブース「KAKU-UCHI Annex」もゆっくり味わうこともできた。是澤さんと親交の深いマネージメントやレーベルを手掛けるカクバリズムの角張渉と、約10年前から福岡に移住しているフォトグラファーの常盤響を中心にグッドミュージックを流している。出演者の音楽が出番後に流されるのは、臨場感があり、ライブの興奮が甦ってきて乙なものだった。
yonawo
さて、この日の「KOAGARI STAGE」のトップバッターは、昨年配信では出演したものの今年福岡で念願の初出演を果たしたyonawo。それも彼らは福岡出身。「出てきた瞬間、心が躍りました!」というMCのとおり、地元の若手バンドにとって憧れの登竜門になっているのだろう。同世代であろう女の子たちが「友達の友達らしいよ!」と話しながら嬉しそうに眺めている姿も、地元ならではのリアルな光景でほっこりした。
cero
「CIRCLE STAGE」のトップバッターは、Yogee New Waves。続くceroも久々に福岡に、そして『CIRCLE』に出られたことを素直に喜び、ライブ自体が半年ぶりであることを明かしていた。やはり初日でも感じた、福岡への想いと『CIRCLE』への想いを改めて感じた。Yogeeの角舘が、「昔は毎週金土日ライブをしていたのに、今は少なくなって1本ずつとかになってる。けど毎回セットリストも変えてみたり楽しい!」と言っていて、「ピンチをチャンスに変える」ではないが逆境を楽しんでいることが頼もしかった。「クレッシェンドみたいに上がっていくセットリストにしてるから、最高のスタートを切れる」なんて言ってくれたのも、トップバッターとして気持ちが良い。
Yogee New Waves
この日の朝、過去の『CIRCLE』も含め、今年のラインナップを見直しながら、しっかり筋の通った独特さがあるなと思っていた。それを角舘がズバリ言ってくれたのも印象深い。「ラインナップが昨日は岡村さんとか(出演していて)、個人的にはアバンギャルドな感じ。今日はバンドという感じで、素敵なバンドばかり! それぞれ個性がぶつかりあうバンドの感じ!」と言っていたが、まさしく言い得て妙。どんなフェスでもイベントでも、そうだが、ラインナップに色が見えない、ただただ寄せ集めただけでは本当につまらない。『CIRCLE』には完全なる色がある。まだ早いが、明日は、どんな色になるのか考えると凄くワクワクした。
T字路s
2日目のラインナップとしては、「KOAGARI STAGE」の二階堂和美とT字路sの伊東妙子という女性シンガーふたりも忘れられない。二階堂は「思いのほか嬉しい」という気持ちをぶちまけた上で、「使い回しじゃない『CIRCLE』の為の衣装を作ってきました!」と黄色の花びらを模した様な素敵なドレスを見せてくれた。伊東の「これさえあれば」を歌う前に語り掛けた「私たちのこれさえあればは、目の前にいる、私たちの音楽を聴いてくれる人たちさえいれば!」という言葉への気持ちの込もり方も良かった。
LITTLE CREATURES
二階堂和美
二階堂は、同じく「KOAGARI STAGE」出演のLITTLE CREATURES・青柳拓次、鈴木正人とセッションを披露。その昔、海外ツアーを一緒に回った話などもしていたが、ここだからこそ観られるセッションというのも特有の色である。その名も、なぎら健壱×高田漣もそうだ。高田渡の息子である漣を、生まれる前から知っているというなぎらが約40年~50年前の昔話をしながら、和気あいあいと高田渡の歌を歌うのは貴重だった。漣はTwitterでギター漫談と冗談交じりに書いていたが、高田渡は亡くなっても歌は生きていることを届けてもらえたし、これを機会に高田渡の楽曲に触れる若者たちがいたら本当に喜ばしいことだ。
なぎら健壱×高田漣
さぁ、そしてYogee角舘の言葉を借りるならば、「バンドの個性がぶつかりあう感じ」が、この日の大目玉。やはり、どうしても、「CIRCLE STAGE」のサニーデイ・サービス→くるり→NUMBER GIRLの並びに目がいく。NUMBER GIRL、くるりも出演した、『CIRCLE』の1週前に大阪で開催された野外イベント『OTODAMA~音泉魂~』のライブレポートでも触れたが、90年代ROCK日本代表たちが名を連ねる、或る意味「BACK TO THE 90’s」なラインナップ。ライブ後、曽我部恵一と少し話せたのだが、本人は「2022年のラインナップじゃないよね!」と笑っていた。しかしこのラインナップを2022年に観られることに大変な意味がある。約25年前から活躍するバンドが今も活躍していて、決して昔懐かしくなく、今が一番最高だということが何とも言えない……。それを、まずこの日に体現してくれたのがサニーデイだった。
サニーデイ・サービス
フェスは、往年の人気曲や代表曲を中心にセットリストは構成されることが多い。にも関わらず、この日のサニーデイは「夜のメロディ」、「魔法」としょっぱな2曲のスタートダッシュを2000年リリース楽曲で攻めてきた。いわゆる90年代のフォーキーな、ポップでキャッチな楽曲ではなくて、当時のサニーデイとしては実験要素があった楽曲。このスタートダッシュからしてドキドキしたが、この後の7曲中5曲を2016年~2020年という近年の楽曲で攻めてきたのも凄まじかった。間違いなく今の自分たちに自信があるからこそできる構成。ラストの「サマー・ソルジャー」も96年リリースのシングル楽曲といえ、6分を超える壮大なミドルナンバーで、当時も話題を呼んだ攻めたナンバー。とにかく自分たちのやりたいことを全力でぶつけてきた。ほぼMCもなく、曽我部が声にならない様な声でシャウトしたり、「『CIRCLE』~! 良かったね! 来たかったよ!」と極力シンプルな言葉で、逆に強い想いが際立って感じた。
サニーデイ・サービス
同世代で仲が良いとはいえ、同じ舞台に立てば、そんなもの関係ない。勝つか負けるかというしのぎを削る姿が、我々観客の胸を打つ。そういう意味で、サニーデイのライブは闘魂丸出しで、90年代のイベントやフェスで、よく感じたヒリヒリ感、ピリピリ感を思い出させてくれた。この日のイベントが終わった夜、くるりの岸田繁が「サニーデイサービスとナンバーガール大好き。中尾憲ちゃん最強。曽我部さん背中遠すぎ」とTwitterにつぶやいていたが、この言葉からも3組の切磋琢磨する関係を知ることができて、痺れた。
くるり
続いて、くるり。2016年リリースの人気曲である「琥珀色の街、上海蟹の朝」で、1曲目から一発で観客の心を掴む。流石である。場内はノリノリな中、畳みかけるかの様に「ばらの花」、「ハイウェイ」を演奏。思わずざわめきも起きる状況で、とても伸びやかで気持ちの良いライブ。全9曲、2000年代初頭の楽曲を中心に、2000年代以降の楽曲で構成されていたが最後は違った。そのラストナンバーをぶちかます前の「いいバンドが出るイベントに呼んで頂き……」という言葉も強い想いを感じた。その肝心のラストは、1999年リリースの「街」。<この街は僕のもの>という魂の叫びから歌われる歌は、当時の情念が真空パックされていて、いま聴いてもリアリティーが凄く背筋が伸びる。強烈に突き刺さった。トリのNUMBER GIRLへの期待が、嫌でも高まる。
NUMBER GIRL
1週間前にもライブを観ていたし、個人的には90年代からライブを観てきたので、「福岡市博多区からやって参りました、NUMBER GIRLです」という常套句をライブが始まる前の儀式のような、大切な言葉としていつも通り興奮しながら聞いていた。しかし、ふと我に返ると、この日は本場の福岡市博多区で、この言葉を聞いているんだと大興奮。そういえば地元福岡市博多区でライブを観るのも初めてなわけで期待に胸が膨らむ。指定席ながらも観客たちはその場でジャンプして大興奮。6曲目「delayed brain」では、リバーブがかかった声の残響が脳を直撃する。音の轟きがエゲツない……。殺気すら感じる緊張感あるライブがとにかく凄まじいのだが、向井秀徳の祭を端的に表現する言葉は秀逸すぎる。
NUMBER GIRL
「みなさん、この『CIRCLE』にお集まり頂き、本当にありがとうございます。今回は海の中道海浜公園ではありませんでしたけど、お集まり頂きありがとうございました」
地元の祭だからこそ、トリだからこそ、福岡を、『CIRCLE』を代表した言葉には漢気しかなかった。アンコールでは「IGGY POP FAN CLUB」が鳴らされたが、本編終了時点で少しだけ時間が巻いていたので気になっていた。このアンコールによって、その巻きもなくなるのに、さらに「I Wanna Be Your Boyfriend」が急遽ラストで鳴らされた。ラモーンズのカヴァー曲であり、1999年3月テキサス・オースティンで行われたSXSW『JAPAN NITE』でも、アンコールに応える形で急遽演奏された伝説のナンバー。1998年12月に福岡VIVRE HALLでも鳴らされていてライブ盤にも収録されているだけに、この曲を福岡で聴けたことが感無量だった。向井は何度も「福岡シティ!」と叫んでいた。福岡シティで福岡市博多区のNUMBER GIALを堪能できたのは、なにごとにも代えがたい贅沢だった。
福岡が、『CIRCLE』が完全に掴めてきた2日目。いよいよ、最終日の3日目を迎えることになる。
取材・文=鈴木淳史 写真=オフィシャル提供(日隈天明、ハラエリ、ヤマモトハンナ)
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大トリ・TESTSETら10組と共に、不屈の精神で見事に終宴
ーー福岡で3年ぶり開催『CIRCLE'22』が愛される理由とは、そして来年へと続く
■『CIRCLE '22』LIVE PHOTO
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