劇団壱劇屋新作『code:cure』作・演出・出演の大熊隆太郎に聞く。「ミステリアスなマイム芝居で、劇団の再スタートを」
壱劇屋主宰で、『code:cure』作・演出・出演の大熊隆太郎。 [撮影]吉永美和子(人物すべて)
パントマイムや殺陣など、身体性の高い舞台を得意とする「劇団壱劇屋」。マイムチームは大阪、殺陣チームは東京という、二都市拠点システムを採用した珍しい劇団でもある。東京はコロナ禍以降も積極的に公演を打っていたが、大阪の方はしばらく配信公演や、各地の公共劇場を舞台にした「イマーシブシアター」に活動を抑えていた。が! ここに来てようやく、主宰・大熊隆太郎が描く「世にも奇妙なエンターテイメント」の新作『code:cure(コード・キュア)』を上演する。最小限の言葉とバラエティに富んだパントマイムで、日常に潜む不思議な物語を想像させる本作と、最近の大阪での劇団活動について、大熊に話を聞いた。
■量子論の要素を入れた、観劇後も引きずるようなミステリー。
──本公演としては2年半振りですね。ただてっきり、去年公演中止となった『団地裏地団』をリベンジ上演するかと思ってました。
ようやく世間が、コロナ前と同じぐらいの規模で公演ができそうな感じになってきて、劇団員も、割とコロナには慎重だった僕も「本公演やりたいぞ!」という気分になりました。ただゲストは最小限にして、若い劇団員中心でやろうと。そうなると『団地裏地団』は、30名以上が出る作品だったので、捨てちゃいました(笑)。
──今回は「治験」をめぐるミステリーになるそうですね。
ある治験会場で消えた兄を探すために、妹が同じ治験を受けるんですけど、薬を飲むうちに意識が混濁して、どんどん周りの風景が変わって、目覚めたら最初に戻っている。それを繰り返すうちに、ピースがいろいろ浮かんでいって、最終的にそれをつなげた時に、この治験の目的がわかるという内容です。メインの人物は、ループごとに劇団員がどんどん入れ替わりで演じて、ゲストの皆さんには、それを取り巻く怪しげな人物を担っていただきます。
劇団壱劇屋『code:cure』ビジュアルイメージ。
──そもそも治験をテーマにしたきっかけは?
「世にも奇妙なエンターテイメント」は、普段身近にあるものがちょっとズレて、不思議なモノになっていくことを目指しているんですけど、治験も意外と僕の身近にあるんです。演劇人の御用達のバイトなんで(笑)。どういう結果になるかわからない、未知の領域に踏み込もうとする実験に、真剣に探せば誰でも簡単にアクセスできるということに、ちょっとワクっとするんですよ。好奇心をそそられるんですね。
──ミステリーということは、謎解きの要素も大きいのでしょうか?
推理ものというわけではないので、頭を使いながら見てもらうというより、マイムの想像力で面白がってもらう世界にしたいと思っています。何かでギョッとさせた後に、それがなぜ起こったのかを、台詞やマイムでほんのりわからせることで「ああー、そうだったのか!」っていう快感を与えつつ、でも全部は与えないという。見終わった後で「あれは何だろう?」と考えてもらう時間を、楽しんでもらえるという塩梅にしている所です。
──大熊さんの作る芝居は、どこまで台詞を使って、どこまでをマイムだけで見せ切るかという、そのバランスを考えるのが大変そうですよね。
「世にも奇妙なエンターテイメント」は、最初からずっとそこを試している感じです。しゃべらないって、ある種楽ではあるんですよ。お客様の想像力にお任せする範囲が、かなり広がるから。ただ、わかりにくいけどわかってもらいたい部分を、言語化しなくても伝えられるか? とか、言語化をするにしても、どういう文脈なら嘘がなくなるか? とか、毎回悩みは多いです。「何でこうなったんだ!」って、台詞で言ってしまっていいのか? みたいな。
KAVC 新しい劇場のためのwork:02 壱劇屋実験公演『異空間クラスター』(2020年)。 [撮影]河西沙織
──でもその「何でこうなったんだ!」という感情は、どうやったらマイムで伝わるのかは、ちょっと想像つかないですね。
そうなんですよ。その辺を役者に言ってもらっては止めて、言ってもらっては止めて……というのを、繰り返しながら作っています。実際この前、半分ぐらいまで通してみたら、劇団員の間で「(お客さんに)わかんなさ過ぎて、面白くないんじゃないか?」という話になったんですよ。もっと主人公に肩入れして見てもらえるような方向に変えて、その人を追えばストーリーがわかるという風にしました。
──舞台の見どころは。
今回は、物理の量子論の要素を入れてるんです。量子ってちょっと不思議な存在で、見ている時はそこにあるけど、見ていない時は存在してないという。その概念を、演劇に使ってみようかなと。舞台で起こったミステリーが、(観客が)観ていなくても続いているような……「もしかしてこの研究、ホンマにあるかも?」と思ってもらえたら嬉しいですね。あと、せっかくのループものなので、6ステージ全部に積み重ねがあったらいいなあ、というのも考えてます。
──6ステージ全部観たら、もう一つの世界が浮かんでくるような。
そうですね。もしかしたら、千秋楽ではそういう演出があるかもしれない……という話を、劇団のTwitterでしたら、千秋楽のが伸びてます(笑)。もちろん別の日に1ステだけ観ても、十分楽しめるようにはしてるんですが、やっぱりそれが舞台をライブで観ることの醍醐味だと思います。
大熊隆太郎。
■オンライン演劇でわかったのは「みんな同性の恋愛が好き」(笑)。
──しばらく本公演はなかったものの、ロングランのオンライン演劇『1rooM』と、劇場全体を舞台にした体感型演劇「イマーシブシアター」は順調に続けてましたね。
オンライン演劇があったのはデカかったですね。やっぱり劇団員を飼い殺してるわけにはいかないので、事務所のワンルームだけを使って上演して。劇団員も僕も、あれでモチベーションを保てました。
──自分の部屋から生配信中の男性の前に「運命の人」が次々に現れ、最終的に誰を選ぶかをチャットに参加した観客が決めていくという、完全に参加型の仕掛けが面白かったです。
配信演劇って、行動が早い劇団は、コロナが始まってすぐやってたじゃないですか? 僕らは完全に乗り遅れたんで、せっかくやるのならちょっと手の込んだものを……ということで、お客さんとは非対面でも、リアルタイムで交流ができるようなものにしました。ルート分岐があって、選ばれなかったルートはやらないっていう、非常にコストパフォーマンスが悪いものでしたけど(笑)。
──最後まで披露できなかった物語もあったのでしょうか?
それが最後の最後に、それまで一回も出たことがなかったエンドが選ばれて、無事に全部の話をやれました。もう一つこれをやって良かったのは、世の中の需要がわかったことですね。最後に女性と男性の二択になったら、ほとんど男性としか結ばれなかった(笑)。みんな同性の恋愛が好きなんやなあと思ったし、行政が(同性婚を)認めない理由がわからなくなりましたね。
劇団壱劇屋オンライン公演『1rooM』(2022年)。
──劇場全体をダンジョンに見立てて、俳優と観客がその中で冒険する「イマーシブシアター」は、本拠地の[門真市民文化会館ルミエールホール]だけでなく、いろんな劇場に呼ばれるようになっています。
少人数が相手ということもあるのか、この状況でも割とイレギュラー的な扱いでやらせてもらっています。多分劇場のスタッフさんも「ここでこんなことやったら面白いのになあ」って、日頃から考えてると思うんですよ。
──「一般のお客さんは知らないけど、うちの劇場、こんな面白い所あるよ」っていうのが。
実はロビーの形がユニークだとか、よくわからない銅像があるとか、いろいろ持ってると思うので、それを生かしていきたいなあ、と。今年も11月に神戸の劇場で、「コトリ会議」の山本(正典)さんの脚本でやります。イマーシブシアターって、役者が設定に基づいてイキイキとやってもらう方に重きを置いてるので、割と俳優からアドリブ的に出る台詞で構成することが多いんです。だから脚本……しかも別の人の脚本でやらせてもらえるのは、かなり楽しみですし、助かります(笑)。台詞を書くのって、本当に大変で難しいことなので。
壱劇屋イマーシブシアター ルミエールの冒険シリーズ『クリスマス・アンダーグラウンド』(2021年)。
■ド派手な路線の東京支部に対して、大阪はジャンルレスな表現で。
──今年の春には、少人数のマイム公演『不思議の国のアリス』もありました。
これって内々の話になるんですけど、大阪と東京に劇団が分かれて、割と長くやってる役者は、ほとんど東京に行ったんです。今大阪にいるのは若手ばかりなので、こいつらを鍛えていこう……という気持ちで作った舞台でした。今回の『code:cure』もその流れを汲んでいて、いろんなマイムの技術を研鑽することを、意識して作っています。期せずしてこれが再出発になったというか、再び大阪で壱劇屋が「身体表現の劇団」として認知してもらえるように、若手をグングン育てたいんです。
──東京支部はちょうどコロナの直前に発足して、どうなるかと思ったのですが、来月には一月一本の公演『五彩の神楽』再演を行うなど、順調なようですね。
当初は「役者が(二都市を)行き来できたらいいね」と言ってたんですけど、コロナもあって、今は連帯が少ないんですよ、恥ずかしながら(笑)。やっぱり東京の殺陣の方が、いい意味で売れ線だから人気があるし、もっと売れるためにいろんなプロジェクトをやっている。一方で大阪はどっちかと言うとアングラで、半分アートな分野。「ただのエンタメじゃないぞ」という、ジャンルレスな表現を担っていく方向になっています。
壱劇屋マイム公演『不思議の国のアリス』(2022年)。 [撮影]河西沙織
──自然に棲み分けができてきていると。
殺陣芝居って「2.5次元」の舞台もあるし、割とレッドオーシャンというか、人気はあるけど競合も多い。でも大阪は、ここでしか見られないものをマイペースで作っていこうと。今大阪で、コンテンポラリーな表現を交えた演劇って、ほとんどないじゃないですか? 神戸とか京都では、ダンサーさんがいろいろやってるイメージがあるんですけど、大阪はうちぐらいしかないと思うんです。
──確かに身体性を売りにしている大阪の団体は、今あまり思いつかないですね。
それを壱劇屋の個性として、もっと押していきたいです。その上で若手を育成・開拓するために、僕たちが今までやってきたことを、新しい若い人と作るということをしていきたい。マイム自体は古くからある身体表現だし、今の人たちがクラシックなマイムをやっていくことで、身体がどういう風に成長していくか……変な話、若手が上がってこないと、関西の演劇がどんどん年取っていくと思うんで。
──それはやるべき試みですし、ずっと「若手」と思っていた壱劇屋が、育成のターンに入ったのは感慨深いです。
マイム公演って、なかなか(各俳優の)個性がわかりにくいかもしれないけど、これを観て「あ、こんないい若手がいるんだ」と、他のカンパニーに使ってもらえたら嬉しいし、逆に若い人たちがこの舞台を観て、興味を持って仲間になってもらえたら、業界の底上げになる(笑)。今どこの団体としゃべっても「若い人と出会いたいね」と、みんな思ってるので、うちもやっぱりそれをやっていこうと。本当にここが再スタート、という気持ちです。
大熊隆太郎。
公演情報
■出演:井立天、井上大和、北脇勇人、鍬田大鳳、佐倉仁、谷美幸、半田慈登、松田康平、丸山真輝、湯浅春枝、吉迫綺音
うえだひろし(リリパットアーミーⅡ)、寺井竜哉(STAR☆JACKS)、山田蟲男(突劇金魚)
■会場:ABCホール
■料金:一般4,000円 学生2,000円 高校生以下無料(席数限定)
■公式サイト:https://ichigekiyaoffice.wixsite.com/ichigekiya