戸田恵子×松尾貴史インタビュー~ニール・サイモンの名作『裸足で散歩』で舞台初共演「ほっこり気楽に見てもらいたい」
「描かれている時代の持っていた空気や背景も楽しんでもらえれば」(松尾)
――今作を楽しむポイントはどんなところにあると思われますか。
松尾:描かれている時代が、もちろん携帯電話なんてないから、誰かの姿が見えなくなると「どうしたんだろう?」って気をもんだりするんですよね。待ち合わせも今は「とりあえず〇〇駅の周辺で待ち合わせ」って言ったらあとは近くに着いたら「今どこにいる?」って携帯で連絡取りあって会える世の中ですけど、そういうことができない時代はそのときなりの質の違うときめきみたいなものがあったんですよね。人との出会いのときめきの度合いが違うというのかな。マッチングアプリみたいなものもないから、誰と出会って何にときめくかっていうことが本当に人それぞれだったり、運命の出会いだって感じる度合いも高い中でコリーとポールは出会っているんじゃないかな。描かれている時代の持っていた空気みたいなものも楽しんでいただくといいかなと思います。
松尾貴史
――確かに、今はインターネットやSNSなどで新たな出会い、新たな人脈を広げたりすることが比較的容易にできるけれども、この時代ではそう簡単ではないということを念頭に置いて今作を見ると、コリーがおせっかいなくらいお母さんにヴェラスコさんを紹介しようとしている、という気持ちが理解できる部分もあるような気がします。
松尾:ニューヨークから川一本渡るって結構な距離がありますし、場所にもよりますけどニュージャージーって田舎町じゃないですか。そこでお母さんが一人暮らしをしているから出会いもないだろうな、ということが余計に一人娘としては心配だったりもするのかもしれないですよね。そこらへんの背景なんかも併せて楽しんでいただけるといいですね。
――今作の翻訳の福田響志さんは22歳、演出の元吉庸泰さんは40歳で、お2人ともこれからますますの活躍が期待されている存在ですが、お2人への印象などあれば教えてください。
松尾:僕は年齢的なものは稽古場ではまだそんなに感じていないです。この作品の時代のことをとにかく把握しよう、という姿勢が非常にあって、若い人たちの情報収集能力は素晴らしいので、すごくよく調べていらっしゃるなということは感じます。時代背景についての裏付けがあっていろいろ説明されると、ものすごく納得ができるところがありますよね。
戸田:私も普段からいろんな年代の人と仕事をするので、年齢は全く気にしていないんですけど、この間改めて福田さんは22歳です、と数字を突き付けられて、ああ私はもう終わってるな、と思っちゃいましたね(笑)。これからは一緒に仕事をするスタッフさんもどんどん若い方たちが増えていくんだろうな、ということは肌身にしみました。長く上演されてきた作品をまたリフレッシュしてやるという作業に関われることで、とても勉強熱心な若い人たちの新たな息吹を感じながら、今回私たちがやるバージョンが色褪せない新しいものとしてできたらいいなと思います。
戸田恵子
――最後に、今作を楽しみにしている皆様へのメッセージをお願いします。
戸田:基本コメディなので、皆さんには気楽に見てもらいたいですね。当時のニューヨークの雰囲気も味わっていただきたいですし、特に何か激しくドラマチックな展開があるような話ではないので、いろんな性格のキャラクターを取り揃えている中から、誰かに自分を合わせて見ていただければいいですね。そしてほっこりした気分でお帰りいただけたらと思っています。
松尾:特に今、この国はいろんな閉塞感を感じている人が多いと思うんですよね。もちろんコロナもあるし、不景気とか生活環境が苦しくなっているっていうこともあるし。この作品では冒険だったり、イメージの切り替えだったり、別の価値観を認めるということだったりが描かれていて、今作を見ることで何か新しい道が開けるかも、という期待めいたものを抱いていただけるんじゃないかな。もちろんそんな劇的に変わらなくてもいいんですけど、劇場から帰る時には来るときよりもちょっと足が軽やかになっているような、そういう実感をしていただけたら嬉しいです。
取材・文=久田絢子 撮影=福岡諒祠