主演の竹下景子&作・演出の佃典彦にインタビュー! 愛知で人気食堂を築き上げた名物女将の一代記『まるは食堂』が、東京と名古屋で上演

インタビュー
舞台
2022.9.13

■この作品だから出来た、俳優としての新たな挑戦

── 台本を拝読させていただきましたが、今仰ったように、うめさんはかなり豪快なお人柄に描かれていますね。竹下さんは、こういった役柄を演じられるのは珍しいのではないかと思いますが、演じる上で苦労されている点などはありますでしょうか?

竹下:私ね、この『まるは食堂』の舞台が無かったら、今仰ったような豪快な役を演じることはなかったと思うんです。もうこれは本当に佃さんに感謝なんですけれど、いわゆる「偉人伝」みたいなことになりがちでしょ? その息子さんもお孫さんも現役でいらっしゃるということで、やっぱりいろんな配慮が必要で、必要以上にいい人に描きがちだと思うんですよね、劇とはいえ。それを敢えて、ダークヒーローとしてのうめさんを描くというのは、大英断だと私は思っているんです。そこが人間味にあふれていて、とても好きなところで。お孫さんにも理解されていなかったうめさんが、最終的にはみんなが、「あ、凄い人だったんだ。うめさん、よくやった!」っていう風になるという。その豪快さとダークヒーロぶりというのは、このうめさん以外ではきっと、演じるチャンスが無かったと思うんです。

このお話は愛知県の話で、私は名古屋生まれですのでその地域性みたいなことも含めて考えると、愛知県の人って、江戸っ子みたいに変に見栄っ張りで気風の良さがあって、みたいなことだけではもちろんないし、大阪の商人のコテコテという感じでもない。ある意味、堅実なところがあって、人を頼らない、というのが気質としてあると思うんですね。その上、うめさんはどこか根を張っているような感じもあって。そういうところを余すところなく佃さんが描いて下さって(笑)。やっと言えて、私嬉しいです。

佃:ありがとうございます。

── 想像以上に面白いやり取りや展開のある脚本でしたので、ワクワクしながら楽しく拝読させていただきました。

竹下:そうなんですよ。本当に演劇としてね、エンターテイメントの部分も含めて、うめさんという人がすごく魅力的に描かれていますので、いい人ぶらないうめさんを演じられるのが私にとっても凄いチャレンジでもあり、楽しみながらやっているところです。

── うめさんの役は、若い頃から晩年まで演じられるという年齢の幅もありますし、親子といえども人格の違う母親のといさんの役も演じられて、それが交互に登場するという複雑な構成になっているので、演じ分けも大変ですよね。

竹下:大変じゃないって言えば嘘になるかもしれませんけども、そこがまた作劇の見事なところで。うめさんという人の人生が入れ子のように、どんどん時代と共に移り変わっていくんですけど、全体としては今のうめさんが居るので、そんなにとっかえひっかえ別の人になるっていうことではないんですね。なので、その分ご覧になる方が想像力をふんだんに発揮してくださらないと、という造りになっています。テンポがいいので、そういう意味では、戦前から始まって現代までの劇ですよ、というような作りになっていない分、すごく刺激的な仕上がりになると思います。だから演じ分けや変化というよりは、むしろそこに描かれている一つひとつのシークエンスを、いかにメリハリを持ってきちんと立ち上げていくか、ということに神経を使っています。

■不条理劇の担い手ならではの構成力と、俳優でもあるからこその演出力 

── 今のお話にもあったように佃さんの脚本には、時空を簡単に飛び越えるような表現であるとか、生者と死者が同時に存在するシーンがあったり、日常からするとちょっと奇妙だな、と思うような描き方もたくさん出てきます。でもそういった状況を、観ている人にすんなりと納得させてしまうような力があると思うのですが、竹下さんが最初に脚本を読まれた時は、どのような感想を持たれましたか?

竹下:まず、時空を超える。面白い!と思いました。自分が演じるっていうことは、ちょっと置いておいてですね。でもよく考えたらこれ、私がそこに居るんだな。次はどうなるのかなぁって、なかなか1人ではイメージが掴みきれなかった。それぐらいスケール感のある作品だな、と思いました。

── 竹下さんは、これまでにもたくさんの作品で多くの演出家の方とお仕事されていると思いますが、佃さんとは今回の『まるは食堂』が初めてですよね。佃さんの演出の特色であるとか、実際に演出を受けられてみて何かお感じになったことがありましたら教えていただけますでしょうか。

佃:本人を横にして言いにくいよ(笑)。

── そうですね、すみません。聞いていただくのもいいかなと思いまして(笑)。

竹下:気遣いの方でいらっしゃるんですよ。昨年急遽、新たに書き下ろされた『続・まるは食堂』をやって、それでいよいよ本編が今回上演ということになるので、『続…』は決して予告編というわけではないんですが、それを経ての今回で、私自身にとっては、とても良かったと思っていて。

まず大きくうめさんというものを掴むために『続・まるは食堂』というものがあって、その中の一つひとつ……生い立ちも含めてですけど、もう少し細かいエピソードとか、その時のうめさんの心情などを今回は丁寧にやっていけるな、と。それだから良かったかな、というのはすごくありますね。最初からこの2幕モノの本編だったら、私ちょっとしんどかったかもしれない。あまりにもご本人が強烈なキャラクターなので、最初、名古屋の人に「『まるは食堂』やるんです」って言ったら、「出来んわ~!」って言われたんです(笑)。

佃:(笑)

竹下:それは実際のうめさんをご存知の方です。それぐらい強烈なキャラクターの持ち主なので、私がいつも、「こんにちは~」なんて優しげに言ってる雰囲気とはおよそ合致しない部分があったんだなって、今はわかりますけどね。ですけれど、本当にもう……なんでしたっけ? 質問。ごめんなさい。

佃:(爆笑)

── 佃さんの演出の特色などを(笑)。

竹下:佃さんの作・演出でいらっしゃるので、もちろんどこを聞いても佃さんからすぐに明確に答えが返ってきます。佃さんは俳優さんでもいらっしゃるので、我々のフィジカルな部分での生理もすごくわかってくださるんですね。動きながらどんどんセリフも変わっていったり、足りない部分を足していったり、要らないものは削ぎ落としたりとか、そういう作業も自在に出来るのが、演じる側にとってはとても有り難い。

やっぱり、その場で生まれていくもの、という感じがすごくあるんですね、今のお稽古でも。きっとこれは幕が開いても日々生まれていくものがあると思うので、そういう時間を一緒に創っていけるということが、すごく私今、照れくさいですけど信頼申し上げておりますし、作家であり、演出家であり、俳優でもあり、という複眼的に見てくださっていることに、大なる信頼感があります。

佃:ありがとうございます。

>(NEXT)同郷の物語、であるがゆえの苦労も

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