1日のみの上演となった幻の作品が新キャストを迎え再演へ~「関西人3人でのびのびと」小柴陸(AmBitious /関西ジャニーズJr.)ら登壇の取材会をレポート
羽野晶紀、小柴陸(AmBitious /関西ジャニーズJr.)、橋本さとし
リーディングアクト『一富士茄子牛焦げルギー』が2022年12月15日(木)~18日(日)に大阪・ABCホール、12月22日(木)〜25日(日)に東京・CBGKシブゲキ!!で再演される。本作は昨年、1日だけ上演された幻の作品。今回、関西ジャニーズJr.の人気グループ「AmBitious」の小柴陸が“ぼく”役で続投、新たに“おかん”役に羽野晶紀、同“おとん”役に橋本さとしが出演する。再演決定に意気込む小柴と、新キャストの羽野、橋本、そして原作者のたなかしんが登壇した取材会は、舞台同様に関西弁がさく裂。笑いに包まれた会見の様子をレポートする。
本作は絵本作家のたなかしんが、家族の物語を描いた小説『一富士茄子牛焦げルギー』が原作。2019年の正月に毎日新聞で連載した作品は、翌年書籍化され「第53回日本児童文学者協会」で新人賞を受賞後、21年1月にリーディングアクトとして初演された。コロナ禍で1日のみの上演となった幻の作品で、再演が期待されていた。
たなかしん『一富士茄子牛焦げルギー』
――出演のオファーを受けた時は、どのような気持ちでしたか。
小柴:僕は昨年1月に上演された『一富士茄子牛焦げルギー』に“ぼく”役で、出演させていただきました。舞台はコロナ禍の影響で中止になり、とてもくやしい思いをしていたので、もう1回できると聞き、とてもうれしかったです。精一杯頑張りたいです。
羽野:昨年、初演された『一富士茄子牛焦げルギー』では、所属事務所(東宝芸能)の先輩でもある沢口靖子さんと、生瀬勝久さんが“おかん”と“おとん”を務めていました。「観に行きたいな」と思っていたのですが、上演中止になったため生で観ることができず残念やなと思っていました。出演依頼をいただいた時は、「私でいいのかな?」という思いがありました。依頼をいただいた時点では、“ぼく”の小柴くんは続投すると聞いていましたが、“おとん”についてはまだ未確定で。ただ、学校(大阪芸術大学)の2個先輩でもある橋本さんがやるかも?とは聞いていたんです。リーディングアクトなので、本をいただいて最初に全てのセリフを声に出して読んでみました。何カ所かで涙が出てきたのですが、途中笑える部分もあって。泣いたり笑ったりしながら「おとん役は、さとしさんがぴったりや」と思っていたので、こうして3人でできることが決まってうれしいです。
橋本:今回初めてリーディングアクトを務めさせていただきます。色々な舞台を経験させていただきましたが、実はこのリーディング劇というのは恐れていました。避けていたと言ってもいいかもしれません。座ったまま本を読んで、お客さんに感動を与える……。考えただけでも緊張します。本を読んでいるのにも関わらず、読む場所を飛ばしてしまったり、漢字を読み間違えてしまったり……。生々しい部分もあると思うのですが、それによって舞台の根本の部分を観ていただけるのではないかと思います。本には活字がつづられていますが、その情景が浮かんでくる力強い作品です。ここに河原雅彦さんの演出や、瓜生明希葉さんの音楽も加わって来る。演じる僕自身も感動できる作品になると思うので、勇気を持って演じたいです。僕が感じた感動以上のものを、お客さんに感じてほしいと思っています。
たなか:キャストの方々の声色や表情などで、心情が表現される。僕が書いた文章ですが、全然違うものになっているなと感激して、(初演時は)客席で嗚咽をこらえるのに必死でした。もう1度、どうにか観ることができないかと思っていた時に、「もう1回できそう」と知らされ、「まじか」と思いました。羽野さんの“おかん”、橋本さんの“おとん”。そして様々な現場を経験して成長した小柴さんの“ぼく”を観ることができるのが、とても楽しみです。
小柴陸(AmBitious /関西ジャニーズJr.)
――小柴さんから見た、“おとん”と“おかん”の印象は。
小柴:今日、会見前に初めてお二人にお会いしました。優しくしゃべりかけて下さって、僕が思い描いていた“おとん”と“おかん”でした。
――“おとん”と“おかん”から見た、小柴さんの印象は。
橋本:さっきから横で見ているのですが、肌キレイやなー。もうピカピカしてるもんな。肌も気持ちもピカピカしていて、「汚れることがないように守ってあげたい!」と、すでに親心が生まれています。僕らよりも先に作品に携わっているので、色々教わりたいです。コミュニケーションを取りながら、ひとつの家族のように過ごせれば良いと思います。
羽野:小柴くんは、とてもピュアな感じですよね。お稽古が始まらないと分かりませんが、きっと生瀬さん、沢口さんとは真逆の“おとん”と“おかん”やと思います。
橋本:生瀬大先輩はストイックで、尊敬する方。僕はあやふやな役者だから、昔は生瀬さんに「アホぼん」と言われて育ちました(笑)。
羽野:沢口さんはち密に役作りをして臨む人やけど、私は出たとこ勝負やから。小柴くんを頼りにしています。
小柴:そんな。僕の方こそ、頼りにしています。
――数時間前に初めて会った同士とは思えない。すでに息がぴったりですね。物語の中では、「餅が焦げへんようにしてください」と富士山に願った“おとん”の思いが叶う場面があります。もし願い事がひとつだけ叶うとしたら、何をお願いしたいですか。
小柴:お金持ちになりたいです。
橋本:そりゃそやわ。銭や銭(笑)。
羽野:関西っぽくて良いね(笑)。
小柴:はい(笑)。僕プロフィールにも「お金持ちになりたい」って書いているんです。もうひとつのお願いは「空を飛ぶこと」です。
橋本:「空を飛びたい」ってピュアやな。僕は、飼っているチワワとお話したいです。人間のように「ニタッ」と笑う訳ではないから、いまは目とか仕草とかを見て、こっちが勝手に感情をはかるしかないので。本音が知りたいよね。
羽野:私は、地球上からウィルスに退散していただきたいです。お客さんがマスクを外して、思う存分笑って、おいしいものを食べられる時が早く来てほしい。みなさんのために願いたいです。
羽野晶紀
――小柴さんは、昨年も“ぼく”を演じられました。役作りで心がけたことはありましたか。
小柴:僕は学校では、めちゃくちゃしゃべるキャラなのですが、演じた“僕”は事情があってあんまりしゃべらない子。僕自身と“僕”は、性格が真逆やったから、難しかったです。僕は全然できなかったので、演出家の河原さんは、全てのセリフにアドバイスをくださって。
――河原さんとのやりとりで発見はありましたか。
小柴:はい。「〇〇ちゃうんか」と言った後、すぐに「ちゃうんか」と言う場面があるのですが、1回目と2回目の「ちゃうんか」に込める感情は違うものなので、アクセントを変えたりするのですが、それがすごく勉強になりました。今回もチャレンジしたいです。
――橋本さんは、リーディングアクト初挑戦ですね。
橋本:はい。リーディング“アクト”なので、本を読むだけではない。ストレートプレイも混ぜて、感情を表現する。普通のお芝居をする感覚に近いのかなと想像しています。
小柴:僕も昨年の舞台でリーディングアクトに初挑戦して。緊張しすぎて、本番がどうだったのかあまり覚えていないんです。最初に出る時に、つまづきそうになったことは記憶にあるのですが。
橋本:つかんでますね(笑)。舞台にはセットもあって、移動をしながら演じる部分もあるので、新しい挑戦だなと思っています。
橋本さとし
――舞台ではたなかさんが書き下ろした「絵」も見どころのひとつですね。
たなか:はい。舞台の背景用に、タイトルにもある「富士山」を描きました。ほかにもオニや龍などたくさんのものが出て来るので、50枚ぐらい舞台のために描きました。印象的な桜なども、全て描き下ろしです。描いている時は、「これはいったい、何の仕事?」と思いましたが、原作者として舞台のために作品を提供するだけではなく、舞台の一部分に携わることができた。多くの原作者は、そこまで作品に関わらないと思うので、すごく楽しかったです。
――たなかさんは、舞台化が決まった時、どんなお気持ちでしたか。
たなか:書籍を出版した時点では「児童書」として扱われたのですが、小学校低学年の子どもが理解するには、難しい内容です。書店側からも「扱いが難しい」と本を置いてくれるところが少なくて。広がりを持たせることができれば良いなと思っていた時に、『第53回日本児童文学者協会』の新人賞をいただいたんです。受賞後に舞台化のお話が出たのですが、「人生と言うのは、どう転がっていくのか分からない面白さがあるな」と感じました。作品を制作していく中で、人は生きているとつらいことがあるけれど、乗り越えて、幸せになってほしい。前を向いて生きてほしいという思いを込めて描いたので、作品が広がっていることがとてもうれしいです。
――「前を向いて生きてほしい」という思いが舞台を通じて、さらに多くの人に届くと良いですね。
橋本:たなかさんが描こうとしたことを、僕ら3人で届けたいです。コロナウィルスが蔓延して、お客さま全てがマスクをしている光景を舞台から見た時は悪夢を見ているようでした。3年の間に人と人との関係も希薄になったように感じてます。でも僕らがやっているエンタテインメントは、人にまみれて心を動かすこと。『一富士茄子牛焦げルギー』には、人と人の絆や愛の大切さが描かれています。多くの人が共感できる内容だと思いますし、この作品をいま上演できることを幸せと感じます。1時間20分ほどの時間の中で、何度も心が動くと思います。無事に千秋楽まで完走したいです。
会見の様子
羽野:大阪の家族の面白さ、素敵さを東京のみなさんにも分かってもらえたらうれしいですね。関西人3人で舞台に立つので、伸び伸びやりたいです。コロナ禍の3年間は、世の中の人が同時期にしんどい思いをしました。この物語を観た人には、劇場を出る時に、「悪いことを考えるのではなくて、笑顔でいる時間を増やした方が良いよね。ひとつ踏み出してみよう」って思ってほしい。楽しい気持ちで大阪や渋谷の街を歩いてほしいです。
小柴:これぞ大阪の家族ということを分かってもらえると思います。昨年、大阪で1日のみ上演したのですが、関西ジャニーズJr.の同期も観に来てくれて。「いままで観た舞台の中で、一番分かりやすかったよ」と言ってくれたんです。「何で?」と聞いたら、「分かりやすく、笑えて、泣いた」って教えてくれて。遠い世界の話ではなく、どこにでもある普通の家族の話なので、どの世代の方に観ていただいても、心に来るものがあると思います。たくさんの方に観ていただきたいです。
――たなかさんは再演に期待するところはどのようなことですか。
たなか:会見での掛け合いを見ていても感じると思うのですが、すでに家族になっていますよね。ボケと突っ込みができ上がっているので、このまま舞台に突入していただきたい。素晴らしいものになると思います。
取材・文=翡翠