佐渡裕が次期音楽監督就任への抱負語る~新日本フィル2023/24シーズンの定期演奏会プログラム発表

レポート
クラシック
2022.11.30

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新日本フィルハーモニー交響楽団(以下新日本フィル)が本拠地を置く東京都墨田区で、2023/24シーズンの定期演奏会プログラムについての記者発表会を開催。現在ミュージック・アドヴァイザーを務め2023年4月から第5代音楽監督に就任する佐渡裕と、同楽団理事長の宮内義彦が登壇し、新シーズンの展望や今後の抱負などについて語った。(文章中敬称略)


■原点ともいえる新日本フィルの5代目音楽監督に。テーマは「ウィーン・ライン」

会見にあたり、まず宮内理事長は新日本フィルが2022年に設立50周年を迎えたことをふまえたうえで「新しい50周年を迎え、さらにこれから次の50年を見据えたとき、ここでもう一度足をしっかり地につけて、できるだけ多くのファンに支持される楽団に発展していきたい」と挨拶。また2023年4月から音楽監督を務める佐渡は、かつて新日本フィルが出演していたテレビ番組『オーケストラがやってきた』にふれ、「子どものころから新日本フィルは小澤征爾先生や山本直純先生らがいらした、あこがれのオーケストラ。その後1987年に小澤征爾先生と出会うことができ、1990年には新日本フィルと共演することができた」と振り返り、「若い頃に多くの経験を積ませてくれたオーケストラの5代目の音楽監督として就任することを大変うれしく思う」と語った。

2023/2024シーズンの定期演奏会については、従来のシリーズを「トリフォニー・シリーズ」「サントリーホール・シリーズ」として、新日本フィルの得意とするチャレンジングなプログラムや深い芸術性の感じられる演目を取り上げる。「すみだクラシックへの扉」はクラシックファンのすそ野を広げることをコンセプトとし、名曲が中心。またテーマを佐渡が現在拠点を置き、大切にしているというウィーンに因み「ウィーン・ライン」とし、ハイドン以降マーラー、R.シュトラウスの時代までウィーンで活躍した作曲家をレパートリーの中心に据える。

(C)Takashi Iijima

(C)Takashi Iijima

「トリフォニー・シリーズ」「サントリーホール・シリーズ」には佐渡が3回登場し、R.シュトラウス「アルプス交響曲」、ブルックナー交響曲第4番「ロマンティック」、マーラー「交響曲第4番」、ハイドン「交響曲第44番」などを振る予定。音楽監督としての最初の演奏会は#648(2023年4月8日・10日)で、ゲストに辻井伸行を招き、ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」とR.シュトラウス「アルプス交響曲」を演奏するほか、「すみだクラシックへの扉」でも#14(2023年4月14日・15日)に辻井との共演を予定。#652(2023年10月28日・30日)で演奏するブルックナーは首席指揮者を務める「ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団とともにつくりあげてきたもの、ハイドンはオーケストラの編成は大きいものではなく、また楽譜にかかれている情報も少ない。そのため指揮者とオーケストラの互いの想像力が必要になり、信頼関係を作るうえで重要なレパートリー」と佐渡。さらに#653(2024年1月19日・20日)は「人間の持つ最高の楽器」である声楽にフューチャーし、マーラー「交響曲第4番」のほか、武満徹「系図―若い人たちのための音楽詩―」を演奏する。

このほか客演では、シャルル・デュトワ、秋山和慶、沼尻竜典、ジャン=クリストフ・スピノジ、阿部加奈子、鈴木秀美のほか、久石譲は#651(2023年9月9日・11日)で新作を披露する予定だ。ソリストではカウンターテナーの藤木大地も名を連ねる。
 

■地域に根差したオーケストラを目指す。「頂点を高くするにはすそ野を広げることが大切」

ラインナップ発表に続いて行われた宮内理事長と佐渡の対談では、宮内理事長の「クラシックファンのすそ野をいかに広げるか」という話題を受け、佐渡が芸術監督・指揮者を務める「兵庫県立芸術文化センター」での取り組みを紹介。現在同文化センターの公演には年間50万人が訪れ「いまでこそ、地域の人が7月のオペラ公演の前夜祭などを行ってくれるが、最初は劇場周りの小中学校をはじめ、吹奏楽部のある学校を周り、地域のイベントに参加するなど、地域とのつながりを大切にした地道な活動を続けていった。文化というと『芸術』など大きなものをイメージしがちだが、その地域に根差したものづくりや商店街の人情なども立派な文化の一つ。手前みそになるかもしれないが、墨田でもそうした活動を続けていきたい」と語った。

その活動の一環として、2022年4月から「すみだ音楽大使」に就任し、動画などで「すみだ佐渡さんぽ」を配信したり、墨田川高校吹奏楽部、両国高等学校・附属中学校の管弦楽部を訪問し指導をしたりするなど、活動を開始。対談で両国高校・附属中学校の生徒から感謝のメッセージを綴った寄せ書きのノートが手渡されると、佐渡はノートを手にしながら「中高生の質疑応答がとても面白く、この世の中を変えるのは若者だと思った。吹奏楽部や音楽部のある墨田の学校は全て巡りたい」と目を細める一幕も。そして「文化は地域に根付いてこそ文化となる。満員のお客様の前で演奏することが、オーケストラを育てることになる。オーケストラ事業が地域に根ざしてこそオーケストラであるし、それが東京や日本を代表するオーケストラへと繋がっていく」と改めて意欲を語った。宮内理事長もまた「オーケストラの頂点が高くなるためには底辺が広くならないとならない」と語るなど、地域に根差したオーケストラを目指す意気込みを再確認した。

取材・文=西原朋未

公演情報

新日本フィルハーモニー交響楽団
〈2023/2024 シーズン〉定期演奏会
〈トリフォニーホール・シリーズ〉&〈サントリーホール・シリーズ

 
■#648
2023年4月8日(土)14:00 すみだトリフォニーホール
2023年4月10日(月)19:00 サントリーホール
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第 2 番ハ短調 op.18
R.シュトラウス:アルプス交響曲 op.64,TrV 233
指揮:佐渡裕
ピアノ:辻井伸行

 
■#649
2023年5月13日(土)14:00 すみだトリフォニーホール
2023年5月15日(月)19:00 サントリーホール
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 op.47
メンデルスゾーン:交響曲第 2 番 変ロ長調 op.52 「讃歌」
指揮:沼尻竜典
ヴァイオリン:ユーハン・ダーレネ

 
■#650
6月24日(土)14:00 すみだトリフォニーホール
6月5日(日)14:00 サントリーホール
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
ストラヴィンスキー:バレエ音楽『火の鳥』組曲(1919年版)
ベルリオーズ:幻想交響曲 op.14
指揮:シャルル・デュトワ

 
■#651
2023年9月9日(土)14:00 すみだトリフォニーホール
2023年9月11日(月)19:00 サントリーホール
久石譲:新作
マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調
指揮:久石譲

 
■#652
2023年10月28日(土)14:00 すみだトリフォニーホール
2023年10月30日(月)19:00 サントリーホール
ハイドン:交響曲第 44 番 ホ短調 Hob.I:44
ブルックナー:交響曲第 4 番 変ホ長調 WAB 104「ロマンティック」(ノヴァーク版)
指揮:佐渡裕

 
■#653
2024年1月19日(金)19:00 サントリーホール
2024年1月20日(土)14:00 すみだトリフォニーホール
武満徹:系図 ―若い人たちのための音楽詩―
マーラー:交響曲第 4 番 ト長調
指揮:佐渡裕
アコーディオン:御喜美江
朗読:白鳥玉季
ソプラノ:石橋栄実

 
■#654
2024年3月2日(土)14:00 すみだトリフォニーホール
2024年3月3日(日)14:00 サントリーホール
細川俊夫:月夜の蓮~モーツァルトへのオマージュ~
ラフマニノフ:交響曲第2番 ホ短調 op.27
指揮:秋山和慶
ピアノ:児玉桃

■公式サイト:https://www.njp.or.jp/

公演情報

新日本フィルハーモニー交響楽団
すみだクラシックへの扉

 
■#14
2023年4月14日(金)・15日(土)各14:00 すみだトリフォニーホール
レスピーギ:リュートのための古風な舞曲とアリア 第3組曲 P.172
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 op.43
ドヴォルジャーク:交響曲第9番 ホ短調 op.95 「新世界より」
指揮:佐渡裕
ピアノ:辻井伸行

 
■#15
2023年6月9日(金)・10日(土)各14:00 すみだトリフォニーホール
メンデルスゾーン:劇音楽『夏の夜の夢』序曲 op.21
モーツァルト:交響曲第 36 番 ハ長調 K.425 「リンツ」
パッヘルベル:カノンとジーグ ニ長調
ヘンデル:歌劇『セルセ』 HWV 40 より「オンブラ・マイ・フ(なつかしい木陰)」
ヘンデル:歌劇『リナルド』 HWV 7 より 「涙の流れるままに」
モーツァルト:歌劇『フィガロの結婚』 K.492 より序曲「恋とはどんなものかしら」
モーツァルト:歌劇『ポントの王ミトリダーテ』 K.87 より「執念深い父がやってきて」
モーツァルト:モテット「アヴェ・ヴェルム・コルプス」 k.618
グルック:歌劇『オルフェオとエウリディーチェ』より「精霊の踊り」「エウリディーチェを失って」
指揮:デリック・イノウエ
カウンターテナー:藤木大地

 
■#16
2023年7月7日(金)・8日(土)各14:00 すみだトリフォニーホール
ヴィラ・ロボス:ブラジル風バッハ第4番より Ⅰ前奏曲、Ⅳ踊り
ロドリーゴ:アランフェス協奏曲
ヒナステラ:バレエ音楽『エスタンシア』組曲 op.8 ほか
指揮:ジョゼ・ソアーレス
ギター:村治佳織

 
■#17
2023年9月29日(金)・30日(土)各14:00 すみだトリフォニーホール
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ(管弦楽版)
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調
チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 op.74 「悲愴」
指揮:阿部加奈子
ピアノ:三浦謙司

 
■#18
2023年10月20日(金)・21日(土)各14:00 すみだトリフォニーホール
メンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」 op.26
シューベルト:交響曲第 7 番 ロ短調 D.759 「未完成」
ベートーヴェン:交響曲第 6 番 ヘ長調 op.68 「田園」
指揮:鈴木秀美

 
■#19
2023年11月10日(金)・11日(土)各14:00 すみだトリフォニーホール
ロッシーニ:歌劇『アルジェのイタリア女』序曲
ヴェルディ:歌劇『運命の力』序曲
ヴィエニャフスキ:ヴァイオリン協奏曲第 1 番 嬰ヘ短調 op.14
ワーグナー:楽劇『トリスタンとイゾルデ』より「前奏曲と愛の死」
ビゼー:カルメン組曲第 1 番より
指揮:ジャン=クリストフ・スピノジ
ヴァイオリン:HIMARI

 
■#20
2024年2月16日(金)・17日(土)各14:00 すみだトリフォニーホール
久石譲:I Want to Talk to You - for string quartet, percussion and strings-
モーツァルト:交響曲第 41 番 ハ長調 K.551 「ジュピター」
ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」
指揮:久石譲

 
■#21
2024年3月15日(金)・16日(土)各14:00 すみだトリフォニーホール
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第 1 番 ハ長調 op.15
シューベルト:交響曲第 8 番 ハ長調 D 944 「グレイト」
指揮:上岡敏之
ピアノ:アンヌ・ケフェレック

 
■公式サイト:https://www.njp.or.jp/
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