兵馬俑36体はじめ“国宝級”の至宝が多数来日! 『キングダム』ファンも必見の『兵馬俑と古代中国』展レビュー

レポート
アート
2022.12.23
『兵馬俑と古代中国~秦漢文明の遺産~』  手前:《跪射武士俑〈一級文物〉》 統一秦 秦始皇帝陵博物院蔵

『兵馬俑と古代中国~秦漢文明の遺産~』  手前:《跪射武士俑〈一級文物〉》 統一秦 秦始皇帝陵博物院蔵

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『兵馬俑と古代中国~秦漢文明の遺産~』が、2022年11月22日(火)から2023年2月5日(日)まで東京・上野公園の上野の森美術館で開催されている。日中国交正常化50周年を記念した本展には、世界遺産・始皇帝陵と兵馬俑坑がある中国・陝西省から兵馬俑36体含む約200点の貴重な文物が来日。秦の始皇帝が中華統一を果たした時代を中心に、その前後の歴史にも光をあてながら「20世紀最大の発見」といわれる兵馬俑の謎に迫っている。会場には、秦の天下統一ストーリーを描いた漫画『キングダム』とコラボした解説コーナーも。今再び脚光を浴びる古代中国。その歴史ロマンあふれる展覧会の概要を実際の会場の様子とともにお伝えしていこう。

始皇帝時代の“ビフォーアフター”とともに兵馬俑の謎に迫る

中国・西安近郊にある「始皇帝陵と兵馬俑坑」といえば、おそらく多くの人が一生に一度は訪れてみたいと思う場所のひとつだろう。万里の長城や敦煌の莫高窟とともに同国初の世界遺産に登録されたこの場所を特に有名にしているのが、秦の始皇帝と埋葬されたと推測される約8000体もの「兵馬俑」だ。

上野の森美術館

上野の森美術館

兵馬俑の「俑(よう)」とは、権力者らの墓に副葬品として埋葬された人間や生き物の姿を写した像のこと。始皇帝の兵馬俑は、始皇帝陵の近隣で1974年に発見され、1978年から本格的な発掘が進められてきた。その歴史的価値およびスケールの大きさから「20世紀最大の発見」といわれ、初めて中華統一を成した為政者の力を今に伝えている。

《戦服将軍俑〈一級文物〉》  統一秦 秦始皇帝陵博物院蔵

《戦服将軍俑〈一級文物〉》  統一秦 秦始皇帝陵博物院蔵

ただ、俑が作られたのは始皇帝時代の秦だけではない。それ以前の殷の時代から14~17世紀にかけての明の時代まで、さまざまな俑が作られてきたという。しかし、等身大の大きさの俑が作られたのは始皇帝陵のみ。なぜ、この時代だけ、そうした大型の兵馬俑が作られたのか。始皇帝前後の時代にも着目し、その謎に迫るのが本展の大きなテーマである。

『キングダム』の舞台、春秋戦国時代を伝える秦の遺物

展示は大きく分けて3つの章で構成されている。このうち、始皇帝の兵馬俑が含まれる第2章は最後の空間に一堂に展示されているため、まずは第1章と第3章の展示を見ていくことになる。

第1章「統一前夜の秦〜西戎から中華へ」では、秦の始皇帝が初の中華統一を果たす以前の秦の文化を数々の遺物で紹介している。

第1章の展示風景

第1章の展示風景

秦というと、始皇帝こと嬴政が治めた紀元前3世紀頃の印象が強いが、そのルーツは紀元前9世紀ごろにまで遡る。この国では代々、君主を弔う際に生身の人間をともに埋葬する「殉葬」が行われてきたが、勢力が大きくなるにつれて、東の国々からその習わしに批判が集まった。そのため代わりに作られるようになったのが俑なのだが、その俑も孔子から反対の声が上がる。最初の空間の中心には、戦国時代の秦で作られた騎馬俑が展示されている。高さ22cmの騎馬用は、我々がイメージする兵馬俑に比べると遥かに小さい。

《騎馬俑〈一休文物〉》 戦国秦 咸陽市文物考古研究所蔵

《騎馬俑〈一休文物〉》 戦国秦 咸陽市文物考古研究所蔵

秦の文化的特徴を伝えるのが、その近くにある瓦の展示だ。《鳳鳥貼面磚》や《鹿紋瓦当》などの瓦には動物が描かれており、春秋戦国時代の国々の中で最も西に栄えた秦では、動物たちが身近な存在だったことが分かる。

第1章の展示風景

第1章の展示風景

《青銅剣》 戦国秦 米脂県博物館蔵

《青銅剣》 戦国秦 米脂県博物館蔵

別のところには、《青銅剣》や《青銅戈》といった武器が展示されている。春秋戦国時代を描いた漫画『キングダム』でも、武将や兵士が持つ武器は彼らのかっこよさを象徴する要素のひとつだ。この後の展示では、相邦・呂不韋の名が刻まれていた《青銅戟》も見ることができ、漫画の中に描かれた世界の空気をリアルに感じることができる。

中国の“国宝級”史料24点&動物の俑によるパレードも!

続く空間では、《中磁青銅鼎》や《銘文青銅尊》といった青銅器を見ることができる。宴の様子や動物などをモチーフにした美しい装飾が見られるそれらの多くは、中国で国宝級の価値を誇る「一級文物」である。そのほかにも、本展には計24点(うち1点は複製)の一級文物が来日している。そうした至宝中の至宝が多数見られるのも、本展の特筆すべきポイントである。

《銘文青銅尊〈一級文物〉》 西周 米寿県博物館蔵

《銘文青銅尊〈一級文物〉》 西周 米寿県博物館蔵

次の第3章「漢王朝の繁栄〜劉邦から武帝まで」では、秦の後に興った漢王朝(前漢)における兵馬俑のあり方を追っている。

《彩色騎馬俑》 前漢 咸陽博物院蔵

《彩色騎馬俑》 前漢 咸陽博物院蔵

司馬遼太郎による『項羽と劉邦』の小説でも有名な漢王朝の祖・劉邦の時代に作られた兵馬俑は、東方の漢軍兵士の姿をしており、ミニチュアサイズの小ささが特徴。それは戦国時代に秦と対立した楚で生まれた劉邦が秦の文化を継承することを嫌ったためといわれている。ここでは、その漢の初期から漢が最盛期を迎えた武帝の時代までに作られた兵馬俑を見ることができる。

《彩色歩兵俑》 前漢 咸陽博物院蔵

《彩色歩兵俑》 前漢 咸陽博物院蔵

ずらっと10体並べて展示された《彩色歩兵俑》、ちょっと“コワモテ”な《着衣式武士俑》など人型の俑ももちろん見どころなのだが、個人的には、金の輝きがまぶしい《鎏金青銅馬》や、パレードのような隊列で展示された家畜の俑に強く興味をひかれた。

第3章の展示風景

第3章の展示風景

《家畜犬陶俑》 前漢 漢景帝陽陵博物院蔵

《家畜犬陶俑》 前漢 漢景帝陽陵博物院蔵

とりわけパレードの先頭と最後尾にいる《子豚陶俑》と《家畜犬陶俑》の丸々とした愛らしさ。どうして動物の俑が作られたのか、はっきりしたことはわかっていないそうだが、きっと家畜をペットのようにかわいがっていた人が、自分のお墓に動物の俑を埋蔵して欲しいと願ったりしたのだろうかと、いろんな想像が浮かんでくる。

始皇帝の兵馬俑を360度ぐるっと鑑賞

そして、第2章「統一王朝の時代〜始皇帝の時代」では、始皇帝の兵馬俑が一堂に集められた感動の空間が待っている。

第2章の展示風景

第2章の展示風景

本場の兵馬俑坑の雰囲気を再現した空間に並べられた等身大の兵馬俑は、やはり、さすがの迫力。高い身分を示す冠をかぶった《戦服将軍俑》を大将に、弩(いしゆみ)を構える姿勢の《跪射武士俑》、槍などの武器を持って立つ姿勢の《鎧甲騎兵俑》、弓を持つ姿勢の《立射武士俑》等が並び立つ空間は壮観。実際の兵士をモデルにしたとされる像の表情には、戦う男たちの勇ましさがみなぎっている。

第2章の展示風景

第2章の展示風景

それぞれの兵馬俑は独立したケースに展示されているため、鑑賞者はその周りに立ち、側面、背後まで360度鑑賞できる。写真等で見ることが多い兵馬俑も、その背中を見られるチャンスはそうそうない。「なぜ、この時代だけ等身大の兵馬俑が作られたのか?」という謎の答えを見つけつつ、本物の兵馬俑を細部まであますことなく鑑賞して帰ろう。また、本章には『キングダム』とコラボした解説展示もあるので、そちらもお見逃しなく。

第2章の展示風景

第2章の展示風景

一つひとつの展示に解説が書かれているのに加え、各ポイントには「子ども解説」も添えられているので、親子等で訪れる際にも親切。また、『キングダム』の読者であれば、時代背景や用語など、同作の知識をもとにスムーズに入り込める展示になっている。『兵馬俑と古代中国~秦漢文明の遺産~』は、2023年2月5日(日)まで東京・上野公園の上野の森美術館で開催中。ぜひ東京で、中国を代表する世界遺産に訪れた気分を味わってほしい。


文・撮影=Sho Suzuki

展覧会情報

日中国交正常化50周年記念 兵馬俑と古代中国~秦漢文明の遺産~
<東京展>
会期: 2022年11月22日(火)~2023年2月5日(日)
会場: 上野の森美術館
住所: 東京都台東区上野公園1-2
開館時間: 9:30~18:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日: 2022年12月31日(土)、 2023年1月1日(日)
観覧料(税込): 一般 2,100円 高校・専門・大学生 1,300円 小・中学生 900円
TEL: ハローダイヤル 050-5541-8600(9:00~20:00)
※日時指定予約制です。 当日の入場枠を設けておりますが、 ご来場時に予定枚数が終了している場合がございます。
※未就学児は入場無料。
※小学生以下は、 保護者同伴でのご入場をお願いします。
※学生券でご入場の場合は、 学生証の提示をお願いいたします。 (小学生は除く )
※障がい者手帳(身体障害者手帳、 療育手帳、 精神障害保健
福祉手帳、 愛の手帳、 被爆者健康手帳)をお持ちの方は、 ご本人と付き添いの方1名様まで入館無料となります。 ご来館の際、 会場入口スタッフへお声がけください。 (日時指定予約は不要)
※詳細は、 展覧会公式サイトをご確認ください。
https://heibayou2022-23.jp
主催: 東京新聞、 フジテレビジョン、 上野の森美術館、 陝西省文物局、 陝西歴史博物館(陝西省文物交流中心)、 秦始皇帝陵博物院
後援: 外務省、 中国大使館、 公益社団法人日本中国友好協会
協賛: DNP大日本印刷
協力: 一般財団法人日本中国文化交流協会、 東海大学情報技術センター
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