心温まる物語を通して傷を癒す大切さを伝えたい 岡本圭人、森川葵、瀬戸さおり、高畑淳子による『4000マイルズ〜旅立ちの時〜』開幕へ
フォトコールで披露されたのは、冒頭、レオが突然ヴェラのアパートを訪れるシーン。岡本と高畑は久しぶりに再会した孫と祖母の微妙な距離感を、リアリティを持って表現している。会見で高畑が話していた通り観客には分からない名前や出来事の話がぽんぽんと登場することもあって、実際にいる祖母と孫の会話を覗き見ているような気持ちになった。ヴェラのアパートをよく見ると、“祖母の家”のイメージにピッタリな小物やアイテムが多数見つかるのも楽しい。細やかに作り込まれた舞台美術も大きな魅力と言えるだろう。
その後のゲネプロでも、レオとヴェラのとりとめもない会話にグッと引き込まれた。岡本はレオを自分なりのこだわりと理想を持つ若者として魅力的に表現。祖母を大切に思っているが時折うっとうしく感じる、等身大の大学生を演じ、ヴェラやベック、アマンダとの関わりの中で成長していく様子を繊細に見せてくれる。
高畑はちょっとした動きや声音による魅せ方が見事。高齢で少しボケ始めているが、若い頃は聡明な人だったのだろうと感じさせる芝居に惹きつけられる。91歳のヴェラを可愛らしいが頑固な部分もあるおばあちゃんとしてイキイキと演じていた。二人が共通の話題で盛り上がっている時の楽しそうな表情、愛情に溢れたやりとりに心があたたかくなる。一方でレオを心配するヴェラが口を出しすぎてしまったり、ヴェラの勘違いや物忘れにレオが怒ってしまったりと、美しいだけではない、家族の自然な関係が描かれる。
森川演じるベックは、自分の意思と志を持つ女性としてレオに対峙する。それぞれの立場や言い分に頷ける部分があるからこそ、二人の言い争いに心を揺さぶられた。そしてアマンダを演じる瀬戸は、明るく元気な中でふと見せる暗い表情が印象的だ。エキセントリックに見えるビジュアルや言動の裏にある彼女の傷に興味が湧く。
4人の苦悩や悩み、彼らを取り巻く人々に関する問題が作中で全て明かされるわけではないのだが、それが却って彼らの存在をリアルに見せており、これまでの人生や抱えているものに対する想像力を掻き立てられる。
また、物語が進むにつれ、姿は登場しない人々にもいつの間にか親しみを覚えている。彼らが話す内容から、ヴェラの隣人や夫、レオの母と姉、親友といった多くの人たちの性格が分かり、次第にビジュアルまで浮かんできて、たった4人のキャストによる芝居でありながら外に広がる世界や人間関係がしっかり感じられた。レオとヴェラが政治の話で盛り上がったり、ベックやアマンダが大学の話や自分の夢について話したりする中で、社会的なテーマについても考えさせられる。
レオの成長を見守り、人と人の関係の難しさやあたたかさに触れながら、多くの気付きを得て共感を覚えられる作品だと感じた。本作は12月12日(月)よりシアタークリエで上演され、2023年には大阪・愛知・香川でのツアー公演が行われる。
取材・文・撮影=吉田沙奈
公演情報
演出:上村聡史
日程・会場:2022年12月12日(月)~28日(水)日比谷・シアタークリエ
お問い合わせ:03-3201-7777(東宝テレザーブ)
<全国ツアー公演>
【大阪公演】
日程・会場:2023年1月7日(土)~9日(月・祝)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
お問い合わせ:06-6377-3888(梅田芸術劇場)
【愛知公演】
日程・会場:2023年1月11日(水)~12日(木) 日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
お問い合わせ:052-972-7466(キョードー東海)
【香川公演】
日程・会場:2023年1月15日(日)レクザムホール(香川県県民ホール)大ホール
お問い合わせ:087-823-5023(県民ホールサービスセンター)
製作:東宝