風間杜夫、濱田めぐみらが言葉や文化を超えたあたたかな交流を描く ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』公開稽古レポート
(左から)こがけん、濱田めぐみ、風間杜夫、新納慎也
2018年のトニー賞において、作品賞を含む10部門を制するという快挙を成し遂げた『The Band’s Visit』。2007年公開の映画『迷子の警察音楽隊』を原作に、魅力的な楽曲や演出・芝居、普遍的なメッセージで多くの人の心を掴んだ。
ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』の日本初公演となる今回は、言葉のニュアンスや歴史的背景を踏まえ、あえてのオリジナル演出で上演される。演出を手がけるのは森 新太郎。キャストには風間杜夫、濱田めぐみ、新納慎也、矢崎 広、渡辺大輔、永田崇人、エリアンナ、青柳塁斗、中平良夫、こがけん、岸 祐二、辰巳智秋といった、確かな実力と個性を兼ね備えたメンバーが集結。さらに、舞台上で生演奏を行う警察音楽隊も、太田惠資、梅津和時、星 衛、常味裕司、立岩潤三と、日本の音楽シーンを牽引するミュージシャンが揃っている。
開幕に先駆けて行われた会見には、風間杜夫、濱田めぐみ、新納慎也、こがけんの4名が登壇した。
ーー初日を迎えるにあたって、意気込みを教えてください。
風間:去年の12月から稽古を始めて2ヶ月。早くお客様の前で演じたいと大変わくわくしています。緊張感もありますが、幕が開くのが楽しみです。
濱田:みんなで一丸となってお稽古をしてきました。素敵な作品になっていますので、ぜひ劇場で楽しんでいただけたらと思います。
新納:世界中で戦争が起きたりコロナ禍だったりする中、平和を願う気持ちを持つこの作品は今まさに上演すべきものだと思います。今までとはちょっと違うミュージカルになっています。この作品をみなさんがどう受け止めてくれるか楽しみです。
こがけん:芸人をやっていて、こんなに同じものを練習することってないので、さすがに飽きるんじゃないかと思っていました。でもすごく楽しくて、衣裳付き通しをした時に感極まってちょっと泣いてしまって。それくらい面白い作品です。あとは、『迷子の警察音楽隊』ですが、演技は迷子にならないように気をつけたいです!
ーー日本版の見どころはどこでしょうか。
風間:エジプトとイスラエルという2つの国の話で、お互い言語が違います。ブロードウェイでは共通言語として英語を使っていまして、今回はたどたどしい英語が日本語になっています。そこから起きる笑いがあったり、必死にコミュニケーションを取ろうという思いが大きくなってきたり。日本版の演出でも苦労された点だと思います。また、文化の違う国の人々と、文化を超えてたった一晩触れ合う、その情や心の繋がりは我々日本人でもよく理解できます。僕らならではの感覚で演じてみたいと、僕自身は思っています。
濱田:私は田舎に住んでいる女性の役。そこに流れるのんびりした時間、エジプトからやってくる警察音楽隊の皆さんの時間の流れ。言語もさることながら、時の流れというものを森さんが細かく演出してくださいました。
新納:まずは真っ赤なセット。僕も最初は驚きました。この衝撃的なセットの中でとても繊細な物語が繰り広げられます。森さんも、ちょっとしたことまで細かく演出してくださいました。そういう繊細さが日本人の琴線に触れるんじゃないかと思います。世界の中で人々が日常を暮らしていることを感じとってもらえたら嬉しいですね。
こがけん:エジプトとイスラエルは政治的には友好関係を築いているけど、実は緊張状態にあるということを、最初に森さんが教えてくれました。それがベースとなって理解できたことが多くあります。また、森さんの稽古はあらゆることを試してみてひとつに絞っていくスタイル。僕は最初の頃、1週間おきくらいでしか稽古に出られなくて。1回稽古して「ああしてみよう、こう変えよう」と言われて、1週間後に行ってみたら最初に戻っていたりするんです。文句じゃないですよ(笑)。これが森さんの持ち味なんだと感じました。
ーー生演奏が見どころのひとつです。本作の音楽の難しさや魅力を教えてください。
風間:私は今回、一曲しか歌わないんです。アカペラで、濱田さんの歌やバンドの皆さんに合わせるのが難しい。この一曲に魂を込めています。皆さん音楽的センスも歌唱力もある方々ですから、負けないようにしがみついていこうと思います。
濱田:稽古場で楽隊の皆さんが初めて音を奏でてくださったのを聴いた時や演奏に乗せて歌った時、みんなから拍手が沸き起こったんです。楽器が奏でる音色のロマンチックな感じやノスタルジックな感じ、エモーショナルな感じが歌のメロディラインにも細かく入っていて、今まで歌った楽曲の中でもトップクラスに難しかったですね。それが合わさってお届けできる音楽は素晴らしいものがあります。また、目の前にオーケストラがいないので呼吸を合わせていく必要があり、意思疎通も大切になるので、より親密に寄り添いながらお稽古しました。素晴らしい楽曲揃いですが、歌い手側にとってはものすごく難易度が高いです。
こがけん:本当に、伝わらないでしょうけどめちゃくちゃ難しいんですよ! そこだけでも覚えて帰ってほしいです!
一同:(笑)。
新納:ブロードウェイで観た時に、なんて素晴らしい楽曲なんだろうと感じました。ミュージカルではあまり聞いたことのない中東の音楽にすっかり心を奪われ、すごく癒されたんです。中東の音楽って日本人にも合うと感じていて。さらにミュージシャンの皆さんは、音楽に詳しい方ならご存知の奇才揃い。そこに混ざって演奏する僕の気持ちにもなってくれと書いておいてください(笑)。
風間:あのシーンは見ものですよね!
新納:やめてください(笑)。
こがけん:濱田さんと同じで、最初にこの作品の音楽を聴いた時、本当に感動しました。中東音楽を現代風にアレンジしていると思うんですが、すごく夢中になってサントラを聴きましたね。この演奏だけでも代の元が取れますし、さらに演技と素晴らしいストーリーがある。こんな言い方をしてしまうと安っぽくなるけど、ここまでコスパの高い芝居はないと思います!
ーー最後に、風間さんからお客様へのメッセージをお願いします。
風間:国も宗教も文化も違う二つの国の人々が、心を許し合うさりげないお話です。たった一晩の出会いだけど、別れがとても切ない。さらに、一流のミュージシャンによる生演奏もあります。こんな贅沢な芝居はありませんから、ぜひ、一人でも多くの方に楽しんでいただけたらと思っています。
ペタ・ティクヴァのアラブ文化センターで演奏するようにと招かれた、エジプトのアレクサンドリア警察音楽隊。イスラエルの空港に到着した彼らだが、いくら待っても迎えが来ない。
誇り高い楽隊長のトゥフィーク(風間杜夫)は自力で目的地に行こうとするが、案内係のミスか若い楽隊員カーレド(新納慎也)の聞き間違いか、彼らのバスはベト・ハティクヴァという辺境の街に到着してしまう。
その日のバスもホテルもない田舎街で音楽隊が出会ったのは、食堂の女主人ディナ(濱田めぐみ)と常連客イツィク(矢崎広)、従業員パピ(永田崇人)。
楽隊員たちはディナの家、イツィクの家、パピが過ごしている店に分散して泊めてもらうことになる。思い思いの夜を過ごす中で、トゥフィークたちはディナと関係を持つサミー(渡辺大輔)、イツィクの義父・アヴラム(岸祐二)やイツィクの妻イリス(エリアンナ)、パピの友人ツェルゲル(青柳塁斗)、彼女からの連絡を待ち続ける電話男(こがけん)といった現地の人々と出会う。言語も文化も異なる隣国の人々が交わる一夜は更けていき――。
公開稽古レポート
公開稽古でまず披露されたのは、トゥフィーク(風間杜夫)、ディナ(濱田めぐみ)とバンドの生演奏による「Itgara’a」&「いつもとちがう何か」。風間のアカペラ歌唱から始まり、楽隊の演奏と濱田の歌唱が重なっていく。
母国語が違うため、ディナはトゥフィークが何を歌っているのか分からない。物悲しいメロディの乗る歌詞は祈りなのかラブソングか、それとも彼の趣味だという釣りの歌なのか。分からないながらに心の距離が縮まっていくロマンチックな楽曲を、風間と濱田は甘く深みのある歌唱で聴かせる。二人の歌声を彩るバンドの生演奏も美しく、幻想的な一夜の情景が浮かび上がる。
続いて、電話男(こがけん)がメインとなる「声をきかせて」。携帯電話がない時代、彼女からの電話を一途に待ち続ける切なさをこがけんは率直に表現。また、待ち望んだ電話がかかってきた彼の喜びをフレッシュに見せたあとは、登場人物たちがそれぞれ待っている何かに向けて歌い出す。ノスタルジックで温かいメロディに様々な楽器の音と人々の歌声が順々に重なり、厚みを増していくハーモニーが美しい。
そして、作中では序盤のシーンである、ベト・ハティクヴァにやってきた音楽隊に、ディナとイツィック(矢崎 広)とパピ(永田崇人)が街の紹介をする「何にもない町」。
お互いに慣れない言葉でコミュニケーションを取ろうと奮闘する様が楽しく、特に音楽隊の指揮者として堂々と振る舞っていたトゥフィークが間違いに気づいて戸惑う姿が可愛らしい。中東音楽らしい音階とリズムに乗せて音楽隊の勘違いを正し、地元の説明をするディナたちは明るいがどこか投げやりな雰囲気を漂わせている。ユーモラスなダンスも相まって、ここから始まる物語へのわくわくが掻き立てられた。
たった一晩の出来事でありながら、忘れられない大切な思い出になっただろうことが窺える彼らの交流。贅沢な生演奏に乗せて紡がれる切なくも温かいささやかな物語を、ぜひ劇場で見届けてほしい。
ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』は、2023年2月7日(火)~2月23日(木・祝)東京・日生劇場にて上演。その後、3月6日(月)~8日(水)大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、3月11日(土)~12日(日)愛知・刈谷市総合文化センター大ホールでも行われる。
取材・文・撮影=吉田沙奈
公演情報
原作:エラン・コリリンによる映画脚本
音楽・作詞:デヴィッド・ヤズベック
台本:イタマール・モーゼス
演出:森 新太郎
風間杜夫:トゥフィーク(指揮者)
濱田めぐみ:ディナ
新納慎也:カーレド(トランペット)
矢崎 広:イツィク
渡辺大輔:サミー
永田崇人:パピ
エリアンナ:イリス
青柳塁斗:ツェルゲル
中平良夫:シモン(クラリネット)
こがけん:電話男
岸 祐二:アヴラム
辰巳智秋:警備員
山崎 薫:ジュリア
高田実那:アナ
友部柚里:サミーの妻
太田惠資:カマール(バイオリン)
梅津和時:警察音楽隊(マルチリード)
星 衛:警察音楽隊(チェロ)
常味裕司:警察音楽隊(ウード)
立岩潤三:警察音楽隊(ダルブッカ)
<東京公演>
日程:2023年2月7日(火)~2月23日(木・祝)
会場:日生劇場
主催:ホリプロ/TOKYO FM/WOWOW
後援:イスラエル大使館
企画制作:ホリプロ
対象日程:
2月11日(土)17:30(登壇者:風間杜夫/濱田めぐみ/新納慎也)
2月13日(月)18:30(登壇者:矢崎 広/渡辺大輔/岸 祐二)
2月15日(水)18:30(登壇者:永田崇人/青柳塁斗/こがけん)
対象日程:
2月16日(木)14:30(演奏:警察音楽隊役ミュージシャン)
日程:2022年2月12日(日)
開演:13:30~(開場13:00~)
会場:日生劇場
手数料0円・座席選択
受付期間:受付中~2023/2/12(日)13:30
の申し込みは【こちら】
<大阪公演>
日程:2023年3月6日(月)~8日(水)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
主催:梅田芸術劇場
お問い合わせ:梅田芸術劇場06-6377-3888(10:00~18:00)
https://www.umegei.com/schedule/1079/
対象日程:3月6日(月)17:00
アフタートーク(登壇者:風間杜夫/濱田めぐみ/新納慎也)
日程:2023年3月7日(火)
開演:17:00~
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
手数料0円・座席選択
受付期間:2022/12/17(土)10:00~2023/3/7(火)17:00
の申し込みは【こちら】
<愛知公演>
日程:2023年3月11日(土)~12日(日)
会場:刈谷市総合文化センター大ホール
主催:メ~テレ/メ~テレ事業
お問い合わせ:メ~テレ事業052-331-9966(平日10:00~18:00)
https://www.nagoyatv.com/event/entry-33492.html
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