「自分たちの公演だからできる挑戦を」~市川團十郎・ぼたん・新之助 成田屋親子『伝承への道』記者懇親会レポート
(左から)市川新之助、市川團十郎、市川ぼたん
2023年3月30日(木)、東京国際フォーラムホールCでの上演を皮切りに、市川團十郎・ぼたん・新之助 成田屋親子『伝承への道』が神奈川・大阪を巡演する。
「伝統の継承、未来へ」をひとつのテーマに、市川ぼたん・市川新之助が名前を受け継ぐ本公演の上演に向け、記者懇親会が行われた。
ーーまずは本作について教えていただけますか。
市川團十郎:この度は『伝承への道』と言うことで、次の世代で少しでも芽吹いてもらいたいと考えながら、家族でできることを模索しました。今回の演目は『子守』、『鳶奴』、『男伊達花廓』。いずれも江戸の文化がモチーフとなっています。演目についてはそれぞれが説明した方がいいと思います。(二人に向かって)自分たちでやってみようか。
私は『男伊達花廓』ですが、これは度々上演しています。『曽我綉侠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ)』と言う歌舞伎の演目の中から五郎蔵という人物をピックアップし、舞踊劇にした形でございます。明快に説明できませんが、今回は今の時代を意識し、前の形とは少し違った構成をしようと考えています。私の中では挑戦ですね。自分たちの公演でないとできないことをと言うことで、市川ぼたんと一緒にやらせていただきます。
市川ぼたん:私は『子守』と『男伊達花廓』の禿をつとめます。私と同じくらいの年齢なので、当時の女の子の気持ちになり切って励みます。まだ稽古途中ですが、『子守』は貧しい女の子が小さな赤ちゃんの世話をしている途中、油揚げを鳶に持って行かれてしまうことから始まる物語です。「なんで取るのよ!」と言う面白さがあったり、ひとりでお人形遊びをしたり。江戸時代の貧しい女の子が楽しむ姿を見て楽しんでいただけたらと思います。
市川新之助:『鳶奴』は、鰹を鳶に取られちゃう話。当時、鰹は貴重だったので怒るっていう感じです。
團十郎:今では理解できませんが、当時は「初鰹は女房を質に入れてでも食え」と言われていました。江戸時代の風習、その時代に生きていた人たちの情緒というものを、『子守』と『鳶奴』、『男伊達花廓』でご覧に入れようという趣向です。
市川團十郎
ーー『男伊達花廓』で今の時代を意識するということですが、具体的に教えていただけますか。
團十郎:まだ打ち合わせの段階ですのでみんなに伝えていませんし、具体的なことは伏せておきたい気持ちもありますが、今の歌舞伎や日本文化というものが、コロナ禍や時代の流れの中で、存在意義を今一度確認しなければならない段階に来ていると個人的には考えています。その中で、松竹さんではできない試み、松竹さんでないとできない試みがある。松竹さんの興行ではできないことに自分たちの興行でトライしたことにより、松竹さんで取り入れられたケースもある。あくまでも舞台は古典をやりますが、見せ方は別の角度を模索していこうと考えていますね。
ーー演目の中には座談会もあります。こちらはフリートークのような形になるのでしょうか。
團十郎:子供たちもいますから、ある程度の台本は作ろうと思っています。演目や日本文化にフォーカスしつつ、状況を見て脱線しながらお客様が感じやすく楽しめるものにしたいと思っています。うちの子供たちに限らず、若い歌舞伎俳優さんがどんどん出てきてらっしゃいます。その中で、若手にもお客様にも伝えていかないといけないことがあると思うんです。伝統文化である歌舞伎を守る・伝承していくことが重要。襲名披露は古典をやりましたし、1月の新橋演舞場は古典でありながら今の時代にフィットするものを模索しました。両輪でやることが我々の役目のひとつだと意識しています。実は日本舞踊ができないと歌舞伎もできません。そういった基本的なことを次の世代に伝えていきたいです。
また、私が子供の時、ちゃんと喋れない自分がいるのもあって、座談会のようなところで話すのは非常に違和感がありました。しかしこの子たちはある程度言語化する練習を始められています。また、舞台上で演じる・踊ると同時に、個人として喋る経験を重ねるべきだと私は思っています。そこで、彼女や彼が喋れる環境を作るというのを意識しながら構成しようと考えていますね。
ーー團十郎さんにとっての「子守の思い出」を教えていただけますか。
團十郎:麗禾(ぼたんの本名)は歩き出すのが早かったので、1歳少しくらいから一緒に歩いていました。毎朝8時に家を出て階段の上り下りなどをして。それは子守とは言わないので、彼女に対してはあまり経験がないです。勸玄(新之助の本名)は中々歩かなかったので、麻央も私もよく抱えていましたね。ずっと寝ている人なので手間はかかりませんでしたが(笑)。
市川ぼたん
ーーぼたんさんも、ご両親との思い出があれば教えてください。
ぼたん:自分ではあまり覚えていませんが、写真などがたくさん残っていますので、それを見ながら「こんなことがあったんだ」と思い返しています。
ーーぼたんさんと新之助さんから見て、普段のお父さんと稽古中のお師匠さんはどんなふうに違いますか?
新之助:普段は優しくて、お稽古は丁寧に教えてくれます。違いは……違い……?
團十郎:(真剣に考え込む新之助を見て)スキップしましょう(笑)。
ぼたん:普段はすごく優しいですし、お稽古では私たちのことを考えて直したほうがいい部分をたくさん指摘してくれます。稽古中は言うことを言ってくれる、頼もしくて素敵なお父さんです。違いは雰囲気でしょうか。お父さんとしての思いと師匠としての思いは違うと感じます。
市川新之助
ーー11月・12月に襲名披露がありましたが、ご自身の中で一番実感が湧いたのはどのタイミングでしょうか。
團十郎:手打ち式ですね。役者総出で行うのは團十郎家くらいだと思います。先輩・同輩・後輩が揃った場で、團十郎になったのだと実感しました。まだ大阪や名古屋や京都、博多など各都市での襲名披露公演もございますから、この期間は畑を耕す期間かなと思いますが。
ーー團十郎さんから見て、お二人の成長ぶりはいかがでしょう。
團十郎:先ほど二人から見た私の話もありましたが、それぞれに教え方を少し変えています。二人は違う人間ですから、「この子にはこのほうがいい」と判断しながら、指導と言うよりは羊飼いのような感覚で見ていますね。
その中で、麗禾は11代目團十郎が襲名した際に翠扇さんが出し物をして以来、60年ぶりに『團十郎娘』として舞台に立ちました。偉業ですよね。彼女には前もって「歌舞伎界では女性が出し物をするのは大変なことだ」とプレッシャーを与えました。『連獅子』の演目では可愛い子を崖から突き落とし、這い上がってきた子だけを自分の子とします。この子の場合は突き落としましたが、よじ登ってきて結果を残しました。11歳としてはよく頑張った『團十郎娘』だと思いました。
勸玄のほうは、以前に『外郎売』をやっていたこともあり、皆さんの注目は『毛抜』に集まっていました。しかし実は、演目としては『外郎売』が大変なんです。その前後の動きや先輩との台詞のやり取りといった部分も難しく、そこを見落とされてしまうことに寂しい思いをしましたし苦戦もしました。ただ、彼は2019年に姉が市川ぼたんになったのに、自分はできないことに悔しさを覚えていたと思うんです。それがいい意味で活力となり、『外郎売』は100点満点でやり切ったと思いますね。『毛抜』は発展途上です。良くも悪くも自分の世界に入りすぎるので差が激しかったなと。ただ、9歳でこの演目をやる歌舞伎俳優はまず出ないと思いますから、その意味ではこちらも100点ですね。
(左から)市川新之助、市川團十郎、市川ぼたん
なお、本公演では市川ぼたんの『子守』、市川新之助の『鳶奴』、市川團十郎、市川ぼたんによる『男伊達花廓』に加え、成田屋親子が登場する座談会も行われる。
日程は、2023年3月30日(木)東京国際フォーラムホールC、3月31日(金)神奈川県民ホール、4月15日(土)・16日(日)NHK大阪ホールにて上演。
取材・文・撮影=吉田沙奈
公演情報
一、座談会
市川團十郎、市川ぼたん、市川新之助 ほか
二、『子守』清元連中
市川ぼたん
三、『鳶奴』長唄囃子連中
市川新之助
四、『男伊達花廓』長唄囃子連中
市川團十郎、市川ぼたん
市川團十郎、市川ぼたん、市川新之助、ほか
一等席11,000円/二等席10,000円
※全席指定・税込 ※未就学児入場不可