くるり、Bialystocks、サニーデイ、折坂悠太(重奏)ら出演、神戸の新フェス『KOBE SONO SONO’23』で音楽の花を咲かせた全20組をレポート
会場を周遊していると、日中は太陽の光が差すとあたたかで、ぽかぽかと日向ぼっこをしながらのんびりしている人が多く見受けられた。『KOBE SONO SONO』の良さは、おひとりさまからファミリーまで、どんな人でも伸び伸びできるところだ。音楽は園内のどこにいても聴こえてくるので、疲れたらベンチに座って休むこともできるし、がっつりライブを楽しみたい時はステージの近くに行くこともできる。
提示で遊園地「神戸おとぎの国」のアトラクションが1回無料になる券も配布されており、家族連れも安心して子どもたちを遊ばせることができた。もちろんマナーやルールを各自しっかりと守っているからこそだが、大らかで実に良いフェスだなと感じた。
神戸モンキーズ 撮影=オイケカオリ
イベントもいよいよ後半へ。MONKEY STAGEには、普段この劇場をホームに活動する神戸モンキーズが登場。望美トレーナーと「ハヤテ」のコンビ「三和音」が、楽器演奏やジャンプ芸を披露して拍手喝采を受けていた。そして神戸出身のシンガーソングライター・みらんはリラックスした様子で弾き語りを披露。声も楽器として大切にしたいと、口笛やスキャットも存分に織り交ぜて会場を魅了した。MONKEY STAGEのトリはKaco。一声放つだけで空気を変えるパワフルでブルージーな歌声に思わず息を飲む。どこまでも伸びやかで突き刺さるような美しさに浄化されるようだった。
みらん 撮影=ヨシモリユウナ
Kaco 撮影=ヨシモリユウナ
浦上想起・バンド・ソサエティ
浦上想起・バンド・ソサエティ 撮影=ヨシモリユウナ
続くFRUITS STAGEは、浦上想起・バンド・ソサエティ。多重録音 音楽家・浦上想起がキーボード&ボーカルで、平陸(Dr)、しょけん(Gt)、松丸契(Sax)と共に登場。この日が、野外フェスでのライブは初となる。1曲目「新映画天国」から緻密かつ遊び心あふれる、美しいバンドサウンドに身を委ねて踊る観客たち。「芸術と治療」ではより軽快に奏で、ヴォコーダーで声を変え挨拶するなど、全身で音を楽しむようなステージングに心が踊る。「遠ざかる犬」からはよりじっくりと聴かせる展開に。「未熟な夜想」「金星の呼気」と聴き耽けっているうちに、未発表の新曲を披露しあっという間にラストを迎えた。音源とはまた違った熱量とフィジカルをともなった貴重なライブ体験に。その感動を表すように、ステージをあとにするメンバーには惜しみない拍手が送られた。
藤原さくら
藤原さくら 撮影=渡邉一生
サポートに皆川真人(Key)、Curly Giraffe(Ba)、白井健一(Dr)を迎えた編成は初めてという藤原さくらは、1曲目から「Waver」で丸くスモーキーな歌声を心地良く響かせる。ブルージーな面も可愛らしい面も見せて表情豊かに楽曲を紡ぎながら、MCでは「本当に素敵なフェス。呼んでいただけて本当に嬉しいです」と感謝を述べつつ「寒い。寒すぎる」と本音を吐露。
安藤裕子に「風でヘアセットもメイクも全部なくなると思った方がいいと言われた」というエピソードを明かして会場を和ませ「また来年も出れるといいな〜」とアピール。ラストは大滝詠一のカバー「君は天然色」を、優しく温度感のあるアレンジで素敵に演奏してライブを終えた。
トクマルシューゴ
トクマルシューゴ 撮影=オイケカオリ
夕暮れ時のFRUITS STAGEには、ドラムにベース、トランペットにアコーディオンと、それから見たことがない楽器がたくさん並んでいる。どんなライブが繰り広げられるのかと、ざわざわしているところにバンドメンバーと登場したトクマルシューゴ。「Katachi」から重なり合う音がとても楽しげで、だけど野外の広いステージもなんのそのと飲み込んでいくようなスケール感は凄みがある。
ふと足元に目をやると、トクマルは日も暮れ始めた北神戸の山間はそこそこ肌寒いのに、しっかりと裸足だったトクマルシューゴ。神戸の地を踏みしめ風土を感じながら、音を作り、歌に変えているのだろうかと思うほど、この場所、この瞬間にぴったりな祝祭感あふれるステージ。「PARACHUTE」では子どもたちも合唱、「最近、西陽が苦手で……」というまったりMCからアニメ「ちいかわ」のテーマを鳴らす、トクマルの人柄と音楽がつくる心温まるシーンの連続に会場は笑顔でいっぱいに。
折坂悠太(重奏)
折坂悠太(重奏) 撮影=ヨシモリユウナ
夕暮れの折坂悠太(重奏)なんて最高すぎる、と思ってステージ前に集まった人にとっても折坂悠太(重奏)にとっても、この日は特別な日となった。山内弘太(Gt)、yatchi(Key)、宮田あずみ(Cb)、ハラナツコ(Sax)、senoo ricky(Dr)、宮坂遼太郎(Per)、そして折坂。この7人による重奏が、この日を以って一旦区切りをつけてお休みに入ることがMCで明かされたのだ。
2019年の結成から約3年。「苦節を共にしてまいりました。今日精一杯やって楽しく終わりにしたいと思います」との突然の言葉に観客も戸惑いを見せたものの、「さびしさ」でじっくり始まり、バンド感が炸裂した「心」、壮大に空気を動かした「鯱」、弾き語りからの高まりが美しすぎた「トーチ」、そしてラストの「芍薬」までの全5曲を享受する素晴らしさは、筆舌に尽くし難い想い。悔いが残らぬよう全身全霊で演奏するメンバーの姿が胸に迫る。荘厳で美しい生き様を咲かせて、折坂悠太(重奏)は最後のステージを終えた。どうか、またいつかどこかで会えますように。思わずそう願わずにはいられなかった。
Bialystocks
Bialystocks 撮影=ヨシモリユウナ
FRUITS STAGEのトリを飾るのは、プレイベントではオープニングアクトとして出演していたBialystocks。すっかり日がくれて、ヅカデンが手がけた電飾がより鮮やかにステージを彩る。この日も甫木元空(Vo.Gt)と菊池剛 (Key)、そしてサポートに西田修大(Gt)、Yuki Atori(Ba)、小山田和正(Dr)を迎えたバンド編成で登場。菊池の鍵盤から、「差し色」でライブをスタート。
続く「Upon You」「灯台」と情景が浮かぶ歌とメロディーに身を任せ、楽曲世界にダイブ。熱のこもった甫木元のボーカルが、暗闇に一筋の光を差すように突き抜けていく。自己紹介の挨拶や感謝の言葉、ひとことひとことからいつになく気合いが込められているようにも感じた。その気迫を体現するように力強くダイナミックで、そして繊細で美しい、心震わせるステージ。曲が終わるごとに湧き上がるさまざまな歓声や拍手の大きさは、ひとりひとりの心の底から溢れ出た感動を興奮を表していたように思う。
くるり
大トリをつとめたのはくるり。完全に陽が落ち、もはや真冬並みの寒さとなっていたが、ステージ前は最後まで残った観客でぎゅうぎゅうだった。ステージの照明が落ちると歓声が上がり、夜空に天然の星空が浮かび上がる。まさに星空の下のライブだ。サポートの野崎泰弘(Key)、松本大樹(Gt)、あらきゆうこ(Dr)に続いて岸田繁(Vo.Gt)と佐藤征史(Ba.Vo)が登場すると大きな拍手が贈られる。「琥珀色の街、上海蟹の朝」から「ばらの花」「愛の太場」「Superstar」と連発するアンセムに会場は大歓喜。
MCでは佐藤が「寒いね。皆さん大丈夫ですか?」と気遣うが、ステージもかなり寒いはず。その寒さを払拭するように「Liberty & Gravity」で<ヨイショッ! ガッテンダ!>と皆で叫び体を揺らす。さらに「everybody feels the same」でダンス! そして岸田が「私は京都市北区出身なんですけど、ここは神戸市北区。神戸市北区もなかなかのものですね」と賞賛し、「道の駅ということで、カーに乗ってる人たちが集う場所があるじゃないですか」との前振りから「ハイウェイ」へ。最後は超名曲「東京」を大きく響かせて約40分のライブを締め括った。音楽は心をあたためてくれる。改めてそんなことを体感した圧巻のステージだった。
くるり 撮影=渡邉一生
こうして初回の『KOBE SONO SONO’23』は大団円で終了した。全体的に居心地抜群、穏やかで、最高の春フェスだったと思う。すでにこのフェスを気に入った観客やアーティストから「来年も開催してほしい」との声が多く上がっていた。素晴らしかった『KOBE SONO SONO ’23』に想いを馳せつつ、来年の開催を楽しみに待っていよう。
取材・文=久保田瑛里(FLOWER STAGE、MONKEY STAGE、その他)、大西健斗(FRUITS STAGE)
写真=KOBE SONO SONO 提供(撮影:渡邉一生、ヨシモリユウナ、オイケカオリ)
セットリスト
『KOBE SONO SONO』
日程:2023年4月8日(土)
会場:道の駅 神戸フルーツ・フラワーパーク大沢
出演:安藤裕子 / 浦上想起・バンド・ソサエティ / 折坂悠太(重奏) / くるり / サニーデイ・サービス / The Songbards / Chilli Beans. / トクマルシューゴ / ドミコ / never young beach / Bialystocks / 藤原さくら / Mega Shinnosuke / ミツメ / 上野皓平(The Songbards) / Kaco / 神戸モンキーズ / みらん / やまもとはると / 四畳半帝国
公式サイト:https://kobesonosono.com/
Twitter:@kobe_sono_sono
Instagram:@kobe_sono_sono