刈馬カオスの代表作『クラッシュ・ワルツ』を見逃すな!
刈馬演劇設計社主宰・劇作家・演出家の刈馬カオス
劇作家協会新人戯曲賞受賞作がよりパワーアップして、全国4都市ツアーを敢行中
愛知を拠点に活動する劇作家・演出家の刈馬カオス。彼が主宰する刈馬演劇設計社が2013年5月に初演し、同年12月の再演中に第19回劇作家協会新人戯曲賞を受賞した『クラッシュ・ワルツ』が現在、再々演4都市ツアーを行っている。
『クラッシュ・ワルツ』は、3年前にある十字路で起こった不幸な事故を機に出会ってしまった人々の、それぞれの事情と想いがぶつかり合うサスペンスドラマだ。刈馬は自宅近くの交差点に供えられている花を見て本作を着想。「花を供えているのが加害者だったら」と考え、脚本を書き上げたという。
今回の再々演では受賞作を改訂し、脚本、役者の演技力ともにより強度を増して10月の名古屋公演、11月の伊丹公演を大盛況のうちに終えた。そして本年は、刈馬演劇設計社としてはいずれも初挑戦の地である2月の東京公演、3月の広島公演を予定している。ツアー後半戦を前に、作品について、また創作の源や今後の活動について伺った。
『クラッシュ・ワルツ』舞台写真
── 今回の4都市公演(名古屋、伊丹、東京、広島)は、初演時に決めていらしたとか。
4都市と決めていたわけではないんですけど、ツアーをしたいなと思いまして。結構ツアー向きな作品だと思っていたんですけど、初演の時にホームビデオでしか録画してなかったんですね。売り込むにしても材料がないので、きちんと撮り直さなくちゃいけないから再演しよう、というのがまず大前提で。
── ご自身の中で手応えがあったということですね。
そうですね。手応えはもちろんあったんですけど、だいぶ予想外に評判が良かったんです。なので、これだったら勝負できるんじゃないかと思って。ツアーをやるにあたって用意しなくちゃいけなかったのが、ちゃんとした映像資料と、もうひとつが賞だなと。それで劇作家協会新人戯曲賞に応募して、12月の再演期間中に受賞が決まったんです。そういう意味では目論見通りに進んだってことになるんですけども(笑)。
── 最初に書かれた時から賞を取ろうと?
いえいえ、それは思ってなかったですね。全然受けないと思ってました。とにかく地味にワンシチュエーションの会話劇で、ということだけを考えて書きました。
── 観客に受けなくても書きたいという衝動は、公演パンフレットにも書かれていた、供花を見かけて…というのが一番の要因でしょうか。
着想はそれなんですけども、これまでいろいろ模索してきて、結局僕は会話を書く人間だなと。同時に、無駄な会話を書くことが苦手だという自覚があって。なので、最短距離でどんどん展開して、普通のセオリー通りなら3分くらいで次の展開に行くところを1分でいっちゃえ! みたいな。要するに、自分の向き不向きをきちんと定めるために書いた、というのが強いですね。
── かなり意志的に書かれたんですね。初稿の時点で手応えや自信を感じた点はありましたか?
書いている最中、(あるシーンで)<夫婦がヘタクソな踊りを踊る>というのを思いついた時は、「これは勝てる!」と思いました。でも、自分の中だけの手応えは根拠が曖昧なので稽古場に持って行ったら、役者たちが泣いて泣いて稽古にならないくらいになって。それで「あれ? これ面白いのかな」と、自分の中の手応えが徐々に確信に変わっていったという感じでした。
── 書ききれた、という感じはあったんでしょうか。
ありましたけど、再演にあたってはやっぱり全然良くないなと思って書き直したり、見つめ直すとまだまだ粗いところがあるなと。今回の再々演では上演時間が15分くらい増えてますが、今の自分にとってのベストは書いたという感じですね。
── 加筆したきっかけは何かあったんですか?
(戯曲賞の公開審査会で)鴻上尚史さんに「短い」って言われまして(笑)。さっきも言ったように最短距離を意識的に取ったので、これだけの展開をするのに明らかにこの量は短い、というのは自覚がありました。鴻上さんから「20分くらい増やせるんじゃないか」と言われて見つめ直した時に、案の定短すぎるポイントが見つかって、結果15分伸びたという感じですね。
── 具体的には、どのあたりが大きく変わりましたか。
「交差点が呪われている」という噂話が流れて、二次災害、三次災害や間接的な被害には責任を負わなくていいのか…といったやりとりは、全部新しく付け加えた部分なんです。この芝居は東日本大震災がバックボーンとしてあるので、原発問題がだんだん風化しつつあるところで、再演の時よりもっとそこを強調して書くべきだと思って、関連するようなワードを意識的に入れたというのはあります。
── 役者の方は初演時から同じですが、演技面ではどういった注文を?
僕はどの作品でも必ず、「感情じゃなくて目的でやってくれ」と言います。その場その場の感情はすごく曖昧ですけど、相手にどうさせたいとか、この目的を達成したいとか、どういう影響を与えたいとか、そういうことの方が明確なので。その目的を遂行しようとして感情がブレたりすることはあると思うんですけど、感情を中心に作ると物語がどこに行くかわからなくなる。この作品は、花を巡って対立して各々の考えがぶつかる話ですから、目的が非常に明確に書かれていると思うんです。かなり感情的なやりとりがある戯曲ではあるんですけど、「“目的”というものを忘れずに演じてほしい」というのは、特に強く言ってますね。
── 演技以外の演出面で気をつけた点などはありましたか?
役者の力の比重が大きいお芝居ではあるんですけども、空間設計はかなり気をつけました。基本的な構成は初演から変わらず、<花によって十字路が出来ている>っていうことなんですけど、今回は布で十字路を表現して、ドアや窓という非常に物語上強いものがきちんと十字路の延長線上に立ち上がるように、というのは意識しています。
── いつも舞台美術がとても綺麗で印象的ですが、美術を学んだ経験や影響を受けたものなどはありますか?
美術は全然学んでないんですね。でも、舞台美術家の島次郎さんには影響を受けていて、彼は具体的なものを抽象的に見せるということがすごく長けている人だと思うんです。構成するものはかなりシンプルで、使うパーツも少ない。そういう意味で、僕も今回は<布と花>という感じでパーツを少なくしてそれをいかに構成するか、と考えました。舞台美術というより空間設計をしている、という方が自分としては強いのかなと思っています。
── これまで「メガトン・ロマンチッカー」「テラ・インコグニタ」と2つの劇団主宰を経て、2012年からはソロ・ユニット「刈馬演劇設計社」として活動されていますが、単独活動の利点や面白味を感じている点は何でしょう?
ひとつには、一番わがままが言えます。作家としてどんな人数でも芝居が出来るというのは大きいですね。自分がやりたいことをやるっていう。劇作家、演出家として、かなり自分の創作意欲に忠実な環境を今は持っているのかなと思います。
── では今は、とても活動しやすい?
そうですね。とはいえ、やっぱりマンパワーがあった方が良かったりするので劇団化することも考えたりはするんですけど、少なくともこの刈馬演劇設計社を始めた数年間の環境で、自分が劇作家・演出家として成長できた部分が結構大きいな、というのは思ってます。
── 一時期、青年団にも所属されていましたが、平田オリザさんの他にも影響を受けた劇作家や演出家の方はいらっしゃいますか?
いろんな作品を通して影響を受けるということはもちろんありますし、大学時代に太田省吾先生などに学んだことを思い出して発見したりすることはあります。技術的なことはいろんな方から教えてもらったというのはもちろんあって、佃(典彦)さんとかにもすごくお世話になってるんですけど、一方で思想的というか、「こういうのでもいいんだ」と背中を押してもらっているのは、実は演劇以外の方が強くて。たとえば、BERBEE BOYS(’80年代に人気を博した日本のロックバンド)とか。
── それは意外な名前が(笑)。
はい、すごい好きで。あんなにギスギスした歌があっていいのかと(笑)。
── 確かにあの、KONTAと杏子のツインボーカルによるやりとりはシアトリカルですよね。
そうですよね。僕はその頃まだ中学生だったので、もっと音楽というのは健全な感じかと思っていたら、なんかものすごくギスギスした…(笑)。
── 男と女の、やるかやられるか、みたいな感じですものね。
そうなんですよ。ソロ・ボーカルじゃなくて掛け合いだから会話劇のような感覚で。そのあとhi-posiっていうバンドが、ラブソングでセックスの問題をすごく書いていたんですね。それも衝撃的で好きだったんですけど、演劇に於いてこういうことを取り入れている作品は当時の名古屋小劇場界にはなくて。それなりに男女関係のあるお芝居でも生々しいものがなかったので、思い切って書いたらだんだんそれがヒットして受け入れられて、自分のスタイルが見えてきた、というのはあります。バービーやハイ・ポジには、演劇を創る上でかなり影響を受けていたんじゃないかなと思いますね。
── 恋愛モノの作品を多く手がけていらっしゃるのも、そういったことからですか?
そうですね。単純に若い頃は、僕に限らず恋愛はみんな大きなウエイトを占めるので、共通項を出す意味でいいんじゃなかという目論見もありましたし、同時に、人間関係がギスギスしたり、剥き出しの感情が出てきたりする瞬間は恋愛の場面が多いと思っていたので、剥き出しの人間や緊張関係を書くための装置として、というのはあったと思います。
── 緊張感のある関係性を描きたい、と思われるのはなぜでしょう。
劇作的には、鐘下辰男さんの脚本をすごく見ていた時期があって。緊張関係がすごいホンなので、そこでのやりとりに影響を受けてますし、単純に緊張感のあるお芝居が僕にはカッコ良かったんですね。そこから生み出される人間関係やピリピリしたものにこそ、“劇的なるモノ”を感じていたのは確かです。
── でもそれって、書いていて辛くなりませんか?
これが全然辛くないんです(笑)。他人事ですからね。たぶん、自分自身を投影するタイプの作家さんは苦しいんだと思うんです。でも、僕はそういうタイプじゃないので。そうすると、この登場人物が一番辛くなるシチュエーションとか、一番掛けられて嫌なセリフって何だろう? 一番辛いのって何かな?ということを考えるんですよ。「うわぁ~これ、ひっどい事言うな」とか、「コイツ最悪だなぁ」とか思って、ニコニコしながら書いてます(笑)。
近年は、大学の非常勤講師として演劇を教える他にも「長久手市文化の家」や「守山文化小劇場」で俳優指導を行い、『名古屋演劇杯』など若手劇団のフェスティバルでは審査員を務めるなど、後進の育成にも力を注ぐ刈馬。その理由については、
「僕自身、劇作家として一番学んだのは『劇王』(日本劇作家協会東海支部主催による短編戯曲の上演コンテスト)だったんですね。(審査員による講評で)ケチョンケチョンに言われて(笑)。でも、あそこで悔しい思いをしたことがかなり身になっている。あれが教育の場だったんだな、と今は思えるんです。自分も若手のつもりでいましたけど、だんだん育成していく立場になって。結局僕が言っていることは、佃さんとか(先輩方)に言われたことやしてもらったことを、今度は自分が若手にしなくては、という思いなんです」と語った。
一方、自身の創作活動もさらに勢いを増し、1月16日(土)には、新美南吉の『ごんぎつね』を題材に刈馬流の切り口で劇作した名古屋市主催の朗読劇『見上げれば、いつも満月』(演出:西尾栄儀/劇団うりんこ)が「名古屋市芸術創造センター」で上演。2月は日本劇作家協会東海支部イベント『激闘』に劇作で参加、6月には刈馬演劇設計社の新作本公演『猫がいない(仮)』など、多数の公演が予定されている。
そんな多忙の中でも創作意欲はますます高まっているようで、今後手がけてみたい古典作品などの構想も幾つか飛び出し、新たな挑戦となる依頼も舞い込んでいるとか。30代後半となり円熟期を迎えた刈馬の現時点での到達点、とも言うべき『クラッシュ・ワルツ』を、見逃すなかれ。
『クラッシュ・ワルツ』チラシ表
■作・演出・舞台美術:刈馬カオス
■出演:二宮信也(スクイジーズ)、おぐりまさこ(空宙空地)、長嶋千恵(劇団B級遊撃隊)、岡本理沙(星の女子さん)、篠原タイヨヲ(劇団あおきりみかん)
<東京公演>
■日程:2016年2月26日(金)19:30、27日(土)13:00・18:00、28日(日)13:00・18:00、29日(月)13:00 ※全ステージ、ゲストを招いてのアフタートークあり
■料金:一般前売2,500円 大学・専門学校生2,300円 高校生以下2,000円 ※当日券は各+200円
■会場:こまばアゴラ劇場
<広島公演>
■日程:3月26日(土)18:00、27日(日)13:00 ※全ステージ「スペシャルコラボシアター with INAGO-DX」開催
■料金:一般前売2,000円 大学・専門学校生1,800円 高校生以下1,500円 ※当日券は各+200円
■会場:アステールプラザ・多目的スタジオ
※東京・広島公演の詳細はHPを参照
■問い合わせ:刈馬演劇設計社 090-9178-9199
■公式サイト:http://karumaengeki.web.fc2.com