実験成功!キタニタツヤがEP『LOVE: AMPLIFIED』に仕掛けたサプライズに込められた真意を紐解く
EP『LOVE: AMPLIFIED』
――楽しみです。そして、ここで実は、『LOVE: AMPLIFIED』に参加したアーティストから、キタニさんへの質問を預かっているんです。
あら。そんなの、いただいたんですか。知らなかった。
――サプライズリリースに引っかけて、サプライズクエスチョンということで。では早速行ってみましょう。
Eve「実は面識もないままデータでのやりとりだったのですが、非常に楽しかったです。今回お声をかけて下さったきっかけなどあれば聞いてみたいです。また、僕がこの曲のレコーディングをしている時はまだ別タイトル案がついていたと思うのですが、「ラブソング」というタイトルはどのようにして決まったのでしょうか」
Eveさんに関しては、「もともと好きだったから」としか言いようがなくて。面識はなかったんですけど、確かその時、呪術廻戦(の主題歌)が決まってて、呪術繋がりもあって、今のタイミングなら受けてくれるんじゃないかな?みたいな下心もあって(笑)。そしたら快諾してくださったんで、「しめしめ」という感じでした。そしてタイトルは、もともと「トキシック」という仮タイトルがついていたんですよ。でもちょっと弱いなとずっと思っていて、もっと印象に残る言葉だったらさらにいいけど、一応候補として「トキシック」にしておいて、スタッフとも「もうちょっと皮肉が効いてたほうがいいよね」という話をしていて。そしたら唐突に、この曲に「ラブソング」って付けたら、めっちゃ馬鹿にしてるみたいで良くない?という話になり(笑)。アンチ・ラブソングみたいな感じの曲だから、ラブソング一派にケンカを売るみたいな感じになって面白いし、お客さんをびっくりさせたい心もあって、絶対そっちのほうがいいなと。あと、「ラブソング feat. Eve」というタイトルが先に出たら、お客さんは「キュン」としちゃうんじゃないかという、でも曲を聴いたら「うそぴょーん」みたいな、そういう感じもあるので。ギリギリに閃いたタイトルとして、付けました。きっとEveさんは、直前までそれを知らなかったんだと思います。
suis(ヨルシカ)「(歌詞に)“風に洗われた犬ころ”とありますが、犬のことはどの程度好きですか?犬への情は、喩えるなら何に近いでしょうか?」
ああー、なるほど。でも僕は、犬に対して深い愛情は別になくて。飼ったこともないし。飼っている人って、絶対SNSに上げるじゃないですか。でも、人んちの犬の可愛さって、あんまり共感できなくないですか(笑)。人間の赤ちゃんもそうだけど、あんまり「かわいいー」とか、(本人が)そういうことしないほうがいいのになって、余計なことを考えちゃうんですけど。可愛さに集中できないというか、自分がそこに入りきれないんで。だから飼ったことはないし、飼いたいなとも思わないんですけど、でも自分のスマートフォンに「コーギー」っていう名前を付けてるんですよ。めっちゃ好きなわけでもないのに。それは、たぶん、「米」みたいな距離感なんですよね。めっちゃ大好きなわけじゃないけど、常に頭をよぎっているというか、生活に根差しているというか。SNSを見ていると、犬の画像を見ない日って、1日もないんですよ。絶対にどこかに犬が潜んでいる。
――潜んでいる(笑)。確かに、多いです。
だから、お米とか、ご飯ぐらいの距離感にいるんですよ。それこそ、「ナイトルーティーン feat. suis from ヨルシカ」は、生活感がテーマになっている曲で、そのありきたりさを喩える時に、自分にとって犬はそういう存在なんですよね。どの程度好きか?と言われると、大好きだよっていうわけではないですけど、常にそばにいるものなので、ものに喩えるなら「ご飯」です。
くぅ(NEE)「今の音楽シーンにキタニタツヤというアーティストとして、何を見せつけていきたいですか?(伝えていきたいですか?)」
ああ、でもやっぱり、「俺はすごいんだぞ」というのが、ずっと創作の原点にあるので。承認欲求という言葉がありますけど、「俺はこんなこともできるぞ、こういう曲も書けるぞ、俺はマジですごいんだぞ、だからみんな俺を見てくれ、褒めてくれ」という気持ちが、曲を作り始めた時からずっとあって。もともと、友達がオリジナル曲を初めて作って、人前でやってるのを見て、「だったら俺のほうがすごい曲作れるし」と思って曲を作り始めたんですよ。自分の根底にはずっとそれがあるから、何を見せつけていきたいですか?と言ったら、「キタニタツヤという男はこれぐらいすごい、なんでみんな俺のことを知らないんだ、俺を見ろ」みたいな気持ちです。
夕日(NEE)「制作において音楽以外のものから影響を受けることはありますか?」
漫画を読んでいて、歌詞の内容に接触してくることはよくあります。漫画って、映画と一緒で、言葉と絵を同時に摂取できるものなんですけど、映画と違うのは、漫画には文字も印刷されているんですね。絵と同じ平面上に文字も印刷されているから、文字と絵をどっちも同じ比率で摂取できる感覚があって。映画とかだと、絵(映像)の比率が大きくなるんですよ。目から摂取するものが大きいので、そういう意味で漫画は、絵のほうは音に影響してくるし、文字は歌詞に影響してくるという意味で、漫画(の影響)は多いです。あとはツイッターとか、SNS全般ですね。自分が会ったことも見たこともない人たちのツイートを見るのが、すごく好きなんですけど、そういうところに面白い言語感覚とか、「こういう人はこういうことを思ってるんだ」とか、普段会話出来ない人の頭の中をちょっとのぞき見出来るわけじゃないですか。SNSは自分にとってすごく大きいです。
かほ(NEE)「楽曲のインスピレーションが一番降りてくるのは、何をしている時ですか?」
ああー、そうだなー、人の曲を聴いてる時かな。「これめっちゃいいな」と思いつつ、「俺だったらもっとこうするのにな」という、さっき言った「俺のほうがいい曲作れるぜ」という話に繋がってくるんですけど。いい曲を聴いて「これの俺バージョンをやるぞ」というのは、曲を作り始めた時からずっとあるので、一番はそこかな。でも、椅子に座ってじーっと「こういう曲を創ったら驚いてくれるかな」ということを、頭でっかちに考えている時も、インスピレーション元として大きいので。「何もしてない、椅子に座って考えている時」というのもあります。その二つは同じぐらいです。
大樹(NEE)「今ハマってるジャンルやアーティスト、これから制作する楽曲に取り入れてみたいようなジャンルは何ですか?」
おおー、大樹ちゃんが真面目な質問をしている(笑)。取り入れたいものか…そうですね、なんとなく今やりたいなと思っているのは、ゴスペルとかアカペラとかをやってみたい、というのはありますね。本当にゴスペル的な音楽ジャンルではなく、そういう声の使い方。ただ自分一人だと、同じ声をいくら重ねても広がりは出ないんですよ。それこそ、「やんぐわーるど prod. NEE」の時も、みんなギャーギャー騒ぐ時に、一人3パターンぐらい声を出すんですよ。普通に歌ったり、高い声を出したり、オペラっぽく歌ったり、そうやって何パターンも出すと、いっぱい人数がいる感じが出てすごく面白くなる。僕もそういうことをやってきたんですけど、そうではなくて、普通に自分がいいなぁと思うボーカリストをいっぱいコーラスに入れて、キタニクワイヤを作るみたいな。
――それはめっちゃ面白そうです。
声の多重録音が好きなんですよね、作業として。頭を使わないんでいいんですよ。コーラスの重ね方には理屈があるし、歌うことが決まったらその通りに録るだけだから、単純作業感が強くて楽しいんですよね。たぶん僕は、そういうのが好きなんです。ボーカルのピッチを直す作業もすごい好きだし。キモいんですけど(笑)。そういうのを、ほかの人を巻き込んでやりたいな、というのはちょっとあったりします。お金かかりそうですけどね(笑)。
――「今ハマってるジャンルやアーティスト」という質問の答えも、そのへんになりますか。
いや、ハマってるのはちょっと違うんですけど。でもそれこそ、ボーカロイドの世界でそれをやってる人がいるんですよ。ボカロでアカペラをやってる人がいる。僕もボーカロイドの世界出身なんですけど、僕がやってた時って、音声ライブラリの種類がそんなになくて、ソフトはいっぱい出ていても、本当に使えるものは2,3種類ぐらいしかなかったんですね。でも今は、テクノロジーの発達はすごいもので、いろんな声があるし、人間っぽいのもあれば、昔ながらの機械っぽい声もあって、それを駆使して、1曲に6人も7人も音声ライブラリを使ってアカペラでやっている、「ちから」っていうボカロPがいて。その人の曲がめちゃくちゃ面白くて、それも影響ですね。「俺もやりたい!」って思うんですよ。ボカロと、人間らしいアカペラという表現と、離れているイメージがあるんですけど、そのミスマッチ感がすごく良くて。機械たちが人間らしいことをやっているということが、胸に迫るものがあって、グッと来るんですよ。SFとかもそうなんですけど、機械が人間らしいことをしているのがすごく好きなんですよね。その矛盾というか、そういうところにグッと来るんで。その実践として、ボカロアカペラは面白いし、そういうものを聴いてると、逆に自分が人間らしい形でアカペラをやりたいなということにもなったりするし。
――ありがとうございます。質問は以上です。
あざーっす!
――ここまでの話をとりまとめると。キタニさん、今、「歌」や「声」にすごくフォーカスしている時期のような気がします。
ああ、確かにそうですね。歌に興味が出ているのかもしれない。それこそ、曲を作り始めた時には、歌のことなんか何も考えてなくて、曲を作る、メロディを作る、ギターをいっぱい乗せる、みたいなことに楽しさを覚えていたので、「やっと歌に興味を持ったか」という感じですね。歌なんか、メロディをちゃんと聴かせられれば何でもいい、みたいな気持ちだったんですよ。ずっと。やっとシンガーとしての意識が高まってきたのかな、という感じかもしれないですね。
――今後のリリース、そしてツアーも楽しみにしています。今日は長い時間、ありがとうございました。
ありがとうございました!
取材・文=宮本英夫
リリース情報
2. やんぐわーるど prod. NEE
3. ナイトルーティーン feat. suis from ヨルシカ
4. 知らないあそび prod. indigo la End
発売中
【初回生産限定盤】CD+Blu-ray
SRCL-12546~7/¥5,500 (税込)
アナログJK仕様
【通常盤】CD
SRCL-12548/¥1,980 (税込)
ツアー情報
09月22日(金)東京 恵比寿 LIQUIDROOM
09月30日(土)大阪 梅田CLUB QUATTRO
10月01日(日)愛知 名古屋CLUB QUATTRO
10月07日(土)福岡 DRUM LOGOS
10月08日(日)熊本 B.9 V1
10月14日(土)北海道 札幌 PENNY LANE24
10月21日(土)香川 高松オリーブホール
10月22日(日)愛媛 松山 WStudioRED
10月28日(土)宮城 仙台 Rensa
10月29日(日)福島 郡山 HIPSHOT JAPAN
11月04日(土)NAGANO CLUB JUNK BOX
11月05日(日)NEXS NIIGATA
11月09日(木)京都FANJ
11月11日(土)広島CLUB QUATTRO
11月12日(日)岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
11月18日(土)岐阜 club-G
11月19日(日)兵庫 神戸 Harbor Studio
¥5,500(税込/D代別)