『マティス 自由なフォルム』記者発表会レポート 2024年春、南仏から初公開の超大作がやってくる

レポート
アート
2023.9.29
『マティス 自由なフォルム』記者発表会

『マティス 自由なフォルム』記者発表会

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2024年2月14日(水)から5月27日(月)まで、国立新美術館にて『マティス 自由なフォルム』が開催される。本展はもともと2021年秋に企画されていたが、情勢を鑑みて残念ながら延期となっていたもの。およそ2年半の時を経て、いよいよマティスの名作たちがニースからやって来るのだ。この記事では、記者発表会で紹介された展示の見どころについて伝えていこう。

あれ、マティスの展覧会って……?

制作中のマティス 1952年頃 (C) photo Archives Matisse / D. R. Photo: Lydia Delectorskaya

制作中のマティス 1952年頃 (C) photo Archives Matisse / D. R. Photo: Lydia Delectorskaya

マティスといえば、この8月まで東京都美術館で大規模な『マティス展』が開催されていたのが記憶に新しい。そちらが巨匠の画業の変遷を広く見渡すものだったのに対して、今回の『マティス 自由なフォルム』は、画家の後半生のライフワークとなった「切り紙絵」にフォーカスする展覧会だ。そもそも「そうそう開催できるものじゃない」という巨匠マティスの展覧会が続けて見られるなんて、日本は今かなりラッキーな状況と言えるだろう。

日本初公開の《花と果実》に高まる期待

記者発表会の冒頭では、国立新美術館の逢坂恵理子館長が登壇し、展覧会を開催できる喜びや、関係各位への感謝の思いを言葉にした。

「本展は、アンリ・マティスがニースに移り住んでから積極的に使い始めた「切り紙絵」に焦点を当てています。色を塗った紙をハサミで切り取り、台紙にのりで貼り付ける技法によって、 マティスは色と線……つまり、色彩とデッサンの2つを結合するという表現に到達しました。今回はその「切り紙絵」を代表する大作《花と果実》が初来日します。画集や写真でこの《花と果実》をご覧になったことのある方も多いのではないでしょうか。美しくも親しみやすいマティスの表現の魅力を、たくさんの皆様にご堪能いただきたいと思います」

ニース市マティス美術館展示風景 2022年 (C) Succession H. Matisse pour l’œuvre de Matisse Photo: François Fernandez

ニース市マティス美術館展示風景 2022年 (C) Succession H. Matisse pour l’œuvre de Matisse Photo: François Fernandez

本展の大注目作品である《花と果実》は、ニース市マティス美術館のメインホールに飾られているもの。5枚のカンヴァスをつなげた作品で、サイズはおよそ4m×8mという、マティスの「切り紙絵」の中でも最大の部類に入る大作だ。本展に向けて2021年に大規模な修復が行われており、お化粧直ししたばかりのコンディションでの来日である。会場で、視界いっぱいに広がる色彩とフォルムのハーモニーを味わうのが楽しみだ。

ニースより愛を込めて

本展はフランスのニース市マティス美術館の全面協力を受けて実現している。記者発表会では、ニース市長のクリスチャン・エストロジ氏、そして前ニース市マティス美術館長のクロディーヌ・グラモン氏からのビデオメッセージが披露された。

ニース市長 クリスチャン・エストロジ氏からのビデオメッセージ

ニース市長 クリスチャン・エストロジ氏からのビデオメッセージ

前ニース市マティス美術館長 クロディーヌ・グラモン氏からのビデオメッセージ

前ニース市マティス美術館長 クロディーヌ・グラモン氏からのビデオメッセージ

日本のアートファンに、マティスの作品世界をじっくり楽しんでほしいと語る両氏。市長のメッセージの最後は「マティス万歳!」との朗らかな笑顔で締めくくられた。

展示の見どころを、ちょっとだけ先取り!

展覧会内容解説より

展覧会内容解説より

さて、本展の見どころはもちろん《花と果実》だけではない。セクション1「色彩の道」では、マティスの初期の絵画作品を見ることができる。中でも《本のある静物》は、マティス自身が「私の最初の絵画」と称した初期の記念すべき一作だ。カンヴァス右下に記されたサインが、異例にも“essitaM.H”と逆向きの綴りになっているのが面白い。そこにはもしかしたら、まだ絵を描き始めたばかりの画家自身の想いが表れているのかもしれない。

展覧会内容解説より

展覧会内容解説より

マティスがまさにフォーヴィスムのど真ん中にいた1905年の作例も見られて嬉しい。補色を大胆に使った《マティス夫人の肖像》は、実際にその色遣いを会場で見るのが楽しみな一作だ。

展覧会内容解説より

展覧会内容解説より

さらに、展示は絵画作品だけにとどまらない。セクション2「アトリエ」では、マティスのニースのアトリエで制作された絵画とともに、そこで飾られていた調度やテキスタイルが展示される予定だ。マティスにインスピレーションを与えたオブジェを併せて鑑賞することで、より深くその世界を理解することができるだろう。ちなみに、画像に出ている《ロカイユ様式の肘掛け椅子》のモデルとなった(調度品の)《ヴェネツィアの肘掛け椅子》はマティスが蚤の市で見つけたお気に入りの逸品だったという。

展覧会内容解説より

展覧会内容解説より

また、続くセクション3「舞台装置から大型装飾へ」では、マティスの手掛けた衣装デザインなどのほか、《ダンス、灰色と青色と薔薇色のための習作》に注目したい。この「ダンス」シリーズはマティスが設置場所のサイズを間違えたため制作し直したという経緯があるが、今回見られる習作はその“間違えてしまったほう”に近いバージョンである。

マティスの見つけた、葛藤の解決法

セクション4「自由なフォルム」は、本展最大の注力ポイントである「切り紙絵」のパートだ。《花と果実》のほか、1947年刊行の書籍『ジャズ』や、《クレオールの踊り子》など、ニース市マティス美術館の誇る名作「切り紙絵」たちを堪能しよう。

展覧会内容解説より

展覧会内容解説より

本展のメインビジュアルに採用されている《ブルー・ヌードⅣ》も、実際に目にするのが特に楽しみな一作だ。「ブルー・ヌード」の連作4枚のうち、実はこの《Ⅳ》が一番最初に作り始められた……つまり、完成まで一番時間がかかっているのだという。マティスが精魂を費やして探り続けたフォルムを、ぜひ間近で見てみたい。青の微妙な濃淡や紙の重なりが生み出すボリューム感も、直に感じることができる貴重な機会だ。

国立新美術館主任研究員 米田尚輝氏

国立新美術館主任研究員 米田尚輝氏

解説を担当した本展監修の米田尚輝氏(国立新美術館主任研究員)は、マティスの「切り紙絵」の技法は、画家が病気で体力が落ちたから用いられるようになった、とよく言われるけれど、実際はそれだけではないと語る。色そのものを切り取って形を作る「切り紙絵」のテクニックは、“色彩とデッサンの葛藤”というマティスの抱えた命題に対する非常に理にかなった解法だったのである。

ヴァンスのロザリオ礼拝堂を会場に再現

最後のセクション5「ヴァンスのロザリオ礼拝堂」では、マティスが最晩年に手掛けたヴァンスにあるロザリオ礼拝堂にまつわる作品・資料が展示される。聖職者の着る上祭服のためのマケットや、準備習作のステンドグラスなど、実際の礼拝堂の雰囲気をたっぷり味わえるセクションとなりそうだ。

ヴァンスのロザリオ礼拝堂(内観) (C) Succession H. Matisse Photo: François Fernandez

ヴァンスのロザリオ礼拝堂(内観) (C) Succession H. Matisse Photo: François Fernandez

さらに展覧会の見どころのひとつとして、礼拝堂内の光の移り変わりを体感できるような、物理的再現(実物大!)とデジタル技術を組み合わせたインスタレーションが企画されているという。これは楽しみ!

展覧会内容解説より

展覧会内容解説より

ヴァンス関連の展示の中で楽しみなものの中に《蜜蜂》がある。礼拝堂のステンドグラスは最終的にブルーの《生命の木》となったが、第一案では南側のステンドグラスはこのような一段とカラフルなものだったという。もしこちらの案が採用されていたら、礼拝堂はどんな色彩を帯びていただろう……と想像を巡らせてみるのも面白い。

『マティス 自由なフォルム』は、2024年2月14日(水)から5月27日(月)まで、国立新美術館にて開催。ニースから吹く色鮮やかな「切り紙絵」の春一番を、心待ちにしたい。


文・写真=小杉美香 写真 (一部)=オフィシャル提供

展覧会情報

マティス 自由なフォルム
会場:国立新美術館 企画展示室2E(東京・六本木)
会期:2024年2月14日(水)~ 5月27日(月)
休館日:毎週火曜日 *ただし、4月30日(火)は開館
主催:国立新美術館、ニース市マティス美術館、読売新聞社
展覧会ホームページ:https://matisse2024.jp
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