天野天街×結城一糸の人形音楽劇『泣いた赤鬼』、幻からのリベンジ

インタビュー
舞台
2016.1.9
糸あやつり人形 一糸座『泣いた赤鬼』

糸あやつり人形 一糸座『泣いた赤鬼』

取り返しのつかないこと、とはなんだろう

結城一糸(左)と天野天街

結城一糸(左)と天野天街

 2014年1月、糸あやつり人形 一糸座の人形音楽劇『泣いた赤鬼』が上演許可を得られずに公演中止になった。舞台稽古としての上演が行われた。江戸時代から続く、糸あやつり人形芝居だが、人形を振り回したり、首チョンパしたり、とうとうその破天荒ぶりに、糸あやつり人形の神様が「いい加減にしろ」と怒ったのかもしれないなあと思っていた。演出が少年王者舘の天野天街だしなあ、ムフフと妄想は膨らみまくった。その公演がリベンジすると聞いて、話を聞きに稽古場に向かった。多少の緊迫感とともに。だって有名な童話『泣いた赤鬼』はお芝居でも人形劇でもひんぱんに見られる演目だ(と思う)から。そのポピュラーな作品の上演許可が得られなかったってどういうこと・・・。

 ところが稽古場には至ってのんびりした空気が流れていた。

一糸 「実は初演の時はほかの方に演出をお願いしていたんですけど、体調が悪いこともあって降ろしてほしいという申し出があったんです。それで以前から一度お願いしたいと思っていた天野さんに、公演の3カ月前という緊急事態でなんとも申し訳ないんだけどお願いできないかと」

天野 「厳しいスケジュールでした。脚本の締め切りが1カ月後でしたからね」

一糸 「無理やりお願いしたんです。原作がどうやっても20分くらいなものなので、膨らませた台本を別の劇作家さんが書いてくださっていたんですけど、天野さんが手直していくうちに、ほぼ全部書き直しになったんです」

天野 「そう、全部書き直してしまった。かといって僕は時間があっても遅いんで。スケジュールがなかったわりには早く台本があがりましたよね」

一糸 「天野さんの台本があがったのが公演の10日くらい前だったかな? 原作者の浜田廣介さんの娘さんに許可をとらなきゃいけないんだけど、台本を印刷する時間ももったいないから、天野さんが手書きした細かい文字がびっしりのものを送ったら、読んでもらえなかったんです(苦笑)。それで許可を得られなくて。それを聞いたのはゲネプロの真っ最中だったんです。まあ娘さんも80歳代ですから、申し訳ない話だったんですけど。それでやっとこさ読んでいただけて公演にいたったわけです。周りからも決着つけないといかんよとも言われましたし」

 ・・・なんとも拍子抜けの答えが返ってきた。ま、そういうのんびりしたところも彼らの魅力と言えば言えなくもない。ともかく、天野天街の演出作品が陽の目を見るのだから、新年そうそう、うれしいことなのは違いない。

糸あやつり人形 一糸座『泣いた赤鬼』

糸あやつり人形 一糸座『泣いた赤鬼』

 

 では、なぜ今、『泣いた赤鬼』に挑戦しようとしたのか。人形劇の一般的なイメージからすると、どうしても童話の名作を上演する=子供向けという印象が付いて回りはしないか。

一糸 「昭和8年ですよね、この童話が発表されたのは。浜田廣介さんが生きた時代というのは、辛亥革命、第一次世界大戦、ロシア革命、上海事変、満州建国、関東大震災、亀戸革命など大きな動乱に見舞われた時期なんですよ。一方で、大正デモクラシー、浅草オペラ、チャップリンの来日などなど外に向かって開いていく時代でもあるんです。両面の日本が感じられる時代。『泣いた赤鬼』はものすごく有名な話なんですけど、けっこうさらっとしている不思議な話なんですよね。浜田さんはなぜこの物語を書いたのかすごく興味がありました。どうとでも解釈できるし、鬼とは何かを考えるとものすごく難しい話になってくる。そういう広がりがあって、でも芯がある」

天野 「僕も昔から読んでいましたけど。改めて読み出してなんとなく受け取ったのは、とり返しがつかないことというのは何か、忘れるということは何か。テーマがどうこうということではないけれど、そこを引き出して作ろうと思いましたね。青鬼のおかけで村人と仲良くなれて、楽しく過ごしていくうちに、赤鬼は何か大切なことを忘れてしまう。彼らの関係において、実はものすごく取り返しのつかないことをしてしまったんだという、後悔なのかなんなのかわからないんだけど」

 なるほど、そういうことなわけですな。ところで、かつて天野天街が演出した、ITOプロジェクト 糸あやつり人形芝居『平太郎化物日記』がものすごく面白い作品だった、一糸座とは関係ないけれど。気になる今回の演出のポイントをいくつか聞いた。

天野 「人間と人形ということで、ある意味でのメタ構造みたいなものも使っています。赤鬼・青鬼などの役で3人役者が出てきて、あとの村人たちは人形が演じます。鬼という題材だからこそサイズの違いを出すことができましたよね。人間のサイズの鬼は人形からしたら相当でかいものとして見栄えがするし、怖さや悲しさも大きくなる。人形サイズからすると感情が何倍にも増幅するというところを狙いたい。やっぱりずっと人形だけを見ていると感情のサイズも人形用になっていってしまうので、急にばっと現れると怪獣物みたいな感じになる面白さがあるんです」「児童劇のようなんだけど、児童劇じゃないという形になればいいなと。脚本としては山の生き物たちと鬼は会話ができる、そうするとカラスとかイノシシを出せる。だけど鬼が人間と仲良くなりたいがためにそうした能力を封印してしまう。さらに牙を削ったり、ツノを小さくしたり。それと取り返しのつかないことの一つとして、昔、鬼は人間を食べたり、街を壊したりしたから鬼を怖がるんだという。そういうエピソードを入れて、過去へのパースみたいなものを取り込んでいます」

 音楽劇ということで、ミュージカル女優を起用したり、アコーディオンなどの園田容子が、竹本綾之助の義太夫、鶴澤津賀榮の三味線など、見どころもたくさんだ。

一糸 「天野さんにお願いしたことで、浜田さんの世界の外側に大きな世界があるものにしてくれて、作品の魅力を引き出してくれた。天野さんの感性が人形にあっているなと思っています。人形と人間とが混じることで複雑になってくるんですよね。そこを巧みに救いあげて、巧みにひねって一本に素晴らしい物語にしてくれています」

 
公演情報
糸あやつり人形 一糸座
人形音楽劇『泣いた赤鬼』
 
◇会場/赤坂RED THEATER
◇日程/2016年1月8日(金)~12日(火)
◇開演時間/
1/8(金)19:00
1/9(土)15:00
1/10(日)15:00
1/11(月・祝)15:00
1/12(火)15:00☆平日特別割引あり
※開場は開演の30分前
 
◇原作:浜田廣介 脚本・演出:天野天街
◇人形:結城一糸 結城民子 結城敬太 結城榮 金子展尚 ほか
俳優:田中英樹 古市裕貴 王子菜摘子
演奏:園田容子 義太夫:竹本綾之助 三味線:鶴澤津賀榮
:全席自由 一般3,800円/大学生2,000円/高校生以下(3歳以上)1,500円
※1月12日は平日特別割引のため各500円引き
◇お問合せ:劇団 Tel.042-201-5811
 
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