エネルギー爆発!【石黒瑛土ビリー】~”世界水準のダンサー” 四者四様のビリーを観る②〈ミュージカル『ビリー・エリオット』上演中〉

レポート
舞台
2024.8.9
石黒瑛土(左/撮影=嶋田真己)

石黒瑛土(左/撮影=嶋田真己)

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1984年、炭鉱閉鎖に対抗するストライキに揺れるイギリス北部の町を舞台に、バレエ・ダンサーを目指す少年と彼を取り巻く人々を描き、大ヒットした映画『リトル・ダンサー』。エルトン・ジョンが音楽を手がけたそのミュージカル版『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』は、2017年の日本初演以来広く愛される作品となっている。三度目の上演となる今回も、長期トレーニングとオーディションを勝ち抜いた子役たちが大活躍。主人公ビリー・エリオット役で4人が日替わりで登場するが、世界各地のミュージカル『ビリー・エリオット』カンパニーにも携わってきた演出補 エド・バーンサイド氏と振付補 トム・ホッジソン氏は、開幕直前インタビューで彼らを「世界水準のダンサー」と評している。4人のビリーのうち、石黒瑛土が主役を務める回を観劇した(7月31日17時半の部、東京建物Brillia HALL)。

石黒のビリーは共演者とのセリフのやりとりが実に弾んでいる。相手のセリフにヴィヴィッドに反応し、どんなヴィヴィッドな反応が返ってくるのか楽しみにして相手にセリフを投げかける。生の舞台におけるつっこみ、つっこまれのその相互作用を楽しむ姿が、観ていて非常に楽しかった。それだからこそ、彼がお父さん(この回、演じたのは益岡徹)に自分はバレエをやりたいのだと生の感情を思いきりぶつける際も感情移入しやすく、その流れからの一幕ラストの「Angry Dance」での感情を爆発させながらの踊りに心に迫るものがあった。ダンスをしている時はどんな気持ちになるのかを尋ねられ、その理由を歌い踊る二幕の「Electricity」も、観客に語りかけるかのようにセリフを発する姿、そして自分自身のすべてを出し切るかのようなパフォーマンスに心打たれた。生き生きとステージに躍動するタップダンスも印象的。その一方で、舞台にたたずんでいる姿に何とはなしにペーソスが感じられるのがおもしろい。

石黒瑛土(左・マイケル役は渡邉隼人/撮影=嶋田真己)

石黒瑛土(左・マイケル役は渡邉隼人/撮影=嶋田真己)

そんなビリーを見守る益岡徹のお父さん役の演技には、妻を亡くし、炭鉱閉鎖による失業の危機にある彼自身、ビリーがバレエをやりたいと言い出せなかったように、人になかなか心を打ち明けられずにいたんだろうな……と思わせる、不器用な優しさがあった。

ウィルキンソン先生役の安蘭けいは2020年公演に続いての出演。登場ナンバー「Shine」の歌と踊りからコメディセンスがはじける。100パーセントの幸せに満たされているとは言い難いであろう人生を、ウィルキンソン先生はそのユーモアセンスでもってかわして生きてきたのではないか……と想像させるものがある。バレエ教室でカウントを取るとき、安蘭のウィルキンソン先生は「ファイブシックスセブンエイト」を「ファイブシックスセブネイト」と発するのだが、その「セブネイト」の発語にはどこか投げやり感も漂う。自分のバレエ教室という王国の中では女王然として生きてきた彼女が、ビリーという才能あふれる少年、他者に出会ったことで、少しずつ変わっていく。その意味で、この作品が、ビリーのみならず、ウィルキンソン先生の、そしてやはりビリーのバレエへの情熱に打たれて変化を遂げるお父さんの成長をも描く物語であることが示される。

安蘭けい(ビリー役は井上宇一郎/撮影=嶋田真己)

安蘭けい(ビリー役は井上宇一郎/撮影=嶋田真己)

安蘭のウィルキンソン先生がビリーとの別れの場面において、ビリーを、そしてビリーの才能を深く愛するからこそ、ここにとどまっていてはいけないときっぱり告げる様に、厳しく深い大人の愛を感じさせられた。ストライキに燃える男性たちがバレエをさげすむ言動を見せたときに食って掛かる様にも、社会が大変なときに芸術が果たすべき役割を考えさせるものがある。

根岸季衣が演じるビリーのおばあちゃんは、踊りは上手いが飲んだくれの甲斐性なし男との長年の結婚生活という峻厳な人生を生き抜いてきた人間の尊厳を感じさせる演技を見せた。

取材・文=藤本真由(舞台評論家)

関連情報

“世界水準のダンサー” 四者四様のビリーを観る
 
バレエで躍動する【浅田良舞ビリー】
https://spice.eplus.jp/articles/330817
 
エネルギー爆発!【石黒瑛土ビリー】
https://spice.eplus.jp/articles/330927
 
踊る衝動を体現する【井上宇一郎ビリー】
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思いを歌声に乗せて【春山嘉夢一ビリー】
https://spice.eplus.jp/articles/330999
 
★ほか、全5回の【鑑賞の手引き】など特集をSPICEにて掲載中!
ミュージカル『ビリー ・エリオット~リトル・ダンサー~』すべての記事は【こちら】

公演情報

Daiwa House presents
ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』
■脚本・歌詞:リー・ホール
■演出:スティーヴン・ダルドリー
■音楽:エルトン・ジョン
■出演:
ビリー・エリオット(クワトロキャスト):浅田良舞 石黒瑛土 井上宇一郎 春山嘉夢一
お父さん(ダブルキャスト):益岡徹 鶴見辰吾 
ウィルキンソン先生(ダブルキャスト):安蘭けい 濱田めぐみ
おばあちゃん(ダブルキャスト):根岸季衣 阿知波悟美
トニー(兄)(ダブルキャスト):西川大貴 吉田広大
ジョージ:芋洗坂係長
オールダー・ビリー(トリプルキャスト):永野亮比己 厚地康雄 山科諒馬 ほか
 
【東京公演】
■公演日程:2024年10月26日(土)まで上演中!
■会場:東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
■料金:
平日:S席15,000円 A席12,000円 B席9,000円
土日祝:S席15,500円 A席12,500円 B席9,500円
■公演に関する問合せ:ホリプロセンター 03-3490-4949 (平日11:00~18:00 /土日祝休)
 
【大阪公演】
■公演日程:2024年11月9日(土)~24日(日)
■会場:SkyシアターMBS
■料金:平日:S席15,000円 U-25 12,000円/土日祝:S席15,500円 U-25 12,500円
※東京公演では、子育て支援や文化芸術に力を入れる豊島区と連携し、豊島区民の子どもを対象とした観劇機会の提供を検討しております。
 
Billy Elliot the musical worldwide is produced by UNIVERSAL THEATRICAL GROUP, WORKING TITLE FILMS, GREENE LIGHT STAGE
 
【あらすじ】
1984 年の英国。炭鉱不況に喘ぐ北部の町ダラムでは、労働者たちの間で時のサッチャー政権に対する不満が高まり、 不穏な空気が流れていた。数年前に母を亡くした少年・ビリーもまた、炭鉱で働く父と兄、祖母と先行きの見えない毎日を送っていた。 
父はビリーに逞しく育って欲しいと、乏しい家計からお金を工面し、ビリーにボクシングを習わせるが、ある日、バレエ教室のレッスンを偶然目にし、戸惑いながらも、少女達と共にレッスンに参加するようになる。ボクシングの月謝で家族に内緒でバレエ教室に通っていたが、その事を父親が知り大激怒。バレエを辞めさせられてしまう。 
しかし、踊っているときだけはツライことも忘れて夢中になれるビリーは、バレエをあきらめることができない。そんなビリーの才能を見出したウィルキンソン夫人は、無料でバレエの特訓をし、イギリスの名門「ロイヤル・バレエスクール」の受験を一緒に目指す。 
一方、男手一つで息子を育ててきた父は、男は逞しく育つべきだとバレエを強く反対していたが、ある晩ビリーが一人踊っている姿を見る。それは今まで見たことの無い息子の姿だった。ビリーの溢れる情熱と才能、そして”バレエダンサーになる”という強い思いを知り、父として何とか夢を叶えてやりたい、自分とは違う世界を見せてやりたい、と決心する。 
11歳の少年が夢に向かって突き進む姿、家族との軋轢、亡き母親への想い、祖母の温かい応援。度重なる苦難を乗り越えながら、ビリーの夢は家族全員の夢となり、やがて街全体の夢となっていく・・・。
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