《連載》もっと文楽!~文楽技芸員インタビュー~ Vol. 9 豊竹芳穂太夫(文楽太夫)
「技芸員への3つの質問」
【その1】入門したての頃の忘れられないエピソード
入門して割とすぐの頃だったと思うのですが、大失敗をしました。文楽劇場の稽古場でお稽古をしていて、師匠の床本を「明日持って来るように」と言われて預かって。その時は生駒の会館だったのですが、文楽劇場の控室に忘れて帰ってしまったんです。で、翌日、「師匠の床本は?」と兄弟子に言われて「あああああ、忘れてる」と真っ青に。その日はお役がなかった呂勢さん兄さんが取りに行ってくれ、移動の途中で呂勢さん兄さんから連絡を受けた、生駒の会館の近所に住む(豊竹)始(太夫)兄さんが原付で最寄駅まで行って床本を受け取って生駒の会館まで届け……という連携プレイで、どうにか間に合わせてくださいました。びっくりしたのは、師匠は色々なことで怒る方だったのに、その時は「ああ、間に合うやろ」の一言で終わったこと。師匠は重大事項には余り怒らない方でした。兄さん方に申し訳なかったのと、師匠が全然怒られなかったことなど、全てが印象に残っています。
【その2】初代国立劇場の思い出と、二代目の劇場に期待・妄想すること
初代国立劇場は歌舞伎の研修でもお世話になった場所。足の怪我をしたトンボ道場など思い出深いです。文楽でいえば、御簾内か舞台裏で、よく台本を開いて過ごしたことでしょうか。嶋太夫師匠も兄さん方も「楽屋でぼーっとせず、暇があったら舞台を聴け」とおっしゃっていましたから。
やっぱり本拠地があると、リラックスできるんですよね。新しい会場だと、どんな空間なのか、楽屋はどうなっているのかもわからないし、緊張感がすごいんです。だから二代目の劇場は、とにかく早くできてほしいです。
【その3】オフの過ごし方
公言しているのはサウナ巡りですが、ほかに、ノンフィクションの本を読むのが好きです。いわゆる重大犯罪を犯した人達の話などをよく読みます。僕らは人間の所業を、虚を実に語らなければならない。心中したこともなければ人を殺したこともないですけど、そういうシーンも勿論あるわけで、そこでは想像力が重要になります。例えば、高師直が塩冶判官に刀を抜かせるためにはどういういやらしい表現をしたらいいのか、とか。実際の事件などについて読みながら、どうしてこんなことが起きたのか、人間の心の動きや周りの人との関係は……といったことを想像しています。
取材・文=高橋彩子(演劇・舞踊ライター)
公演情報
会場:新国立劇場 小劇場
※各部、休憩がございます。
※字幕アプリ(日本語版・英語版)がご利用いただけます。
※13日(金)は休演
演目・主な出演者:
伊達娘恋緋鹿子(だてむすめこいのひがのこ)
火の見櫓の段
釣船三婦内の段・長町裏の段
公演情報
場所:港区立伝統文化交流館 ※畳のお部屋ですが椅子席です。
協働:港区立伝統文化交流館
制作協力:株式会社コテンゴテン、かなえのかい
『第3回みのり会(大阪)』
場所:国立文楽劇場小ホールおよび同劇場会議室
『第3回みのり会を10倍楽しめる講座』
日程:2024年8月24日(土)15:00~17:00
会場:国立文楽劇場5F会議室
講師:豊竹芳穂太夫
参加費(消費税込み):8/24 受講料:1,500円(消費税込)
制作協力:株式会社コテンゴテン