タイムトリップで巡る日本の美の系譜 『イマーシブシアター 新ジャポニズム』レポート

レポート
アート
17:00
『イマーシブシアター 新ジャポニズム ~縄文から浮世絵 そしてアニメへ~』※イマーシブシアター会場写真 (オフィシャル提供)

『イマーシブシアター 新ジャポニズム ~縄文から浮世絵 そしてアニメへ~』※イマーシブシアター会場写真 (オフィシャル提供)

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国宝や重要文化財を中心とした、日本文化のタイムトラベルへ。没入型の体験イベント『イマーシブシアター 新ジャポニズム ~縄文から浮世絵 そしてアニメへ~』が2025年3月25日(火)に東京国立博物館の本館特別5室で開幕した。高さ約7メールの巨大なLEDモニターを、NHKの最先端技術を結集させた超高精細映像が彩る約24分間。内覧会で一足先に体感したそのひとときを、会場レポートとしてお届けしよう。

オープニング映像より

オープニング映像より

ミュージアムの一角にできた劇場空間

四方をモニターに囲まれた部屋で、私たち鑑賞者はそれぞれの心地よい居場所を見つける。キューブ型の椅子に腰掛けるもよし、後方に立って鑑賞するもよし。オープニングをそわそわと待ちわびるオーディエンスの空気感は、まさに「イマーシブシアター」の名の通り劇場そのものだ。

やがて暗転し、暗闇の中でどこからかコツコツと靴音が響く。だんだんと近づいてくる臨場感に高まる期待。足を止め、映像の中で語り始めるのは大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)で蔦屋重三郎役を務める横浜流星だ。落ち着いた声色で「私たちは遥か1万年以上前から、個性豊かな文化を生み出してきました。今回はそれを一緒に見つめ直していきましょう」と呼びかける。一緒に、の言葉の後に置かれた絶妙なタメが心をグッと鷲掴みにする。映像越しでも距離の近さを感じるような演技に、没入していくのはあっという間だ。

タイムトラベルのような演出で新ジャポニズムの世界へ

タイムトラベルのような演出で新ジャポニズムの世界へ

時を超え、日本美術の黎明期へ

カチコチと秒針を巻き戻す音に誘われ、遥かな時空を超えていく。最初にやってきたのは縄文時代だ。「紀元前から多様な表現が生まれていた」と語られるこの時代には、歴史の教科書にも載っている《火焔型土器》のような作品が生まれた。その造形は芸術そのもので、日本美術の始まりを象徴する。

やがて土偶や埴輪などが形作られ、古代日本の美意識はさらに発展していく。その美術史的な流れを、すべて東京国立博物館(東博)の代表的な所蔵品で見せていくのだから凄い。国宝級の作品を大画面で見られる贅沢さと、これだけの魅力的なコレクションを有する東博の凄さに改めて驚かされる。展覧会を訪れたことがある人には、いつかの企画展や常設展で見たことがある作品との思わぬ再会となるかもしれない。

「第1幕:タイムトラベル 日本の美」に登場する《火焔型土器》

「第1幕:タイムトラベル 日本の美」に登場する《火焔型土器》

仏教美術、武具、能楽。流行や時世とともにさまざまな文化が花開き、多様な表現が生まれた。分厚い専門書が何冊分にもなるような、膨大な時間を一瞬で駆け抜けていくスピード感に圧倒される。どこか夢心地に浸るような音楽は、映画やテレビ、演劇や広告など多彩なメディアで音楽制作を手掛ける蓮沼執太氏のクリエイションだ。

国宝《風神雷神図屛風》も登場

国宝《風神雷神図屛風》も登場

粋で洒落、お江戸を盛り上げた町民文化

そして、蔦屋重三郎こと「蔦重」が才能あるクリエイターたちとタッグを組み、数多の作品を世に送り出した江戸時代へ。ダイナミックに映し出される吉原の大通りは、大河ドラマ『べらぼう』の風景にも重なる。この時代に活躍した喜多川歌麿や東洲斎写楽の浮世絵が大画面に現れ、どんどんクローズアップされていく。髪の毛の一本一本まで、こんなにも細かく描かれているとは! 超高精細映像は紙の質感までもありありと映し出し、拡大される様は私たちが絵の中に入り込んでいくような没入体験をもたらす。

喜多川歌麿の《婦女人相十品  ポッピンを吹く娘》も超高精細映像で

喜多川歌麿の《婦女人相十品 ポッピンを吹く娘》も超高精細映像で

近代、やがて現代へ。日本のアニメ文化が花開く

ここまでの日本美術に湛えられたクリエイティビティや精神性は、近現代のアニメーションに受け継がれていく。20世紀の日本で新たに生まれたポップアートこそがアニメだ。

大正時代に、現存する日本最古のアニメ作品『なまくら刀』が登場する。昭和時代にかけては、宮崎駿の監督デビュー作『未来少年コナン』、手塚治虫の『鉄腕アトム』など名作が続々と生まれた。テレビアニメ『ポケットモンスター』は世界190を超える国と地域で放送され、海外でも注目されるようになった大ヒット作だ。

「第3幕 : 日本アニメの誕生と飛躍」より

「第3幕 : 日本アニメの誕生と飛躍」より

「実は、日本のアニメには伝統的な日本文化、日本人の美意識との共通点があります」と解説する、ナビゲーターの横浜流星。最後は日本アニメ界の巨匠たちが登場し、「アニメの中の日本美」について思い思いの言葉で語る。その意外な着眼点にはきっと驚かされるだろう。ぜひ会場でご覧いただきたい。

高畑勲の話に登場する国宝〈信貴山縁起絵巻〉は、修行僧が持っている不思議な鉢が米俵一つを乗せて空を飛ぶと、後から大量の米俵が列をなして飛んでいったという奇想天外な話を描いたものだ。絵を肩幅くらいに開き、右手と左手でくるくると紙を巻き広げ、右から左へとストーリーを追っていく絵巻は、一つの画面の中で絵がいきいきと動き出すアニメに似ている。

高畑勲が見ているのは《信貴山縁起絵巻》

高畑勲が見ているのは《信貴山縁起絵巻》

最後は、ここまでの流れを振り返る壮大なスペクタクル。余韻とともに会場を後にすると、出口ではまさにジャポニズムを体現するお土産が所狭しと並んでいる。この映像を体感したら、何か一つ手に取ってみたくなるかもしれない。

壮大な旅のフィナーレへ

壮大な旅のフィナーレへ

ジャポニズム全開のお土産もお見逃しなく

ジャポニズム全開のお土産もお見逃しなく

『イマーシブシアター 新ジャポニズム ~縄文から浮世絵 そしてアニメへ~』は8月3日(日)まで、東京国立博物館 本館特別5室にて開催中。同館では、会期中に日本の美術・文化を紹介する数々の展覧会も開催予定で、併せて見ればその面白さはますます倍増するだろう。縄文から浮世絵、そしてアニメへとつながる新しい日本らしさの解釈「新ジャポニズム」を、新感覚の没入感とともに楽しもう。


文・写真=さつま瑠璃

イベント情報

イマーシブシアター 新ジャポニズム ~縄文から浮世絵 そしてアニメへ~
◆会期:2025年3月25日[火]~8月3日[日]
◆休館日:
月曜日(ただし4月28日、5月5日、7月21日は開館)、5月7日[水]、7月22日[火]
◆開館時間:午前9時30分~午後5時
毎週金・土曜日、5月4日、5月5日、7月20日は午後8時まで開館
入館は閉館の30分前まで
◆会場:東京国立博物館 本館 特別5室(上野公園)
◆主催:
東京国立博物館、NHK、NHKプロモーション
◆協力:ブリッジリンク
◆お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
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