ラウドシーン注目の若手HIKAGE、シーンの潮流を変える可能性を秘めた1stアルバムを完成させた今に迫る

インタビュー
音楽
2025.8.27
HIKAGE

HIKAGE

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SATANIC CARNIVALに2年連続で出演を果たすなど、ラウドシーン注目の若手として台頭している北海道出身のHIKAGE。そのサウンドはすでに完成形に近いと思っていたが、この数年バンド内にはひそかな変革期が訪れていたようで、昨年あたりから配信楽曲にはグランジ、ミクスチャーなど、90年代を知る世代にとって妙に懐かしいムードが漂い始める。もちろん当時を知らない若者には聴いたことのない新体験になるのだろう。結成から6年、ついに登場する1stアルバム『True Colors』は彼らの代表作となり、同時にシーンの潮流を変える台風の目になるかもしれない。本当にやりたいことに到達できたと語るGEN(Vo)を筆頭に、メンバーたちは本気のトライ&エラーを繰り返して理想を手に入れた。ここから始まるツアーに豪華なゲスト陣を呼び込んだのも自信の表れだろう。改めて、バンドの歩みを振り返る全員インタビューをお届けする。

一一結成のいきさつから教えてもらえますか。

GEN:2019年の5月かな。もともとWataru(Ba)とメタルコアのバンドをやっていて、そこでは7年間ギターだったんですよ。それが解散した後、そこにいたメンバーとまた新しいバンドを作ろうって。最初のドラムとギターはもう抜けちゃったんですけど、そこに新しくHalki(Gt)くんとISSEI(Dr)が入ってくれて、最後にYasui(Gt)が入ったんです。

一一GENさんはこのバンドになってから歌い出したんですか?

GEN:そうです。HIKAGEになってからボーカルやりだして。それまではギターだけでしたね。

一一いちギタリストからの転身って、勇気がいる気がします。

GEN:うん、そうですね。自分に自信もなかったし。ただ、自分がギター弾いてる時から変わらないボーカルの理想像があって。格好いいボーカルの後ろで弾きたい、バンドの格好良さをフロントに立つ人に任せたいってずっと思ってたんですね。でも、その理想に当てはまる人、任せられる人がマジで周囲に見つからなくて。もう自分でやるしかないと思った時に、メンバーが「いや、たぶんできるよ」って言ってくれたから。それで歌ってみた感じです。

一一Wataruさん、以前のバンドとHIKAGEにはどんな違いがあります?

Wataru:俺はそれこそHIKAGEになってから自分でも曲を作るようになったので。前のバンドは途中から入ったし、ただベースを弾くだけだったから。だから、GENと当時のメンバーと、最初から自分たちで始めたバンドだっていう思い入れは違いましたね。

GEN:オリジナルメンバーはもうWataruと俺だけ。ここ二人は高校2年生くらいからずっと一緒にやってます。

一一そのお二人が、今日リンプ・ビズキットとミニストリーのTシャツを着ているのが、さっきから気になっております。

一同:ははははは。

GEN

GEN

一一私が10代の頃に流行った90年代ラウドロックやミクスチャー。HIKAGEではそういう音を目指すイメージも最初からあったんですか。

GEN:もともとニューメタルとかミクスチャーはめっちゃ好きなんです。たぶんそれで育ってきたんですけど、まずメタルコアのバンドやりだすと、その影響がずっと抜けなくて。それとは違うことやりたいと思ってHIKAGEを始めたんですね。最初はポップパンクみたいなジャンルもやろうとしたんですけど、やってみたら性に合ってなくて、結局は激しい方向になって(笑)。でも時間をかけて、だんだん自分たちのルーツに戻っていけて、今やっとやりたいことをやれる感じになりましたね。

一一ミクスチャーって、リアルタイムじゃないですよね。

GEN:じゃないです。もともと俺はRIZEとかマキシマム ザ ホルモンが大好きで。それも6つ上の姉から教えてもらって。i Podの盗み聴きじゃないけど、いろんなアーティストの中から見つけたのがRIZEとホルモンで。で、そのバンドたちはどういうのを好きだったんだろう?って探していくと、リンプ・ビズキットとかKORNとかレイジ・アゲインスト・マシーンに辿り着いて。めっちゃかっけぇ!と思って。

一一古いものがよかったんですか?

GEN:なんだろう? そういう感覚でもなかった。中学生で、マジで厨二病だったのかもしれないけど、全バンドに個性があるじゃないですか。サウンドももちろん、見た目も全然違う。みんなが個性を出そうとしてる時代っていうか、マジで違うことやろうとしてる雰囲気があって、しかもちょっとワルい。それが憧れになったのかなって思いますね。

Wataru:うん。これ聴いてる時は最強だ、とか思ってた。

GEN:あと俺、ものすごい田舎に住んでたから。超ちっちゃいCDショップが一軒しかなくて。そこでジャケ買いをめっちゃしたんですね。それがリンプ・ビズキットの1stだったり、あとプロディジーとかメタリカだったり。最初リンキン・パークは間違えてリミックスのEPを買って「あれっ?こんな感じ?」とか思いながら聴いたり(笑)。だから、古いとかじゃない、全部新鮮でしたね、自分にとって。

Halki

Halki

一一みなさんのルーツも同じような感じですか。

Yasui:意外と違う。バラバラだよね。

Halki:僕は一切そういうところ通ってないんですよ。ほんと邦楽好きです、みたいな聴き方だったので。

一一なんでHIKAGEに入るんでしょう?

ISSEI:確かに(笑)。なんで入るん?

Halki:前のバンドにいた時、何かのタイミングで函館でHIKAGEと一緒にやったんですよ。その時に初めてGENと喋ったんですけど。で、そこから前のバンドは辞めて、ライブが楽しいバンドをやりたいと思って。

一一楽しさ=激しさでもありました?

Halki:そうです。前のバンドはギターで入ったんですけど、気づいたらだんだん歌わされるようになっていて。もっと自由に動きたいと思ったんですね。で、HIKAGEは初めて見た時からみんなむちゃくちゃ動いてたし、「すごいな、こういう音楽やりたいな」と思って。当時HIKAGEはギターが一本で、もう一本あればいいのにと思ってGENに言ったんですよ。

GEN:そう、最初は4人編成だったんですよ。サウンド的にギターが欲しいと思ってはいるんだけど、まだ見つかってなくて。そういうタイミングでHalkiくんが入ってくれたから。

ISSEI

ISSEI

一一続いて加入するのがドラムのISSEIさん。どんなルーツなんですか。

ISSEI:僕も実家がかなり田舎なんで、TSUTAYAでCD大量に借りて聴いたりしてましたね。最初は父親が聞いてたSUM41やブリンク182とかから入って、色々聞いてるうちに激しい曲も聞くようになっていった感じですね。加入の流れでいうと俺は先に上京してたんですよ。東京で違うバンドをやっていて。それでたまたまHIKAGEが上京するタイミングで「前のドラムが辞めちゃうんだけどやってみない?」ってGENから連絡もらって、そこから一緒にやり始めて入った感じですね。

一一最後に加わったYasuiさんは?

Yasui:一番最初はNOFXだからパンクが入口なんだけど、そこからもっとオールドスクールな80sのハードコアパンクなんかに遡って、逆にグランジやメタル、ハードコアへも広がっていった。そういったカウンターカルチャーのエッセンスがあって、鳴らしている音とメッセージに嘘がないと思える音楽であれば、古いものも新しいものも聴いています。あとは制作のインスピレーションとして、もっと実験的な電子音楽や民族音楽とかも聴きます。

一一5人が揃ってからの音源、たとえば2023年のEP「初期衝動」を聴くと、今回のアルバムとはだいぶ違いますよね。

GEN:そうなんですよ。そもそも「Happy」(6thシングル/2024年発表)を出した頃から、自分たちのやりたい方向性をみんな真剣に話すようになって。「Happy」と「WAIT??!!!」(7thシングル)を出した年が一番僕らにとってキツい時期で。「初期衝動」まで駆け抜けて終わったことで、みんな何かを変えたくなってたんですよね。バンドの空気もあんまりよくなかったけど、その中で「俺たちが本当にやりたいものって何だ?」っていうことを話し合って。もっと独自のものを取り入れたかったし、俺はさっき言ったようなミクスチャー、あとはグランジとかオルタナも大好きだし。ただ、それを今のHIKAGEのサウンドに落とし込むのに一年半くらいかかったのかな? 新曲を出しながら、考えながら、自分たちを確立していったのが今回のアルバムだから。だからサウンドそのものが変わっていく時期でしたね。

一一変化の過程で、それぞれ印象に残っている曲はありますか。

Yasui:俺は「WAIT??!!!」かな。今回のアルバムの方向性を定める上で大きなきっかけだった。この曲を書いた時期は、バンドでどういう音楽やりたいのか、けっこう話し合ったんですよね。僕らはハードコアもメタルも好きですけど、例えば近年のモダンなメタルコアとかだと、歌詞の表現方法や音のレイヤーが様式美的で複雑化していて、建物で言うと神殿みたいな感覚なんですよね。一方でオールドスクールパンクとかハードコアは、竪穴式住居みたいな。より本能的で、感情を直接的に表しやすい。どちらの音楽も大好きだけど、HIKAGEは後者の方が性に合っているなと気づいて。そこに、オルタナティヴとかグランジの、暗くてアンニュイな雰囲気をまとったサウンド。怒りとは違う気だるくてダウナーな空気というか。作曲者として、そういうモノをが混ぜる面白さに気づいたのが「WAIT??!!!」だったんですよね。

Halki:僕も「WAIT??!!!」ですね。それまでやってきたのは激しい音楽だったから、いざグランジの要素を入れてみるって言われても、自分がグランジを通ってないから想像がつかなさすぎて。でも、いざやってみたらお客さんも楽しんでくれてるし、やってる側もそれを見て楽しめた。あとは「格好いいな、これ」ってちゃんと思えたから。そこからできた曲たちもスンナリ受け入れられましたね。「あ、こういうことをHIKAGEでやっていくんだな」って。それを指し示してくれた曲でしたね。

GEN:うん。「WAIT??!!!!」から曲の感じが完全に変わって。歌詞に日本語も使い始めたんですけど、それもだいぶ大きい変化でした。

Wataru

Wataru

一一ISSEIさんはどうですか?

ISSEI:みんなで音楽性について話をしだした時に、まず原型としてできたのが「LIE」だったんですね。俺はこれがすごく思い出深くて。バンドが変化していくのをリアルタイムで見てたし、みんなで話をしながら作っていけたから。

Yasui:これが唯一、全員が作曲者、みたいな曲だもんね。

GEN:確かに。これは全部英詞で、でもレコーディングの直前に歌詞は全部日本語に作り変えて。だから全然違う曲になりましたね。

一一この曲もそうだし、「shadow」も90年代のグランジっぽい曲で。明るいとも暗いとも言えないGENさんのメロディが印象的です。

Yasui:自分も含めHIKAGEのメンバーの人間性には、寂しさとか不安とか哀しみとか、そういう暗い感情が複雑に入り組んでいる状態を表現できる曲が性に合っていると思っていて、この曲はグランジとハードコアのミックス具合で言うと前者の要素が多く、メジャーキーのコード進行で曲が始まるけど、ただ明るいだけではなく、漠然とした不安や悲しみと幸せが半々というか、不安だけど幸せみたいな感覚を表現できた。……これ合ってます?

GEN:合ってると思う。俺、全部メタルコアとかハードコアで固めるのは自分の感情として違うなと思ったんですよね。生きてればバラードやりたい時もあるし、毎日ずっと怒ってるわけでもないし。もっといろんな感情が混ざり合ってる人間性を、グランジとかオルタナの要素を使うことで上手く表現できたのかなって思ってます。

一一Wataruさん、思い入れのある一曲は?

Wataru:思い入れがある曲……うーん、全部あるし、逆にこれひとつっていうのはないんですけど。でも「Light on」かもしれない。いい曲だよね。

Yasui:最後のバラード。昨日バーで飲みながらこの「Light on」をかけてもらって。すごいいいスピーカーから流れてきたのを聴いて、俺初めて泣いちゃって。自分の作った曲で泣いたのは初めての経験だったんですね。もちろん悲しいわけじゃなくて、今までなかった達成感で泣いてた。「あぁ、これが音楽でやりたかったことかもしれない」とか思っちゃって。それぐらい、聴いてる人の感情とか生活に寄り添う曲が作れたんだなぁと思いましたね。

GEN:「Light on」はかなり前からあって、メロもすでにハマってる状態でずっと置かれてたんですよ。俺らもバラードを出すタイミングがいつなのか、よくわかんなくて。突然これシングルで出すのもどうなんだろう、とか考えすぎて、みんなめっちゃ好きなのに出せない状態が続いてて。

Yasui

Yasui

一一最初がメタルコアだったなら、まず照れますよね。

GEN:でも「めっちゃいいよね」って言ってるんだからちゃんと出せばいい。ようやくこれがアルバムにハマった感じでしたね。

一一今は、本当に素直になれたんでしょうね。

GEN:うん。今思い返すと英語でずっと歌ってた時のほうが背伸びしてた。日本語で歌い始めてから、より等身大になれたし、自分の直感でありのままの歌を歌えるようになった気がします。

一一いい変化が起きて、より素直で気持ちのいい表現ができるようになった。ただ、結果的に生まれた曲は、上の世代には「懐かしい」「なんで今コレなの?」と思われるものかもしれない。それについてはどう考えてます?

Yasui:めっちゃ嬉しいです。「懐かしい」っていうのも、もらう感想としては新しいというか。

Halki:あと、若いお客さんがノらないのかっていえば全然そうでもないし。

一一うん、若い世代にとっては間違いなく新鮮だと思う。

GEN:そうですね。で、「なんで?」って言われたら「好きだからやってる」としか言えなくて。本当にこれをやりたかったんだな、っていう感覚なんですね。新しい音楽も好きですけど、自分たちに一番合ってるのがこれだった。それだけかなって思ってます。無理やりグランジを広めたいとか、ミクスチャーをめっちゃ推したいとか、そういうことは狙ってなくて。

一一流行りを作りたいわけじゃない。では、バンドとしてどうあれたら理想だと考えていますか。

GEN:やっぱり自分の根源にあるのは、俺も最初はボーカルじゃなかった、っていうことで。7年間ギターやって、ボーカルやりたくて憧れてた部分もありつつ、それを選ぶまでにすごく時間がかかってしまった。でもやってみたら意外と、自分が思ってるほど不安に思うことじゃなかったし、世界がそこではっきり開けた瞬間だったから。俺はそれを等身大で発信したいと思うんですね。俺でもできるんだから、みんな、自分たちの好きなことのために一歩を踏み出せばいい。そのために音楽をやっていて。その人に寄り添える音楽っていうか。もちろん、より大きいところでやってみたいとか、そういう欲もあるんだけど。結局は聴いてくれる人たちと一緒に進んでいきたい、一緒に成長していきたいっていうのがテーマですね。

一一わかりました。最後に、豪華な共演者が決まっている今後のツアーについて意気込みを聞かせてください。 

ISSEI:お世話になった先輩が多いので、何かしらで成長した姿を見せたいなって思いますね。

Yasui:僕は人のライブが創作のインスピレーションになることも多いので、各地の対バンとお互いの音楽・ライブを通して、これからの創作と表現に繋がるような刺激を与え合いたいです。あとは自分の感情をパッケージングした音楽に対して、ファンのみんながどう解釈して、それぞれの人生にどういうメッセージを残せるのかが楽しみです。

GEN:うん。俺らもそろそろ成長しなきゃいけないタイミングに入っていて。真正面で戦って、乗り越えていかなきゃいけない壁、みたいな気がしてますね。先に進むためにも、自分たちも負けてないっていうところを見せていくツアー。だから終わった時にどう感じるのかが楽しみですね。

Wataru:そうですね。みんなも言ってるけど、ずっと追いかけて背中を見てた先輩バンドなので。同じ土俵でやれるのが嬉しいっすね。

Halki:今まで、たとえばNOISEMAKERにツアーに誘ってもらう、みたいなことはよくあったんです。でもHIKAGE側から誘う、一緒にやりましょうよっていう形を作るのは、ひとつの恩返しかなって。だから、勝てるとは言い切らないけど(笑)……負けないぞ、とは思ってます。    


取材・文=石井恵梨子 撮影=oct osawa

HIKAGE

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ツアー情報

True Colors TOUR 2025


9月13日(土)江ノ島OPPA-LA
w/ENTH
9月20日(土)大阪Yogibo HOLY MOUNTAIN
w/SPARK!!SOUND!!SHOW!!
9月27日(日)名古屋 RAD HALL
w/Prompts
10月1日(WED)東京 Spotify O-WEST
w/The BONEZ
10月29日(WED)札幌 PENNY LANE24
w/NOISEMAKER

リリース情報

『True Colors』
2025年9月3日(水)digital release
01.傷
02.CALLING
03.shadow
04.YAIBA feat.タナカユーキ(SPARK!!SOUND!!SHOW!!)
05.Wait??!!!
06.Happy
07.G.W.I.H.Y
08.LIE
09.Light on
 
傷 [Official Music Video]
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