子どもも大人も、一緒に楽しめる物語『チョコレート・アンダーグラウンド』 鈴木アツト(脚色・演出)×國崎史人×仁木祥太郎 座談会
(左から)仁木祥太郎、鈴木アツト、國崎史人
親子で一緒に笑って、一緒に考える。そんな演劇体験が、この夏、新国立劇場にやってくる。アレックス・シアラーの人気小説を原作とした『チョコレート・アンダーグラウンド』は、「チョコレートが禁止された世界」を舞台にした児童青少年演劇。「こつこつプロジェクト」第三期で、1年かけてディベロップメントを重ねてきた本作が、7月16日より開幕する、短編・中編作品を中心に20作品を上演するアンソロジー「20の物語 -週末を、劇場で-」の1作品として上演される。脚色・演出を手がける鈴木アツトをはじめ、スマッジャー役の國崎史人、ハントリー役の仁木祥太郎もまた、創作の歩みを共にしてきたメンバーだ。作品を育てる中で見えてきたことや、子どもも大人も一緒に楽しめる作品づくりへの想いを聞いた。
チョコレートから始まる、奥深い物語
ーー最初に、「こつこつプロジェクト」に本作を選んだ理由を教えてください。
鈴木:「こつこつプロジェクト」に参加する数年前に、原作小説を読んで面白いなと思ったんです。子ども世代と親世代の両方が楽しめる作品だなと感じたので、『チョコレート・アンダーグラウンド』を提案しました。チョコレートを禁止されるというストーリー自体は子ども向けだと思います。でも作品のベースには、管理社会のあり方を問いかけるような大人向けのメッセージも含まれているんです。ジョージ・オーウェルの『1984年』にも通じる、イギリスのディストピア小説の系譜にある作品だと思っています。
鈴木アツト
ーー今回の舞台化にあたっては、どんなことを意識しながら戯曲を構築したのでしょうか?
鈴木:原作小説は500ページくらいある大作で、登場人物も多いんです。一方で、「こつこつプロジェクト」に参加できる俳優の人数には限りがありました。そこで、ひとりの俳優がいろんな人物を演じ分ける構成にしたんです。また、管理社会をテーマにした物語なので、支配する側と支配される側の人物が登場します。その正反対の立場の人物を同じ俳優が演じることで、現実社会の支配と被支配の構造を立体的に見せたいなと。そこから演劇ならではの面白さを引き出せるんじゃないかと考えました。
ーー國崎さんと仁木さんも、「こつこつプロジェクト」の時点から本作に参加されているそうですね。
鈴木:「こつこつプロジェクト」は1年の中で1st・2nd・3rdとフェーズが分かれていて、参加メンバーの入れ替わりがありました。國崎くんには、2ndの試演会のときに観に来てもらったんだよね。
國崎:僕はプロジェクトの後半、3rdからの参加なんです。2ndの稽古場での試演会を拝見したときに、初めてこの作品を知りました。すごく面白くて、その場で感動をお伝えしたのを覚えています。普遍的なテーマ性を持っているなあというのが、最初の印象です。子ども向けの世界観ではありつつも、背骨がしっかりしていると感じました。視覚的な仕掛けもたくさんあるので、見ているだけでワクワクする作品だと思います。
仁木:僕は、プロジェクトが始まった2024年の夏の1stからずっと参加させてもらっています。『チョコレート・アンダーグラウンド』との出会いは、中高生くらいのときに読んだ漫画版なんです。だから「あ、これ知ってる!」と思って、ドキドキしながら台本を読み始めました。登場人物やシーンの描き方が原作とは違う部分もあったので、こういうふうに変わるんだなあと面白かったです。とてもワクワクした気持ちで始まったプロジェクトでした。
「こつこつプロジェクト」3rd試演会での様子 (左から)斉藤悠、仁木祥太郎、國崎史人、篠原初実 提供:新国立劇場
「こつこつプロジェクト」3rd試演会での様子 (左から)柳内佑介、國崎史人、仁木祥太郎、篠原初実 提供:新国立劇場
「こつこつプロジェクト」3rd試演会での様子 (左から)國崎史人、仁木祥太郎、斉藤悠 提供:新国立劇場
“こつこつ”積み重ねた時間が作品を育てる
ーープロジェクトで“こつこつ”作品を作ってきたことで、どんな発見がありましたか?
鈴木:まずしっかりと台本を読み込んで、みんなで話し合う時間を持てたのがとても良かったなと思っています。それぞれの役の戯曲には描かれていない人生についても、みんなでディスカッションすることができたんです。普段から主要な役についてはそういう時間を持つことはありますが、今回はほんの一瞬しか登場しない役の背景まで、じっくり考えることができました。
試演会のフィードバックで得るものも大きかったですね。思っていたよりも反応が良いからと、そのシーンを広げてみたり、セリフを足してみたり。客席にビラを配るシーンがあるのですが、実際にやってみると、僕が想像していた以上に俳優自身が楽しそうだったんです。試演会で実際にお客さんに観てもらって刺激を受けることで、いろいろなアイディアが膨らみました。通常の現場ではなかなかできない、とても贅沢な作り方だったなと思います。
ーー俳優さんにとって、「こつこつプロジェクト」はどんなものでしたか?
仁木:僕は、言葉の持つ意味が深くなっていくように感じました。例えば、稽古を重ねるにつれて、「チョコレートって何だろう」と考える時間が増えていったんです。チョコレートという甘いお菓子がなくなったという事実だけではなくて、「みんなにとってのチョコレートはいったい何を指しているんだろう」「日々のちょっとした楽しみが制限されるって、どういうことなんだろう」と。現実離れしたストーリーのように思っていたけれど、世界の情勢も少しずつ変わっていく中で、もしかしたら全然遠い話ではないのかもしれないなあって。
鈴木:今、世の中はナフサがないとか、実際に物資不足になってきているからね。
仁木:本当に。1st・2ndを経て、3rdで再び稽古に戻ったときには「みんな蓄積しているね」というコメントをいただきました。俳優自身の身体やマインドが、台本や役、そして世界で起きていることを通して少しずつ変わってきているんですよね。時間をかけて作品と向き合ってきたからこそ、その変化を実感できたのだと思います。
國崎:僕はプロジェクトの途中から参加したので、やはり最初はプレッシャーもありました。でも、「こつこつプロジェクト」は上演を前提にしているわけではないんですね。それもあって、いい意味で無責任に自分の感覚を楽しみながら取り組むことができました。上演に向けて稽古をしていると、どうしても本番に照準を合わせて整えていく必要があります。でも、このプロジェクトは、うまくやらなくてはという必要がないので、自由に実験していこうという姿勢で取り組めます。とても温かくて素敵な場所と仲間たちだなと感じました。
國崎史人
舞台と客席を繋ぐ仕掛け
ーー台本を拝見したのですが、俳優さんが客席通路に降りてきたり、観客に向かって話しかけたりするような演出がありますよね。何か意図を持って取り入れているのでしょうか?
鈴木:まず、観客のみなさんにも一緒に考えてもらえるような構成にしたかったというのがひとつ。もうひとつは、僕自身が少し前にイギリスへ留学した経験が背景にあります。文化庁の在外研修で、子ども向けの演劇を1年間学んだんです。イギリスではクリスマスに、“パントマイム”と呼ばれるファミリー劇が上演されます。悪役が主人公をいじめる場面で、悪役が客席に「こいつら悪いやつだから、いじめてもいいよね?」と聞くんです。すると客席の子どもたちが一斉に「Boo!」と返す。そんな客席とのやり取りが、“パントマイム”の定番なんです。それをちょっと意識して、本作にも舞台と客席のコールアンドレスポンスのような演出を取り入れてみました。
ーーその演出を試演会で実際にやってみた仁木さんは、いかがでしたか?
仁木:試演会では、10組くらいの関係者の親子に観てもらえる機会があったんです。客席の子どもたちに向かって「あの子たち、これから初めてチョコバーにありつこうって歳なのにもらえないんだから」というセリフを届けられたのは、そのときが初めてでした。稽古にはお客さんがいないので、ずっと想像するしかなかったんです。でも実際に目の前で反応を見ることができたので、本番に向けた手がかりを掴めた気がします。どうやって場を温めたら反応があるのか、どういう言い方が子どもたちに刺さるのか、いろいろ試しながら演じていましたね。
「こつこつプロジェクト」3rd試演会での様子 (左から)國崎史人、仁木祥太郎 提供:新国立劇場
「こつこつプロジェクト」3rd試演会での様子 (左から)國崎史人、仁木祥太郎 提供:新国立劇場
「こつこつプロジェクト」3rd試演会での様子 (左から)國崎史人、柳内佑介 提供:新国立劇場
ーー國崎さんは、客席から観ていてどんなことを感じましたか?
國崎:演劇には、どうしても舞台上の俳優と客席の観客の間に隔たりがあります。でも、その見えない壁を取っ払うことで、観ている人も物語の当事者になれるんだと実感しました。客席の通路で芝居があったり、俳優から急に話しかけられたりする演出は、まるで“飛び出すおもちゃ箱”みたいだなあって。日本のお客さんは僕も含めてシャイな方が多いので、その殻を破ってくれるような楽しい演出だと思いました。
“アクセルとブレーキ”のような2人
ーー國崎さんは、スマッジャーという役をどう捉えていらっしゃいますか?
國崎:最初は僕にできるかなあと心配していました。実際の僕は今26歳なんですが、スマッジャーは中学生くらいの設定なんです。とてもまっすぐな性格の少年でもあるので、陰気な自分とは全然違うなあって(笑)。でも自由に稽古をやらせてもらっているうちに、共通点が見えてきたんです。世の中に対する反骨精神だったり、引っ張っているように見えて、実は重要な決定権を相手に委ねるところだったり。表れ方は違うけれど、根っこにあるものは似ているのかもしれないなと。時間をかけて役と向き合ってきたことで、自分の中のスマッジャーが育ってきた感覚があります。
ーー仁木さんが演じるハントリーはどうですか?
仁木:ハントリーは、スマッジャーと比べて慎重な性格のキャラクターなんです。「スマッジャーがアクセルなら、ハントリーはブレーキだね」とよく話していました。相方のスマッジャーが連れて行ってくれるところなら、たとえ怖くても踏み出せるんですよね。僕自身はどっちかというと「行け行け〜」というタイプなので、実は真逆なんです(笑)。でも國崎くんからは、スマッジャーの要素を感じることがあります。
仁木祥太郎
鈴木:原作ではスマッジャーとハントリーの性格がはっきりとは書き分けられていなかったので、戯曲化するときにキャラクターの違いが見えるように意識しました。2人ともそれぞれ「自分とは似ていない」と言うけれど、僕から見ると國崎くんはスマッジャーですし、仁木くんはハントリーなんですよ(笑)。適材適所なんじゃないかな。
帰り道、親子で話したくなる演劇体験を
ーー最後に、お客様へ向けてメッセージをお願いします。
仁木:僕はシンプルに、「チョコレートがなくなったら自分はどうするんだろう」と想像してみてほしいです。僕だったら暴動を起こします(笑)。ルールに従って真面目に生きることも大事だけれど、子どもたちには抜け道を探す賢さもあると思うんです。自分だったらどう行動するか、スマッジャーとハントリーと一緒に考えながら観てもらえたらと思います。
國崎:僕は、暴動は起こさず我慢するタイプです(笑)。ストーリーはとてもシンプルですし、青少年向けの作品なので、肩肘張らずに気楽に観ることができると思います。でも観終わったときには、「この物語は自分たちの世界と地続きなんじゃないか」とハッとさせられる作品でもあるんです。子どもにも大人にも、それぞれにお土産を持ち帰っていただけたらいいですね。
鈴木:そもそも僕が子ども向けの作品をやりたいと思ったのは、子どもと大人が一緒に楽しめる作品を作りたかったからなんです。劇場の帰り道で「あれはどういう意味だったの?」と、親子で話してもらいたい。そんな演劇体験をしてもらえたら嬉しいです。子どもたちの反応を見ながら観劇することも、この作品ならではの劇場体験になると思います。今は「こうするべき」という強い言葉が支持されやすい時代です。でも、その「こうするべき」が誰かの自由や好きなものを奪ってはいないだろうか。そんなことを、少し立ち止まって考えるきっかけになればいいなと思います。
(左から)仁木祥太郎、鈴木アツト、國崎史人
取材・文・撮影:松村蘭(らんねえ)
公演情報
『チョコレート・アンダーグラウンド』
【日程】2026年7月25日(土)18:00/7月26日(日)13:00 /8月1日(土)13:00/8月2日(日)13:00
【会場】新国立劇場 小劇場
【翻訳】金原瑞人(『チョコレート・アンダーグラウンド』求龍堂・刊)
【脚色・演出】鈴木アツト
【出演】國崎史人、仁木祥太郎、柳内佑介、斉藤 悠、篠原初実、佐乃美千子
おとな(中学生以上):5,500円 /こども(4歳~小学生):2,750円
※推奨年齢:10歳以上
舞台はイギリス。選挙で勝利した「健全健康党」は、 国民を虫歯から守るために「チョコレート禁止法」を発令する。甘いものが弾圧される中、党に戦いを挑むことにした中学生のハントリーとスマッジャーは、チョコの密造販売を思いつく。古本屋でチョコ製造のレシピ本を見つけ、自ら作るべく「地下チョコバー」を始めるが、すぐに二人の活動が党にバレてしまい、スマッジャーが拘束される事態に!二人の運命はどうなる!?