《連載》もっと文楽!~文楽技芸員インタビュー~ Vol. 16 豊竹靖太夫(文楽太夫)

インタビュー
舞台
2026.8.13


感情をそのまま語りに乗せたい

コロナ禍で靖太夫さんは「義太夫節を勉強する会」を立ち上げ、素浄瑠璃の公演を行っているが、もう一つ、若手人形遣いが普段はできない大役の主遣いに挑戦する自主公演「若手人形遣いを観る会」も、もともと靖太夫さんがイニシアチブを取ってスタートさせたものだ。

「文楽の研修生の応募が、今は何人か入ってきてくれていますけども、ゼロの年がありましたよね。やっぱり中にいる若い人が輝いていたら、自分もやってみようかなと思ってくれるんじゃないかな、と考えたんです。そして、僕ら太夫は勉強したいと思ったら師匠に話をして三味線弾きさんとお願いすれば、素浄瑠璃という形でシンプルにできますが、人形遣いは三人遣いなので先輩方にも手伝ってもらわなければいけないし、さらに三味線と太夫を呼んで道具を揃えて……と大変なんですよね。若手の人形遣いさん達がなかなか動けずにいる中、僕にできることはしようと思い、いずれは人形遣いさんで運営してくださいねと言ってスタートしました。第1回が(吉田)簑悠くん、第2回が(吉田)玉延くんと(桐竹)勘昇くんで、第3回の(吉田)玉路くんの時から少しずつ、彼らに任せる形にしていきました。今年は9月5日に(桐竹)勘昇くんと(豊松)清之助くんが第4回を大阪で公演しますが、会場を押さえるのも彼ら自身でやってくれました」

さて、9月の国立劇場文楽鑑賞教室『仮名手本忠臣蔵』では、身売りの段を勤める。靖太夫さんが演じる六段目の身売りの段に至るまでに、塩谷の家臣だった早野勘平は浪人となり、主君・塩谷判官の仇討ちに加わるための金を必要としていた。妻おかるは夫のために祇園町へ身売りすることを決意し、父・与市兵衛は一文字屋から前金五十両を借り受けるが、その帰途に斧定九郎に襲われ、五十両入りの縞柄の財布を奪われる。その定九郎を勘平は猪と間違えて撃ち、その懐に財布をみつけて持ち帰る。そして身売りの段で勘平は、おかるを迎えに来た一文字屋の亭主が与市兵衛に渡した財布 が自分の持ち帰ったものと同じだと気づき、自分が舅を手にかけたと思い込む。罪を告白できないまま、おかるを一文字屋に送り出す勘平。その後の「早野勘平腹切の段」で、おかるの母に責められた勘平は切腹するが、彼が殺したのが実は与市兵衛を襲った定九郎であったことが判明し、仇討ちの一味への参加を許されて最期を迎える。

「『仮名手本忠臣蔵』の六段目では、勘平が誤解していて、おかるのお母さんも勘平を誤解していて、おかるは何も知らない。しかしお客様には全てわかっているんですよね。そこが、『菅原伝授手習鑑』の寺子屋の段のように、お客様もわからずに見ているのとは違う難しさです。財布の柄に気づいた勘平について『我が胸板を二つ玉で撃ち抜かるゝより切なき思ひ』という語りがあるのですが、勘平としては大きな衝撃ですし激しい節なのでバーッと語りたいんですけれども、心の中なのでちょっと加減が必要なんですよね。おかるとお母さんの別れも、別れはそこでしか示せないですからしっかりやりたいんですけれども、やり過ぎると次に控える切場『早野勘平腹切の段』に障る。良い場面なんですけれども、端場なので寸法は控えめにしなければいけません。おまけに一文字屋はちょっとチャリ(※)がかっていますから、色々な語り口をしなければならない忙しさもあるんです」

靖太夫さんがこの「身売りの段」を語るのは、2022年以来、二度目。

「その時と同じ(鶴澤)清丈’さんの三味線です。あの時は一文字屋を軽快に語ることができなかったので次はもっと磨き上げたいですし、あと、やはり勘平の気持ちをしっかり作りたい。その2つが特に大きな課題です。色々と研究して臨みたいと考えています」

芸歴も20年を超え、25年、そしてその先へ。改めて、文楽への思いを聞いた。

「義太夫節って、語る前に文章を読んでも、自然と涙が出てくる作品が多いんです。こちらが感情を詰め込め過ぎてもお客さんは堪ったものではないので、さじ加減が難しいんですけれども、その時の気持ちをがそのまま語りに乗せたい。やっぱりさっきの話じゃないですけど、形を作らなければならないので、演奏中もここがちょっと長過ぎた、押しちゃった、切ってしまった……などと考えがちなのですが、古典は自ずと盛り上がるようにできていますから、その形に則りながら、自分の感じたものをちゃんと乗せられるようになりたいですね」


※チャリ 滑稽でユーモラスな笑いの場面や演技

令和8年5月、国立劇場文楽公演『生写朝顔話』弓之助屋敷の段より。 提供:国立劇場

令和8年5月、国立劇場文楽公演『生写朝顔話』弓之助屋敷の段より。 提供:国立劇場


 

≫「技芸員への3つの質問」

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