大衆演劇の入り口から[其之拾壱]・なぜ立川に劇場を?「立川けやき座」社長さんに会ってきました!オープンから半年

インタビュー
舞台
2016.2.23
立川けやき座外観(2016/2/11)

立川けやき座外観(2016/2/11)

2月立川けやき公演中の「劇団新」左から龍錦さん・飛鳥光輝さん・龍新座長・千明ありささん(2016/2/11)

2月立川けやき公演中の「劇団新」左から龍錦さん・飛鳥光輝さん・龍新座長・千明ありささん(2016/2/11)

龍新座長 若くみずみずしい舞踊「新無法松の一生」(2016/2/11)

龍新座長 若くみずみずしい舞踊「新無法松の一生」(2016/2/11)

立川けやき座ってどこにあるの?

立川近郊にお住まいの方、お勤めの方、立川伊勢丹やルミネにお買い物に行かれる方!ぜひぜひ知っていただきたいスポットがある。大衆演劇場「立川けやき座」。2015年8月、東京の大衆演劇場としては実に38年ぶりにオープンした。

「何かの劇場が立川にできたって聞いたような気がするけど、どこにあるんだろ?」

そんな方にけやき座への道案内をさせてください。

まず、JR立川駅北口を出て、伊勢丹の横を通る。

多摩モノレールの立川北駅がある。駅の下をくぐってまっすぐ進む。

大きな歩道橋の上に出る。写真内に見えているドコモショップのほうへ歩いていく。

「国際製菓専門学校」の前で歩道橋を降りる。

右手に進むと、「曙町場内酒場」の看板がある。しばらくそのまままっすぐ進む。

奥の方にけやき座の幟が見えてくる。もうすぐだ。

到着!駅から徒歩約8分。2階は歯医者さんだ。ずらりと並んだ幟が、芝居小屋の活気を感じさせる。この中を少し筆者と一緒にのぞいていただきたい。

人気の淹れたてコーヒー

制服を着た従業員さんが「いらっしゃいませ」と明るい声をかけてくれる。受付で入場料1600円を支払う。

売店にはお菓子やお弁当が充実している。

「よく売れるのは何ですか?

多分、幕間につまむ、おつまみ類とかかな?…と予想しながら従業員さんに伺うと、意外な答えが返ってきた。

「コーヒーを頼むお客さんは多いですね。この場で沸かしたのを淹れて、フタ付きで座席に持って行っていただくんです」

たくさんの種類から選べるコーヒー。

たくさんの種類から選べるコーヒー。

写真の通り、コーヒーの種類も豊富!

各座席にカップホルダーが付いているのが嬉しい。

各座席にカップホルダーが付いているのが嬉しい。

オリジナルブレンドコーヒーを注文し、客席でいただく。淹れたての香りが鼻腔に広がる。ほどよい苦みが美味しい。何より、冷えた体が芯からホッと温まった。

目の前一メートルまで近づいてくる

12時半、昼の部が開演した(夜の部は17時半開演)。2月の公演劇団は「劇団新」。大衆演劇未体験の方は、役者さんの「近さ」に驚かれるかもしれない。

龍新座長。すぐ真横を役者さんが通る瞬間は、いつも独特の緊張感がある。(2016/2/11)

龍新座長。すぐ真横を役者さんが通る瞬間は、いつも独特の緊張感がある。(2016/2/11)

艶やかな女形が目の前一メートルくらいまで近づいてくる。この距離だからこそ、客も舞台の熱気に飲み込まれるのだ。

「勤王芸者の高丸は、一生籠の鳥で暮らしましょう…」(『籠の鳥』)

芝居でセリフが決まれば、ファンの掛け声。

「座長!」「新っ!」

そしてバチバチバチ…という熱い拍手が、客席の前から後ろまで沸く。え、初心者だけど、雰囲気についていけるかな…という方もご心配なく!舞台に乗っている役者さんたちは、常にお客さんの反応を見ながら舞台を進める。芝居に細かいアドリブを入れて笑わせたり、ショーでは自ら手拍子を打って盛り上げたり…。

 「初めて観ました、楽しかった!近所なんでまた来ます!」

送り出し(終演後に役者さんがお客さんを見送る習慣)では、こんな風に話しているお客さんもちらほら。見れば、送り出しを見守っている、優しいまなざしの男性。おそらくこの方が…

「あの、社長さんですか?」

「はい、そうです。取材の件、聞いてます~」

株式会社五光建設・代表取締役 中原誠一郎さん(2016/2/11)

株式会社五光建設・代表取締役 中原誠一郎さん(2016/2/11)

立川けやき座を経営する株式会社五光建設の中原誠一郎社長。ほのぼのと明るいお人柄で常連さんに親しまれ、お客さんから「会えてよかった」と送り出しさながらに握手を頼まれることもあるようだ。けやき座ロビーにてインタビューに答えてくださった。

「大衆演劇の文化を守っていこうかなぁと」

――この立川の地に劇場を作ろう!と思われたきっかけは何だったんですか?正直、この時代に劇場を作るって大変だと思うんですが…

中原誠一郎さん(以下、中)  大変、大変、大変(笑)  ただ、健康ランドも劇場も、それだけ専門で経済的なことを考えてやってる人は、大体失敗してると思うんです。もう儲けはチャラか、いっそ赤字でも、他の業種で稼げてる場合はなんとかやれるかなと。

――五光建設の建設業のほうがきちっとされているからできると。

 私も年齢的にも事業承継する年齢なんで、少し、大衆演劇の文化を守っていこうかなぁと…。元々、このビル自体が五光建設の持ち物だったの。二階のテナントが出て、歯医者さんが入るようになったときに、じゃあ一階をどうしようかって。そこでけやき座を始めようと思ったの。経済的な利益を考えてというより、大衆演劇という文化のため…半分、ボランティアですね(笑) 

「女形が一番“モテる”のかな」

――中原さんの考える大衆演劇の魅力って何ですか?

 私は元々大衆演劇の虜になってる人間じゃなくて、以前、五光建設が福島の「カッパ王国」って健康ランドを買ったときに大衆演劇と出会ったの。だから、どの劇団の芝居がうまいとか下手とかは…私自身はちょっとよくわからない(笑) でもファンの人に聞くと、どの劇団は芝居がうまいよっていうこだわりがあるんだよね。たとえば劇団荒城ってあるじゃない。ファンの人いわく、『人生劇場』は別格だよとかね。あとは、やっぱり男の女形が、ファンが集まる率が高い…女形が一番“モテる”のかなって(笑)

龍新座長の女形。可憐な美しさが観客を魅了する。(2016/2/11)

龍新座長の女形。可憐な美しさが観客を魅了する。(2016/2/11)

――“モテる”って素敵な表現ですね!(笑)

 女の人の女形よりは、男の女形の方が、全然色気があるのね。そのくらいはわかる(笑)劇団ファンの人は熱心で、先月なんか4人くらいは皆勤賞がいますよ。

――皆勤賞!1日から千秋楽まで、毎日欠かさずですか。

 はい。うちは、食事は劇団の自前なんですね。そしたら、ファンの方がお昼の食事を持ち回りで差し入れしたり。

――もう劇団とファンが一体になって作ってるってかんじですね。

 その中でも、家族みたいになっちゃうのでなく、お互いの緊張感は保ってるみたいですね。

洋風の演目もある。左から飛鳥菜夏さん・小龍優さん・千明ありささん(2016/2/11)

洋風の演目もある。左から飛鳥菜夏さん・小龍優さん・千明ありささん(2016/2/11)

「観やすいように」「足が疲れないように」…温かな劇場作り

 私ね、いつも言ってるんですけど、お客さんを入れるには劇団の力が60から65なの。

――どんなに人気劇団でも。

 そうです。そして劇場の力が35から40。その35から40というのが、劇団の追っかけとか劇団ファンとかじゃなくて、この地元の人で大衆演劇が観たいという人の割合。

――立川という地は、お仕事で立川に来る人もいれば、伊勢丹でお買い物される人たちもいる。そういう今まで大衆演劇全然知らないっていう人たちが、立川に来たからけやき座に寄って観ていこうっていう風になるのじゃないかと思ってます。

 お客さんのターゲットはいわゆる多摩地区です。中央線では三鷹まで、南武線では調布あたりまで。それからモノレールは全線。あとは青梅線も全線。五日市線も全線。この辺りはけっこう人口も多いしね。老人の人も多いんですよ。行政の社会福祉法人とか、理事会とか、そういうところからお年寄りが気さくに来てくれれば、認知症や病気になる前の予防として効くんじゃないかと。

――そうですね、お芝居観て笑って泣いて、元気になってっていう。

 一番大事なのは、お年寄りは何か目的がないと外に出たいというのがないですよね。こういうものがあると外に出たいという気持ちが起きて、それだけでも暮らしの活性化になるんじゃないかと。

けやき座内観。席と席の間が広く取られているのが特長だ。

けやき座内観。席と席の間が広く取られているのが特長だ。

――この劇場の作りも、社長さんが「こういう風にしよう」ってかなり意見を出されたんですか。

 はい。客席はそんなにぎゅうぎゅうに詰めても…と思って、じゃあ、と元々250席を予定していたところをあえて210席に減らしたんです。

※座席表に載っているのは178席だが、いっぱいのときは補助席を出すので実際は200人以上入る。

――そうだったんですね!空間を広く取るために…おかげで狭苦しい感じがなくって、隣とも密着しないですし。

 お客さんからも、非常に観やすいとよく言われます。とにかく観やすいように、それから老人の人も足が疲れないように。一番前のたまり席もそうだし、桟敷席も足を伸ばせたり、非常にゆったりとしてるの。元々、ボランティア的なこともあって、じゃあやってみようかというのが始まりですからね。

左・前方のたまり席。右・桟敷席。どちらも他の大衆演劇場と比較しても広々としている。

左・前方のたまり席。右・桟敷席。どちらも他の大衆演劇場と比較しても広々としている。

――けやき座のカラーは、これから作られていくんでしょうかね。今のお客さんたちと一緒に作っていくというか。

 そうですね。地元の人に定着するには、まずね、1年はかかるね。壁の貼り出しはね、今度2月19日に壁に鉄板を貼って、画鋲じゃなくマグネットでやるようにするの。壁が穴だらけになっちゃうから。1年2年でやめるんじゃないからね。ま、そういうのを少しずつ少しずつ変えて…。けやき座はこれからだよね。

――最後に、読者に対してメッセージを下さい。

 とにかくまず観に来て、そして楽しんでもらえば…。最初は大衆演劇って面白いなというところから始まって、だんだん、だんだん…私はどの劇団が一番好きだな、とかができてくるようになると思います。

――お忙しい中、ありがとうございました!

昨年8月のオープンから半年。少しずつ、少しずつ、立川けやき座は東京の大衆演劇に根づきつつある。「けやき座」という名称は、立川市の市の木がけやきであることに由来するそうだ。街と一緒に、地元の人と一緒に歩んで行く劇場。

どうぞいらっしゃいご近所さん、立川近郊で働く皆さん、もちろん遠くから役者さんを追っかけてきた人も。温かなコーヒーでほっと一息ついて、広々とした客席でゆったり。みんな一緒に、芝居小屋へいらっしゃい!

客席の壁には役者さんのタペストリーが並んでいる。

客席の壁には役者さんのタペストリーが並んでいる。

 
公演情報
立川けやき座2月公演  劇団新
期間:2/1(月)~2/28(日) 昼の部まで
立川けやき座3月公演  劇団暁
期間:3/1(火)~3/30(水) 昼の部まで ※休演日 3/18(金)
 
会場:立川けやき座 公式サイト
日程:毎日昼夜2回公演
時間:昼の部12:30~15:30  夜の部:17:30~20:30
料金:大人1600円 小人900円
 
座席を予約する場合の予約料
一般席300円(座布団・座椅子は各100円) 
たまり席300円(座布団・座椅子付) 
桟敷席400円(座布団・座椅子付)
※予約なしにフラッと行っても観られるのが大衆演劇の魅力の一つ。だが前方の席で観たい・友人と並んで席を取りたいという場合には予約しておくと確実だ。
 
問い合わせ先:042-512-5057
〒190-0012 東京都立川市曙町1-36-1 1F
JR立川駅北口より徒歩約8分・モノレール立川北駅より徒歩約5分
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