「九条丸家の殺人事件」は謎だらけ!?オークラ&梶原善にインタビュー!
「九条丸家の殺人事件」 撮影=こむらさき
やっぱり、ロンドンに行かなきゃ(笑)
正味100分の崩壊喜劇!2015年英国オリヴィエ賞最優秀コメディ賞受賞!イギリスで ロングラン上演中のコメディ「THE PLAY THAT GOES WRONG」が早くも日本初上陸!「~崩壊シリーズ~『九条丸家の殺人事件』」という題名で2016年4月から上演される。
ところでこの作品、一体どんな話なのだろうか。その謎の答えを探すため、本作の台本・演出を手掛けるオークラ、そして出演する梶原善に話を伺ってきた。バナナマンや東京03のコント作品を手掛けるオークラと、東京サンシャインボーイズ出身で数々の作品で重要な役を演じてきた梶原なら何かつかんでいる、と思うのだが、二人とも頭を悩ませている。どうやら想像以上に問題作のようだ――。
「九条丸家の殺人事件」梶原善 撮影=こむらさき
――この「九条丸家の殺人事件」をやることになったのはどんないきさつですか?
オークラ:この作品をやってみませんか?というお誘いがあったんです。今年は普段仕事しない人と仕事をするのもいいかな、と思いまして二つ返事でお受けしました。もちろん原作は知らなくて。
梶原:僕もこの作品を知らなくて、情けない(笑)
オークラ:まだ上演中ということで著作権の問題で資料などを取り寄せできないんです。だから本編も見たことないんですよ。
梶原:日本で上演する、ということにはOKを出したんだから資料映像くらい見せてくれたっていいのにねえ(苦笑)
ふつうの芝居なら、脚本を読んで、失敗しないように稽古をするじゃないですか。でもこの話ってあえて失敗するように演じるじゃない。だからもう、おまかせでいいのかなあ。
オークラ:これから1か月間、稽古でアタマを悩ませるんだろうなあ。
梶原:芝居のテクニカル的なこともこっち(日本側)で勝手にやっていいのかな?
オークラ:そうですね。これから僕がロンドンに観に行くか、もしくは今ある台本を自分で再構築してやり直すか…それもまた楽しいかなって思っています。だって、イギリス人が面白がるモノをそのままやってもねえ。もっと自由にやってもいいのかなあって。
梶原:参考までに現地の芝居を観に行きたいっていう気持ちはあるんですけどね。そうやるよりこうしたほうがいい、など日本人なりの器用さや芝居の間とかあるじゃないですか。そういうのをひっくるめて…ぜひロンドンに連れていっていただきたい!(笑)1泊2日でいいから。
オークラ:1泊2日は無理らしいですよ(笑)
梶原:ロンドンで1泊なんてしなくていいから、とりあえず観たいなあ。別に食べ物は期待していないし。生の舞台を観てみたいですね。
オークラ:最初、原作を読んだ瞬間に、「これ、どうやってみんな笑っているのかな」と思うところはありました。なんとなくはイメージできるんですけど。
梶原:芝居を観た人じゃないとわからない小道具とかもあるじゃないですか。ウイスキーだと思って花瓶から水を飲んでいるとか、その間違いを間違いだと思わせるのが難しいですよね。
――芝居の冒頭くらいでしか「これは劇中劇です」と説明する場所がないですしね。うっかり遅れて劇場に入ってきた人は「何のことやら?」になりそうですね。
オークラ:これ、笑わせることしか見せたいものがないじゃないですか。よくも悪くも何も残らない話なので、それはそれで楽しそうだなと思っていたりもしています。
――イギリス人の笑いって「モンティ・パイソン」シリーズに代表される笑いなのかな、と思うのですが。
梶原:極端なものを好みそうだよね。
オークラ:アタマが躍っているような感じですよね(笑)
――コメディそのものを作る&演じるおもしろさと大変さがあると思いますが。やる側としてのおもしろさはどこにあるのでしょう。
梶原:やっぱ観てくださったお客様がどれだけ笑ってくれるかですね。でも「ど・コメディ」な作品と、「ちゃんと芝居した上でのコメディ」作品では、笑わせるエネルギーの「サイズ」が違うと思うので。「九条丸家~」については、芝居はシリアスにしないと。ロンドンの役者って芝居をするにあたって、それなりの資格がないとできないと思うんです。芝居が達者な人が「コメディ」をやるからこそ面白いのでは、と思いますね。素人さんがこれをやってもダメだと思うんです。
オークラ:ただの悪ふざけになりますよね。
あと、この物語もよく知られている話なら「ズレ」がわかるんですが、まるで知られていない話だから今ズレているのかどうか自体、わからないと思うんです。相当難しいと思うんです。しかも出演している人の関係性やバックボーンがないじゃないですか。ただ舞台で起きているミスの連鎖でやっているだけ。どうなるんだろうという怖さもありますね。
「九条丸家の殺人事件」(左から)梶原善・オークラ 撮影=こむらさき
――梶原さんは以前アメリカに武者修行に行っていたそうですが、ロンドンの笑いとアメリカの笑いはやはり違うものですか?
梶原:武者修行なんて…ただ行ってただけです(笑)でもロンドンの笑いよりアメリカのそれは無理やりではないかも。「モンティ・パイソン」なんて無茶苦茶じゃないですか。
とはいえ、僕が好きな作品に「リトル・ブリテン」というのがあって、あれはリアルに芝居の内容がおもしろいんです。でも「モンティ・パイソン」はひたすらゲロを吐きまくるのとかねえ。
オークラ:最初に「九条丸家~」の原作を読んだときにもそれにつながるベタさを感じましたね。
梶原:繰り返しやられると、つい笑ってしまうのはあるにはあるんですが。
オークラ:僕も「モンティ・パイソン」は観ましたが、あまりコメディは観てないんです。僕らがこの世界に入った90年代後半は、ダウンタウンの影響もあるんですが、日本でお笑い文化が結構盛んになってきた頃だったんです。その頃、研究したら、「あ、この笑いの元ネタはここなんだな」…「モンティ・パイソン」を元ネタにしている人が結構いるんだなってわかりまして。だから「技術」とか「パターン」として見ていましたが、人種とかを笑うのは全く自分に入ってこなかった。
梶原:それは日本ではわからないところだよね。
――人種とか宗教をネタにして笑う「モンティ・パイソン」的な要素が「九条丸家~」には見られないですね。
オークラ:だから日本で上演できるんじゃないですか(笑)
「九条丸家~」から新しいものが生まれるんじゃないかな?っていうカンはあります。サンシャインボーイズみたいな人間関係の笑いが一切なく、事件事件の積み重ねで笑う、バカバカしさが逆に新鮮と感じられる作品になるかもしれませんね。
――比較的若い方が多いキャストですが、梶原さんが最年長でこの現場をシメる、と。
オークラ:梶原さん、レジェンドですから。
梶原:さあ…ねえ(笑)年配っていう気がしてないですから。無責任なので。
オークラ:僕なんか素人時代に梶原さんを観ていますから。当時お笑いを始めた頃、芸人の間で「こんなおもしろいものがあるぞ」と話題になって、その中に三谷さんの作品があったんです。『12人の優しい日本人』とか。
学生時代に裏ビデオが出回った時代ってありましたよね。みんなが何回も見ちゃって画像が荒々になっている。サンシャインボーイズのビデオもそうなっていて。芸人たちで集まってこんな面白いものがあるんだ、と観ていました。今みたいにインターネットがないので。
梶原:その割に芸人さんと会うと、みんなしれっとしているんだけど。
オークラ:みんな緊張しているんですよ!若い頃にみんなカルチャーショックを受けているんです。
梶原:以前、テレビ東京さんのお仕事で、芸人さんと絡むことが増えた時期があって、そのときは実はすごく嬉しかったの。これが続けばいいなーって思っていた。
オークラ:今回、梶原さんが稽古場にいることでぴりっとしますね。
梶原:二日酔いできないじゃない。以前は稽古場で酒が残っているって日もあったけど、今はもう無理ですねー。
オークラ:ちなみに今、おいくつに?
梶原:49歳。酒が残る残る(笑)もう何もできないくらい残る。
オークラ:量も関係ありますから(笑)
梶原:だから、九州公演がやばいよね。
オークラ:おいしいお酒がいっぱいありますからね!
「九条丸家の殺人事件」梶原善 撮影=こむらさき
――「九条丸家~」のような事はそうそう起こらないと思うんですが、ご自身が手がけたコントや出演している舞台で「これは忘れたくても忘れられない」という大ハプニングってありましたか?
梶原:僕、劇団が解散するラストの舞台で、ばーっとステージに出てきてドターンと転んで100%爆笑がくるところがあったんです。体勢を立て直して「う、うん」と咳払いの一つでもして取り繕うような場面が。ラストの上演のとき「よし、ここはキメてやる。今日で終わりだしな」って一瞬余計なことを考えちゃったんです。そうしたら一瞬間を外してしまい、「やばい!」と思ってステージに慌てて出たら、まだ僕が出るところじゃなかったんです。みんな出ている連中は「何しにきたんだ」って顔しているし。出とちりじゃなくて、出早とちりです。
オークラ:あの伝説の最後の舞台ですね…。
梶原:悲しかったですね。一つ一つ丁寧にこなしていきたいじゃないですか。
オークラ:それは怒られるんですか、三谷幸喜さんに。
梶原:あんまりアクシデント的なことで怒らないですよ、三谷さんは。だってしょうがないじゃないですか。そりゃあ二日酔いでボロボロになったら怒りますが。逆にアクシデント系だと喜びますね。
あと、共演者の腕が抜けたりとかもありましたね。
――腕が抜けるって…!?
オークラ:脱臼ってことですか?
梶原:ある場面で「そんなんじゃダメだよー!」ってカバンを放り投げて、「こうやるんだよ!」と言う場面があったんです。そうしたらその役者、思いっきり力入れてカバンを落としたら腕が抜けちゃって。僕はその場面と関係ないところに出ていたので、出番が終わってふと舞台袖を観たら救急車が来ていて…「○○の腕が抜けた!!」って。そいつは、抜けた手のまま芝居していたんだけど、「こうやるんだよ!」ってやっても腕が抜けてるからぜんっぜんできてない(笑)
オークラ:僕の場合は作家という目線での話なんですが、コントの台本が前日まで仕上がらなくて。コントライブだったんですが、大トリの30分くらいの尺のコントの台本ができてなくて。
梶原:30分ていったら結構な内容だよね。
オークラ:どうしようか…あと七時間で本番なら舞台に上がるほうも内容を覚えられないじゃないですか。ならば、セットに全部カンペを書こうということになり、まずはテーブルを用意して、そこに紙を広げて全部セリフを書いて「紙を広げてもいい職業ってなんだ?」と。設計士だったら図面があるじゃないですか。「よし、それだ!」…そうしてどんどんやっていったら話ができあがってきて、最終的にすごい面白い内容になったんです。カンペを読むためのネタですが(笑)
梶原:それ、結局誰がやったの?
オークラ:バナナマンです(笑)
――そのネタをやりきるバナナマンさんもすごい。土壇場に強そうですね!
オークラ:みんながあんなにドキドキしたのは人生そうそうないですね。
「九条丸家の殺人事件」(左から)梶原善・オークラ 撮影=こむらさき
――そんなお話を聞くと、やはり「九条丸家~」はすべてにおいてやりすぎですよね。
梶原:芝居の中で失敗して「あっ!」っとなり、その場を取り繕って芝居を進めようとするけれど、それを延々やっているとすごいテンポが悪い芝居になりそう。
オークラ:今どれをどう勘違いしたら笑えるかを考えていますね。イギリスの人はここで笑うんだろうけど、それをどう日本版に変えていくか。これからですね。初めてなんですよ、こういう感じの作品は。普通、コントという「会話劇」を主にやっているので。
――初めて手掛ける作品としては、かなり難易度の高いものとなりそうですね。
オークラ:そこは、皆さん力のある役者さんなので、僕はそれに頼って…。
梶原:いやいや。これは演出の問題で…演出の手腕がものをいう舞台で…(笑)
オークラ:いやいや。ここもおしゃべりでなんとかしましょう、とか。それがうまくいくか、試して止めて、また試して止めての繰り返しで。
梶原:…まず、ロンドンにいきましょうか!
オークラ:やっぱり観なきゃね!
梶原:泊まらなくていいから、行って、観て、帰る!(笑)
文・撮影=こむらさき
【東京】2016年4月8日(金) ~ 2016年4月24日(日) 俳優座劇場
【愛知】2016年4月27日(水) 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
【大阪】2016年4月29日(金・祝) シアターBRAVA!
【福岡】2016年4月30日(土)~ 5月1日(日) イムズホール
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