弥生時代のコメディに挑む土田英生に直撃!

レポート
舞台
2016.2.19
土田英生

土田英生

「人間的な心を失わないでいる姿っていいね、っていうようなことを一番描きたい」(土田)

昨年上演した『ぶた草の庭』が「関西Best Act」2015年上半期の舞台の第1位に選ばれるなど(詳細はコチラ)、結成27年を経てもなお快進撃を続ける京都の劇団「MONO」。1年ぶりの新作『裸に勾玉』では、なんと劇団初の時代劇、しかも弥生時代が舞台のコメディに挑戦する。演劇に限らず、なかなか題材にされることがない弥生時代の物語作りに悪戦苦闘中だという、劇団主宰で作・演出家の土田英生に話を聞いた。

前述の『ぶた草の庭』は、最近のMONOの舞台の中でも特に高く評価された。実はこの作品、良くも悪くも土田のスタイルに慣れたメンバーたちに、メンテナンスを施すための作品でもあったそう。

MONO『ぶた草の庭』 撮影:谷古宇正彦

MONO『ぶた草の庭』 撮影:谷古宇正彦

「演技が好き放題になってきてるというか、ベテランの歌手が、持ち歌をわざと調子を外して歌うみたいなことが、MONOの芝居でも起こってるんじゃないか? と。そこで台本をきちんとオーソドックスにして、演技も不必要なものを全部取るということをやりました。僕としては“あ、こういうことだったんじゃないかなあ”というものが、またみんな取り戻せたのではないかと。今回のゲストは、前回も出てくれた女優ばかりなので、改めてベースを確認したこのメンバーで、弥生時代に臨みたいと思いました」

弥生時代をテーマにしたのは「以前脚本を書いた舞台でこの時代を題材にしたので、その時に蓄積した知識を使いたかった」とのこと。邪馬台国と対立する狗奴(くな)国の外れに住む兄妹一家と、彼らの前に現れた正体不明の男との交流を描いていく。

「邪馬台国への対立心で同調圧力が強まる中で、敵国のスパイかもしれないと言われる男を家族たちがかくまう様を、笑いを交えて愉快に見せます。今回の一番大きな実験は、言葉ですね。「上代(日本)語」と言われる当時の言葉を使ってるんですが、これがすごく難しくて、役者たちが苦しんでいます。この芝居のために上代語辞典の古本を、1万円以上出して買いましたけど、なかなかバーッとは(脚本を)書けなくて、やっかいな題材に手をつけたなあと思ってます(笑)」

MONO『裸に勾玉』イメージ写真 撮影:西山榮一

MONO『裸に勾玉』イメージ写真 撮影:西山榮一

笑いの中に、現在の社会問題を巧みに浮き彫りにしてみせるのも土田の持ち味。今回は、日本に対して少しでもマイナスの発言をしただけで「反日」と叩かれるような、昨今の同調圧力の強まりと、そんな中でも自分の意志に従って発言し、行動することの重要性を描いていきたいという。

「ただ楽しければいいやじゃなくて、今自分たちが生きていて感じることを描くのが表現だと思うので。今気になっているのは、昔なら「日本のここがダメだよね」とか何も気にせずにしゃべれていたことが、ネットの炎上などを恐れてどんどんしゃべれなくなる傾向があること。表現というのはそこから萎縮していくし、萎縮していけばいくほど、社会の常識が変わっていっちゃうのが怖いんです。人と違うことを言ってもいいし、むしろそれが社会を潤すんだということを、言葉ではなく表現という形で届けたい。自分が違うと思うことに対しては、同調せずにいられる人でありたいし、そうあるとちょっとは幸せなんじゃないの? って。また、そうやって周りがお互いを縛りあっても、自分の目の前にいる人たちを大事にするとか、当たり前の人間的な心を失わないでいる姿っていいね…っていうようなことを、やっぱり僕は一番描きたいんです」

TVドラマの脚本や外部の舞台への書き下ろしなど、劇団以外の仕事も増えている土田。他の仕事には代えがたいMONOの魅力とは何か? と聞くと「やっぱりアンサンブル」という答えが。

「全員がアンサンブルなんですよ、うち。主役不在なので全員で作るというのが、パスしか回さないサッカーという感じです(笑)。メンバーがアンサンブルで芝居の形をちゃんと作ってくれるので、ゲストで来た人たちも「こういうことをやるってことだね」が、割とわかりやすいと思うんですよ。だから僕の思い通りのものができやすい、というのがあります。MONOでは本当に、何かやろうとした時のチューニングの合い方がすごく楽なんですよ。これは長く(劇団を)やってるというだけではないと思うんです」

笑いの中にも現代社会の暗部を提示し、でも最後は何かしらの希望を与えてくれる。まさにストーリーテリングの良い所がいっぱい詰まった上に、劇団だからこそ作り出せるアンサンブルの妙味も味わえるMONOの舞台。今回もその期待を裏切らないはずだ。

公演情報
MONO 『裸に勾玉』
 
《東京公演》
■日時:3月5日(土)~13日(日) 19:30~ ※6・10・12・13日=14:00~、8日=休演
※9・11日は終演後にトークイベントを開催。
■場所:シアタートラム
■料金:一般=前売4,000円 当日4,500円 早期観劇割引(5~7日公演)=前売3,500円 当日4,000円 25歳以下=2,000円(前売のみ取扱)


 
《愛知公演》

■日時:3月19日(土)・20日(日) 19日=19:30~、20日= 14:00~
■場所:愛知県芸術劇場小ホール
■料金:一般=前売3,800円 当日4,300円 25歳以下=2,000円(前売のみ取扱)


 
《大阪公演》 
■日時:3月23日(水)~27日(日) 19:30~ ※26日=13:00~/17:00~、27日=14:00~ 
※24・25日は終演後にトークイベントを開催。
■場所:ABCホール
■料金:一般=前売3,800円 当日4,300円 初日割引(23日公演)=前売3,300円 当日3,800円 25歳以下=2,000円(前売のみ取扱) 
■作・演出・出演:土田英生
■出演:水沼健、奥村泰彦、尾方宣久、金替康博/山本麻貴、もたい陽子、高橋明日香、松原由希子
■公演特設サイト:http://www.c-mono.com/magatama/


 
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