伊東歌詞太郎 100曲以上の未発表曲から生まれたミニアルバム『ほしねこ』を語る
伊東歌詞太郎
ニコニコ動画の“歌ってみた”カテゴリで注目を浴び、今ではネット上だけでなく幅広いフィールドで活動するボーカリスト・伊東歌詞太郎。3月18日に、オリジナル曲とボカロ曲カバー、合わせて8曲が収録されたミニアルバム『ほしねこ』をリリースした。知らぬ間に100曲以上の未発表曲が完成し、作るべくして作られた今作からオリジナル曲全楽曲を解説してもらった。歌声と同様に、まっすぐと迷いのない言葉で語ってくれた本インタビューから、作品を通して彼が伝えたかった想いを感じてみてほしい。
――今回、ミニアルバム『ほしねこ』をリリースするに至った経緯を教えてください。
2ndアルバム『二律背反』のリリースから時間が経って、“また作品を出したい”という欲求が増してきて。『二律背反』や『一意専心』(1stアルバム)を制作してきて、あまりにも曲が溜まりすぎてしまったんですよ。調子の良い日は一日一曲できちゃうくらい、わりと速いペースで曲を作ってて。その思い浮かんだ曲をある程度形にしている時、また次のメロディや歌詞が思い浮かんできちゃって、それを捨てるのはもったいないので、とりあえず仕上げていって……ということを繰り返していくと、100曲以上の未発表曲が完成してしまったんですよ(笑)。全力で曲を作っているのは確かなので、これはさすがに作品として出さないと、過去の自分に申し訳ないなと思って。作品を出したいという欲求と相まって、“これは作らないといけない!”と思って、今回作らせてもらいました。
――100曲って、かなりの数ですよね。
そうですね(笑)。でも制作している時って、できてできてしょうがなく、寝るのも惜しいっていう時期があったり、全然できなくなる時期もあって。ピタッと止まってしまうんです。その時に“これ、スランプだな”って思うんですけど、ふとした瞬間にまたぶわ~っと出てきて。それを何度か繰り返していると、また曲が思い浮かばない時期に戻るっていうことは容易に想像できるじゃないですか。スランプというものを自分なりに理解しないと、絶対にまたできなくなる時がきて落ち込むなと思って。そこから、いろんな人の文章や、アーティストの曲ができなくなった時のことが書かれているもの、画家や野球選手のスランプに関する本を読んだり、映像を見たりしたんですよ。そこで、イギリスの作家の方の演説のような映像を見ていて……すごくざっくりと話しちゃうんですけど、「古代ローマや哲学者が活躍した時や大発見をした時は、妖精がたまたまその人にアイディアを渡しているだけ」と言っていて。例えばその作家の方だったら、自分がアイディアが沸かない時は、その妖精がさぼっているだけだから、妖精がこっちを向くまで待っていればいいと。この内容は、スランプに関して世界的に優れているスピーチだと評価されているんですけど、僕はその考えに賛同……できなくて(一同笑)。
――できないんですか(笑)。
僕、メロディって歌いながら考えるんですよ。こうやってインタビューを受けている時でも、もう一つの脳みその中で歌っていて。“これいい!”って思うと、昔は……(目の前にある編集のレコーダーを指しながら)まさにコレですよ!!(笑) これと同じレコーダーに入れていて、今はiPhoneにも入れたり。そうやって曲作りをしているんですけど、今まで作った楽曲のハードルを越えたものに対して“これいい!”って思っているわけじゃないですか。でも、作り続けているうちに成長してハードルも上がっていくから、なかなかそれを越えられずに“また曲ができない”って落ち込むことの繰り返しだなって。自分で作っているメロディのクオリティも上がっていて、知らず知らずの内に感覚も合わせて磨かれていると思うんですよ。その成長した気持ちに肉体が追い付いていない状態がスランプだと僕は考えていて。そうだとしたら、スランプってやっている限り絶対に抜け出せるし、抜け出した先にはもっといいものが待っていると思い始めると、スランプになってもヘコまなくなったんですよ。今、5回目くらいの曲ができない時期なんですけど(笑)、そしたらまた曲が出来る時期は来るし、その時は今までのものより良いものができると思っているので、とくに落ち込んではいないですね。
――出来る時期と出来ない時期があるとのことですが、今回の収録曲に関しては、出来た時期にバラつきがあったりしましたか?
一番古いのは「ミルクとコーヒー」で、確か2014年に出来上がったものですね。その次は「よだかの星」かな? 「北極星」「Role Praying」「きみをつれて」は、最近曲が出来てしょうがない時期に作りました。結構バラつきはありますね。
――タイトルは『ほしねこ』。こちらは歌詞太郎さんが2番目に好きなものと3番目に好きなものなんですよね。
最近は、2番目が猫で3番目が星になってきてはいるんですけど(笑)。
――“ねこほし”だと、語呂が悪いですしね(笑)。ひらがなの字面もいいですし、耳にも残りますし。もともと好きだということは、常々おっしゃってますもんね。
そうなんですよ。音楽が一番好きなんですけど、そしたら『音楽』っていうタイトルになっちゃうんで(笑)。みんな僕が音楽を好きだということは分かってくれていると思うので、2番目と3番目に好きなものを合わせてみました。
――ちなみに4番目はなんですか?
4番目か~……(考え中)、文学とかかな。いや、本ですかね(笑)。
――すみません、すごく余談なんですけどね(笑)。
いや、でもこの質問で改めて自分を知ることができました(笑)。
――では中身についても伺っていきたいのですが、本当は個々の曲をじっくりと掘り下げていきたいんですけど、今回は主にオリジナル曲についてお訊きしようと思います。1曲目は「北極星」、目印になる星ですよね。
いつだって動かない……厳密に言うとちょっと動いているんですけど(笑)。昔から川沿いで曲を作ることが多かったんですけど、その時わりと綺麗に星が見えてたんですよ。北極星ってそんなに光ってはいないんですけど、北極星を見ると、“じゃああっちは北だな”ってよく思っていて。ある時、北極星って目標にしないといけない、と言ったら変ですけど、ブレないし、それに向かって進んでいけば迷うこともないし、北極星ってかっこいいなって思ったりもして(笑)。そういう想いを曲として出したいなと思って。
――支えとはまた違うんですかね?
なんだろうなぁ。北極星を見たら条件反射で当時の気持ちを思い出すみたいな。昔バンドをやっていた時から、悲しい、悔しい、っていう気持ちがすごくあって、“でも頑張るぞ”と思って活動していたんですよ。そう思いつつ、よく星を見ながら曲を作っていたので、北極星を見ると、そういう想いは昔から変わらないんだなっていうことを再確認できるんですよね。
――そして3曲目は「ミルクとコーヒー」。約二年前からある曲ということで。
これがまた、根強い人気があって、僕もすごく好きな曲なんです。いつか音源化しないとダメだなと思ってたので、今回のアルバムに収録することにしました。これは当時も物議を醸したといいますか、「歌詞太郎さんどうしたんですか?」「らしくない!」って言われ(笑)。
――確かに歌詞太郎さんぽくないかも(笑)。
想像力ってすごく大事だと思ってて。役者さんが殺人犯の役をやる時って、人を殺したことなんてないので、想像力で補うしかないじゃないですか。(実体験が必須なら)『ハリー・ポッター』なんてどうするんだっていう話ですよ! だから、想像力を保管しておいて、作品に合ったものをその保管庫から引っ張り出して作っていくっていうことは当たり前だと思うんですよね。そのために、めちゃめちゃ本を読んでいて。恋愛小説を10冊読んだら、実際に1回恋愛をしたっていうことになるとしたら、多分80回以上恋愛をしていると思います(笑)。だから僕がこういう曲を書いたとしても、全然不自然じゃないんですよ……ということをみなさんに言いたい!(笑)
――そんじょそこらの人より、経験値が高いぞと(笑)。
そう(笑)。ドロドロしたものとかも苦手なんですけど、一生懸命読んで、それを吸収して作りました。
――そういった恋愛小説などで培ったもののエッセンスが入ったのが「ミルクとコーヒー」なんですね。続く「Role Praying」は、わりと最近出来た曲。
そうですね。友人の岩田有弘さんが劇団を立ち上げたんですけど、舞台のテーマソングを書いてほしいという依頼を受けまして。「舞台のテーマはどんな感じなんですか?」って聞いたら脚本家の方が「僕の脚本は無視してください。歌詞太郎くんなりに、有弘や役者のことを考えて、自由に作ってください」と言われ。でも、性格的に内容を無視できないから脚本を読んじゃうんですけど(笑)。どのシーンで使われるかは聞いていたので、このシーンでこういう感じのものが流れたらいいなぁと考えてた時に、役者さんという存在そのものを描けばいいんだ!と思いついて。有弘さんとはもともと仲がよかったから、お酒とかを一緒に飲みながら彼の人生を聞いていたんですよ。その中で、役者はどんなに辛いことがあっても、舞台に人生や命を懸けているっていうことをおっしゃってて。それを聞いたとき、みんなハッピーエンドを目指してて、何を選択するか、何を言うかで結末が変わっていくんだなって思ったんです。筋書がないだけで、人生という舞台を演じているというか……生きているだけなんじゃないかなって考えたら、全ての内容が一本の線で繋がって。舞台のことも、有弘さんのことも、自分の言いたいことも全部がリンクして、それが上手くまとまったので、安心して夜眠ることができました(笑)。
伊東歌詞太郎
――そして、「きみをつれて」は、ノスタルジックな情景が見えるような。
例えば夏休みが来ると嬉しかったり、近所でやるお祭りが楽しみで仕方がなかったり。そういう純粋に楽しむ気持ちって、大人になると無くなってくるじゃないですか。僕は“もう大人だし”っていう気持ちはいらないんじゃないかと思うんですよね。いつになっても悲しい時や楽しい時はあるし、大人だからそういう感情をセーブしないといけないっていうことはなくて。“大人なんだから”っていう感情ではなく、子供のような純粋な気持ちにもう一度目を向けてみるっていうことは必要なんじゃないかなと思って。
――イノセントな。
そうですね。子供じゃなかった大人っていないじゃないですか。その気持ちって、人間は忘れないと思うんですよね。思い出せないだけで、消えはしないだろうし。そういう思いを込めて作りました。
――最後は「よだかの星」。これは歌詞太郎さんの曲だなぁ……と、しみじみ思いました。
そうでしたか! 『よだかの星』って悲しくて救いがなく、暗いお話じゃないですか。でも、僕は何回読んでも暗い話に思えなくて。よだかは醜くてめちゃめちゃ虐められるし、酷いめにあってばかりで。でも星になったら誰にも迷惑をかけることはないなと思って、頑張って最終的に星になって。そこで夜空を照らすんですよね。だから、すごく希望のある物語だと思うんですよ。優しさが本当の強さなんだよっていうことを教えてくれている気がして。この曲は先にメロディができたんですけど、歌詞は5分くらいで出来たので、僕がみんなに伝えたかったことなんだろうなって改めて思いました。
――僕は勝手ながら、歌に向き合う歌詞太郎さんとリンクして捉えました。
自分の人生と歌詞がリンクしないことって絶対ないと思うんですよね。昔バンドをしていた時も、悔しい思いをいっぱいしてきたので、「北極星」はもちろんですが、「よだかの星」も、よだかに自分を照らし合わせた部分があったかもしれないです。
――言い方が正しいか分からないんですけど、「自分には歌しかないんです」っていうことを以前からよくおっしゃってるじゃないですか。ある意味、それはコンプレックスなのかなと思ってて。
そうだと思います。歌以外やってこなかったから、他の能力なんて何もないし、音楽を通してしか人間的に成長していないから、他のことは何もできない人間なんだろうなって思いますし。
――“歌”っていう信じるものが一つあって、そこに突き進んでいく姿がよだかとリンクしたのかもしれないです。そして今作は、通販とライヴ会場のみでの販売なんですよね?
今のところはそうですね!
――こちらをゲットできるライヴが、まもなくスタートする『イトヲカシ全国路上ライブツアー』(取材は3月中旬)ということで。今回もたくさんの地域へ行かれるそうで……
いやいやいや、全然ですよ! 初めて路上ツアーを回った2013年には26ヶ所くらいぶっ続けでやって、一日休んで7ヶ所やって帰るっていう感じだったので、今回は全然楽な方です(笑)。
――基準が高すぎます(笑)。そして今回もフェリー移動があるとか。
そうなんですよ……酔う自信しかないです(苦笑)。以前のツアーで、岩手から北海道にフェリーで移動した時、深夜に手紙を読んでたんですよ。そしたら酔って“このままだとやばい!”ってなって(笑)、手紙を閉じて甲板に出たんですよ。あまり高さのないフェリーだったから、海から甲板までの距離が2メートルくらいで、そのうえ深夜だったから真っ暗でめちゃめちゃ怖くて!(一同笑) でも上を見たら星がきれいだったから「(空を見て)星綺麗だな~。(海を見て)うっわ! こわっ!!」っていうギャップを一人で楽しんでました(笑)。“怖い”っていう感情が酔いを覚ましたので、チャンスだ!と思ってすぐに戻って寝れたので、結果としては良かったのかな。
――都道府県としては、初めて行くところはないじゃないですか。ということは、二周目に突入する感じですかね?
正直、僕のいろんな経験を合わせると三周目になります(笑)。
――都市だと初めて行くところってあります?
ありますね。一度行った都市には行かないようにしようって話してるんですけど、(フリーライヴ開催場所の使用)許可がなかなかとれずで被っちゃうことは多々あったり……。でも、ライヴはパワーアップしてると思うので、みなさんに足を運んでもらいたいですね!
――最後に伺いたいのですが、今作が出て、今までアルバム『一意専心』『二律背反』とリリースされてますが、“三”がついているものは……
あると思います! 構想だけですけど、タイトルは決まっていて。その後も、なんとなく考えてはいますね。
――今回の『ほしねこ』を聴いて、歌詞太郎さんの純度が増してるなと思ったんですよ。歌詞太郎さんらしさというか。自ずと次のアルバムも気になってしまったわけでして。
タイトルが決まってるからこそ、どんなものにしたいかは決まってて。曲を作る時って、例えば宇宙のことを考えたり、量子物理学、ピカソの絵とか死後の世界……いろんなことを考えてて。だから、次回作はいろんなことを描くことに挑戦したいなと思ってて。それは、『ほしねこ』からちょっと始まってるんですけどね(笑)。自分の哲学みたいなものを入れ込んでいきたいなとは思ってます。
――『ほしねこ』では、次回作の一端を見ることができると。
間違いないですね。こだわって作っているので、多くの人に聴いてもらいたいです。こだわりといえば、ジャケットもかなりこだわってて。藤乃あめりさんに自分の想いを全部伝えて、ラフのやりとりも何度もして、完成したのを見た時、実際に「わぉ!!」って言っちゃいましたからね(笑)。イメージ通りのものがきたぞと。でも、パソコン上で見ている色と、印刷して見た色って結構変わっちゃうので、それを見越して、色も設定しないといけなくて。あめりさんには苦労をかけてしまいました……。あと、イラストを全面に出すと、イメージが限定されてしまうと思うんですよ。それはいい面もあるんですよね。でも、今回はシルエットにすることによって、曲たちを邪魔しないんじゃないかなと思って、シルエットがメインで柔らかい感じのジャケットに仕上がりました。なので、曲はもちろんですが、視覚的にも楽しんでいただけると嬉しいです!
インタビュー・文=風間大洋
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当選者の発表はご本人へのDMでの連絡とかえさせていただきます。応募期間は2016年4月15日(金)まで!
伊東歌詞太郎 『ほしねこ』
01. 北極星 作詞・作曲:伊東歌詞太郎
02. タワー 作詞・作曲:KEI
03. ミルクとコーヒー 作詞・作曲:伊東歌詞太郎
04. Role Praying 作詞・作曲:伊東歌詞太郎
05. 君をつれて 作詞・作曲:伊東歌詞太郎
06. シリョクケンサ 作詞・作曲:40mP
07. 猪突猛進ガール 作詞・作曲:れるりり
08. よだかの星 作詞・作曲:伊東歌詞太郎
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