モネやマティスも! フランス風景画の変遷をみる『樹をめぐる物語』展レポート
フランスの風景 樹をめぐる物語
新宿駅西口からほど近く、地上42階に位置する損保ジャパン日本興亜美術館にて、2016年4月16日(土)~6月26日(日)まで開催中の展覧会『フランスの風景 樹をめぐる物語』。モネやピサロ、マティスといった著名な画家たちを筆頭に、約110点の作品が並ぶこちらの展覧会の見どころを紹介したい。
描かれている「樹木」から、フランス近代美術史を読み解く
エミール・イーゼンバーグ《アルシエの泉》1905年頃 個人蔵
フランス美術、特に印象派などにおいては、「水」や「空」、「森」といった主題が展示テーマとして取り上げられることが多いものの、「樹木」はこれまであまり重視されてこなかった。しかし、樹木は風景を描いた作品のなかでも必要不可欠なモチーフであり、作品を享受する私たちの生活においても、普遍的で身近な存在でもある。そんな樹木が描かれた風景画にスポットを当てることで、目まぐるしく発展していく近代フランス絵画史の歩みをわかりやすく読み解こうというのが本展の試みだ。
会場風景
19世紀なかばから20世紀にかけて、フランス美術ではロマン派、バルビゾン派、印象派、新印象派、ポスト印象派、象徴派、フォーヴといったさまざまな流派が展開された。しかし、こういった流派の名前を知らない美術初心者でも、十分歴史をたどって楽しめる展示内容になっているので、安心して足を運んでほしい。
重要なキーワードや画法についての説明も、この通り。とてもわかりやすく解説されている。
序盤は、小さな芸術村・バルビゾンに集い、「ありのままの自然にならって描く」ことを目指した自然主義を提唱していたバルビゾン派の画家たちの作品が並ぶ。
テオドール・ルソー《樫の木のある風景》制作年不詳 山梨県立美術館蔵
そして、日本でも人気の高い印象派作品もずらりと並ぶ。モネやピサロなど、有名な画家たちが名を連ねており、ファンにとってはたまらない空間だろう。小ぶりであまり目立たないものの、セザンヌの銅版画も1点展示されている。ほかのコーナーにも、"黒の作家"として有名なルドンによる柔らかい雰囲気を持った色彩画や、挿絵画家ギュスターヴ・ドレのリアリズムあふれる写実画など、「えっ、あの作家がこの作品を?」と意表をつくようなものも多い。
(中央)クロード・モネ《ヴェトゥイユの河岸かの眺め、ラヴァクール(夕暮れの効果)》1880年頃 個人蔵
(右)ギュスターヴ・ドレ《嵐の後、スコットランドの急流》1875-1878年 個人蔵
新印象派を代表するポール・シニャックのこちらの点描作品は、もともとはチャーチル元英首相が所有していたとのこと。額も当時のままのものが使われているそうだ。こちらも、見どころのひとつといえるだろう。
ポール・シニャック《エルブレーのセーヌ河》1888-1889年頃 カミーユ・ピサロ美術館蔵
ポスト印象派のコーナーへと歩みを進めると、それまでの作品とは明らかにタッチの異なる樹木が並ぶ。この時代になると、「目の前にある自然の樹を描く」のではなく、「自分の内面にある樹のイメージを描く」といった方向性が主流となってくるのだ。フォービスムの代表的な画家であるマティスの作品では、色彩の強さや質感、タッチが重視されており、冒頭に展示されていたロマン派やバルビゾン派と比べると、明らかに自由度の高い表現であることが伺える。
アンリ・マティス《オリーヴの並木路》1919年 パリ市立近代美術館蔵
油彩が厚く重ねられ、凸凹になっている作品(エミリオ・ボッジオ《手すり》1909年 個人蔵)
美術史を読み解くだけでなく、地図的な楽しみ方も
このように、『樹をめぐる物語』展では、「美術史を目で読む」ことができる。しかしそれ以外にも、地図的な楽しみ方ができることもポイントだ。展示されている作品には、バルビゾンはもちろん、モネがフランスのジヴェルニーに移り住む前に身を置いていたヴェトゥイユといった村や、オワーズ川、セーヌ川などもしばしば登場する。これら数々のフランスの美しい田舎の風景に、想いを馳せることもできるのだ。また、同じ村や近しい場所に住んでいる画家同士の人間関係を垣間見ることができるという点も注目だ。
多角的に風景画を楽しむことができる『フランスの風景 樹をめぐる物語』展は、2016年6月26日まで、東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館にて開催されている。
会期:2016年4月16日(土)~6月26日(日)
休館日:月曜日
開館時間:10:00~18:00(金曜日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
会場:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
主催:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館、日本経済新聞社
公式サイト:http://www.sjnk-museum.org/