青年座公演『外交官』 横堀悦夫インタビュー 男優10人の会話劇で「なぜあの戦争は始まったのか」に迫る

 撮影/アラカワヤスコ

撮影/アラカワヤスコ

男優10人の会話劇で「なぜあの戦争は始まったのか」に迫る注目の舞台が、7月31日に開幕する。(8月9日まで。青年座劇場)

役柄は全員が外交官で、彼らはのちに「極東国際軍事裁判」、いわゆる「東京裁判」で「A級戦犯」の罪に問われることになる。登場する人物たちは広田弘毅、松岡洋右、東郷茂徳、重光葵、白鳥敏夫、加瀬俊一、斎藤良衛、太田三郎、大島浩、木戸幸一。広田弘毅は戦中に内閣総理大臣となった経歴を持ち、松岡洋右は日本が国際連盟から脱退したときの全権大使だった。いわば歴史の立役者ともいうべき登場人物たちが、それぞれの立場から、1931年の満州事変から1941年の真珠湾攻撃に至るまでの、日本外交の検証を繰り広げる。

その舞台で、戦後も鳩山内閣の外務大臣を務めた重光葵(しげみつまもる)を演じる横堀悦夫に、この作品と役柄について話してもらった。

背負っているのは日本政府であり日本国民

──まず、この作品の台本に取り組んだ時の印象を教えてください。

専門用語が多くて、難しい本だなと思いました。それから、お客様は誰に感情移入して見ればいいのか、そこがいちばん大変かなと。男たちのドラマとしては熱いものがありますが、どうしたら興味を持って、作品に入ってきてもらえるか、それが課題だと思います。

──横堀さんの演じる重光葵は、戦後の鳩山内閣で外務大臣を務めるなど、わりと穏健派の印象がありますね。

柔軟な人だったのではないかと思います。今回出てくる外交官の中には、松岡洋右元外務大臣とか元駐イタリア大使の白鳥敏夫、また東郷茂徳のように外交に自分の美学を持っているような人とか、頑なに自分の立場を曲げないというタイプの人もいますが、そのなかで重光葵は、相手がこう来たらこう返すというような、その場に応じて臨機応変に考えられるような、そういう頭の良さはあった人だったのだろうなと。

──この作品の背景は1931年の満州事変から始まり、国際連盟脱退、日独伊三国同盟の締結、そして1941年の真珠湾攻撃まで、日本の戦線が拡大し、世界の中で孤立化していく状況が描かれています。その時代を生きた外交官を演じるなかでどんなことを感じますか?

時代的に今のように情報をリアルタイムで世界中が共有できる時代ではなく、現地に行ってみないと本当のことがわからなかった。それは大きな違いだろうと思います。それから外交というのは人と人の付き合いですよね。国を代表して出かけて行って、その国を代表するような人物たちと会って、なんらかの判断をしなくてはならない。その重責というか重さはとてつもなかっただろうなと。背負っているのは日本政府であり日本国民ですから、もし間違って判断してしまった場合、日本全体に関わってくるわけです。この芝居に出る立場としては、そういう責任の重さを持った人間の存在の大きさを作り得るか、それが僕らのテーマですし、大きな責任を背負った外交官の生き様というのをどうやったら伝えられるか、とても難しいなと思います。

──社会の違い、状況の違いは大きいですね。

演じていてとくに思うのは、当時の政府も日本国民も国際世論というようなものをあまり理解してなかったように思うんです。今のようにニュースで相手の国の反応や世論が、そのまま伝わるような状況ではなかったわけですから。そのうえ当時は陸軍の力が強くなって、政治家も軍に動かされているなかで、あとはどう国民を味方につけるかということになり、それに振り回される外交官という図が浮かんできます。劇中にも出てくる松岡洋右の言葉で、僕はとても好きな台詞なのですが、日本が国際連盟を脱退したときに、松岡は「俺が相手にしているのは国際連盟じゃなく国内世論なんだろうな」とボソッと言うわけです。彼は脱退したくないんですが、そうせざるを得なくなった。そういう状況に日本は置かれていた。その「臭い」のようなものを芝居のなかでも出したいと思うんです。

──10人の登場人物たちは、それぞれ立場も違えば考え方も違うのでしょうね。

10人が10人とも、その人なりに自分が正しいんだと思って突き進んでいるんですよね。それは、自分は国を背負っているんだという誇りも強い思いもあるし、それゆえのパワーもあるので、ものすごい主張があったと思うんです。そのエネルギーのぶつかり合いがこの作品の見どころじゃないかと思います。観ている方に「あの人の言っている内容はよくわからないけど、なぜあんなに気負っているのかな?なるほど、それは国を背負ってるからなんだ」というそこを感じていただけると、ものすごく熱く生き抜いた男たちのドラマを届けることができると思っているんです。
 
撮影/アラカワヤスコ

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出てくる用語や言葉を理解していないと
 
──作家の野木萌葱さんは、まだ30代後半の女性で、2007年に『東京裁判』という作品も発表されていますね。

こういう題材を何作か扱われていて、とても面白い作家の方です。自分の劇団でも男ばかりの芝居を作られているようです。演出の黒岩(亮)さんもこの時代にとても詳しいんです。そういう2人の思いが詰まっている芝居です。女性も出て来ないし、男ばかり10人ですから、ちょっと殺風景なのですが(笑)。

──こういう討論劇というか会話劇ならではの難しさは、どんなところですか?

とにかく自分が発する言葉も、受ける相手の言葉にしても、その言葉自体を理解していないと説得力がないんですよね。たとえば「三国同盟」という言葉が出てきたとして、「その三国とはどこで、自分の役はその時どこで何をしていたか」、そこが埋まってないと相手の言葉をきちんと聞いたり受けることができないわけです。テーブルを囲んで会話していれば物語は流れていきますが、でもそれでは何も伝わりませんからね。国を背負った10人が世界中のそれぞれの任地にいて、1つの出来事に注視していたわけで、その「三国同盟」が成立したときに自分の役はどこの国にいて何を考えどう思っていたのか、また演じる個人個人が、これはどういうことだったのかという考えを持っていないといけないし、一言一言、「て、に、を、は」まで大事に喋らないといけないんです。いろいろな知識を調べて自分の中に入れる作業はたいへんです(笑)。でもだからといって稽古場がつらいわけではなくて、楽しみに毎日来ているんです。題材も硬いし、稽古も硬いんですが(笑)、でも61周年を迎えている劇団としては、こういうことをやるのも劇団の使命だと思っているので。

──劇団という形だからこそできる硬派の芝居だと思います。流されず立ち止まって考えるためにも、こういう題材を正面から扱う舞台は大事だと思います。

そうなればいいのですが。なにしろクソがつくほど真面目な芝居なんです(笑)。

──10人のほとんどが戦犯裁判にかけられるわけですが、そういう危機感も芝居の中で描かれているのですか?

もちろん自分たちが裁かれるという緊張感が、まず背景にあるわけです。そして「極東国際軍事裁判」、いわゆる「東京裁判」への裁判対策をしているなかで、その時代を検証していくという形になっています。ですから危機感と同時に、「歴史的事実でこうなった」という文書では表せない、外交官個人の心情がこの場では吐露されるわけです。どんな思いで関わっていったのか、たとえば軍の力に負けたとか、自分の立場を守るためもあったでしょう。それぞれの事情もそこにはあるわけです。

──そこは現代の私たちと組織や社会との問題にも、重なる気がしますね。
そんなふうに、それぞれの方の近づき方で、この芝居に心を寄せてもらえたら有り難いです。
 
撮影/アラカワヤスコ

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出ている役者の気持ちだけは本物なんです
 
──ところで役者としての横堀さんについても伺いたいのですが。青年座のメインの俳優さんとして、もう30年ですね。3月の『鑪─たたら─』ではイメージの違う軽妙な役でした。

僕は本当はああいう役も好きなんです。できれば芝居を観に来た方には、笑って楽しんで帰ってもらいたいほうなので。

──すごく振り幅が広くていろいろな顔を持っていますが、俳優を志した動機は?

僕はミーハーだったんです。演劇には縁がなく、高校時代はバンド活動をしていたんです。でも人前で何かするのは好きでしたし、なぜか縁があって青年座に入ってしまって。ですから芝居を観たのは研究所に入ってからなんです。それからはどんどん舞台の魅力にはまりました。いろいろなお芝居を観ていくうちに、「舞台って面白いぞ」と思って、それが役者を続けてみようと思ったきっかけですね。

──俳優としてやっていこうと思った決定的なエピソードはありますか?

エピソードというか、僕は劇団の先輩の山路和弘さんのような役者が好きなんです。見ていると「なんて色っぽいんだろう」「なんて艶っぽいんだろう」と憧れるんです。こんなふうにお芝居ができたらどんなに楽しいだろうと。もう20年以上前になりますが、一緒の芝居に出て、相手役だったんですが、芝居しながら目をうるうるさせて台詞を言ってくるんです。それが、山路さんは客席に向いてて僕には背中を見せて喋るシーンなんですよ。まだ若かった僕は、「え、なんだろ、見えてないのに、なんで?」と。その熱に「あ、これが舞台か!」と。セットも照明も音楽も全部作り物なのに、出ている役者の気持ちだけは本物なんですよね。それを尊敬する先輩が感じさせてくれた。そのことは、ここまで僕が芝居をやってこられたエネルギーになっています。

──そんなことがあれば確かに心奪われるでしょうね。その山路さんと今年3月の『鑪─たたら─』で共演しましたね。

久しぶりに共演させてもらって楽しかったです。稽古場では相変わらず厳しい方でしたが(笑)、それも含めて楽しい公演でした。

──横堀さんも、『鑪─たたら─』ではちょっとダメ男でしたが色気がありました。
ダメな人間を演じるのはすごく楽しいですね。青年座のある演出家に言われたんですけど、「その人のいいところ表現しようとする素人みたいな芝居はやめなさい」と。その人物の悪いところを表現できてはじめて演劇は成り立つと。普通の人間って、悪いところは人に見せませんよね。でもそういう表面的なことばかりやっていると演劇としては面白くないと。それを聞いてから、「そうか、この人の何が悪いだろう?」と、欠点というかマイナスなところを見つけていこうとするようになりました。ですからダメなやつをやるのは面白いんですよね。それこそ悪役がいとおしかったりすることに繋がるので。

──さらけ出されると、観客としてもつい受け取ってしまう部分はありますね。

「人間だもの、そうだよな、」と思うんですよね。根拠のない馬鹿なやつは許せませんけど、何がそうさせたのかというのをきちんと見せることができたら、そこも含めて愛されると思うんです。

当時の日本人の生き様、空気感などを感じてほしい
 
──横堀さんが青年座にいてよかったのはどんなところですか?

いい意味でいろんなタイプの役者がいて、いい意味でバラバラで、キャスティングされるとその都度びっくりするんです(笑)。もちろん今までに一緒に舞台をやった仲間もいて、知っているつもりなのに、「この役のとき、こんな面が出るの?」と。それは同時に自分もそのつもりでやらないといけないわけです。今回で言えば重光葵という実際にいた人物をやるわけですから、横堀にもきちんとした部分ありますよという(笑)、そこは出したいですね。

──皆さん作品ごとに違う顔で出てくるのが面白いですね。

雑種なんですよね。この役ではこの人がエリートというような突出した人もいなくて、いろんな人がいろいろな部分を見せてくれる。そこが青年座の面白いところかもしれません。

──作品が日本の現代ものから時代もの、翻訳劇と幅広いことにも関係あるのかもしれませんね。

そこも僕が好きなところで、すごくバラエティに富んでますよね。

──この『外交官』のあと、またすごく柔らかい役も来そうですね。

いいですね(笑)。真面目なのをやったかと思えば、すごく柔らかいのをやって、そのあと恐いのをやるとか、波があるほうが楽しい(笑)。同じようなことをやっていると芝居も固まってくるんじゃないかと心配になりますから。

──最後にこの重光葵での意気込みをぜひ。

意気込みはすごいんですが、お客様にこの作品をどうやったら受け入れていただけるかということを一番考えています。単に歴史的事実を見てもらうのではなくて、その時代に生きた外交官の熱い思いを見てほしいと思います。そして彼らとその生きた時代について少しでいいので思いを寄せてほしいと、

──今の世の中にも無縁ではないですからね。

たかだか70年前と言っていいのかわかりませんが、実際にその時代を生きた人たちの話です。歴史に興味のある方にはとても面白い芝居だと思いますし、歴史に興味ない方にとっても、これをきっかけに当時の日本人の生き様、空気感などを感じていただければと思います。
 
撮影/アラカワヤスコ

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よこぼりえつお○1963年、群馬県出身。青年座研究所第8期卒。映像や舞台で幅広く活躍している。青年座での主な出演作品は 『鑪-たたら』(2015)、『地の乳房』(2014)、『黄昏』(2010~13)、『横濱短篇ホテル』(2013)、『赤シャツ』(2001~12)、『THAT FACE ~その顔』(2012)、『妻と社長と九ちゃん』(2005~11)、『ねずみ男』(2008)など。

【取材・文/榊原和子 撮影/アラカワヤスコ】

 
 
〈公演情報〉


青年座第218回公演
『外交官』
作◇野木萌葱
演出◇黒岩亮
出演◇平尾仁、横堀悦夫、山賀教弘、矢崎文也、石井淳、山崎秀樹、高松潤、豊田茂、嶋田翔平、久留飛雄己 (※山崎さんの崎はつくりが立と可になります)
●7/31~8/9◎青年座劇場
〈料金〉一般¥4,200 O-70割引¥3,800 U-25割引¥3,000(全席指定)
〈お問い合わせ〉03-5478-8571
 
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