森大輔 新アルバム『Music Diner』から楽曲制作の根本に迫る
森大輔
MISIA、EXILE ATSUSHI、SMAPなど、多くのアーティストに実力を買われ楽曲を提供している森大輔が、アルバム『Music Diner』を3月23日にリリースした。アルバムについてはもちろんのこと、楽曲制作の裏側や事務所の先輩でもある久保田利伸とのマル秘エピソード(!?)も飛び出したインタビュー。そして、5月14日(土)からスタートする『森の音楽会 第七回 ~Music Diner~』についても一足先に語ってくれた。
──4thアルバム『Music Diner』にはどんなリアクションが届いてますか?
どうなんでしょうね(笑)。このアルバムを作り始める前の2年間ぐらいは、ライヴでやるために新曲を書き下ろすというサイクルだったので、お客さんのリアクションがその日に分かって、それが手応えになっていたんですよね。今回のアルバムのインストアライヴとかはあったんですけど、ライヴとしてはこれからなので、そこで手応えというか、僕の中での実感が形になってくるのかなっていう予感がしてます。
──お話にあった通り、今作は近年定期的に行なっていたライヴ『森の音楽会』で披露されてきた新曲を中心に構成されていますが、ライヴでやるための曲を作ることは、それまでの楽曲制作と心境が結構違っていたりもしました?
作る曲が変わってくる実感はありましたね。今までは、スタジオで自分の欲求やひらめきを形にするところからスタートして、ゴールもわりとそこに近い範囲のところで完成させる感じだったんです。でも、それがスタジオでやっている作業自体は変わらないけど、やっぱり届く人の顔を想定しているんですよ。今までは、相手がいるうえでのサプライズや創意工夫みたいなものを、曲に対して盛り込むということが自分の中にはなかったので、この作り方は単純にすごくいいなと思ってます。
──ライヴは毎回テーマを設けて行なわれていましたけど、テーマを考えてから曲を作る流れだったんですか?
そうです。最初にまずライヴ全体を考えたうえで、このテーマから連想できる曲っていうのはどんなものだろうっていう。でも、安易というか、やっぱりそうきたかとは思われたくないっていうところで、ちょっとひねってみたりもしてましたね。
──森さんは様々な方に楽曲を提供をされてますけど、何かテーマがあって曲を作るという意味では、提供曲を作る感覚と近いんじゃないかなとも思ったんですが、実際には近いようで遠い感じだったりします?
近いようで遠いっていうのは、まさにそうかもしれないです。他の人が歌う曲を作るときは、発注の内容があったり、イメージを先に伝えられたり、僕にとっての手がかりになるものが最初にあったうえでスタートを切るので、そういう意味ではテーマを決めて曲を書くというのは、同じようなスタートではあったんです。ただ、曲を作ってる間にやっぱり違う気持ちになりますね。
森大輔
──どんな気持ちですか?
誰かに曲を書くときは、その人の曲だからその人に気に入ってもらえるものにしようとか、迷ったときも、きっとこっちを気に入ってくれるだろうって、わりとサッと決断出来るんですけど、自分で歌うとなると、この2択でこっちを選んで、5年後にどう思うかなとか(笑)。そういうことまで考え出してしまうので、自分の曲はどうしても欲が出て制作期間が延びちゃいますね。
──実際に時間がかかってしまった曲はどれですか?
第6回(2015年12月に東京・大阪・福岡で開催)のときに作った「だれかのラブソング」は、曲自体はわりとすぐできたんですけど、歌詞やアレンジをどうしようっていうところに時間を使いすぎちゃったんですよ。
──曲としてはウインターソングになってますね。
クリスマスソングにしたいなとは思ってたんですけど、主人公はどういうスタンスでクリスマスを見ているんだろうっていうところで悩んでたんです。12月に入った途端にクリスマスを満喫するタイプのパーティーピーポーなのか(笑)、あるいはクリスマスなんか早く終わればいいのに!って、ひとりで思っているタイプなのか……どっちにしようかと思って。でも、時間をかけた結果、どちらかに振りきるだけが答えでもないなと。それで、クリスマスに対してちょっと冷めてるけど、街の雰囲気は実際に楽しげだから、それを見て心が雪解けしていくっていうものにしました。なんかこう、楽しげな雰囲気に流れされちゃった感じの人というか(笑)。でも、誰しも多かれ少なかれ、そういうのってあるじゃないですか。それをいかに素敵に書くか?っていうのがテーマでしたね。
──そういったライヴのために作られた曲と違って、アルバム用に書き下ろされた「The End」は、音もすごく無機質だし、男女の終わりを描いたものになっていて。結構真逆のような雰囲気もありますよね。
(アルバム収録曲は)ライヴのテーマソングとして作ったものが半分ぐらいなので、残りの曲もそれと同じぐらいキャラクターが強いものじゃないとなって思ったんですよね。それで、ライヴで歌うことを想定せずに曲を書こうと思って。そこである意味勇気が出たというか。
──勇気ですか。
人が聴いたときに、ザワつく曲でもいいかと思って(笑)。ここまで振りきっちゃうと、ライヴでやったときに雰囲気が悪くなるかもなって思うと、ちょっと言葉をマイルドにしちゃったり、ストーリーをやんわりさせたりしちゃうところもあるのかもしれないんですけど。この曲に関してはアルバムに入れることが一番の目的だから、言うだけ言いきっちゃおう、余計なことを考えずに、遠慮なく酷いことを書いちゃおうと(笑)。
──ははははは、酷いことを(笑)。
一言で言っちゃうと、酷い男のことを書こうと思ってたんですよ。でも、書き終わった後にこの人そんなに酷くないよなって思い始めて。言っていることは酷いんですけど、男性が女性に別れを告げるときって、これぐらいの覚悟とか揺るがぬ決意が本人にあるというか。そうしないと、ずるずる引きずってしまったりして、自分も相手も不幸になるんじゃないかっていう。多分自分の心も痛んでいるはずなんだけど、それを相手には見せずに、気持ちがないから手を離してくださいっていうことだけを簡潔に言うのは、ある意味すごく誠実だなっていう気がして。でもまぁ、どうかはわからないですよ?(笑) 世間的には「なに言ってんねん!」って話かもしれないですけど。
森大輔
──でも、バシっと言う優しさってあると思いますし、人によっては自分がそういう言葉を言いたくないから、相手に言わせるようにしむける人もいるじゃないですか。それはちょっとズルいなと思いますし。
あぁ……そういうのありますよね。なんか、男性ってとかく「ズルい」って言われるけど(笑)、全然ズルくないやつですね、この人は。だから、とりつくしまもないぐらい頑なな態度なんですけど、ある意味潔い曲かなと出来上がってからは思ってます。
──他にも新曲としては、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」をかなり大胆にアレンジされたものが収録されていて。コーラスワークがかなり美しいですね。
こういうクラシックの変奏バージョンみたいなものを、実はデビュー前に一度作ったことがあったんですよ。そういう音楽に興味のない人が聴いても楽しめるようなおもしろいものができたらいいなと思って。それをふと思い出したんですよね。他の曲のキャラクターも強いから、それに対抗できるのはこれかなと思って。
──そのなかで、この曲をチョイスした理由というと?
単純に好きな曲だからというのが理由ですね。ラヴェルとかドビュッシーとか(ガブリエル・)フォーレとか、フランス近代の作曲家の曲が個人的にすごく好きなんですよ。最終的にはメロディが口ずさみやすいからっていう理由もあったんですけど、最初からそういう作曲家の曲を羅列して、この曲を選びました。
──3歳からクラシックピアノを習われていたのもあって、この辺りはルーツでもあるわけですよね?
そうですね。習い事としてやっていたから、課題曲なんかは先生が丸をつけてくれたら次にいくっていう、指示されたままにやっていた感じだったんですけど、自分が音楽に対して興味を持ったのは、響きの部分なんですよ。ドミソにシの音を足したら、なんかじわ~っとくるなぁみたいな。そういう音の積み重ねとか、響きで雰囲気が変わるっていうのがすごくおもしろかったんです。そこからジャズとかに興味を持ち始めて。ジャズってすごく音の響きが複雑な音楽だし、それこそラヴェルとかドビュッシーはジャズと関連してくるところもあると思っているので、選んだのは結構必然的なところもあったかもしれないです。
──好きなものから選んだということでしたけど、セルフカバーの「close to you」も同じ理由で選んだんですか?
そうですね。僕にとってセルフカバーを入れる理由は、誰が歌ったかとか、何枚売れたかとか、そういうことは関係なかったんです。自分が提供させてもらった曲の中で、自分が歌うことで別のものとしてちゃんと形になりそうなものはどれか?って考えたときに、この曲が一番思い入れもあったし、女性の曲を僕が歌うことでおもしろくなりそうな確信もあったので、この曲を選びました。
──あと、後ろで聴こえる水が流れるような音が気になったんですけど。
あれは、パーカッショニストの方に来ていただいたんですけど、見たことのない楽器をいっぱい出してきてくれたんですよ。それはどんな音がするんですか?って一個一個振ってもらったりして。なんかね、アルパカの爪とかあったんですよ。
──アルパカの爪!?
何頭分かはわからないですけど(笑)、アルパカの爪が房みたいになってて、それをシャカシャカってやるだけで味のある音が出るんですよ。実際に収録しているのは、アルパカではなかったと思うんですけど、あれなんだったのかな……(笑)。
──そういうものって曲に取り入れてみたくなります?
なりますね。でも、今まではそうでもなかったんですよ。ここ2年ぐらいで、それこそ僕自身の心が雪解けしてきたというか(笑)。今までは良い音かどうかということに対して、シビアというか生真面目すぎるぐらいの感じでレコーディングに臨んでいたので、チープな音を楽しむ余裕っていうのがあんまりなかったと思うんですよね。
森大輔
──そうやって心が雪解けしていったのは、それこそライヴが大きかったりします?
大きいと思います。ライヴも今まではレコーディングで音を鳴らすのと同じような感覚でしているところがどこかしらにあったんですけど、もっと無責任でもいいかって思えたところがあって。その場ではもちろん全力を出すんですけど、その結果どう転がろうがほったらかして次に行ったり、起こりえないことが起こることがライヴのおもしろさだと思えば、上手に歌うというのは必ずしも一番ではないのかもしれないなっていうのは思い始めましたね。
──そして、2009年に発表された「inside U」を、「inside U ~New Flavor~ feat. Toshinobu Kubota」として収録されてますね。フィーチャリングされている久保田利伸さんとは、所属事務所の先輩後輩の間柄になるわけですけど、久保田さんが参加された経緯としてはどういう流れだったんですか?
最初は本当に思いつきで、♪ダッ、ダッ、ダ~っていうフレーズだけを歌ってもらいたいっていう感じだったんですよ。結構衝動的な感じで。しかも、出番としてはそこだけだからっていうので「feat. Toshinobu Kubota」っていうのを当時入れてなくて(苦笑)。
──あ、じゃあ当時から久保田さんが歌われていたと。
そうです(苦笑)。もう、ものすごく厚かましいことをしてたなって思うし、今改めて思うと本当にすみませんという感じもあって、今回はちゃんとお名前を入れさせていただきます!っていう。
──そうでしたか(笑)。この曲を歌い直したのはまたなぜですか?
これもライヴがキッカケだったんですよ。この曲をピアノの弾き語りで歌うことが増えてきたんですけど、そうしていたことで、だんだん音源から独立して、ライヴでやる「inside U」に変化してきた感じがあって。当初この曲を収録するつもりはなかったんですけど、年末にこの曲をライヴでやったときの評判がすごくよかったんですね。「今の森くんが歌う「inside U」を音源で聴きたい」っていうリアクションもあったし、この曲のテーマがすごくアダルトな感じで、当時はまだ20代でちょっと背伸びをして歌ってたような感じもあったから、今だったらもう少し等身大で歌えるかなって思った部分もあったりして。それで急遽録音しました。
──そんな楽曲達が収録されたアルバムのタイトルが『Music Diner』なわけですけど、どういうところからつけたんですか?
コンセプトアルバムじゃないと思って作っていたんですけど、いろんな曲が広い範囲に散らばっているし、それぞれの曲がコンセプチュアルだったんですよね。そこでタイトルを考えていたときに、自分自身が料理好きっていうのもあるんですけど、レストランでのコース料理ではなく、多国籍で何でもありな定食屋さんで、好きなものを見つける感じのアルバムなんじゃないかなと思いまして。それで、レストランではなくて、もうちょっとカジュアルな「食堂=Diner」という意味で、このタイトルにしました。
──アルバムタイトルを掲げたライヴも、そういうカジュアルな感じになりそうですか?
そうですね。コース料理みたいに一本筋の通ったものというよりは、いろいろ寄り道したりしながら、雑談も交えながらやるような感じにするのが、一番しっくりくるかなっていう気がしてますね。今いろいろと考えているので楽しみにしていてください。
インタビュー・文=山口哲生 撮影=風間大洋
森大輔
◆日程:2016年5月14日(土)
◆場所:ROOMS(福岡県福岡市中央区大名2丁目1-50 大名ONOビル3階)
◆時間:17:30開場 / 18:00開演
◆料金:4,000円+1ドリンク代(全席自由/1人2枚まで)
◆主催/お問い合わせ:キョードー西日本(092-714-0159)
◆日程:2016年5月21日(土)
◆場所:shibuya WWW(東京都渋谷区宇田川町13-17 ライズビル地下)
◆時間:17:00開場 / 17:30開演
◆料金:4,000円+1ドリンク代(全席自由/1人2枚まで)
◆主催/お問い合わせ:DISK GARAGE(050-5533-0888)
◆日程:2016年5月29日(日)
◆場所:なんばHatch(大阪府大阪市浪速区湊町1-3-1)
◆時間:16:30開場 / 17:00開演
◆料金:4,000円+1ドリンク代(全席自由/1人4枚まで)
◆主催/お問い合わせ:キョードーインフォメーション(0570-200-888)