渡辺大知・荒川良々・中村まことの動画来た!『男子!レッツラゴン』!

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2015.7.31

赤塚不二夫生誕80周年+男子はだまってなさいよ!10『男子!レッツラゴン』が7月30日、下北沢・本多劇場で開幕した。


初日終演直後【コメント動画】: 左から中村まこと(おやじ)、渡辺大知(ゴン)、荒川良々(ベラマッチャ)

「男子はだまってなさいよ」は、“笑いの鬼才”細川徹が主宰し、作・演出をおこなう演劇ユニットだ。2002年の旗揚げ以来、独特の、くだらなさすぎるバカ・ワールドを追求し続け、笑い好きの観客たちから熱い支持を受けてきた。今回記念すべき10回目の公演をおこなうにあたり、赤塚不二夫の傑作漫画『レッツラゴン』の舞台化を企てた。「男子」は2010年に『天才バカボン』の初舞台化をおこなってフジオ・プロダクションから信頼を得ており、今年の再演を提案されたとのこと。しかし「せっかくなら」という細川の思いによって『レッツラゴン』上演を逆提案し、その許可を取り付けたとのこと。

『レッツラゴン』は1971年から1974年にかけて週刊少年サンデー誌に連載されたギャグ漫画。赤塚漫画史上、最もアナーキーで、狂気を帯び、疾走感がハンパではなく、悪意に満ち、破壊力を持った、規格外のナンセンス漫画として、好事家たちの間では伝説的な作品である。赤塚自身も「自己最高傑作」として愛したが、発表当時、少年向け漫画として時代の先を行き過ぎていたためか、正当な評価を得られぬまま連載途中で打ち切られた経緯を持つ。アニメ化されることもなく、『天才バカボン』や『もーれつア太郎』『おそ松くん』などの著名作品の陰に隠れて一般的知名度の低かった最重要作品に、作家生誕80周年でもある今年の公演でスポットを当て甦らせようとする、細川のセンスある心意気は、それだけで大いに評価に値することだ。

ただし今回のタイトルが『男子!レッツラゴン』とあるように、作品は『レッツラゴン』の単なる舞台化ではなかった。宣伝チラシのイラストが、オリジナルのゴンの顔半分と、座付イラストレイター五月女ケイ子に描かれたゴンの顔半分の合体だったことも暗示的だった。30日に初披露された舞台は、『ゴン』の基本設定を借りつつ、これまでの「男子」ワールドが隅々まで充満するものでもあったのだ。『ゴン』の登場キャラがすべてが出てくるわけではなく、トーフ屋のゲンちゃん、ませり、ちゃわんむし等が不在なのはやや淋しくもあった。それだけ『ゴン』の純度が薄まったといえるかもしれないが、しかし『ゴン』も「男子」もバカに対する求道精神としては同一の方向性を共有しているのだから、面白さの質は一緒だ。

それに、である。周到なことに、作品冒頭からコミック原作の実写化について問題提起がなされる…もちろんコントという形で。つまり『ゴン』の主要キャラ(ゴン、おやじ、ベラマッチャ)によって、『ゴン』がどのように実写化ないし舞台化されるべきかが問われるという構造。むつかしく言えば、自己言及的メタシアターだが、赤塚もまた『ゴン』や後期『バカボン』の中で笑いの手法としてそういうことを頻繁にやっていたことを知る者としては「細川も深いところで本質を突いてるな」と思うのである。

と同時に、映画における実写化以上に、コミックの舞台化が困難を伴うものであることなど「重々自覚しているぞ」という細川流の弁明…いや宣言であるとも読めた。それは作り手の並々ならぬセンスと工夫を試されること。昨今はそういうものへの解決策の一つとして「2.5次元シアター」なるものも台頭しており、そうした新潮流を実験的に取り扱った批評的コントが後半に登場したのもさすがだった(まあ、一昨年にも「テニミュー」風なシーンがあったが…)。

世の中で人気の様々な流行物がパロディ的に取り上げられるのも「男子」の特徴だ。「朝の連続テレビ小説」「ピクサー」「マッドマックス」から果ては「村上春樹」に「セッション」…。前述の「2.5次元シアター」もそうだ。さすが、放送作家、映画監督からサンリオピューロランドのキャラクターショーの脚本演出まで幅広く各種表現ジャンルを手掛ける細川ならではと思わせる。それらのものを演劇という表現の中にどんどん投入することによって、実は演劇それ自体の在り様に迫っているところがまた心憎い。また、筆者のような流行に疎い人間などは、パロディを見ただけでオリジナルを見たようなつもりになってしまうので、便利な演劇とも思えるが、果たしてそれでよいのか(笑)。

思えば、赤塚も大の映画好きで、己の漫画の中に映画や歌謡曲、テレビや文学作品などの様々なパロディを軽々とした身ぶりで取り込んできた。「歌は世につれ…」云々というが、漫画も芝居も、古来より世につれるべきものなのだ。ここでも赤塚と細川の本質的な近似性・親和性のようなものを強く感じずにはいられない。

それにしても舞台において何がいいかって、やはり役者である。ゴン役の渡辺大知。元々は黒猫チェルシーのボーカルだが、蒸し暑い今年の夏にあって一服の清涼感が心地よい。ベラマッチャ役の荒川良々の存在は言わずもがなの強度を放ち続ける。そして、おやじ役の中村まこと。数ケ月前に『ウィンズロウ・ボーイ』で敏腕弁護士を演じて、大評判をとったばかりの彼が、ナンセンスの世界に戻ってきたわけだが、素晴らしい声を武器に、バカを演じるにも風格さえ感じられる。そしてバッファロー吾郎A、ラバーガール、シソンヌ。繊細な芝居心をわかっている芸人の芝居は味わい深い。さらにスチャダラパーのANIという演劇界外部のアウトサイダー。そういった演劇の内外に出自を持つ人々が集まって作られるシュールな笑劇は実に豊かだ。客席の中に有名歌舞伎俳優の顔も見えたが、そういう人にも参加して欲しいと思った。

細川は「何も残らないバカ芝居」を標榜しているが、その実、色々なことを考えさせられ、色々な収穫を得られた舞台だったので、色々な人に観ていただきたいと思う。とくに高校生以下は1000円で観られるというので、若いうちから、こういった自由で豊かな表現に接して、感性を柔らかにして欲しいとも思う。…ということを高校生以下の人々に声高に伝えるには如何すべきであろうか。

なお、今回第10回公演を記念して(?)、そこそこ読みでのある公式パンフレットが劇場内で販売されている。『レッツラゴン』において赤塚のブレーンを務め、漫画の中にも頻繁に登場していたクソ武居記者=武居俊樹と細川との対談がイープラスのサイト内に部分的に掲載されているが、その完全版が読めることも貴重だ。史料価値の高い公式パンフもよろしければぜひ、といったところだ。


 
公演情報
赤塚不二夫生誕80周年+男子はだまってなさいよ!10
『男子!レッツラゴン』


原作:赤塚不二夫
作・演出:細川徹
音楽:スチャダラパー
出演:渡辺大知(黒猫チェルシー) 荒川良々 ANI(スチャダラパー) バッファロー吾郎A(バッファロー吾郎) ラバーガール(大水洋介・飛永翼) シソンヌ(じろう・長谷川忍)/ 中村まこと

期間:7/30(木)~8/9(日)
会場:下北沢・本多劇場
公式サイト:http://www.dansiwa.com/gon/



 
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