追悼・森岡賢「最後まで心が揺れ動く人だったからこそ、幅広い作品作りが可能だったのかもしれない」
森岡 賢/撮影=北岡一浩
亡くなった、というよりは失ったという感じがして気づいた。あー、やっぱ独自な人だったんだな、と。最後まで独自で通せたからいなくなった感も大きいんだな、って。
1989年、ソフトバレエでデビュー。美輪明宏の大ファンだった彼は、美輪さんの若いころにも匹敵する美少年として姿を現した(ちなみに大作曲家・編曲家である父・森岡賢一郎は美輪明宏のアレンジも手がけている)。ライブで言えば弾かないで見せるキーボーディストの誕生だった。ギターやベースと違ってパフォーマンスしづらい鍵盤楽器。でも時代は演奏の多くをコンピュータに託せる状況に入りつつあった。そこをうまく活用したのが森岡。音大の付属高校から音大に入り、かつ10代の頃から音楽の仕事をしていた彼だから、弾こうと思えば十分に弾ける。弾けるのに最低限のプレイにとどめてあとはパフォーマンスに専念する、という発想の転換。'90年のマドンナの大ヒット曲「ヴォーグ」で広まったヴォーギングというダンスを取り入れるようになってからは、そのスタイルはゆるぎないものになっていく。
例外は'07年に参加した布袋寅泰のツアー。そこで彼はキャリア上初めてとも言える全編生演奏を披露してみせた。が、格好の方は男臭いルックスのメンバーたちの中で唯一、床まで届きそうな煌めくマントに身を包んで全く異なるオーラを放っていた。'14年にはソフトバレエ時代からの盟友・藤井麻輝と共にminus(-)を結成。ここではボーカリストとしてハンドマイクでステージを歩きまわりながら歌う姿も披露。時にはショートパンツに透けたタイツという20代の頃と変わらない姿で。40代後半になってもそれが不自然じゃない所に自分の保ち方のほどが見えていた。BELLRING少女ハートと共演した時、一番目立っていたのも森岡。それは49歳で亡くなる1年ほど前のことだった。
音楽の話をしよう。彼はYMO、クラフトワークといったシンセグループを通過しつつ、'80年前後に花開いたニューロマンティックスという着飾ったポップロックに影響を受け、さらにはクラブミュージックにハマっていった世代だ。このシンセ、ポップ、ヴィジュアル、ダンスビートという要素に歪んだギターや遠藤遼一の野太い声というロックな側面を加えて、ソフトバレエは存在した。早すぎた、というのは彼らを語る時の定番の枕詞だけど、このいいとこ取りな音楽性は'90年代前半ではまさに先取りだった。しばらくしてテクノ+ロックなプロディジーが世界的な大ヒットになったとき、森岡がすごく悔しがっていたのもうなずける。
ソフトバレエ/撮影=北岡一浩
ソフトバレエではダークだったり実験的だったりする曲は藤井麻輝の作、華やかだったりポップだったりするものは森岡の作であることが多かった。その傾向は森岡のソロ作品を耳にしても変わらない。個人名義のものはポップなダンスチューンから静的なアンビエントチューン、クラブトラック的なものまで多岐にわたるけど、そこにはいつも密室で作られたとは思えない華があった。加えて、品の良さが漂っているのも印象的だった。その時代時代のクールさにもすぐ反応する人だったからEDMやダブステップ的なエグい音も嬉々として取り入れる。一方で磨きこまれて光を放つ上品な音づくりも多数手がけている。聴き手を音色の快感に誘い込む作品たちを。品の良さというのは後付けしにくい要素。そこを音楽にうまく転化させられたことでも、彼は希少な存在だった。
そして素顔の彼もその顔立ち同様とても品が良かった。汚いことはあえて口にしない。その感じは何度か会ったことのあるDAIGOともよく似ていた。よく育ちがいいというだけで否定的な見方をする人がいるけど、育ちがいいからこそ表現できるものが確かにある。森岡はそのことを知らせてくれた一人でもあった。もうひとつ人間的な部分で言うならば、彼はものすごく純粋な人だった。いつも作品作りをしている時のような敏感さで、創作についてガーッと熱く語る。そのあとで「あ、すみません、えらそうなこと言って」と謝る。それは彼と面と向かって話したことのある人にはおなじみの光景だろう。デンと構えていれば大ベテランで通るのに、未だにそういうむき出しの心を持っていた。SNSでもつい最近まで、“ボクなんかまだまだで”的な発言をしていたし。
ソフトバレエ時代はスターになることを渇望したこともあったという森岡。もし彼が図太い心の持ち主だったらそれこそプリンスのような存在になっていたのかもしれない。でも、最後まで心が揺れ動く人だったからこそ、いつまでも幅広い作品作りが可能だったのかもしれない。ステージで衰えない若さを見せ続けられたのかもしれない。そんな、もう正されることのない仮定をいくつも並べつつ、旧作を聴く日が続きそうだ。R.I.P.
文=今津 甲 撮影=北岡一浩
森岡 賢/撮影=北岡一浩
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出演: J / minus(-)
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