エンタメ業界の今に切り込む新企画【ザ・プロデューサーズ】第二回・相馬信之氏

インタビュー
音楽
2016.7.1

――そこでflumpoolなんですね。

スタッフから彼らの音を聴かされ、面白いじゃん!と思って大阪に観に行きました。そこで、当時はお客さんもまだまだ少なかったのですが、直感的に彼らとやると決めました。ただ曲に関してはまだまだつめなければいけないところがあったので、会ったことなかったんですけど、アゲハスプリングの玉井健二さんに連絡をして、手伝って欲しいとお願いをしました。

――アゲハスプリングのセンスと組んでみようという発想も、さっきもおっしゃっていましたがいつも好奇心を持って、色々なことを観たり聴いたりしている中から出てきたものですか?

それもあると思います。あとはもし自分がミュージシャンだったら、どんなマネージメント事務所に所属したいかをいつも考えます。昔はプロダクションに所属する最大の強みというのは、きちんと権利分配を代行してくれてテレビ・ラジオ・雑誌・新聞の4媒体に影響力を持てることだったと思いますが、今はテレビに重心を置かなくても売れているアーティストも増えてきています。アーティストが、アミューズにいる意味は?と考えた時に、やっぱりアミューズにいたいと思わせないといけないんです。考えようによっては個人事務所的な発想が一番活動しやすい時代ですから、どんなやり方にも負けないくらいの環境とシステムとネットワークをどれだけ持っているかが大切になってきます。個人事務所でやるよりも、他の誰かとやるよりも、アミューズとやるのが一番いいし、メリットもたくさんちゃんとあるし、印税なども、アーティストにフェアに分配してくれるし、そういう会社を作ることが僕らの役割だと思います。そういうことを考えていくと、自分たちの利益追求も大切ですが、それよりもアーティストの価値を上げて、お客さんの信頼を勝ち取っていかなければいけないという、フェアな事しかできないんです。今売れているアーティストは、もともと売れる素質を持っていたんです。長い事一線で活躍しているアーティストは、みんな頭がいいし、良い意味でやりたい事に対してわがままだし、自分のプランを持っているからセルフプロデュースができる。そういう人達がいたいと思う会社にしていかなければダメなんです。

――アーティスト同士は色々情報交換もしているでしょうし。

そうなんです。そういう時に、やっぱりうちがいいんだと思わせなければいけないということですよね。

ザ・プロデューサーズ/相馬信之氏

ザ・プロデューサーズ/相馬信之氏

――今売れるアーティストには元々素質があるというお話が出ましたが、相馬さんがアーティストを発掘するときに、大切にしているポイントはどこですか?

僕の場合は例えば円グラフがあって作詞・作曲能力、表現力、ボーカル力、練習力とか色々な項目があった時、バランスがほどよく取れてるとダメですね。ひとつだけ突出している部分がある人がいい。バランスが取れているものって面白みがないですよね。5点満点でひとつの部分だけでも7点くらいの分野があるといいですね。そこは作ろうと思っても作れる部分ではないので。それ以外の部分は補えるんです。作詞・作曲能力が甘くても、人に作ってもらえばいいんですよ。例えば松田聖子さんは素晴らしいシンガーじゃないですか。どんな人が曲を作っても松田聖子さんの曲になりますよね。歌と表現力が突出してる。ああいうところがないとだめですよね。昔は自分の好みというか価値観で判断することも多かったですが、最近は全然ないですね。やっぱりヒットするものは、だからこういうものは当たるんだ、流行りなんだといわれてる段階で、もうそれはダメだと思います。今そこにないものですよね、凄い!と思うのは。驚きがあるものは、現存してないから驚きがあって面白い、かっこいいと思うわけで、そういうものを求めています。

――今、相当お忙しいと思いますが、新人発掘のためにライヴハウスには今でも行きますか?

出来るだけ行きます。新人のライヴが一番楽しいですよね。やっぱり未知のものは楽しいです。例えばミュージカルを観ると楽しいじゃないですか。舞台も面白いです。ミュージカルや舞台を観に行くのも好きなんですよ。先日、アミューズ所属の女優・深津絵里さんと、歌舞伎役者の中村七之助さんが共演した舞台『ETERNAL CHIKAMATSU 近松門左衛門「心中天網島」より』を観たのですが、もう痺れました。演出は世界で活躍しているイギリスの演出家デヴィッド・ルヴォーで、深津さんが以前に『春琴』という舞台にも出演したのですが、役者の凄さ、極限の演出ってこういうことなんだと本当に勉強になりました。言葉ではなく演者の力と、ミュージカル的なからくりの部分が視覚的にも素晴らしく、感動しました。同じくアミューズ所属の三宅裕司さんが座長をやっている舞台「熱海五郎一座」もすごく面白いですよ。大ファンなんです。劇団員の皆さんそれぞれが素晴らしく、自分たちが演劇そのものを楽しんでいらっしゃって、全然べったり感がなくて素晴らしいです。

――確かに 今アミューズさんは映画もできるし、ドラマもできるし、舞台もできるしもちろん音楽もある総合エンターテインメント企業になりました。

それはお世辞でもなんでもなく、大里会長の功績だと思いますよ。大里さんは楽しいことは何でもやりたがる人なんですよ。まずはやってみる、そういうところに我々は感化されて育ってきたのだと思いますし、手がける分野の仕事が広がってきたのだと思います。自分たちが楽しめること、人が喜んでくれることは、なんでもやりたがるっていう社風があると思います。

――エンタメ総合企業といえば、今年は新日本プロレス(新日)と業務提供されたりとか、ファッションブランドを迎えたり、今までにはなかった動きが見られますが、やはりこれも相馬さんが中心となって動かれたものですか。

そうですね。僕だけがやったのではありませんが、例えばみんなから「何で新日なの?」って聞かれるのですが、これは簡単なことなんです。僕はアジアなどでの事業も見ているのですが、日本のエンターテインメントがなかなか届いていないということを痛感した時、「アクション」があったと思ったんです。ブルース・リーやジャッキー・チェン、ジェット・リーといったアジアの役者が世界的アクションスターになっていたり、インドネシアの映画『ザ・レイド』が大ヒットして、その主役イコ・ウワイスという役者は映画の大ヒットとともに大スターになり、ハリウッドからも声がかかり、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』にも出演したりしています。アクションって海を超えるんです。日本にはアクションスターが出てきていないですよね。もっというと、僕自身がプロレス好きだという事もありますが、WWEのレスラー、ドウェイン・ジョンソン=ザ・ロックは、去年ハリウッドで一番ギャラを稼いだ俳優なんです。そういうことを考えた時に、プロレスってアジアではまだまだそんなに根付いていなくて、新日はマーケットを求めてアジアに打って出たいという戦略がある。我々はアクションスターが欲しいし、プロレスラーは体もいいし表現力もある。だから彼らがアジアで何かをやるときに、彼らを売り出していくのも面白いなと思い、新日さんと色々とお話をさせていただきました。国内も合わせてプロレスラーの価値を上げるということをやりたいんです。プロレスってまだまだ市民権を得られていないところがあって、そういうのを払拭したいんです。プロレス好きの文化人や有名人がもっと声をあげ、例えばプロレスを題材にした映画を作るのもおもしろいかなと思います。そこにアミューズの役者が出演するということでもいいと思いますし、とにかくプロレスラーって凄くてかっこいいと思わせたいんです。体をあれだけ張ってやっていて、しかも才能がある人たちなので。プロレスって、ライヴに似ていると思いませんか?昔のロックミュージシャンって、みんなプロレスが好きだったんですよね(笑)。お客さんの感情の掴み方とか、アピールの仕方とか、カタルシスの持って行き方とか、プロレスとライヴは似ているところがあるので、相乗効果が期待できると思っています。もちろん新しいビジネスを一緒に構築したいですし、アジアでの興行もアミューズのアジア事業部がお手伝いさせていただきますしね。

――プロレスそのものの価値、レスラーの価値を上げていきたいということですよね。

そうです。ギャランティの部分もしっかり考え、その部分でお互い納得できれば選手のモチベーションが上がって、それが試合にも影響してきます。選手に価値を持たせたい、そういうところ、考え方でも新日本プロレスの木谷オーナーと合致しました。僕が「希船工房」という製造会社を設立してアパレルを傘下に入れたりしているのもそういうことに繋がっていくことなんです。僕ら音楽業界、プロダクションの大きな収入元はライヴの興行収入とマーチャンダイジングじゃないですか。現状、もうこれしかないといっても過言ではありません。マーチャンダイジングって、いいグッズを作って、お客さんに買っていただいて、またカッコいいもの、素敵なものを作って販売すること。もちろん通販もありますし、これらの利益率をあげるためにどうするか、つまりアーティストに少しでも多く分配するにはどうすればいいかが大切なんです。それには製造コストを下げて、いいものを作ってたくさん買ってもらうしかありません。コストを抑えるには製造部分から変えるしかありません。外注してコストがかかるのであれば、そこも自分達でやればその分もアーティストに分配することができるということです。大前提として、アーティストもファンも納得できるカッコいいもの作らなければいけません。だったらアパレルブランドを手に入れるしかないということです。デザイナー、パタンナーもそうですし、製造他色々なもの、流通含めてその道のプロと組まなければ、素人がやっても単なるアーティストグッズ屋にしかならないんです。そのこだわりがやがてアミューズが作るグッズってかっこいいよねと評判になって、ドライブ感が出てくるし、そのうちアーティストからももっと新しい分野のものを作りたいというアイディアが出てくると思います。それにはきちんと一流のデザイナーや製造管理も含めたプロのスタッフが集まってくるようにならなければダメだと思いますし、その先にアーティストブランドのアパレルを展開することになるかもしれません。要するに単なるタレントグッズを売っているだけではいけないということです。デザイナーは作品を通して、アパレルという文化を作っているんです。ということはデザイナーとミュージシャンや役者が一緒にコラボしてもおもしろいですし、新しいコンテンツや商品形態が産まれてくる可能性も追求したいんですよね。製造会社の「希船工房」を設立した理由はそこにありますね。

――なるべくグループ内で完結させ、その分アーティストの利益を確保するということですね。

そうですね!ただ、利益だけではなくアーティスト活動に必要な人脈や環境を含めたものがアミューズにはあるということが大事ですね。最初にも言いましたが、僕らがやっている仕事というのは、クリエイターやアーティスト、ミュージシャンといった人たちにモチベーション上げてもらうために、アミューズにいたいなと思ってもらう部分を作っていくということです。なぜなら僕らスタッフはダイレクトに人に喜んでいただける作品を作れないので、才能あるアーティスト達を支えて間接的に感動を作ることが醍醐味なんです。自分がプロデュースやマネージメントをやっていて勘違いしてはいけないことが、自分に才能があると思って過大な自己評価をしてしまうこと。才能がある人を輝かせるためにいるのが、我々マネージャーやプロデューサーです。アーティストをリスペクトして環境を創出している人が素晴らしいプロデューサーだと思います。自分のこと凄いと思っているプロデューサーは、大体がダメですね(笑)。

ザ・プロデューサーズ/相馬信之氏

ザ・プロデューサーズ/相馬信之氏

――これから音楽業界は、プロダクションやレコード会社はどうなっていくと考えていらっしゃいますか?

音楽そのものは作品として絶対なくなったりしませんが、そもそも音楽自体は商品ではありませんから。それがレコードビジネスとして成り立っていたということが奇跡に近かったと思います。音楽はそもそもアーティストの自己表現手段であって決して商品じゃないんです。勝手にコピー出来ない前提で第三者が人気のある作品を録音・、複製して流通させて宣伝・販売してただけで、それが音源のデジタル化によりネットを通して簡単に手に入る様になってしまっただけのことです。アーティストの作品を、才能をどうやってビジネスにしてあげられるかを考えるのが僕らの仕事ですから、我々は全然悲観的になっていません。やっぱりパフォーマンスとコミュニケーションって、一つの舞台空間、ステージで共有するからこそお客さんはその瞬間芸術の感動を体験したくて、求めてるんです。遊園地やテーマパークには友達と何度も行きたいけど、そのテーマパークのテーマソングCDだけを買おうとはなかなか思わないですよね?(笑)。そういう意味ではプロダクションとレコード会社の役割としてのテリトリー分けは難しくなってきますよね。ただ、長年に渡ってパートナーとして信頼関係が成り立っていますから、新しいスキームを構築してアーティスト主体のシステムを共同で作っていくことになると思います。

――趣味で聴いてる音楽があれば教えて下さい。

最近の僕はジャズが好きですね。それとレッド・ホット・チリ・ペッパーズ(レッチリ)が大好きです。それと彼らのドキュメント映画が面白いです。好きなんですよね、あの真剣でありながらのデタラメさぶりが(笑)。でもそれがエンターテイメントバンドですよ。演奏が上手くて、色々な音楽性が入っているサウンドはオリジナリティを感じさせてくれてかっこいいですね。もちろんビートルズも大好きなんですが、レッチリはいいですね。

――冒頭で学生時代、邦楽には興味がなかったとおっしゃっていましたが、社会人になってからは邦楽の波にもまれました。

実は、若い頃はオフコースは聴いてましたね。チューリップと佐野元春さんも聴いていました。それは高校の時に付き合っていた彼女の影響なんですけどね(笑)。桑田さんはもちろんですが、小田和正さん、矢沢永吉さん、山下達郎さん、凄いベテランミュージシャンがたくさん現役で活躍されています。だから若いミュージシャンの居場所があんまりなくてかわいそうになります(笑)。かなわないですよ、みんな神様みたいになってきていますし。ぐうの音もでないです(笑)。個人的に最近改めて小椋佳さんを聴いて歌の世界観がいいなと思っていますし、作詞家の松本隆さん、亡くなられましたが大滝詠一さんとかもやっぱり素晴らしい作品を産み出されていますよね。来生(えつこ、たかお)姉弟も素晴らしいし、そういう意味では薬師丸ひろ子さんのベストアルバムはいいです(笑)。作家陣が豪華ですし、最近飛行機での移動時間はそういうものを聴いていることが多いです。ロック聴いてても落ち着かないんですよね(笑)。

――これからは海外に向けての音楽の輸出を、今以上に加速させていくんでしょうか?

それはアーティスト本人がどうしたいかですよね。その国をどれだけ理解してリスペクトできるかということも大きいと思います。海外進出といっても、例えば台湾でコンサートするのなら、その国の歴史とか成り立ちとか、どういう国民性なのかということをわかっていたほうがいいですよね。それと一番大事なものはやっぱりコンテンツとしてのオリジナルティですよね。うちの会社でいうとBABYMETALって海外にはないコンテンツです。3人の十代の若い子たちが独特の振り付けで、ヘビーメタルに合わせて歌って踊るというスタイルなんてどの国にもないですよね。Perfumeもそうだと思います。テクノサウンドにテクニカルなダンスと、最先端の映像と舞台はオリジナルですごい価値があるということだと思います。ONE OK ROCKはロックバンドとして世界を視野に入れた綿密な作品作りとやっぱりボーカルTAKAの圧倒的な声と表現力だと思います。アジアであれだけお客さんを集められる日本のバンドはいないと思いますよ。シンガポールでも5000人集まります。今のシンガポールで1000人集めるって、日本人アーティストでは至難の業なんです。インドネシアだったらならONE OK ROCKは、2万人以上は集めることができると思います。

――色々と新規事業を仕掛けていらっしゃいますが、今一番興味を持っていることはなんですか?

 「食」です。これからは「食」だと思います。食文化、つまり文化ということはそれを作り出しているシェフや料理人がいるということです。アーティストですよ。パリで活躍してる日本人シェフってすごい多いんですよ。普通に考えると、食の本場ってやっぱりパリなんですよね。例えば役者の本場がハリウッドだとしたら、ハリウッドで活躍してる日本人って何人いるかという話です。でも食の本場でミシュランの“星”を獲って活躍してる日本人シェフはいっぱいいるんですよ。しかも和食ではなくフレンチの世界で活躍しています。クリエイターとしてすごい事ですよね。そういうシェフの価値観をどれだけ上げられるか、和食、フレンチ、イタリアン、中華、ジャンルを問わずにすごく興味があります。飲食業で成功したいということではなく、クリエイター=料理人の価値を上げられるか、日本人の文化としてすごくカッコいいことだと思います。それと日本酒に興味があります。最近知ったんですけど、「生酛造り」って知っています?江戸時代から続いてる一番古い日本酒の製法で、ものすごく手間暇がかかるんです。「生酛造り」は、これって本当?と思ったのですが、どれだけ飲んでも二日酔いにならないですし、毎日飲んでいたら生活習慣病が治ると言われていて、それは天然の乳酸菌と酵母が入っているので、腸内環境がよくなり血液もきれいになるらしいですよ。日本酒って大吟醸も純米大吟醸もそうですが、わかる人にはわかりますが、飲みなれない人にとっては、とても美味しいですがどこか似たような味に感じてしまいます。でも「生酛造り」ってすべて天然仕込みだからこそ癖があって、すごくそれぞれの個性が強いんです。日本人の文化として作った「生酛造り」の日本酒を、絶対世界に持っていくべきだと思います。

 

企画・編集=秤谷建一郎 文=田中久勝

 

【The Producers(ザ・プロデューサーズ)】第3回に続く

次回はHIPLAND MUSICの野村達矢氏のインタビューを掲載予定となっております。お楽しみに。

 

プロフィール
相馬信之
 
1964年生まれ。1987年、株式会社アミューズに入社。サザンオールスターズのマネジメント等音楽事業及び周辺事業の担当を経て、2005年、執行役員に就任。2008年、株式会社A-Sketch 代表取締役社長に就任(現任)。同年、株式会社アミューズ 取締役に就任し、2012年、常務取締役に就任(現任)。2014年、株式会社TOKYO FANTASY 代表取締役社長に就任(現任)。2015年、株式会社希船工房 代表取締役副社長に就任。

 

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