長〜いタイトルに込められた新作への思いを、はせひろいちに聞く

SPICER
 劇団ジャブジャブサーキット『猿川方程式の誤算あるいは死亡フラグの正しい折り方』チラシ 表

劇団ジャブジャブサーキット『猿川方程式の誤算あるいは死亡フラグの正しい折り方』チラシ 表

 

従来のジャブジャブ色を払拭する!?  総勢17名で挑む新作の中身とは…?

名古屋を拠点に活動を続ける岐阜の劇団ジャブジャブサーキットが、「七ツ寺共同スタジオ」にて7月28日(木)から新作公演を行う。主宰はせひろいちの作・演出による今作のタイトルは、その名も『猿川方程式の誤算あるいは死亡フラグの正しい折り方』。なんとも長い題名だが、チラシを見ていただくとわかるとおり「4行でスクエアに収まるように、ビジュアルありきで考えた」と、はせ。

昨秋から上演されてきた代表作のひとつ『しずかなごはん』(2004年初演)の再演4都市ツアーを終え久々に取り組んだこの新作は、構造といい、出演者の多さといい、これまでのジャブジャブとはひと味違った作品になるという。劇団創立30周年を超え、また新たな境地へ向かおうとするはせが目指すものとはいったい何か? それを探るべく、岐阜の稽古場へ足を運んだ。

稽古風景より。手前左は、演出をつけるはせひろいち

稽古風景より。手前左は、演出をつけるはせひろいち

── 今作は、昨年の秋にミステリーツアー形式で上演された『乱歩から招待状』以来の書き下ろし新作になりますが、構想はいつ頃から考えられていたんでしょう?

去年の11月ぐらいにタイトルと構想をムリムリ考えたんですけど、『非常怪談』(1997年初演、2014年再演)や『しずかなごはん』の再演があって、外から代表作と言われてるような昔の作品が続いたので、自分としては、優等生的な演劇はもうちょっと嫌だなと(笑)。いつも「今度は違うぞ」と言いながら、あまり変わってきてないのも自覚していたので、今回は本当に初期設定から新しいことをしたいな、というのがあって。それとここ数年、読書欲がよみがえってきて多く読むようになったんですけど、去年の夏ぐらいから短編ばっかりにしようと、アンソロジーとか短編集を非常によく読んでた影響もあります。

ウチの劇団って、舞台美術を作り込んで、ワンシチュエーションで、基本的には時系列でっていう、大昔に「静かな演劇」と言われたようなことがなんとなく劇団のカラーっぽく言われたり僕らも自覚してきたんで、それをなんとかしない限り変わらんわなぁ、っていうのもあったりして(笑)。じゃあ、最初からポンポンポンって、2時間弱でどれくらいの細かいオムニバスっぽいことができるんだろうと考えて、10~12に決めちゃおうと。

それと同時に、もうワンシチュエーションをやめようと思ったんです。今回限りかもしれないんですけど。そうすると、舞台美術も抽象にせざるを得なくなってくる。(2013年に上演した)『月光カノン』も3つのシチュエーションが織り混ざった作品だったんですけど、ひとつ部屋というのはあったりしたので、それもやめて。とりあえず、なるべく細かい連作ものっぽくしながら、どこかでクッと繋がってくるようなことができないかなと。

稽古風景より

稽古風景より

── 全体が12章で構成されているという感じなんですね。

そうですね。12ですからね、1シーン10分でいかないと収まらないんだけど、まだオーバーしてるところもあったりして、ヤバイヤバイと言いながらやってる(笑)。そんな感じで、枠組みから変えてみようかなと。ワンシチュエーションだと、お客さんを飽きさせないために最初は関係性を伏せておいて、ここで見せようとか、会話の中に説明をしていかないと持たないとか考えたりするけど、そういうことナシで、10分なら10分の中だけですごく濃密なことをやっていけないかな、って。

── 説明的な部分を省いて、わかる人にだけわかる構造になっていると。

そうそう。お話度は、普段書いてる物語の3倍くらい濃縮されてます。「ここからここまでしか書かないけど、スゴイことあるからよろしく」みたいな。その分、よく言うフレーズだけど“お客さんの想像力”を頼りにして進んでるので、その辺は賛否両論あるかも。最近の若い鋭い作家とか、手法としてはとっくにやってることだとは思うんですけど、まぁでもいいや、と思って。

稽古風景より

稽古風景より

【あらすじ】
例えばそこは、とある地方都市の郊外にあると思われる、倉庫のような場所。壁は厚く、何かの実験室の名残にも見える、きわめてスクエアな空間。ガランとした室内にはオブジェのような造形物がある。うら若き女性研究者・鳥本がこの場所を訪れる。彼女は因果律研究の第一人者であり「死亡フラグ」という言葉を生み出した存在と噂される猿川教授の教え子だった。猿川教授は数年前に旅の途中で行方不明になっていたが、最近見つかった教授の遺物により、どうやらこの場所が最後の消息を握っているらしいことが判明したのだ。風変わりなこの施設の管理人である谷田部部長もまた風変わりな人物だった。舞台は他に、どこかの研究室、占い師が生息する路地裏、元組長の部屋など、その解釈を変え、物語は一見アンソロジーの集積のように進んでいくのだった。


── その12章というのは、主人公が変わりながら展開していく感じなんでしょうか?

12章というか、5つぐらいの並行した話があって、どこかから繋がっていくという感じですね。最後まで会わない登場人物もいるし、だから完璧に12のシーンに分かれているというよりは、5つぐらいの話が少しずつ絡み合っていくという。観ていただければ「あぁ、そういうことね」って、わかっていくと思うんですが、過去にあったこととかそんなに説明されていないので、その辺は頭の中でフォローして繋いでいってもらわないと、とは思いますけど。

── 時系列には沿って書かれているんですか?

怪しいですけど、とりあえず沿ってるフリはしてますね(笑)。密度を取った分、繋がりの良さや、シーンとシーンの整合性をあんまり求めてないので、ゴツゴツザラザラした感じは最後までしていると思います。ヒントは散りばめられてるけども、答えは全部に振り当てられてはいない、っていう。整合性を書き出すとね、やっぱりひとつが長くなっちゃったりキレが悪くなるので、多少無責任で投げやりな。それが良いのか悪いのかはよくわからないんですけど。

稽古風景より

稽古風景より

── タイトルにある〈死亡フラグ〉や〈因果律研究〉など気になる言葉が出てきますが、そこにはせさんが注目されたきっかけは、なんだったんでしょうか。

〈死亡フラグ〉のブームは少し前ですけどね。企画書にはちょっと嘘っぽく書いてあるんだけど、僕らが昭和の頃から見てきたドラマとか、嘘の〈死亡フラグ〉で成り立ってるみたいなことばっかりじゃないですか。それを外から、これ〈死亡フラグ〉だよね、っていう言い方というか、俯瞰して捉えていく考え方がすごく面白いなと思ったり。でも、じゃあそういうフラグなしに感動する物語とか書けるんだろうか、とかね。いわゆるオーソドックスな物語に対する体の良い茶化し方としては、結構好きなトーンだったんですね。
それと、じゃあ逆にどう抗っていくんだろうみたいなこととか含めて、「死亡フラグの正しい折り方」ってタイトルにあるんだけど、物語的な起承転結や枠組みに頼らない“何か”を作り手とか書き手が模索していかないと、もう現実に負けていくだろうな、というのはあって。脈絡の無さでは絶対に現実に負けてる感じがすごくあるので、そこをどうしていくかなっていう。

── つい意味付けして書いてしまうことから抜け出したいと。

そうそう。自分に対するアンチテーゼというか。

── 企画書に書かれていた「…氾濫する物語の中で本質を見失いつつある表現者側の戦いぶりを描いた作品」という一文は、そういう意味だったんですね。

まぁまぁ、そこまで風呂敷が回収できてないけど(笑)。

稽古風景より

稽古風景より

── オムニバス的な構造ということもあって、今回は出演者が17名(一役はWキャスト)と、いつもより多いんでしょうか?

それを見越してたくさん取ったっていうわけじゃないんですけど、なんとなく大雑把に、ま、いっかなっていう風に増えていったっていうのはありますね。(杉田)愛憲君と教仙(拓未)君はオーディションで選ばせていただいて、丹羽(亮仁)君は前から「いつか一緒にやろうね」と言ってて、去年の忘年会で飲んだ勢いで「じゃあ、やろう!」と言って決まったり(笑)。主役級の栗木とコヤマがWキャストという珍しいこともあるんですけど、男性の方が多いっていう、ここ近年なかなかない感じになりまして。男3人のシーンが書けるとかね、「おお、スゴイスゴイ!」って(笑)。

── はせさんとしては、面白がって書けたという感じですか?

そうですね。なかなか普通は書かないようなことも書いてます。

5つの大きな筋が交錯しながら展開する本作は、物語の鍵となる〈倉庫のような場所〉からシチュエーションも次々に変わっていく。稽古風景の写真にある通り、無数の箱をキャスト自身が移動し組み替えることによって、さまざまな場を作り出していくのだ。刻々と変容していく場面と、親切さを排除してはせが今描きたいものだけを描いたエッセンスの集積。

今作は、作家と役者の新たな試みであると同時に、観客側の集中力や受信力も試されるような作品とも言え、そこには、割愛されたバックボーンを各々が想像し、パズルのように組み合わせながら観る面白さも。秋には大阪、東京公演も予定されているので、関西、関東方面の方もぜひご高覧を!

前列左から・まどかリンダ、はしぐちしん、谷川美穂、空沢しんか、中杉真弓 中列左から・なかさこあきこ、教仙拓未、伊藤翔大、荘加真美、作・演出のはせひろいち、咲田とばこ 後列左から・岡浩之、丹羽亮仁、コヤマアキヒロ、杉田愛憲、栗木己義、中野俊、高橋ケンヂ

前列左から・まどかリンダ、はしぐちしん、谷川美穂、空沢しんか、中杉真弓 中列左から・なかさこあきこ、教仙拓未、伊藤翔大、荘加真美、作・演出のはせひろいち、咲田とばこ 後列左から・岡浩之、丹羽亮仁、コヤマアキヒロ、杉田愛憲、栗木己義、中野俊、高橋ケンヂ


 
公演情報
劇団ジャブジャブサーキット 第56回公演『猿川方程式の誤算あるいは死亡フラグの正しい折り方』

■作・演出:はせひろいち
■出演:栗木己義(Wキャスト)、コヤマアキヒロ(Wキャスト)、岡浩之、伊藤翔大、高橋ケンヂ、中野俊、荘加真美、咲田とばこ、中杉真弓、なかさこあきこ、まどかリンダ、谷川美穂、空沢しんか、はしぐちしん、丹羽亮仁、杉田愛憲、教仙拓未

■日時:2016年7月28日(木)14:00・19:30、29日(金)14:00・19:30、30日(土)13:00・18:00、31日(日)11:00・15:00 ※30日(土)18時の公演終了後には、ゲストに天野天街(少年王者舘主宰)を招き、アフタートークを開催。
■会場:七ツ寺共同スタジオ(名古屋市中区大須2-27-20)
■料金:一般前売2,800円(当日3,000円)、学生前売2,000円(当日2,200円)、平日マチネ(一般)2,300円(当日2,500円)、平日マチネ(学生)1,800円(当日2,000円)
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「伏見」駅下車、鶴舞線に乗り換え「大須観音」駅下車、2番出口から南東へ徒歩5分
■問い合わせ:劇団ジャブジャブサーキット 090-9922-8274
■公式サイト:http://www.jjcoffice.com/

<大阪公演>
■日時:2016年10月7日(金)~10日(月・祝)
■会場:ウイングフィールド
<東京公演>
■日時:2016年11月11日(金)~13日(日)
■会場:ザ・スズナリ
※大阪・東京公演の詳細については、後日公式サイトで発表
シェア / 保存先を選択