タカハ劇団『嘘より、甘い』上演中の高羽彩が最新作を語る!
タカハ劇団・高羽彩
タカハ劇団の新作公演『嘘より、甘い』が、9月7日より11日まで、下北沢の小劇場B1にて上演される。タカハ劇団は、アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』、『魔法使いの嫁』の脚本執筆など、多彩なメディアで活躍する女流作家・高羽彩が主宰を務める団体だ。2004年に旗揚げした劇団は今作で第12回公演を数え、緻密な観察眼で人間の滑稽さに着目しつつ、社会問題へ踏み込んだテーマ性の高い物語が好評を得ている。このインタビューは、本番直前に高羽本人が作品以外で「語った」貴重な内容となっており、記事を読む方々が劇場へ足を運ぶ際の参考になればと考えている。今回、高羽がモチーフに選んだのは、キャッチ業者がたむろする歌舞伎町の小さな喫茶店ということだが−−。
お互いを喰い合うという意味でピラニアの水槽みたいなもの
--はじめに高羽さんの近年の活動紹介から入りたいのですが、最近のお仕事で言うと、アニメの脚本等も執筆されているとか。
アニメは製作期間が長いので(自身の名前を)覚えて下さる人が多いのですが、関わっている作品は『PSYCHO-PASS サイコパス』と『魔法使いの嫁』という二作品だけなんです。それ以外は演劇の脚本を書いています。2013年には宮本亜門さん演出の『耳なし芳一』という作品で上演台本を担当しました。あと、来年放送予定なんですが、NHKの単発ドラマを書いたり。タカハ劇団をやっていたら他の仕事もやらせて頂けるようになった……という感じですね。
--では、今作『嘘より、甘い』のあらすじを教えて下さい。
歌舞伎町にある小さな喫茶店で起こる「とある一日」を描いた物語です。その喫茶店は、キャッチセールス、風俗嬢のスカウト、宗教の勧誘など、いわゆる「キャッチ」を生業にしている人の溜まり場になっていて、他人を説得しなきゃいけない人達がお互いに何を語り合うのか? というのが基本的なストーリーになっています。
--その喫茶店で騙し合いのドラマが展開される?
いえ、それに期待されるとちょっとダメかも。高度な心理戦が繰り広げられる! みたいなことではなく、もっとコメディ寄りと言うか、人間のダメさを笑い飛ばそうというお話です。勧誘する側の人間しかいないので、お互いを喰い合うという意味でピラニアの水槽みたいなもの。その環境下のコミュニケーションはどうしたっていびつになりますよね。ひたむきに「何かを信じさせようとする」人達の滑稽さを楽しんで頂ければ。今回は一幕物なので、起こる事柄をリアルタイムで追っていく作品になります。目の前で少しずつ変化していく人間性を見て頂くと、最後にはオチが用意されている、みたいな。この作品は、とにかく私のこだわりが強く反映されていて、あれはやりたくない、これじゃ物足りない、ということにこだわり抜いたし、私の中の理想像がハッキリしていました。その理想と台本上の剥離に苦しめられたのですが、出演者達がすごく真摯に取り組んでくれて、台本を書いては戻し、書いては戻しの日々に付き合って下さり、私の我が儘を最後まで聞いてもらった現場でした。その結果が作品に集約されていると思います。
--小さな喫茶店の一日を描いた会話劇ということで、現実度が高めというか、観る人にとって身近なお話になっている?
物語の導入部分は身近かも。誰しもが経験しうる状況であることは間違いないです。ただ、フィクションとして創作しているので、そういう意味での飛躍はあると思います。
--想像ですけど、途中で大きめのどんでん返しがあったりします?
えっ!? 何故ですか?
--高羽さん、結構ネタバレを気にするなぁと思って。
あー、そっかー。記事にしないで欲しいんですが、実は……。
--いや、ばらさなくて大丈夫です(笑)。
アハハハ。せっかくですから是非本番をご覧頂きたいです。でも、オチは素敵だと思いますよ! すごく素敵なオチになったと自負しています。あるいは、ちょっと怖いかも。通し稽古を観ていて、ラストシーンにさしかかったら、自分で書いたにも関わらず普通に驚いちゃいました。ちょっと「あ、怖いなー」と(笑)。
タカハ劇団・高羽彩
登場人物の一人一人が事象の代弁者であって欲しい
−−今ご自身が作品に対して最も意識していることは?
もうすぐ初日ですし、今は役者同士のグルーブ感ですね。一幕物ということで役者の出入りがほぼないですし、これだけ魅力的な役者さんがひとつの空間にいて、そこで会話をしながらストーリーを動かしていく。この“波”にお客様がきちんと乗れるように、というのが一番の課題。とにかく会話劇の醍醐味はそこですから、それを楽しんで欲しいというのが大きいです。その先にあるオチとかテーマというのは、作家・高羽の密やかな狙いでしかないので、まずは役者達のグルーブ感、役者達の密な芝居を楽しんで頂ければ。アニメでもTVドラマでも観られないモノを作らないことには意味がないと思っています。
−−公演チラシの出演者一覧にもいい顔が揃っていて。
本当にいいんですよー。みんな、顔がちょっとヘンなんです(笑)。面白い。このキャスティングには私の好みがバッチリ反映されているので、めちゃめちゃ嬉しいです。
--作品タイトルに関して、お話を聞かせて下さい。
このタイトルはかなり気に入っています。数年前から、世の中が私の想像よりはるかに大きく動くようになってきて、現実の方がフィクションっぽいというか、私が今まで大事にしてきた前提がひっくり返ってしまうかも? と思い始めて。そういう流れの中で「いま私は何を書けばいいのだろう?」と考えてきました。しばらくすると、みんな自分の信ずるところ、それは政治だったり宗教だったり主義主張だったり人それぞれだと思うのですが、それを頼りに世の中を動かしていくということが分かってきた。何かを信じる、そして、それを他人に信じさせたいという欲求が世の中のうねりになっている。そんな折、このタイトルを思いつきました。要は「嘘より甘い何なのか?」という。
--「嘘より甘い○○」ということですよね。その○○の部分に何が入るか。
そうなんです。嘘というのも、昨今何が嘘なのか掴みづらいじゃないですか。居酒屋で隣り合ったおじさんと話していても、何が嘘で何が本当なのか分からなくなる。
--居酒屋で隣り合ったおじさんが見知らぬ若い女性と話す時は、虚実の混合率が相当高いでしょうけど(笑)。
そうなんですけど(笑)。……だから、集団やコミュニティの中で全員がひとつのものを信じるというのは正直もう限界だと思う。コミュニティ自体がどんどん細分化される、されるであろう時代だからこそ、その反作用で何かを信じてみたくなったり、仲間を集めてみたくなるというのが、昨今の状況だと思っていて。そういう意味で、我々は嘘より甘い何を選択していくのだろうか? と。その上で、自分と異なる考えを持つ人の存在が許容出来ないというか、お互い自衛していく中で何故か画一化が起こっている。ひとつにまとまる、一致団結するという風潮が、本来「団結」という言葉が持つ意味合いとは別の意味で巻き起こりつつある。自分の作品を作る時は、いつでも「世界の現象を映す箱庭を作ろう」と考えていて、登場人物の一人一人が事象の代弁者であって欲しい。なので、小さな喫茶店の客層を通じて世界の現象へ目を向けていきたいというのが、作家として考えていることです。高羽は常に箱庭を目指しているということですね。あくまで私の捉えた一側面なのですが、それでも、自分が見ているモノを凝縮して作っているということが少しでも伝わる作品になれば……と思っています。
--タカハ劇団第12回公演『嘘より、甘い』は、ただ今公演中です。最後に、脚本・演出の高羽さんから一言メッセージを頂ければ。
ええと……(熟考中)。笑って観られるコメディの先に、今の世の中を感じられるような、広がりのある作品になっていますので、是非劇場で目撃してください。……こんなんでどうですか? 弱いかな?
--いえいえ。「笑って観られるコメディ」という前提に、タカハ劇団らしい頼もしさを感じます。
作品を作る際には、幾つかの階層をイメージするんですよ。コメディとして笑い飛ばして欲しいし、その先にあるテーマを感じて下さるのも嬉しいし、それこそひとつひとつの台詞に仕込んだ引用やモチーフを味わって下さってもいい。でも、基本はヒューマンコメディですからね。あまり社会派面するのも恥ずかしいですし、どうぞお気軽にお越し下さいませ。
タカハ劇団・高羽彩
(取材・文:園田喬し)