ディアンジェロ、デビュー20年で初の来日単独公演にZepp Tokyoが熱狂

レポート
音楽
2015.8.19
ディアンジェロ

ディアンジェロ

20年越しに訪れた歓喜の一夜

先週末に開催されたサマーソニック’15で、デビューから20年の歳月を経て遂に日本初来日公演を行ったディアンジェロ。翌日はその凄まじいまでのパフォーマンスを初体感した人々の絶賛コメントでツイッターのトレンド入りする程の反響を呼んだが、彼のZEPP TOKYOでの単独公演が行われた18日(火)夜から本日にかけて再びTL上が“ディアンジェロ”で埋め尽くされている。それらの絶賛コメントには多くの著名アーティストの名も含まれる等、今回のディアンジェロ初来日はここ日本において、ファン、アーティスト、そしてジャンルを超えた一大イベントとなった。

開演前のBGMが途切れる度に宴の始まりかと歓声と拍手を響かせ、再び次のBGMが流れて肩を落とす──ちょっとコミカルでもあったそんなやりとりを何度か繰り返した後に、ついにバンド・メンバーが姿を現して“Ain't That Easy”のイントロを奏でた瞬間、興奮という名のどよめきが2700名をなんとか飲み込んだ超満員のZepp東京を揺らした。

何せデビューから20年を経てようやく実現した来日公演である(20年前の来日時は業界向けコンヴェンション)。会場の外には、プレミアと化したチケットを取ることが出来ず、それでもあきらめることも出来ないまま一縷の望みを賭けて現地に足を運んだと思しきファンの姿がいくつかあった。ファースト・アルバムに胸を躍らせたかつての少年少女も、もしかしたら新作でファンになったのかもしれないいまの少年少女も、このライヴが決してありきたりなものではない、特別なものであることを重々承知している。みんなが待ち焦がれたライヴなのだ。

そんなファンの心を見透かすかのように、ディアンジェロはわざと演奏を止めて焦らしてみせ、オーディエンスはまんまと彼の術中にはまって、悔しいかな、歓喜の声を上げてしまうのだ。近年、精力的にライヴをこなしているだけあって、ディアンジェロのステージングは素晴らしく成熟していた。どう振る舞えばファンを悦ばせることが出来るか、楽しませるにはどうすれば良いのかを心得ているのだ。

バンドのヴァンガードはリズムの要となるクリス・デイヴ(ドラム)とピノ・パラディーノ(ベース)のふたりに、歪み系でとりわけ際立つジェシ・ジョンソン(ギター)、カッティングに冴えるアイザイア・シャーキー(ギター)など多くは『ブラック・メサイア』収録時のメンバー。新たに紅一点のコーラスに加わることになったジョイを含め、それぞれが確かな力量と知名度を持つミュージシャンだ。演目も『ブラック・メサイア』の曲が中心となり、当然ながらライヴでの再現度は高い。ディアンジェロのミナリークの変形ギター、ジェシのフライングV、アイザイアのテレキャスと、3本並ぶ“Charade”などではギター・ファンたちをも楽しませる一方、原曲からガラッと趣を変えた“Brown Sugar”を始め大半の曲の味付けはファンク色が濃厚で、しかも、ジェームス・ブラウンの姿と重なる瞬間が多々あり、エンタテインメント性はまさしくJB~プリンス譲り。楽しくないわけはない。

このライヴが他のR&B系シンガーのそれと圧倒的に違うのは、歌い手とバンドの関係性だ。R&Bシンガーたちがほとんど例外なく、主役とその伴奏という主従関係にあるのに対し、ディアンジェロは歌い手であるのと同時にギターやピアノを弾くプレイヤーとしてバンドの一員でもある。ゆえに、決して演奏が歌の下位に下ることなく、同列に音楽として存在する。歌ものとして歌が重要であることは否定しないが、演奏へのこだわりがこんなにも音楽を豊かに聴かせるのかという、当たり前だが忘れがちな発見をさせてくれたことも事実だ。ディアンジェロ&ザ・ヴァンガードという名前以上に、一体感のあるファンク・バンドを実感した。

ライヴ終盤、印象深いシーンがあった。2度目のアンコールとなるバラード“Untitled (How Does It Feel)”の完璧なファルセットで会場をとことん魅了した後、ディアンジェロはピアノ(ヤマハのCP)を弾きつつ、最後に独り取り残されるまでメンバーひとりひとりをハグしながら見送った。彼にとっていかに大事な人々であるのかを伝えるように。そうせずにはいられないかのように。静かになっていくステージを、オーディエンスもまた温かい拍手で見送った。ラストは弾き語り状態のディアンジェロと客席のコール&レスポンスを楽しみ、おそらく多くのオーディエンスにとって今年最上となるだろう宴はしっとりと幕を降ろした。その尺、1時間50分超。

振り向くと、誰もいなくなったステージに向かって、祈るように手を合わせるファンの姿があった。ブラック・ミュージックの素晴らしさを改めて胸に刻んでくれたディアンジェロ。彼はやはり救い主(メサイア)なのかもしれない。

文=荘 治虫 撮影=Kazumichi Kokei

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