圧倒的な個とカリスマを携え、シンガーソングライター・majikoが本格活動のはじまりを告げた夜
majiko Photo by Viola Kam (V'z Twinkle)
majiko ワンマンライブ『Cloud 7』 2016.12.8 渋谷WWW
“生温かい目で、羽を休めて行って頂ければと思います。”
受付で手渡された、どうやら彼女の直筆と思しきセットリストにはそうコメントされていたのだが、生温かいどころか熱視線を送り続けるハメになり、羽を休めるどころかある種の興奮状態で帰り道を歩かなければならなくなってしまった。そんな、まじ娘改めmajikoが行った久々のワンマンライブ。パフォーマンスしかり構成しかりMCしかり、個性と親近感とカリスマ性とが混じり合った、ある種とても彼女らしい振り幅の大きいライブであった。
オープニングナンバーは「end」。昨年リリースした初のアルバム『Contrast』収録曲中で唯一彼女自身が作詞/作曲した楽曲であり、いわばシンガーソングライター・majikoとしての第一歩であったこの曲をまず冒頭で披露するあたり、満を持してメジャーデビューを果たす現在の心境、そしてこの日のライブに対して彼女がどんな意図をもって臨んでいるのかの現れだろう。スタンドマイクを両手でしっかりと握り、感触を確かめるような丁寧な歌い出しから、サビでは鋭く尖ったエモーションをその声に乗せるmajiko。続く「FRACTAL」では息遣いまでも楽曲の一部に活かしながらソウルフルな歌唱をみせる。歌い切った瞬間に客席から巻き起こった感嘆の声が歓喜のそれへと変わったのは「リンネ」だ。激しく乱高下するメロディをもった高速ナンバー、しかも変則的な拍の取り方をする楽曲ながら、迫力のハイトーンも交えながら余裕で歌いこなし、同時に歌詞から垣間見えるフラジャイルな危うさまでも表現しきってみせた。『Contrast』収録曲、『Magic』収録曲、ボカロ曲、とこれまでの彼女の道程を網羅するナンバーを並べ、最初のMCへ。
「みなさん、こんばんはー。majikoです! (歓声が起こる)だーしゃぁーはあぁっ↑↑」
テンションがそのまま口から出たような奔放な挨拶を皮切りに、さっきまでの表情が嘘のように、ユルユルで思うがまま、自由にあっちこっち行き来しはじめるトークだ。舞台袖のモニターから客席を見て感じたこと、今日の意気込み、シンガポールから駆けつけたファンへの呼びかけ……全く収拾はつかなかったが、ステージ上の彼女がこの場をとても楽しんでいることだけは存分に伝わってきた。それが一番である。余談だが、この後もMCタイミングが来るたびに、「あ、しゃべらなきゃ」といった風にかなり前のめりで話し始めてしまうあたりも微笑ましかった。
majiko Photo by Viola Kam (V'z Twinkle)
「(今日は)ただのワンマンライブじゃないと思ってる」と自身の言葉でも意気込みを表してから放ったのは、the band apart・荒井岳史が書き下ろした「きっと忘れない」。王道ギターロックなサウンドに乗って弾むように歌い出し、最前列まで出てオーディエンス一人ひとりと視線を交わしたり、手を振ったりと、一気にリラックスした様子にみえる。そこからストレイテナー・ホリエアツシ書き下ろし「mirror」と、ロックシーンの先輩たちから提供された楽曲を続ける。そもそも学生時代からシステム・オブ・ア・ダウンにハマっていたりと、音楽的ルーツからしてロック、特にオルタナティヴ方面のDNAが色濃い彼女だけあって、この種の楽曲との親和性は抜群に高い。
その一方で、中盤に並べたスローめの楽曲「回らないトゥシューズ」「さよならミッドナイト」ではグッと大人な雰囲気でじっくりと聴かせてくれるなど、ボーカリストとしての引き出しの多さも持ち合わせるのがmajikoである。楽曲そのものの装いとそこにこめた感情に応じて色を変え、観るものを圧するほどの迫力で声を張り上げたかと思えば、感情を爆発させるかのようにシャウトし、またあるときにはあどけなさすら感じるウィスパーボイスで魅了したりと、目まぐるしく変化する歌。歌声と歌い回しで一気に場の空気を塗り替えることのできる、シンガーとしての傑出ぶりには改めて驚かされた。
彼女がこの日も“レジェンド”と称し敬意を表していたホリエアツシによる楽曲「彗星のパレード」、妖艶さ漂う前半部から次第にインダストリアルな展開をみせる「ダージリン」と、後半へ進むにつれ再びジワジワと熱量を上げていき、会場のボルテージを頂点に持っていったのは「世田谷ナイトサファリ」だ。会場からは一斉にクラップが巻き起こり、本人も軽やかにステップを踏みながら「イエー! 盛り上がってますか、渋谷!」とアジテーション、各パートのソロも飛び出すなど場内は華やいだ空気に包まれる。仕上げは「アマデウス」。“楽しくて仕方ない”といった感情が観ているこちらにも伝わってくるようなパフォーマンスで魅了した彼女は、実際の曲数以上の満足感を残して本編を締めくくった。
majiko Photo by Viola Kam (V'z Twinkle)
アンコール。背後にはアコースティックギターが立てかけられており、それに気づいたファンからの「お~!?」という歓声の中、「初めてだよ、わたし」とmajiko自らそれを奏で、新曲「Lucifer」を披露した。マイナー調のコードで鳴るギターサウンドとラテンのエッセンスを感じるリズムを中心に、随所にポストロック的なアプローチが顔を覗かせつつも全体のスケール感は大きく、これまでの作品でみせていた表情とはまた一味違う。それは本編で披露された新曲2曲にしても同じことで、舞浜の河原で思い浮かんだという、ホーンやピアノの効いたスウィング感を変則的なアレンジでモダンに仕上げた「ノクチルカの夜」も、サイケデリックなブルースに生々しさと激しさを乗せた「昨夜未明」も、この日の終演後に発表されたメジャー1stミニアルバム『CLOUD 7』への期待を抱かせるには充分なものであった。
インターネット上の音楽シーンから登場したmajiko(当時はまじ娘だが)。その出自を振り返る上で触れないわけにはいかない名カバー(彼女がカバーした曲中で最高傑作といってもいいと思う)が『Contrast』にも収録された「心做し」だろう。この日のラストナンバーとして披露された「心做し」における彼女の歌声は、ときにか細く囁きかけるようであったり、泣き声のようであったり、一転して感情の昂ぶりをハイトーンボイスで突き刺したかと思えば、ほとんど絶叫に近い爆発的なシャウトをみせたりと、たった数分の一曲の中にありったけの感情を注ぎ込み、歌として放出するかのよう。本来はボーカロイド楽曲であるこの曲が、セットリスト中でも一際人間味を感じさせる、エモーショナルなパフォーマンスに昇華されていたことこそ、majikoという存在の特異性であり面白さといえる。アカペラでの歌い出しから、激しく燃え尽きるクライマックスの絶唱まで、一切視線を外すことができなかったのは僕だけではないはずだ。
米津玄師、ぼくのりりっくのぼうよみ、REOLなどなど……枚挙にいとまがないほど、インターネットシーンから登場した才能の台頭は珍しいものではなくなった。そんな2017年のシーンに向け、『CLOUD 7』をもって本格的な音楽活動をスタートさせることになるmajikoは、この先どのような世界を描き、どのように進んでいくのだろうか。それは今後レパートリーが増えていき、自作曲を含むオリジナル曲の割合も増していく中で自ずと見えてくるはずだけれど、あえて個人的な見解に願望を添えて記しておく。
彼女にはオルタナティヴな立ち位置からメインストリームを撃ち抜く存在になってほしい、そう強く願う。それができるだけの素地とポテンシャルが備わっていることは、既にこの日実証済みなのだから。
取材・文=風間大洋 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)
1. end
2. FRACTAL
3. リンネ
4. きっと忘れない
5. mirror
6. Void
7. ラストトレイン
8. ノクチルカの夜
9. 昨夜未明
10. 回らないトゥシューズ
11. さよならミッドナイト
12. 彗星のパレード
13. ダージリン
14. 世田谷ナイトサファリ
15. アマデウス
[ENCORE]
16. Lucifer
17. 心做し
2017.02.15リリース
『CLOUD 7』
Track List
prelude / Music:majiko
Lucifer / Music & Lyrics:majiko
shinigami / Music & Lyrics:majiko
ノクチルカの夜 / Music & Lyrics:majiko
昨夜未明 / Music & Lyrics:majiko
タイトル未定 / Music & Lyrics:車谷浩司(Laika Came Back)
※順不同
※特典内容は変更になる場合がございます。