『大谷工作室』インタビュー 原点回帰を試みた"イマ"の大谷が生み出すものとは

インタビュー
アート
2016.12.13
『大谷工作室』インタビュー

『大谷工作室』インタビュー

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『大谷工作室』と聞いて、グループ名を想像する方も少なからずいるだろう。しかしこの名は、大谷滋という1人のアーティストを示す名前だ。大谷は、”工作室”という屋号を掲げ、様々な素材を用いて手や指の温度を感じるような作品を多く生み出している。現在、彼の作品を展示する個展『僕が17歳の時、ジャコメッティの話を美術の先生に聞いて、彫刻に憧れて、僕は今、彫刻を作ってます。』が開催中だ。会場は、世界的に評価されているアーティスト・村上隆が店主を務めるKaikai Kiki Galleryである。

大谷工作室(写真左)/本展1大きいスケール(座高3.5m)の作品の前で。

大谷工作室(写真左)/本展1大きいスケール(座高3.5m)の作品の前で。

――展覧会公式サイトに掲載されていた村上さんとのやりとりにもありましたが、今回は”彫刻”の展覧会なんですね。近年大谷さんは陶芸作品を多く発表していましたが。

はい。どんな展覧会にしていこうかというやりとりの中で、"原点回帰"というものが大きなテーマとなってきました。卒業以来ぶりに、沖縄の母校にも帰ってみたんです。そこで石膏をつくったんですよね。それで、ここ最近陶器ばっかり作ってきたけれど、その質感にこだわらなくても自分が作りたいもは作れるのかもしれない、という発見があったんです。そして芸術家になりたいと思った時に、強く憧れていた彫刻家たちのことも思い出して……。今の自分らしい、今だから作れる作品を見てほしいと思った結果、このような展示になりました。

――タイトルにある"ジャコメッティ"に特定しているわけではなく、"彫刻家"そのものへの憧れがあったんですね。そして今、彫刻を作ることへの欲求があると。彫刻作品をみてみると、材料や色などが多様ですね。

そうなんです。今回、1番大きい作品とあと2点は石膏で出来ています。例えば、この耳がついている作品は耳の部分だけ木になっています。これは、初期段階では陶器で作ったんですけど「なんか違うなあ」と思い、顔の部分だけ石膏で上から作り直したんです。


――この子達はハイブリットなんですね。確かによくみるとそれぞれ質感が違って、またそれも面白いです。なんだか石膏のものは表情が柔らかいというか、すこし優しい感じがします。

実は1番大きい子は、自分の娘がモデルなんです。自分の中でも、この作品から新しいものが作れたなと感じる特別な作品です。まだ作りかけなんですけどね。あまりに大きいので部分ごとに作り、初めてここで組み立てたんですよ。

――そうなんですか! 沢山の作品がありますが、他の作品にもモデルはいらっしゃるんですか?

いるものと、いないものがあります。さっき少し触れた耳が木彫りの作品は妻がモデルです。あと畳の部屋の角にいる子は、豊田市美術館で以前開催されていた子どもがテーマの展覧会(『The Child-内なるこども』2006)のポスターに描かれている子どもをモデルにしていいます。ポスターは工作室の壁に貼っているんですが、それを見てるうちに「良い表情だな~」と思いまして。


展覧会責任者の方や広報の方も一緒に”新しい大谷工作室”についてトーク

展覧会責任者の方や広報の方も一緒に”新しい大谷工作室”についてトーク

――ところで今回彫刻展としてはかなり作品が多いですね。全部で何点くらいありますか?

持ってきたのは100点くらいだったのですが、昨夜、奈良美智さんがNY帰りにギャラリーに来てくださって……。本当に見せたいものだけにしようと思い40点くらいやめたので、展示しているのは多分60点前後ですかね。

――あの奈良さんが?!

はい。めちゃくちゃ勉強になりました。村上さんのギャラリーで、奈良さんがインスタレーションしてくださるって物凄い豪華ですよね。約4時間も、畳の空間に展示するための作品配置とか、廊下にも作品を置こうとか、本当に丁寧にアドバイスを頂いて……有難かったです。


 

世界中で活躍し、「日本で最も有名な現代アーティストといえば?」という問いでは、必ず名前が挙がる村上・奈良両氏が注目する『大谷工作室』。やはり彼は要チェックのアーティストだといえるだろう。

なにより彼の作る作品は表情が愛らしい。1つ1つの作品が魅力的な"かお"をしているが、それらがとにかくかわいいのだ。インタビュー中、大谷氏が放つ空気が、とても作品と似ていると感じさせられた。用意された言葉を並べるのではなく、一つ一つの質問をご自身の中でじっくり消化しながら応える――。人間らしいけれど、強い個性を内に秘めた『大谷工作室』自身の人間性を、作品を通じて感じ取ってほしい。

本展は12月24日まで。”なぜか癒される空間”を、ぜひご覧ください。


 

文・撮影=山口 智子

イベント情報
僕が17歳の時、ジャコメッティの話を美術の先生に聞いて、彫刻に憧れて、僕は今、彫刻を作ってます。

会期:2016年11月26日(土)~2016年12月24日(土
開廊時間:11:00~19:00
*会期中無休
場所:Kaikai Kiki Gallery(カイカイキキ ギャラリー)
106-0046 東京都港区元麻布2-3-30 元麻布クレストビルB1F
TEL:03-6823-6038
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