ユリアン・プレガルディエン(テノール) 次世代テノール注目株の「冬の旅」
ユリアン・プレガルディエン(テノール) ©Marco Borggreve
父クリストフ譲りの深い表現で、宗教曲やリートを中心に、次世代テノールの注目株に躍り出たユリアン・プレガルディエン。鈴木優人のフォルテピアノで「冬の旅」を歌う。2世アーティスト同士。今年5月に来日した際、宣伝写真の撮影も兼ねて初めて顔を合わせた。
「こんにちはと挨拶した1分後にはシューベルトについて真剣に話し合っていました。カメラマンが『あのー…、撮影してもいいですか?』と割って入るぐらい熱中してね。使用するピアノのこと、調性(キー)のこと、休憩を入れるかどうか…。いろいろなことをダイレクトに意見交換しました。優人さんはハーグにいるので、今後もっと詳細を詰めて、コンサートにベストを尽くせると思います」
父親同士も共演歴がある。
「マタイ受難曲だったと思います。私の父も日本でそこそこ名前を知られているらしいですが(笑)、優人さんの父親・雅明さんはとても著名な音楽家。その息子同士がまた共演するのは素晴らしいこと。この世界には2代目が結構いるのですが、みな会った途端に共通項を感じます」
「冬の旅」には、父クリストフがさまざまなアプローチを試みてきた。現代ピアノ、フォルテピアノ、オーケストラ編曲、室内楽版…。ユリアンもまた、そのほとんどにチャレンジ済みで、今年1月にはルクセンブルクで、作曲家ハンス・ツェンダーの現代的オーケストレーションによる刺激的編曲の、しかも演出付き、オペラ形式の「冬の旅」に出演した。
「エクストリームな編曲にさらに創造的な可能性を加える解釈でした。私自身は常に作品のオリジナルに忠実であることに興味があるのですが、『冬の旅』に関してはさまざまな形があると考えています。そのあらゆるバージョンを体験することはとても面白いですし、今度の優人さんとのフォルテピアノ伴奏も、私の中ではオペラ形式のツェンダー版と、互いに影響し合っているのです」
今年、P.RHÉIというCDレーベルを立ち上げた。その第1弾もツェンダー版「冬の旅」になる予定。
「P.RHÉIはパンタ・レイ。万物は流転する、という古代ギリシャの哲学者ヘラクレイトスの言葉です。音楽も常に変わっている。『決して同じ川の流れには入らない』が私たちのモットーです。因襲にとらわれずに、どんな形の演奏がいいのか、どんどん疑問を抱いていただきたい。『冬の旅』の拡大解釈に挑んだツェンダーの編曲は、その最適な例だと思いました」
こだわり、熟考するユリアン。「冬の旅」の新しい顔を見せてくれる予感がする。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ 2016年10月号から)
2017.1/11(水)19:00 紀尾井ホール
問合わせ:紀尾井ホールセンター03-3237-0061
http://www.kioi-hall.or.jp