風琴工房 2016冬公演『4センチメートル』上演中! 詩森ろばインタビュー

詩森ろば

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社会的なテーマを個人の物語として捉え、詩的な言葉と豊かな演出力で構築する作・演出家の詩森ろば。その最新作で、福祉車両の開発とその困難なプロセスを描く舞台『4センチメートル』が、12月21日から下北沢のザ・スズナリで上演中だ。(29日まで)

タイトルにある「4センチメートル」とは、普通車両に車椅子を乗せるために改定しなければならない車高の差。多くの肢体不自由者とその介護者にとって、「車」は生きるための必須アイテムだ。だが、「4センチメートル」の高さが健常と障碍を振り分ける。その距離をなくすために行われた闘いを、初めてのミュージカルというスタイルで描き出す。その舞台について詩森ろばが、初日直前という時期に話を聞かせてくれた。

詩森ろば

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ドラマティックな歌詞のせいでミュージカルに!

──詩森さんにとってミュージカルは初めてだそうですね。

そうなんです。これまで生バンドを入れたり、バンド演奏付きという作品はあったのですが、俳優さんが本格的に歌うのは初めてです。最初は楽器を弾きながら唱歌を歌うような、ちょっとテレビの子ども向け教育番組みたいなイメージを描いていたんです。ところが、私が書いた歌詞がドラマティックだったということで、音楽の後藤浩明さんの作る曲がどんどん本格的になっていって。後藤さんに言わせると詩森さんのせいでミュージカルになったと(笑)。でも私は後藤さんのせいだと言ってます。

──最初から音楽を使おうという発想自体はあったわけですね。

今回は実話がベースにあって、それは本当にステキな話なのですが、でもそれを普通に真面目にやるだけでは、演劇としてはちょっと怠惰だと思ったんです。だったら音楽的にやろうと。それがとんでもないところまで来てしまったという感じです。でもすごくいい曲ばかりだから歌いたいな、と思いまして、俳優さんたちは、後藤さんが書いてきた大変な曲を、本当に頑張って歌ってくれています。

──出演者はミュージカル出身の方が多いのですか?

いえ、ミュージカル俳優ではない方ばかりで、最初はそのつもりではなく集まってくださったので、かなり申し訳ないことになってます。でも、歌唱指導の方がとても熱心に教えてくださって、言葉がはっきり聞こえる俳優の歌になった、と思っています。

──曲は何曲くらいあるのですか?

10曲以上あります。テーマ曲は「4センチメートルの歌」という歌で、覚えやすいので、皆さん口ずさんで帰っていかれるのではないかと思います。

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車椅子を乗せやすいコンパクトカーを開発する

──今回の福祉車両を開発するという話ですが、きっかけになったのは?

たまたま私が目にした「福祉車両開発」に関わる記事がありまして、福祉車両というのは、もともとバンなど大きな車だったのですが、障碍を持った子どもさんやお年寄りを介護するのはほとんど女性で、送迎車も女性が運転する場合が多いんです。そういう女性の運転者からすれば、コンパクトカー、小型で車椅子を乗せやすい車が便利なのですが、それを開発しようとすると、どうしても4センチの高さがネックになるんです。

──4センチ高くなれば車椅子が乗せやすいということですね。

でも4センチ高くするというのは、デザイナーにしたら大きな問題なわけです。コンパクトカーは小さくて可愛いことが条件で、4センチ高くすると車体が大きくなってしまう。それを解決するために、まずデザイナーと話し合って、次は工場というふうに、次々に社内を説得していった自動車会社の社員の方がいて、その方についての記事だったんです。いつか福祉を書いてみようという思いがずっとあって、これは私らしい題材ではないかと。

──その作者の方は身内に障碍の方がいらしたのですね?

身体に生まれながらのマヒがあって、将来的に車椅子になるかも、と言われた娘さんが生まれたことをキッカケに福祉車両開発に携わるようになった方だったんです。それを原動力にして、デザイン部門を動かし、工場を動かし、組織を動かして、いままでにないかたちの福祉車両を実現化されたんです。

──大企業の1社員が会社を動かしたわけですから、すごいことですね。

「工場を動かした」と字面で読むぶんには簡単ですが、巨大企業で、工場もこちらの想像を遥かに超えて大きいんです。しかも最初は不可能だと言われていた。それを実現させたのですから、並大抵のことではなかったと思います。

──さらにステキなのは、企業にとってリスクになりそうなことが、最終的には会社に大きなメリットをもたらしたわけで。

そうですね。この車は実現化したとき、あるお母さんが学校に乗っていったところ、ほかの保護者の方々が感動して次々買い替えをしたそうなんです。そして、いまではその会社のいろんな車種が福祉車両にオプション変更できるようになり、その開発秘話と共にその会社の柱のひとつとなっています。企業と消費者のウィンウィンの関係を築くことができたとてもステキな事例だと思うんです。問題を感じることが多いからこそ、問題を見つけて批判するより、演劇の中に、これからの企業のあり方への願いみたいなものを込めて、演劇の現場から提案していけたらと思っているんです。だって、政治や企業がよくならないと世の中はよくなりませんから。

──批判も大事ですが、良い部分に光をあてることで、社会を変える力になることもありますね。

むしろそちらのほうが早いという気もするんですよね。企業にはたくさんできることがあって、それをやることで働く側も幸福を実現できる。わたしはそれを細々と演劇にすることくらいしかできませんが、ぜひサラリーマンの方にこの舞台を観ていただいて、少しでも勇気を持っていただければいいなと思います。

詩森ろば

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みんなで考えた福祉車両の名前は「ハピネス」

──詩森さんの舞台は装置も毎回楽しみですが、今回は工場の内部や車を作る工程を楽しく見せるそうですね。

舞台美術はカラフルポップで、それを人力で動かして色々なものに見せていきます。俳優の方たちはいつも以上に大変です。モデルになった会社自体が人の創意工夫が生かされているところで、たとえば作業中にトラブルが起きたとき、移動せずに知らせることができる「ひもスイッチ」があるとか、まるで子どもの工作のような視点から便利なシステムが作られているんです。その一方で、ほとんどロボットだけで組み立てている部門もあったり。そういう面白さを、今回の舞台にも取り入れてます。たとえばロールプレイングゲームの「ダンジョン」みたいに、人が歩く先に道が出来たりとか。

──それはすごいですね。

それを俳優で全部やりますから、皆さん休まずに走り回ってます。『残花』で今までで一番大変な演出をして、もうしばらくないだろうと思っていたのに、こんなに早く、もっと大変なことをすることになって(笑)。

──今回も杉山至さんの美術ですね。

杉山さんに「ピタゴラスイッチ」(NHKEテレ)のような装置で、それを人力で動かしてやりたいと言ったんです。そしたら、ロシアンアヴァンギャルドの美術は全部木造だから、それをちょっとカラフルにしたようなものを作ろうと言ってくれて。私もロシアンアヴァンギャルドは好きなので。

──音楽といい美術といい、楽しんで作っているのが伝わってきます。

私だけでなくみんなも楽しんでくれていて、今回は舞台に出てくる福祉車両の車の名前も、俳優さんたちに考えてもらったんです。企業が使う「ネーミングの発想方法」というものがいくつかあって、それを使ったのですが、出てきた名前が「ハピネス」で、すごくシンプルでカワイイでしょう(笑)。福祉車両の名前としては最高のネーミングになりました。

詩森ろば

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障碍者を考えることは自分を考えること

──改めてこの作品についてのメッセージをいただきたいのですが。

やっぱり障碍を持つということは大変なことですし、現在、車椅子の方は50人に1人いるわけです。その方たちを暗いところに押し込めているのは私であり、私たちであって。彼らが暗いところにいるということは、私も暗いところにいるわけで、自分も苦しい社会を生きているなと思うんです。でも、やっぱりハッピーに生きていきたい。それは願いなんです。現実はそういう世の中ではありませんが、願いは持ち続けないと。

──願うことが大事だと。

今年も色々な事件がありましたよね。その中で「津久井やまゆり園」の事件は、私自身、神奈川の知的障碍の方に長く関わったので、本当にショックでした。私はなるべくニュースにショックを受けないようにしていて、というのはニュースに出るのは結果ですからそこだけではわからないと思っているからで。でもあの事件は本当に本当にショックで、こんな事件が起こるんだと、ずっと考えてしまいました。場所自体も山奥の隔離されたような場所にあって、そういう状況を作っているのは私たちであって、そこでああいう事件が起こってしまった。それを何もできないまま見ているという状況がすごいショックで、だから考えたいなと。私も含めて色々な多種多様な人たちが、どうしたら一緒に生きていけるのだろうということを、考えたいなと思うんです。でも、演劇はそこに生きている1人1人が愛おしいなと思ってもらえないと、いくら立派なテーマとか掲げてもしかたないわけで。今は、この舞台の11人を愛おしいなと思ってもらえる芝居にしたいと思いますし、そういう舞台になっていると思います。

──そして最後に、先日、第五十一回紀伊國屋演劇賞の個人賞を受賞されました。その感想をいただければ。

対象となった『残花』は、役者の皆さんにすごく負担をかけた作品で、それが賞に繋がったことはとても嬉しいです。劇団外でいただいた初めての大きなお仕事でしたし、私の故郷の岩手県のプロジェクトで、地域がリスクをいっぱい背負ったなかで手がけた作品でしたから、とにかく丁寧に、誠実にと思って取り組みました。もう1本の『インサイダー』は劇団公演で、内容はインサイダー取引の闇に心を取られた金融マンの物語、と今年手掛けたもののなかでは暗いものでしたが、気心のしれた仲間と攻めまくりながら楽しく作りました。その2つの方向の活動を認めていただけたことは有り難いです。とくに嬉しいのは、「作・演出に対して」という言葉があったことで、私は演劇の人間だと思っているので、演出を褒めていただけたことに喜びを感じています。この感謝の気持ちは作品で返していくしかないと思っていますので、浮つかずに、まずは自分が厳しい目をもって、自分が納得できるものを作っていきたいと思っています。

詩森ろば

詩森ろば

しもりろば○岩手県出身。1993年、劇団風琴工房旗揚げ。以後すべての脚本と演出を担当。時に詩のようなと評される美しい言葉で定評があったが、近年では対話を中心としたリアルな作風で、幻想的な独特の雰囲気のなかにもより現実とリンクした作品を作り始めている。03年『紅き深爪』で劇作家協会新人戯曲賞優秀賞受賞。04年から演劇の地域交流のあたらしい可能性を視野においた京都でのフェスティバルTOKYOSCAPEを立ち上げ、フェスティバルディレクターを務める。11年『葬送の教室』にて鶴屋南北戯曲賞最終候補。13年『国語の時間』(作・演出)で読売演劇大賞優秀作品賞を受賞。16年NPO法人いわてアートサポートセンター主催『残花』と風琴工房企画製作『insider』で第五十一紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。

【取材・文/榊原和子 撮影/竹下力】


〈公演情報〉
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風琴工房 2016冬公演『4センチメートル』
作・演出◇詩森ろば
音楽◇後藤浩明
美術◇杉山至+鴉屋
出演◇杉木隆幸、酒巻誉洋、佐野功、根津茂尚、三原一太、寺井義貴、岩原正典、李千鶴、小玉久仁子、田中千佳子、ししどともこ
●12/21~29◎ザ・スズナリ
〈料金〉前売3800円 当日4000円 学生当日2000円 障害2000円 平日はじめて割3800円[一日5組限定](全席指定・税込)
〈お問い合せ〉070-3602-4357(10:00~17:00)

http://www.windyharp.org/yon/index.html
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