東南アジアでオタクカルチャーを伝導! "さかなちゃん"へのロングインタビュー(後編)
イベンターとしての活動、そして新天地への飛翔
前回のインタビュー前編では何も経験の無い女子が、ベトナムにオタクカルチャーを植えつけながら、メイドカフェをオープンして軌道に乗せるまでの体当たりな内容をお届けしたが、今回はそこからオタクカルチャーを更に伝播させていく流れについて伺ってみた。かなり興味深い内容になっているので、ぜひ読んで欲しい。
――さて、メイド喫茶で多忙を極めたあとは、一段落してから他の業種に移ったとか。
さかなちゃん:はい、次の年の1月にホーチミンからハノイに移動して、IT会社でお世話になりました。でも、実はIT関係の仕事は一切せずに、ファッションデザイン部署っていうのを新規に作って頂いて、そこで洋服を自由に作らせていただいたりとか、キャンペーンガール的なプロモーションのモデルとして活動したりとか、webを盛り上げるようなマスコット的活動をしたり。かなり自由に色々させて頂いてました(笑)。
私以外にもキャンペーンガールが居たので、3人分のコスチュームを考えて制作したりとか。それに並行して、社会人としてのマナーを学んだり……。
――社会人マナーを海外で学び始めるというのもレアですね。
さかなちゃん:そうなんですよ(笑)。私も日本で働いてはいましたけども、アパレルだったのでちょっと独特というか、ビジネスマナーに触れる機会がなかったといいますか。カスタマーサポートの対応や、メールの文章のルール、他にはプレゼンの仕方とかひと通り学びました。英語が共通言語だったんですけれども、自分の英語は中学生レベルでかなり苦戦しましたね!(笑)。社長さんが社員を家族みたいに大事にする方だったので、そこで経営者としての姿勢を学んだり。心から尊敬出来る大人に初めて出会えて、社会を綺麗に見られるようになりました。
――社会人としての成長ですね。
さかなちゃん:ハノイでこうしてお世話になっている間も3か月に一度はホーチミン出張に行かせて頂いて、メイドカフェのサービスを少しでも維持出来るようにと、お店にお客さんとして行ってスタッフと仲良くなったり、色々アドバイスしたりとか、オーナーさんに簡単なレポを伝えて改善して頂いたり色々してましたね。個人的にとても愛着があったので、ずっとおせっかいしてました(笑)。
――メイドカフェのご意見番だ(笑)。その後は職歴がまた変わるんですよね?
さかなちゃん:ハノイで約1年お世話になった後は、またホーチミンに戻って、今度はイベンターとして活動を開始しました。
――ホーチミンでのイベントと、人気楽曲事情をお教え下さい。
さかなちゃん:招待させていただいたDJさんは、全部ボカロのDJさんでした。やっぱりボカロの人気が高いというか、普及率が高いので。自分が回すときはアニメ系なんですが、最新系の物を中心にプレイすると反応がいいです。
――おお、かなりの規模に育っていますね! 楽曲はメジャー系がやはり主流?
さかなちゃん:そうですね、ベトナムですとある程度の幅は持たせてプレイしても反応してくれるんですが、やはり元々の人気が高いアニメの楽曲がノッてくれやすいです。ちなみに今住んでいるシェムリアップでも小さいイベントをしてるんですけど、カンボジアでは本当にきっちりとメジャーな楽曲じゃないと反応してくれません(笑)。
DJするさかなちゃんの勇姿
――年月をかけて、市場を開拓した結果が出たわけですね。
さかなちゃん:そうですね、オタク/ファッション文化がようやく根づいたと思います。4年前には何もなかった場所に、いまはフィギュアの専門店もできたりして。オタク向けイベントも、オタクの大学生が立ち上げたイベント、現地の出版社が立ち上げたイベント、日本人が入った立ち上げたイベントとか多様化しています。特に2014年にベトナムの法律が変わって、海外イベンターさんがイベントを立ち上げられるようになったのが大きいと思います。
――それは大きいですね! DJの話題になりますが、音源は日本から買い求めたりしているのですか?
さかなちゃん:基本は「SoundCloud」というリミックスとかを公開しているサイトで、アニソンリミックスのブートレグを探してダウンロードしたりしています。原曲系の音源は日本に帰ったときに秋葉原などで楽曲を探してまとめ買いしたりしてますね。カンボジアだと、amazonも届かないので(笑)。
――それは大変だ(笑)。 ちなみにベトナムの方はアニメやオタク情報はどうやって入手しているのですか?
さかなちゃん:「ニコニコ動画」だと日本語に特化したサイトなので、使いこなせる人が少なくて、必然的に「youtube」で動画を見ている人が多いように感じられます。言語の壁を超えやすいのは初音ミク関係ですね。ニコニコ動画ですと歌ってみた、踊ってみたが人気のようです。あとは余談ですが、「艦これ」と「刀剣乱舞」も人気だったりしますね。
ベトナム時代ですと、イベントとか開催したときにコスプレとかプレイした楽曲の反応を見ても、けっこうリアルタイムに近いタイミングで視聴しているようです。
――なるほど……。ちなみに人気のあるアニメとかってどんなかんじでしょう?
さかなちゃん:ベトナムの子たちは結構『鬱アニメ』とかが好きで(笑)。割と激しい展開のアニメを好みますね、『未来日記』とか『Another』とか。あとは女の子のファンが多いのでBL要素のある、腐女子向けのアニメが人気高かったりします。『Free!』とか、『うたの☆プリンスさまっ♪』とか。あと『東方Project』も昔から結構人気だったり。東方アレンジの『Bad Apple!!』は殆どの人が歌えますよ。
――ほんとに人気のあるものがそのまま人気作品としてスライドしてるんですね。
さかなちゃん:一般向けだと『ラブライブ!』が人気高かったりしますね。現地の友達の殆どがアプリ『ラブライブ! スクールアイドルフェスティバル』を使ってます!
――おお、さすが全世界1,500万人突破アプリ。
さかなちゃん:わたしもラブライバーなので嬉しい限りですね! ちなみに、ことりちゃん、にこにー、のぞみん押しです!!
――逆に苦手系なのはどんなのでしょう。
さかなちゃん:『SHIROBAKO』『サーバント×サービス』など、日常系はネタが伝わりにくいのか人気が出にくいないですね。展開にメリハリがないと海外ではあまり受け入れられないみたいです。逆に『日常』というアニメはわかりやすいギャグ要素が多いので日常系の中では人気が高いですね(笑)
――アクションと顔芸で押しきれるのか(笑)。さて、今度はカンボジアとなるわけですが、どういう流れでカンボジアを選ばれたのでしょうか。
さかなちゃん:ベトナムでの経験をふまえて、どうしてもまた海外にでたい!という気持ちが強かったので、「次のなにもないけど発展しそうな場所」というのにカンボジアという選択肢が出てきたんですね。これから急成長していく国として魅力があったので。4年前のベトナムと同じ感じといいますか、「なにもないけれど可能性はあるな」っていう原石のようなものを感じて、同じようにカルチャーの発展ができるんじゃないかと思ってカンボジアに引っ越しました。
――すぐに引っ越したのですか?
さかなちゃん:いえ、ベトナムから日本に帰国して、半年間程ゲームセンターでアルバイトをして、出発資金を貯めました。
――おお、資金は大事ですね。ちなみにカンボジアでのアニメの知名度とかは?
さかなちゃん:一般の人には、『クレヨンしんちゃん』や『ドラえもん』などのキャラクターが認知されているくらいで、アニメやアイドル文化も知られていません。わたしのイベントに来てくれるような日本文化好きな海外の方でも、
『攻殻機動隊』シリーズ、『機動戦士ガンダム』シリーズ、『涼宮ハルヒの憂鬱』など、など映画にもなっているようなTVシリーズクラスの著名な作品でないと伝わらない……いわゆる「どメジャー」作品でないとダメですね。
プノンペンでは、年に一度、日本大使館主体の日本文化の総合イベントが行われていますが、未完成で未熟な部分や、人間味のある"可愛い"、っていう感覚は難しいみたいです。あとは基本的には、「日本のアイドルはアイドルじゃない! 韓国のアイドルがアイドルだ!」というような認識があるみたいですね。ファッションも韓流ファッションが多いですし。
――日本と韓国のアイドルの違いを、感覚的に説明していただけますか?
さかなちゃん:ダンスを題材とすると、韓国アイドルならキレがあって、無駄がない完璧さを求めるダンスで、日本のアイドルのふわふわしたヘタウマみたいな、がっちりしてないダンスはただのお遊戯、みたいな感じ方だったり。
――そういう見方があるんですね。
さかなちゃん:ルックスですと、韓国アイドルみたいな、作り物みたいな綺麗な人が美人で、日本のアイドルは綺麗じゃない、みたいな。曖昧な表現になりますが個性や愛らしさ、愛嬌、あどけなさといった要素をひっくるめて、私は"不完全な人間らしさ"だと思ってるんですが、「そんな娘達ががんばってるから応援したい! それが可愛い!」って思うような感覚がないってことですね。
もっと突っ込んで言うと、アイドルは歌手であり、TVを盛り上げれるエンターテイナーでアーティストという見方をされるんですね。自分達と同じ人間として見るというよりは、違う世界の完璧なエンターテイナーを求めてるんですね。
――プロらしさを求められちゃうんですね。
さかなちゃん:まぁ、そもそも日本が言うような"アイドル"という概念自体がありませんので、説明するのは難しい分野でもあります。
――深い話をありがとうございます。変わりまして、カンボジアに移ってからは普段は何をしているのですか?
さかなちゃん:普段は普通に生活しているんですけども、どうしてるって言われると難しいかも(笑)。
強いて言うならば、情報発信としてブログやニュースサイトで発信させていただいたり、文字を書く事が多くなってます。他にはたまにイベントの仕事したり、カンボジアのアイドルさんと交流したりとかもしてます。一緒にやっていければいいなという感じで、ただまだカンボジアにはアイドルという概念が弱いので、カルチャーとしては、本当にほとんどゼロからの立ち上げになりますね。
――現地でのイベントは何人ぐらい集まってます? リピーターは多い?
さかなちゃん:カンボジアだと現時点では毎回30人くらいですね、リピーターは半数くらい来てくれる感じで。告知はFacebookオンリーですね。海外だとFacebookがやはり強くて、これ以外では告知してません。ただ、カンボジアの人がもともとネットに弱くて、Facebookを使ってないことも多いので、これが今後の懸念点ですね。
――ちなみにシェムリアップってどんなところですか?
さかなちゃん:有名な建造物だとアンコールワットがあります。観光地なんだけれども、本当に何もない場所で、カンボジアの高床式住居があったりする村がすぐそばにあったりだとか(笑)。中心地までいけばクラブとかもあったりするんですけど、ちょっと離れると本当に何もないですね。すごく平和でのんびりしていて、「何もない喜び」を感じるには最適の場所です。
――ベトナムと同じように、ゼロからの展開ということですが、これからどういう展開をしていきたいですか?
さかなちゃん:今の段階では本当になにもないので、大きなことはできないんですよね。出来る範囲で少しずつ拡散していくしか無くて。例えば自分がファッションの広告棟になって「あ、あの子いつも不思議な格好で歩いているな」とか。イベントとかもいまは大規模にしてくんじゃなくて、小さいところを育てて小目標を達成していきたいな、と。最終的にカンボジアにオタク/ファッションカルチャーを展開させて、カンボジアの女の子たちがより可愛くなってくれることが嬉しいので、それを大目標にしてすこしずつ進めていく感じです。
――最後に、アジアで活動しているさかなちゃんの夢を教えていただけますか。
さかなちゃん:そもそも東南アジアを選んだのは、日本のカルチャーを伝えるためだったので、「文化を知ってほしい、感覚を磨いてほしい」というのがあって。そのきっかけが私だったら嬉しいなと。今だとカンボジアの女の子たちが、日本の可愛い格好をしてくれるのが夢なんです。
カルチャーはアニメもファッションも音楽も何もなくて、そういうのを教えるカリキュラムも存在しないから、カルチャーが育たないんですね。まず「可愛い、カッコイイ」っていうのを教えていきたい。さらにそこから私発信で伝導していきたいし、そういうのを知れば私みたいに「好きなことを仕事にしてみたい!」っていう欲求が出てくると思うんですよ。そういう風に仕向けていきたいですね。
――人生の選択肢に、オタクであったりファッションであったりという部分が増えてほしいと。
さかなちゃん:東南アジアの女の子たちが、いまでも英語ができないとまともな職につけないとか、教育をまともに受けられないという現状があるんですね。そういう人たちの中に、自分たちの人生の選択肢を増やせるようにカルチャーがあればいいなと思ってます。
最終的には現地の女の子たちが自分たちの中でカルチャーを消化して、自分から世界に発信していく、そういう構図ができてくれれば最高ですね。
私としては、お金を稼ぐよりも、自分のために頑張って、自分が幸せになった結果、みんなにも幸せをおすそ分けできればうれしいな、といった感じです!
――応援していきたいです! 今回は長い間ありがとうございました!