『レ・ミゼラブル』福井晶一、ヤン・ジュンモ、吉原光夫がジャン・バルジャン鼎談~魔法の譜面と再び向き合って~

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(左から)ヤン・ジュンモ、福井晶一、吉原光夫

(左から)ヤン・ジュンモ、福井晶一、吉原光夫


2013年に初めてバルジャンとジャベールを演じ、15年からはバルジャンに専念している福井晶一。15年に日本でバルジャン・デビューを果たし、16年には韓国でも同役を演じたヤン・ジュンモ。そして11年からバルジャンを、13年からはバルジャンとジャベールの二役を務める吉原光夫。30周年を迎える今年の『レ・ミゼラブル』のプリンシパル9役の中で唯一、前回と全く同じ顔ぶれによるトリプルキャストとなった、主人公ジャン・バルジャン役の3人にインタビュー!

兄弟愛で結ばれた3

――前回の2015年公演を振り返って、特に印象に残っていることを教えてください。

吉原 ヤンちゃんが新しく入ったことで、作品が底上げされたことが大きいと思います。僕たちにはない視点で作品を見つめているヤンちゃんに、みんなが刺激を受けて、さらなる高みに上ろうとした。ヤンちゃんが、いい起爆剤のような存在になっていましたね。

ヤン (日本語で)アリガトウゴザイマス。僕としては、公演の最後のほうで腰を痛めてしまった時に、皆さんに助けられたことが思い出深いです。福井さん、光夫さんをはじめとする、たくさんの先輩方のサポートに本当に感謝しています。

福井 分かります。僕も2013年にケガをしたんですが、光夫に大いに助けられましたから。

吉原 いえいえ…。

福井 いや、本当に。でも僕がケガをしたのは稽古中で、2013年は初日の舞台に立てなかったんです。だから前回は、光夫の言うようにジュンモのおかげでいい稽古ができたことももちろんですが、やはり「初日の舞台に立てた!」という感動が忘れられないですね。

福井晶一

福井晶一

――今回、再びバルジャン役をと言われた時のお気持ちは?

ヤン バルジャンは体力的にしんどい役ですし、前回の公演期間中に、初めて体験する地震が起こったことがトラウマのようになっていることもあり、正直に言うと怖い気持ちがありました。でも、それ以上に素敵な思い出がたくさんありますし、また演じられる機会をいただけたからには、気持ちを新たに取りもうと今は思っています。

福井 僕は、2013年はケガの影響で役に集中できず、バルジャンという人物を掘り下げきれていない気がしていました。前回ようやくそれができて、さらに深めたい気持ちが湧いていたので、お話がきた時はすぐに「やらせていただきたいです」と。でも光夫は、前回公演でもう満足してるんじゃないかと思っていたから(笑)、また出てくれることがすごく嬉しいですね。

吉原 僕にとってはまさに、それが原動力です。福井さんとヤンちゃんと一緒に、また『レ・ミゼラブル』という作品を一から創り上げたいと思って出演を決めました。志が低いように聞こえるかもしれないですけど、役者にとってそれってすごく大事だと思うんです。

ヤン 僕にとっても、またお兄さん方と一緒にやれることの心強さは計り知れません。前回の公演で、僕はすでにお二人に兄弟愛を感じていますから。

ヤン・ジュンモ

ヤン・ジュンモ

吉原 いや~、嬉しいね!

福井 本当に嬉しい。日本人ってあんまりそういうことを率直に言わないところがあるけれど、韓国の方は言ってくれる。前回の稽古や公演中も、ジュンモのそんなところに救われていました。

――お互いの「バルジャン像」については、どんな印象を持っていますか?

吉原 僕がお二人をジャッジするような言い方にならないといいんですが、まずヤンちゃんについては、日本語が100パーセント完璧な状態で初日を迎えようとするストイックな姿にすでにバルジャンを感じました。プラス、彼が元々持っている優しさや憂い、キリスト教信者であることからくる信仰心も、バルジャンにフィットしていると思いましたね。

福井 ジュンモのバルジャンからは、神の存在がすごく濃く感じられるんですよね。稽古中、ジュンモが僕を教会に誘ってくれたことがあって、それが僕には大きなヒントになりました。神と対峙したことで、《独白》を歌う時の対象がはっきりしたような感覚があったんです。やっぱり、実際に足を運んで体験してみないと分からないことってあるものですね。

ヤン お役に立てたなら嬉しいです。僕は、お二人から本当に多くのことを学びました。まず福井さんは、稽古場からもうバルジャンそのもので。福井さんから教えていただいたバルジャンのあり方や感情は、韓国で演じる際にも大きな助けになりました。

吉原 福井さんはケガを経験されたことで、後悔や罪を背負ったプロローグのバルジャンの表現が、より豊かになっている印象を僕も受けました。あとはやっぱり、ケガを気にしながら舞台に立っていた2013年と違って、表現に集中できる幸福感に満ちていたのが印象的ですね。

吉原光夫

吉原光夫

福井 確かに、2013年は表現以外の色々なことに神経を使っていたからね。

ヤン そして光夫さんについては、バルジャン像という質問からは少し離れてしまうんですが、役者としての姿勢を学ばせていただきました。バルジャンとジャベールを休みなく演じるタイトなスケジュールの中で、一度も手を抜くことがなかったんです。役者にとって、体力やエネルギーをコントロールすることは本当に大切なことですから、僕も見習いたいと思っています。

福井 僕にとっても、光夫は役者として本当に尊敬できる存在です。芝居を本当に細かく構築しながら役を作っていく姿勢は、僕には足りてないところでもあるから(笑)、迷った時はいつも光夫に相談するんです。今回も、頼りにしています。

あなたが観に行けば、入場料も……?

――歌稽古の中で、改めて感じていることなどあればお聞かせください。

吉原 『レ・ミゼラブル』は音楽で出来ているっていうことを、改めて勉強しなくちゃいけないなと思ってます。ヤンちゃんなんかはクラシックの方だから、譜面を分析して、正しいピッチで歌うというのが根底にあった上で「表現」をしてると思うんですけど、俺はそういうのを飛び越えて表現しちゃいがちというか…感情のためだったら、声が震えてもいいやって思ったりしちゃうんですよ。でもそれは、甘えなんじゃないかと思い始めていて。演劇的に攻めすぎるのを、今回はちょっとやめてみようかなという感じですね。

福井 俺もそれ、同じことを思ってた。感情に流れていたところがあったけど、もっと音楽にゆだねた方がいいのかもしれないな、と。分からない、まだ歌稽古の段階だから、立ち稽古が始まったらまた変わってくるかもしれないけれど。

吉原 そうですね、歌稽古というのは役がどうこうはあまり考えず、音楽を構築する時間ですから。ただ、例えば《独白》なら、今まではバルジャンが20年前から受けてきた傷やその重み、匂いとか土臭さ、そこからくる性格の歪みだったりを並べ倒して、全部を歌の中に凝縮しようとしていた。でもちょっと待てよ、もしそれによって音楽が乱れているなら、それは違うんじゃないか、と思い始めているということです。譜面に書かれている音符の通りに歌えば、それだけで表現として成り立つんじゃないかな、と。ヤンちゃんは多分、いつもそうしているんだよね?

ヤン できているかどうかは分かりませんが、『レ・ミゼラブル』の音楽が素晴らしいと言われる理由は、まさにそこにあると思っています。つまり、譜面通りに歌えば役の感情が全て引き出される、魔法のような音楽なんです。その譜面通りに歌うことが、非常に難しいわけですが(笑)。

福井 分かります。向き合う度に、発見がある譜面なんですよね。

ヤン でも僕にとってはやはり、日本語で歌うということが最大の課題ですね。2年間日本語で歌っていないので、また一からのスタートという感じではありますが、再び挑むからにはより完璧に近づけたい。そしてこの作品のテーマである「真実の愛」という部分を、日本全国の観客の皆さんに伝えていかなければと思っています。

(左から)ヤン・ジュンモ、福井晶一、吉原光夫

(左から)ヤン・ジュンモ、福井晶一、吉原光夫

――最後に、今回は日本初演30周年記念公演ということで、あえてまだ『レ・ミゼラブル』を一度も観たことのない方にお誘いのメッセージをいただければと思います。

吉原 いきなり現実的なことを言うのは良くないのかもしれないですけど、観たことのない人がまだ多いことには、値段の問題が大きく関わってると思うんですよ。俺だってもし演劇好きじゃなかったら、日常生活に必要ないもののために13,500円なんて払いたくない(笑)。でも劇場って、この生き辛い世の中で、真実の愛みたいなシンプルなものを、俳優とお客さんが目に見える形で共有できる場所なんですよね。だから舞台を観ると、次の日から明るい光の中を歩いていけるような気持ちになる。1回でいいから来てもらえば、体が共鳴するその感じを味わってもらえると思います。そうやって演劇人口が増えれば、値段も下がるかもしれないので(笑)、ぜひ!

ヤン 光夫さんが言ってくださったことに、大切なことが全部入っていると思います。

福井 うん、僕もそう思うから、これをみんなが言ったことにしておきましょう(笑)。

(左から)ヤン・ジュンモ、福井晶一、吉原光夫

(左から)ヤン・ジュンモ、福井晶一、吉原光夫

取材・文:町田麻子  写真撮影:原地達浩

公演情報
ミュージカル『レ・ミゼラブル』
 
■作:アラン・ブーブリル&クロード=ミッシェル・シェーンベルク
■原作:ヴィクトル・ユゴー
■作詞:ハーバート・クレッツマー
■オリジナル・プロダクション製作:キャメロン・マッキントッシュ
■演出:ローレンス・コナー/ジェームズ・パウエル
■翻訳:酒井洋子
■訳詞:岩谷時子
■プロデューサー:田口豪孝/坂本義和
■製作:東宝
■公式サイト:http://www.tohostage.com/lesmiserables/

■配役:
ジャン・バルジャン:福井晶一/ヤン・ジュンモ/吉原光夫
ジャベール:川口竜也/吉原光夫/岸祐二
エポニーヌ:昆夏美/唯月ふうか/松原凜子
ファンテーヌ:知念里奈/和音美桜/二宮愛
コゼット:生田絵梨花/清水彩花/小南満佑子
マリウス:海宝直人/内藤大希/田村良太
テナルディエ:駒田一/橋本じゅん/KENTARO
マダム・テナルディエ:森公美子/鈴木ほのか/谷口ゆうな
アンジョルラス:上原理生/上山竜治/相葉裕樹
ほか
 
<東京公演>
■会場:帝国劇場
■日程:2017年5月25日(木)初日~7月17日(月・祝)千穐楽
*プレビュー公演 5月21日(日)~5月24日(水)
 
<福岡公演>
■会場:博多座
■日程:2017年8月1日(火)初日~8月26日(土)千穐楽
 
<大阪公演>
■会場:フェスティバルホール
■日程:2017年9月2日(土)初日~9月15日(金)千穐楽
 
<名古屋公演>
■会場:中日劇場
■日程:2017年9月25日(土)初日~10月16日(月)千穐楽

■『レ・ミゼラブル』日本公式サイト http://www.tohostage.com/lesmiserables/

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