『タイ〜仏の国の輝き〜』展をレポート 微笑みの国・タイからやってきた仏教美術、約140点が集結
日タイ修好130周年を記念して7月4日(火)〜8月27日(日)の期間、上野の東京国立博物館にて『タイ〜仏の国の輝き〜』展が開催されている。本展はタイ全土の国立博物館から選りすぐりの仏教美術の名宝の数々を約140点一堂に集めた展覧会だ。本展の魅力をレポートすべく、7月3日に行われた内覧会よりピックアップして紹介していきたい。
世界有数の仏教国といわれ、人々の日々の暮らしのなかに仏教が息づいているタイ。バンコクのような大都市をはじめ地方の農村でも、黄色い袈裟に身を包んだ僧侶の姿や寺院に参拝する人々の姿は、ごく普通の日常風景としてそこにある。そして近代の経済発展とともに生活様式が大きく変化し続けている今も、人々の心のなかには仏教への信仰心が変わらずあり、「タムブン(徳を積む)」という精神が今なお生きているのである。
仏の国の輝きを象徴する“ハンサム仏”
第1章「タイ前夜 古代の仏教世界」では、5世紀に東南アジアに伝来した仏教が各地でどのように普及し、文化を築き上げていったのかが紹介されている。
まず注目したいのは、「ナーガ上の仏像坐像」だ。本展でタイ仏像大使を務める、みうらじゅん・いとうせいこう両氏も「展覧会の中でも一推しのハンサム仏」と称賛している。こちらは、仏陀が瞑想をしている間、龍王ムチリンダが傘となって仏陀を雨風から守ったという伝説に基づいて造られたものだそう。精悍で口元に優しい笑みを浮かべた美しい仏の顔立ちもさることながら、台座と背面には7頭のナーガ(蛇)が鎌首をもたげている姿があることにも注目したい。かつて東南アジアでは水と関係する蛇の神を信仰する風習があり、こちらのナーガはその信仰に由来するものなのだという。まずは正面入り口に鎮座する、神々しい仏の姿をぜひじっくりとご覧いただきたい。
「ナーガ上の仏像坐像」
仏陀の教えが広く伝わっていく様子をあらわした「法輪」
仏陀が説法を説く姿をあらわした、“ウォーキングブッダ”も
第2章「スコータイ 幸福の生まれ出ずる国」では、現代のタイ文化の基礎が築かれた最初の王朝、13世紀スコータイ王朝に焦点を当てる。
本章では、スリランカ美術の影響を色濃く残す典型的なスコータイ様式の仏像の一つ「仏陀坐像」に目を奪われるだろう。卵型の顔、外向きで長い耳、伏し目でわずかに笑みをたたえる口元。さらに、張りがある肉体にはスラリとした腕や細長い指がみられる。穏やかで慈愛に満ちた表情でありながらも、全体的に抽象性を帯びている姿が印象的であった。また頭頂部には「ラッサミー」と呼ばれる火焔が施されている点も、スコータイ王朝の仏教美術の特徴としてぜひ注目してみたい。
「仏陀坐像」
もう一つはスコータイ時代より盛んに造られ大流行したという「仏陀遊行像」だ。本像も「仏陀坐像」と同じくスコータイ様式の特徴がよくあらわれた仏像であるが、こちらは立像であることに加え、仏陀が説法を説きながら歩みを進める姿がかたどられている。仏像が描くなめらかな曲線美とこの上なく優美な姿に、すっかり魅了されてしまう人々も多いに違いない。
タイ仏像大使の両氏に”ウォーキングブッダ”とも称される「仏陀遊行像」
続く第3章「アユタヤー 輝ける交易の都」では、1351年の建国以来、400年の長きにわたって繁栄した交易都市、アユタヤー王朝の繁栄を象徴する宝物を中心に紹介されている。こちらではアユタヤーの中心寺院、ワット・マハータートの地下に設けられた「クル」という小空間から発見された黄金製品の一部を紹介している。
金板に貴石をはめて装飾する象嵌技法で作られた「金象」
「仏陀立像」
タイと日本の国交の歴史がわかる、貴重な文書の数々
第4章「シャム 日本人の見た南方の夢」では、タイの呼称・シャムと日本の国交の歴史を物語る重要な文書を通して、両国の交流の足跡をたどることができる。
江戸幕府が日本からシャムに渡航する貿易船主に与えられた証明証「異国渡海朱印状」
シャムと日本はもともと15世紀から琉球を介して交流が始まっていたが、1604年に江戸幕府とシャムの貿易を正式に認める「異国渡海朱印状」が発行された。これをうけ朱印船貿易が盛んになり、1610年頃には山田長政がアユタヤーへ渡り日本人町の頭領として活躍。江戸幕府以降、シャムと日本は互いに親交を深めてきたという歴史がある。本章ではこうした両国の友好の歴史的文脈に想いを馳せながら、一つ一つの貴重な文書とじっくりと対峙してみたい。
16〜17世紀の「アジア航海図」
タイ王国の栄華を誇る、高さ5.6mの大扉
本展のフィナーレを飾る第5章では、1807年に創建された高さ5.6mを誇る大仏殿、ワット・スタットの巨大な黄金扉「ラーマ2世王作の大扉」を目の当たりにすることができる。
「ラーマ2世王作の大扉」
こちらの大扉は当時のアユタヤー王朝の国王・ラーマ2世が自ら彫刻を施したもので、王室とともに育まれたタイ文化を象徴する第一級の国宝として珍重されている。かつてのタイ王朝の隆盛を彷彿とさせる壮麗な扉は、この国の底知れぬ魅力を伺い知ることのできる、貴重な結びの出品物といえるだろう。
釈迦が入滅する姿を描いた「仏陀涅槃像」
本展では全5章を通じて仏教がタイの文化形成に果たしてきた役割を王朝ごとに辿ることができるだけでなく、各時代で少しずつ特徴の異なる多くの仏像の魅力に出会うことができる。また微笑みの国・タイを象徴するような穏やかで優しい表情の仏像のなかから自分だけお気に入りを見つけて、じっくりと魅入るという楽しみ方もおすすめしたい。タイの暑い空気と太陽に想いを馳せながら、タイと仏教の魅力に触れてみてはいかがだろうか。
日時:7月4日(火)〜8月27日(日 )
会場:東京国立博物館 平成館
開館時間:午前9時30分〜午後5時(金曜日、土曜日は午後9時まで、日曜日と7月17日(月・祝)は午後6時まで
※いずれも入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日 (ただし、7月17日(月・祝)・8月14日(月)は開館、7月18日(火)は閉館)
情報サイト:http://www.nikkei-events.jp/art/thailand/index.html