野田秀樹総監修『東京キャラバン in 京都』公開ワークショップレポート
「東京キャラバン in 京都」の稽古に臨む松たか子。 [撮影]吉永美和子(このページすべて)
予想外のコラボの連発! 稽古の段階で見応えありの一大文化サーカス
劇作家・演出家・役者の野田秀樹が、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックを視野に入れて立ち上げた「東京キャラバン」。音楽・演劇・美術・伝統芸能などの様々なジャンルのアーティストが、文化交流ならぬ“文化混流”を行うことで生まれたパフォーマンスの数々を、サーカスのノリでにぎやかに見せるイベントだ。今年度から本格的に全国展開を始めたこの企画が、9月に京都──しかも世界遺産の二条城内で開催される。文化の歴史も厚みも、他エリアとは一味違う京都のアーティストたちと「東京キャラバン」のメンバーが組むことで、どのような世界が立ち上がるのか? その様子を探るべく、8月20日(日)に京都府亀岡市で開催された「東京キャラバン in 京都」の公開ワークショップに足を運んだ。
祇園祭鷹山保存会 囃子方のメンバーと打ち合わせ中の野田秀樹。
「東京キャラバン」の稽古の様子を、無料かつ事前申し込みなど一切なしで一般公開するという、今回のワークショップ。会場の[ガレリアかめおか]は日曜ということもあって、老若男女様々な人たちが、ザッと見て最大200人以上は集まっていた。特に子連れや老人など、普段の演劇のワークショップではなかなか見かけることのない層の来場が目立つ。そんな来場者たちに野田は「のらりくらりとやってますので、自由に出入りしてください」と呼びかけ、稽古はマイペースで進められていった。
ワークショップ会場にはたくさんの一般市民の人たちが。
この日の稽古に参加したパフォーマーは、松たか子、諏訪綾子/フードクリエイション、佳つ菊、豆千佳、祇園祭鷹山保存会、村田製作所チアリーディング部、青柳美扇、津軽三味線「小山会」、和太鼓「Atoa.」。そして“東京キャラバン”のアンサンブルと振付家の井手茂太だ。誰と誰がコラボレーションをするかなどの概要はすでに固まっているようで、この日は各パフォーマーの立ち位置や美術の配置、音響のタイミングの確認など、細部を調整する作業が主に行われていた。
(上)勇壮な和太鼓演奏を披露する「Atoa.」メンバー。(下)祇園祭鷹山保存会 囃子方の中には子どもの姿も。
祇園祭鷹山保存会は、関西人にはおなじみの祇園祭の「コンチキチン♪」の演奏を披露。ただ笛方たちの入場を巨大オブジェが先導(稽古では仮の台車を使用)したり、舞台上に並んだ奏者の間をアンサンブルたちが駆け回ったりと、東京キャラバンならではのひねりが加えられていた。ちなみにアンサンブルを登場させたのは「現代の我々のセカセカした時間を(お囃子と)一緒の空間に流したら、どういうコントラストが生まれるのか」という野田のひらめきで、まさにこの当日に試したものだったそうだ。さらに「Atoa.」の猛々しい太鼓も絡み、こちらもゆったりとした祇園囃子と鮮やかなコントラストを描いていた。
同じ京都勢としては、芸妓&舞妓と村田製作所チアリーディング部の玉乗り型ロボットとのコラボもユニークだった。芸妓・佳つ菊と舞妓・豆千佳が雅やかに舞った後、チアリーダー風の玉乗り型ロボットが進み出ると、その可愛らしさに会場のあちこちで「フフッ」っと笑いが起こる。やがて佳つ菊と豆千佳が再び登場し、ロボットと一緒に舞う姿は、まさに伝統とテクノロジー、雅とキュートの微笑ましくも優雅な共演といった所だ。
佳つ菊(祇園甲部芸妓)&豆千佳(祇園甲部舞妓)と村田製作所チアリーディング部の球乗り型ロボット。「意外と親和性が高いのに驚いた」とは、村田製作所チームの吉川浩一。
また今回の客人(まれびと)枠で参加した青柳美扇、小山会、Atoa.の3組がコラボする場面も。小山会の三味線にAtoa.の太鼓が絡み、甲冑を着込んだ青柳がその音に併せて大筆で揮毫する。ここで野田が時間を掛けていたのは、それぞれのパフォーマーの立ち位置をどうするかだった。最初は演奏者4人を真ん中に据えていたが、上手側に寄せてしかも太鼓奏者は一人限定に。また書の位置も下手側からセンターに移動するなど、音のバランスも考慮しながら粘り強く配置を試し続けていた。ちなみに青柳がここで揮毫する一文字が、次のパフォーマンスの内容につながるのだが、それが何かはここではあえて伏せておきたい。
青柳美扇(書道家)、津軽三味線「小山会」、和太鼓「Atoa.」のコラボシーン。
昼過ぎには松たか子が合流し、恐らく今回の舞台の軸となるであろう朗読&芝居パートの稽古が始まった。鬼に見つかるまいとする少年の心理を描いた、夢ともうつつともつかない散文を松が朗読し、アンサンブルたちがそれに併せて様々なモノを演じていく。鬼の幻影、少年の心臓の動き、地面を這い回る虫たち、そして再び少年の背後に現れる鬼……。
松たか子と“東京キャラバン”アンサンブルに演出をつける野田秀樹。
やはり芝居の演出に関しては、野田の熱がいっそう入る。松に対して言葉のアクセントを確認したり、アンサンブルの動きをより鬼っぽく見せるよう手を加えたり。野田が数人に指示を入れている間も、松を含めた残りの出演者たちは振付の井手茂太と動きをおさらいしたり、そこで新しく浮かんだ動きのアイディアを早速試すなどしている。誰もが空いた時間を無駄にはせず、作品のために能動的に動いていく姿勢が印象的だった。
アンサンブルのポーズに微調整を入れる振付の井手茂太。
午後3時頃には個別の稽古が落ち着き、全体を一度通してみることに。まずはアンサンブルたちが、諏訪綾子が手がけたフードやドリンクを観客たちにサーブする客入れの時間から開始。諏訪は自ら赤い液体の入ったガラス容器を持ち、観客の口に液体を吹きかけていく。それは諏訪曰く「一瞬で沸き起こる怒り」のテイストだそうで、実際に口にすると何とも複雑な辛味が残った。
客席で待機していた松たか子も、諏訪綾子/フードクリエイションの「一瞬で沸き起こる怒り」テイストに挑戦!
そして今日の朝から見ていた様々なパフォーマンスが、ほぼ止まることなく進行していく。こうして改めて観ると、和も洋も、老いも若きも、伝統も革新も、人もモノも、あらゆる要素が大きなカンバスにガーンとぶちまけられて、でもそれが不思議と、ちゃんと意味のありそうな一つの大きな模様を描こうとしている……という印象を受けた。ただ野田自身「まだクオリティは低い」と観客に説明していた通り、まだ全体的に粗さや迷いが目についたのは否めない。とはいえ、様々な「本邦初挑戦」に戸惑っているであろうパフォーマーたちの動きが確信に変わり、舞台全体がスムーズに流れていくようになれば、確実にワクワクドキドキが止まらないワンダーワールドが出現するはずだ。
美術や衣裳がなくても幻想的な雰囲気が伝わる、“東京キャラバン”アンサンブルと松たか子による芝居パート。
ワークショップ終了後の囲み取材では「それぞれの方たちのクオリティが高くてやりがいがありましたし、皆さんが“こうやっていただけますか?”という言葉に、すごくポジティブにやっていただいたのがありがたかったです。ここに今まで(東京キャラバンで)知り合ったアーティストが入って来てくれると、何か面白いことが起きるんじゃないかな」と期待を語った野田。インターネット生中継が急遽決定したので、会場に行くことができない人たちは、ぜひこの一大サーカスをPCやスマフォ越しにでもチェックしてほしい。
囲み取材出席メンバー。左から野田秀樹、吉川浩一(村田製作所チアリーディング部 マネージャー)、山田純司(祇園祭鷹山保存会理事長)。「 こんな風にできるんや! と、楽しみながらやらせていただきました」とは山田談。
「東京キャラバン」はこの京都公演の後、9月9日(土)・10日(日)に東京・八王子、10月9日(月・祝)~13日(金)・15日(日)に熊本でも開催(京都公演と内容は異なる)。2018年以降も、日本全国各地を回っていく予定。
取材・文・撮影=吉永美和子
■二条城二の丸御殿前 特設ステージ
※雨天時は一部プログラムを変更して別会場で開催予定。
■料金:無料 ※事前申込受付は終了。
■参加アーティスト:
《東京から》松たか子(女優)、中納良恵/EGO-WRAPPIN’(ミュージシャン)、津村禮次郎(能楽師)、諏訪綾子/フードクリエイション(アーティスト)、“東京キャラバン”アンサンブル(パフォーマー)、井手茂太(振付家・ダンサー)
《京都から》佳つ菊(祇園甲部芸妓)、豆千佳(祇園甲部舞妓)、祇園祭鷹山保存会 囃子方、村田製作所チアリーディング部(球乗り型ロボット)、名和晃平(彫刻家)、木村舜(現代アーティスト)
《全国からの客人(まれびと)》青柳美扇(書道家)、津軽三味線「小山会」、和太鼓「Atoa.」
■視聴URL:http://live.nicovideo.jp/watch/lv304501524
※視聴には、事前にニコニコ動画の会員登録が必要(無料)。
※雨天時は9月2日に収録したパフォーマンス映像を放送予定。2日も雨天の場合は放送中止。
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