細川千尋インタビュー ~ 麗しきジャズピアニストの「新たなはじまりの一歩」を目撃せよ!
細川千尋 (撮影:荒川潤)
半世紀の歴史をもつスイスのモントルー・ジャズ・フェスティバルで執り行われるソロ・ピアノ・コンペティション。このコンペティションで2013年にファイナリストとなり、注目を集めたのがピアニスト細川千尋だ。既に2枚のアルバム(『Thanks!』『I’m home!』)を発売し、国内外で旺盛な演奏活動を行っている。
【動画】細川千尋ソロ演奏~♪ガーシュウィン:サマータイム
そんな細川が近年力をいれているのがピアノトリオでの演奏である。2017年12月8日(金)に控える浜離宮朝日ホールでのライブでも、これまで活動の中心だったソロではなくトリオでの出演となる。細川千尋のこれまでとこれからを聴いた。
――ジャズをはじめる前から作曲をされていたと伺いました。
作曲は3~4歳ぐらいからしていました。作曲でいくのか、演奏でいくのか決めていなかったんですが、周りにどっちにいくか分からないなら和声学やっといて損はないからって言われて、中学生ぐらいからはクラシックの作曲を勉強していましたね。それまでハーモニーは感覚的にやっていたので、和声学は後付けという形で勉強したんです。
クラシックの曲も作ったりしていましたけど、最近はめっきりですね。昔からクラシックの練習が私はとても苦手で、即興することがすごく好きだったんです。自分で自由に弾いて良い時間というのを、今でもずっと設けていて、その時間がとても自由になれる時間で。結局はそれが、いま自分がお客さんに来ていただく仕事に繋がっていますね。
――ジャズとはいつ出会ったのでしょう?
大学在学中にジャズコースが開設されて、そのタイミングで色んな楽器の子とセッションをするようになったんです。レッスンではクラシックを見てもらっていたんですけど、その先生方や周りの方々にも「細川は色々やるよな」みたいな感じに言われてました(笑)。
当時はまだクラシックの曲を書いていましたし、方向性というのを決めてなくて色んなことをしていたんですけど、ジャズに出会ってコード(和音)を覚えたら、そのコードとメロディーと尺っていうものがあれば、例えば初めて会う人でも音で会話が出来るし、基礎があれば皆と繋がれるというのがすごく楽しくてハマったんです。
――その後、どのようにジャズを学ばれていったのですか?
耳だけは良かったので、聴いていた曲とかを楽譜にしたりはしなかったんですけれど、自然と耳コピみたいのをしていたみたいです。最初は人のものをコピーしていたんですが、そこに自然と自分の要素が入っていった感じで今に至ります。
――当時はどんなジャズ・ミュージシャンの演奏をコピーされていたんでしょうか?
まずはオスカー・ピーターソンですね。演奏を聴いて、こんなに楽しいピアノ良いなぁ……と憧れました。ソロピアノで、唯一ちゃんと楽譜におこしたものはアート・テイタムのソロピアノ演奏です。10度(の音程)がすごく多いから楽譜にガチッと、ソロであれだけいっぱい左も右も弾いていてってなると、結構耳も鍛えられましたね。
――名前の挙がったお二人とも、圧倒的な超絶技巧をお持ちのピアニストですね。
ジャズのピアニストにも色々といらっしゃいますけど、ピアノの音が心に響くかどうかですね。テクニックだけを見せつけているわけでもないし、オスカー・ピーターソンなんか、とにかくハッピーな雰囲気が音からも出ていますよね。生では観れなかったですけれど、ライブの映像を観てても、空気感、オーラみたいなものがスゴい出てきてるし、やっぱり音楽って結局は人間がどんな人かってことかなと思うんです。
――細川さんの演奏を聴かせていただくと、ピーターソンやテイタムに通じる圧倒的な迫力もあるのですが、違う場面では繊細で美麗な世界が浮かび上がってきますよね。対極的な両面があることに驚かされます。
私、日常からとても気分が変わりやすいタイプで、すごく喋っていたかと思えば、喋りたくない気分になったりとか、変動が激しいタイプで……たぶん、ピアノも一緒なのかもしれません。だからライブに来てくださるお客様が「千尋ちゃんのライブって、色んなキャラが出てくる」「違う人の演奏を聴いている気分になったりする」とかって、言われたりするんですよ。わたし自身としては「どれも自分だけどなあ」と思うんですけど(笑)。
――今回のライブでは、ベースの鳥越啓介さん、ドラムスの石川 智さんと共演されます。
今までひとりで弾くことが多かったので「頭のなかにこういう音が聴こえてるな」と思ってもピアノの音しか出ないから、ピアノで出来る範囲で伝えることしか出来なかったんです。でもおふたりと共演すると欲しかった音が来てくれたり、今までひとりで弾いてたらこのアドリブは浮かばなかっただろうなということがあったりと、新しいものが降りてくる感じがするので、本当に楽しくて、刺激的ですね。人柄も本当に素敵な方々で、幸せです。
――鳥越さん、石川さんのおふたりとも、ジャズだけを演奏するのではなく幅広いジャンルで活躍されているミュージシャンですよね。
リハーサルの様子を見ながら、ドラムスの石川さんに本番でどんな楽器を使ってもらうのかを相談しています。最初はドラムのセットしか無かったんですけど急遽、コンガとか持ってきてもらって入れてみたり。そうしたら求めてた音に近くなったというか、それ以上でしたね。既にCDにソロで収録しているオリジナルでも、すごく新しい雰囲気になって面白かったし、その感覚を託せるなと思う方たちなので、これからレコーディングもありますし、回数を重ねるごとにどんな風に変化してくるのかが自分自身楽しみです。
――もうひとつ、おふたりと共演する映像を拝見して気になったのですが、ベースのソロの最中に細川さんがかなり積極的にピアノを演奏されていますね。
それは昔から言われますね。「弾きすぎだよ」とか、逆に「弾かなさすぎだよ」とかも言われたことあるんですけど、しばらくお任せして何をやりたいのかを偵察するのも好きですね。私は我が強いから多分、自然に自分が出ちゃうんですけど、そうじゃない人っているじゃないですか。心優しそうな人。そういう人でも、すごい「ワ~っと」自分を見せて欲しい。私自身は、それがぶつかったときに面白いなと思うんです。
――今回、会場となる浜離宮朝日ホールは、クラシック音楽用のホールでも国内屈指の音響を誇るホールですね。このホールで演奏されたことはありますか?
観に行ったことはあるんですけど、弾くのは初めてなので楽しみです。小さいジャズクラブみたいな直接的な生音で聴かせるようなところだと、すごくダイレクトに音が届いてくると思うんですけど、こういうホールだと響きを利用して空間をつくれるのが好きなところですね。あのぐらいのキャパシティ(約550席)のホールは、ピアノの音が飛んでいきやすくて、残響がちょうど良いですし。
――そんなピアノの響きを堪能できるホールで演奏される曲目ですが、発表されているものを見ると、クラシック音楽関係の楽曲が目立ちます。例えば「パガニーニの主題による“ジャズ”変奏曲」というアイデアは、どのように生まれたのでしょう?
どこで弾いたとしても、その場の面白さを活かすのが弾く側の考えなきゃいけないことだと思うので、今回は半分会場ありきでクラシックをいくつか入れています。パガニーニ(のカプリース第24番)は、馴染みのある曲ですし、だからこそ色んなことが出来るなって思ったんです。何でもやろうと思えば出来るんですけど、やっぱり馴染みのある曲の方が面白さが伝わるかなと。
――少しくだらないことをお聴きするのですが、演奏中にかなり大きく足をブラブラさせますよね?
今日の演奏(動画「サマータイム」)では抑えめじゃなかったですか?
――いや、充分すぎるほど大きくブラブラしてました(笑)。
本当ですか?(笑)。でも冷静に練習してるときとか、興奮していないときは動いていないらしいですよ、うちの両親いわく。
――じゃあ、足が動いているということは、ノッてきた証拠なのでしょうか?(笑)。
そうかもしれないですね(笑)。ピアノを鳴らすとなると腕の重さとかそれ相応の重みが必要なんですけど、そんなに外国人のような太い腕でもなく、手が大きいわけでもなく、この小柄な体型なので、やっぱり身体全身を使うんです。そのエネルギーが下から、大地から来る感じのイメージがあります。あと、足も長くないのでお腹に力を入れて、足が浮いている方が音が飛びやすくて伝わりやすい音になる感じがします。
【動画】細川千尋ピアノ・トリオ スペシャルジャズライブより抜粋(※足の動きにも注目?)
――少し話は変わるのですが近年、日本でもヒップホップなどの他ジャンルを取り入れたりする新しいタイプのジャズが注目を集めていますね。細川さんは、そういった新しい潮流に興味を持っていますか?
すっごく興味あります。アリシア・キーズとかがデビューした頃(2001年)やアッシャーとかが流行ったとき、あの辺をすごく聴いていて、R&Bとかヒップホップにすごくハマったんですよ。だから(2012年頃に)ロバート・グラスパーがああいうことをやり始めたのを聴いたときに、私がハマっていたのは通じていたんだなと感じたんです。
実はヒップホップのダンスに憧れて、習いにも行ったんです。けどダンスは向いていなかった(笑)。でも、身体で感じることが全てに共通してるというか、ジャズ聴くときもそうですし、自分が弾くときもそうだし、ライブ聴きに行っても、音とかリズムとかって何にでも共通して身体に入ってくる。だからクラシックだからとか、ジャズだからとかは関係ない。もちろん弾き方は違ったりはするけども、ポップスでも良いものは良いというか、好きなものは好きなんです。
――では、現在のスタイルにこだわり続けるとは限らないわけですね。
そうですね。今のところ、私はアコースティックピアノを鳴らすっていう感覚が好きだし、一緒に育ってきたからアコースティックなピアノが合ってますけど、それが何になるか分からないし、そこは自由にやりたくなったときにやるんではないでしょうか。だってヒップホップとかって、昔はジャズを聴いて踊ったり皆していたのと結局は同じだと思うんですね。みんな身体を横に揺らして聴いているっていうのが一緒だと思うから。時代が変わればそういうものが出てくるのは自然だろうし、自分が思った時にやりたいなって思います。
――最後にライブを心待ちにしているファンの方々に一言お願い致します。
今まで流れに身を任せて、コンクールがソロだったからその後も割とソロで活動することが多くなり……という流れだったんですけど、今回はトリオというジャズの基礎的なものから始めたいという思いがあります。新しい一歩という感じなので、観ていただきたいですね。細川千尋の「新たなはじまりの一歩」として、是非!是非!是非!足を運んで頂きたいです。
――本日は有難うございました。今後の更なる飛躍を期待しております!
【動画】細川千尋からメッセージ for SPICE
取材・文=小室敬幸 スチール写真撮影=荒川潤 動画撮影&編集=大野要介
■会場:浜離宮朝日ホール (東京都)
■出演:
ピアノ・作曲:細川千尋
コントラバス:鳥越啓介
ドラム:石川智
■予定曲目:
♪グノー=J.S.バッハ:アヴェ・マリア
♪ガーシュウィン:サマータイム
♪パガニーニの主題による“ジャズ”変奏曲
♪ケンプフェルト:L-O-V-E
♪パーカー:マイ・リトル・スエード・シューズ
♪細川千尋:Pasion
※曲目は変更になる場合がございます。
■一般発売:2017/9/30(土)10:00
■公式サイト:https://www.chihirohosokawa.com/
■公式ブログ:https://ameblo.jp/c-6-12/
■放送日時:2017年9月29日(金)19:00~
■放送局:テレビ朝日
■公式サイト:http://www.tv-asahi.co.jp/the-mozart/