石原さとみインタビュー 4年ぶりの出演舞台『密やかな結晶』にかける想いとは
石原さとみ『密やかな結晶』 撮影=山越隼
日常が“消滅”していく島での物語を描いた小川洋子の小説『密やかな結晶』が2018年2月に舞台化される。島に住む主人公の小説家「わたし」を演じるのは、実に4年ぶりの舞台出演となる石原さとみ。主演の石原に作品や舞台への想いを聞いた。
舞台は一体型だなと思います
――『ピグマリオン』(2013)以来、4年ぶりの舞台出演です。ずっと舞台出演を望んでいらしたそうですが、舞台のどのようなところに魅力を感じているのですか?
まず稽古できることが嬉しいですね。映像だと、全く稽古期間がなくて、すぐ本番なんです。それでも出来てしまう編集の力や音楽の力など技術チームの力が大きいと思うんです。でも舞台は表にでたら誰も助けてくれないし、体調が悪くても自分の責任。本番は自分との戦いの感じがするんです。稽古期間はたくさん恥をかけて、失敗ができて、それを許してもらえる。稽古期間を味わいたいなぁと思っていたら、4年経ってしまいました(笑)。
石原さとみ『密やかな結晶』 撮影=山越隼
――本作の舞台化は、石原さんが希望されたとのことですが、なぜこの作品を?
この『密やかな結晶』は演劇っぽくて、世界観があって、セリフが綺麗で、重くなくて、わかりやすいなぁと感じたから。私、この本をすぐ読み終えたんです。あっという間に読み終えたのに心が温まったんですね。あと、少し怖くもなったのですが……。この本を読んだ友達と語り合ったことがあるのですが、それぞれいろんな答えが出てきて。感想を言い合えるような、そんな舞台になったらいいなと思っています。
――具体的に作品のどういうところに惹かれたのでしょうか?
「こういう島、実際にありそう!」というところかな。(現実と)遠くない感じがしました。でも、私の中では近すぎると恥ずかしくなっちゃう。客観視もできるけど、その世界に入り込めるというバランスが好きで、それには舞台の方がいいんです。
映像の世界だと、一瞬にして現実の世界に戻れちゃう感じがする。それに対して舞台上の息づかいも伝わる舞台は、一体型のように思います。今回だったら、(観劇する方々が)同じ島の住人のような気持ちになってもらえたらいいですよね。とても想像しやすい設定だと思うので。……自分の身の回りにあるものの名前が消えて、存在が消えて、記憶が消えて、それに代用できるものを見つけて、なかったことになる。そういう世界が本当はあって、私たちが忘れているだけじゃないかと思ってもらえたら面白いなと思いますし、決して派手な作品ではないのですが、演出の鄭さんだったら華やかにしてくださるのではないかなと期待しています。
――鄭さんの作品の魅力はどのように感じてらっしゃいますか?
簡潔に言うと、明るくて、楽しくて、わかりやすくて、感動できて、泣けて、驚いて、でも持ち帰るものが多いこと。だからといって、“どエンタメ”みたいな華やかさではなくて、ほんのり温かさが残る感じがすごく好きです。この作品はどうなるか分かりませんが、華やかではない島の話を鄭さんがやったらどうなるんだろうって思う。そもそも鄭さんの作品が好きだし、「一緒に仕事をしたい」と言い続けたら叶いました。言ってみるもんだなぁと思います(笑)。嬉しいですね。
石原さとみ『密やかな結晶』 撮影=山越隼
――原作も鄭さんも石原さんのやりたいことが詰め込まれましたね。
そうなんです! 共演者の方についても、舞台が好きな演劇人の方とご一緒したいなと思っていたので、とても面白そうな座組みで嬉しいです。
――原作を読みながらご自身が演じられることを想像していたのでしょうか?
私、主人公はR氏だと思っているんです。「わたし」の名前が先に出てくるけれど、原作を読んだらR氏がすごく魅力的に見えました。おじいさんと「わたし」という主人公の関係性は、同志愛というか、何か突き抜けている愛情みたいなものが感じられると思います。
鄭さんがおじいさんの設定を原作と変えることにしたと聞いて、、「設定が変わった!」と驚きましたが(笑)。そういう登場人物たちの関係性や、この作品の伝えたいことを、しっかり表現できればいいなと思っています。
石原さとみ『密やかな結晶』 撮影=山越隼
全部まっさらな状態で預けてみる
――演じられる「わたし」はどういう人物だと思いますか?
柔らかくて、優しくて、思いやりがあって、とことんピュア。純粋。環境や時代、縁とか運とか含めて、全部穏やかに対応できる人。消えていくものにも、悲しくて辛いという感情ではなく、対応できる人。だから幸せや豊かさを感じながら生きていられるんだと思うんですよね。
R氏と出会って、守りたいものができたり、おじいさんとの関係性で消えて欲しくないものが明確になったり、失うことの辛さや怖さを初めて知ったり。今まで失っていたものに対しても、もしかしたら大切なものを失っていたかもしれないと分かったり、想像ができるようになったり。
穏やかでピュアだった子が、だんだんと意思を持ち始めて強くなっていって、最後は運命を受け入れるような感じになったらいいかな。「わたし」のそういう成長過程があったらいいなと思います。基本的には受け身の存在なので、R氏やおじいさんがたくさん刺激を与えてくれたらいいなと思っています。
石原さとみ『密やかな結晶』 撮影=山越隼
――演じるにあたってはどういう手掛かりを考えていらっしゃいますか?
この世界に入り込んでしまえばできることがあると思います。だから原作を読み直して、その空気感を作ったり深めてみたり、ずっと漂っている生活の音楽や音を躍動的なものよりも緩やかなものに変えてみたり、ですかね。あとは、ずっとご一緒してみたかった鄭さんに、全部まっさらな状態で預けてみるのもアリかもしれません。料理して欲しいなぁと思います。
――稽古が楽しみだと仰っていました。具体的に楽しみにされていることはありますか?
皆さんがどうやっているのかを見たいですね。ジャージ着てくるのかな〜とか、そこから見たい(笑)。それぞれの役者さんの個性、人となり、大切にされているもの、消えて欲しくないもの、この本読んでの感想……色々知りたいですね。どうやって生きているのかを聞きたいです。映像だと、そういう時間も持てない。人を知る時間になればいいなぁと思います。
――共演者の村上虹郎さんには、どういう印象をお持ちですか?
お会いしたことがまだないのですが……アーティスティックな印象があります。陰があるというか、表に出すものは静なのに、中にあるものは動……そんなイメージです。それは若さなのか生まれなのか何かわからないですが。今回もおじいさんとして静かな感じのお芝居が多いのかなと思うんですけど、その中で揺れ動いているものを見られるのが楽しみですね。
――鈴木浩介さんについてはいかがでしょう。
前にドラマでご一緒した時は変態的な役だったし、ドラマを見ているといろんな表情をするからどんな人かさっぱりわからないです(笑)。何が本当かわからない。ちー(大塚千弘)と結婚されたじゃないですか。ますますどういう人なんだろうと想像がつかないので(笑)、知っていきたいです。
石原さとみ『密やかな結晶』 撮影=山越隼
私の好きなものを好きだと思ってもらえたら
――今回の舞台で成し遂げたい目標やビジョンはございますか?
心の底から鄭さんが好きだと、終わった時に言いたい。それが言えたら大成功なんだと思います。一番最後に鄭さんが好きだなと思えたらいいです。
お客さんには、この舞台に入り込んで、島の住人になってもらえたら嬉しいですね。私は原作を読み終わった後に、命の存在や意義について考えました。それぞれの経験と知識で抱く感情は変わると思いますが、舞台を見終わった後に、命についてとか、消えていく物質に対して思うこととか、漠然としたものでいいんですが、見た人と感想を話せたらいいなぁと思います。押し付けがましいものではなく、何か柔らかい気持ちになってほしい。この尊い気持ちは何だろうと思ってもらえたら嬉しいです。
――最後に一言お願いします。
4年ぶりの舞台なので、ぜひ会いに来て欲しいです。映像を見て私に興味を持ってくれた方はもちろん観に来てほしいし、会いに来てほしい。そうでない方にも、私の好きなものを好きだと思ってもらえたら嬉しいです。舞台が好きな人にはもちろん楽しんでいただける作品になると思います。
私、舞台で好きなのはカーテンコールだったりするんですよ(笑)。どうやって最後、「ありがとうございました」を言えるのか、気になっていて。役のままいくのかなあ〜? 素に戻るのかなぁ〜? 作品によって違いますよね。でもそこが唯一お客さんとの距離が縮まる瞬間。お客さんの顔を目の前で見える瞬間をとても楽しみにしています。
石原さとみ『密やかな結晶』 撮影=山越隼
インタビュー・文=五月女菜穂 撮影=山越隼
【応募方法】
※ご応募いただく際には、応募フォーム内の注意事項を必ずお読みください
【東京公演】
日程:2018年2月2日(金)~25日(日)
会場:東京芸術劇場 プレイハウス (東京・池袋)
日程:2018年3月3日(土)、4日(日)
日程:2018年3月8日(木)~11日(日)
日程:2018年3月17日(土) 、18日(日)
主催:ホリプロ
原作:小川洋子「密やかな結晶」(講談社文庫)
脚本・演出:鄭義信
出演:石原さとみ 村上虹郎 鈴木浩介
藤原季節 山田ジェームス武 福山康平 風間由次郎
江戸川萬時 益山寛司 キキ花香 山村涼子/山内圭哉 ベンガル