坂東玉三郎「人生と共感できる瞬間を届けたい」 『坂東玉三郎 世界のうた』について語る
坂東玉三郎 撮影:岡本隆史
歌舞伎俳優の坂東玉三郎が、2019年5月に日生劇場でコンサート『坂東玉三郎 世界のうた』を行うことになった。公演情報の発表に際し、日生劇場で自身のコンサートを開催するのは今回が初めてとなる玉三郎が、その思いを語った。
冒頭、「どんなことになりますか多少不安もありますが、これから一生懸命計画を立て、演出家・演奏家とも相談し、皆さまに心を込めたものをお送りできればと思っております」と語った玉三郎。「世界のうた」と銘打たれたタイトルについては「日本の歌、アメリカの歌、シャンソン、ミュージカル、といろいろな歌が入っているという意味でこのタイトルにしました」と説明した。
具体的な曲目を尋ねられると「井上陽水さんの歌をぜひはじめて歌わせていただきたいと思っており、現段階で決まっているのは『つめたい部屋の世界地図』です。それから皆さんもよくご存知のシャンソンから『人生は歌だけ』や、ミュージカル「ウエスト・サイド物語」の『サムウェア』、「サウンド・オブ・ミュージック」の『すべての山に登れ』、といったところを考えておりまして、あとはまだ未定です。その日によって変わる歌もあると思います」と答えた。
玉三郎と井上陽水は同世代。思い入れも強いようで「陽水さんの歌は、私たちの世代からすると切っても切れない関係といいますか、好きとか嫌いといったことを超越してそばにあった歌ですし、『つめたい部屋の世界地図』の歌詞と自分の当時の人生とがリンクするところがあったので選曲しました」とその思いを語った。
芝居の舞台と歌の舞台における、お客様との関係性の違いを問われると「歌は3~5分で世界が一つ完結します。そのかわり、その一曲の中に人生観が込められているので、1ステージのうちに様々な人生観をまとめることができる楽しさがあると思います。陽水さんはじめ歌手の方々は、人生を歌っていらっしゃるのではないでしょうか。詞の世界というのは素晴らしいものがありますよね」と答えた。
演出プランについては「日生劇場らしいことはしなければならない」と思っているそうで、「ショー的な要素はあまり考えておりませんが、お客様が目で楽しめるしつらえについては、演出の小林香さんに相談しているところです。二部構成で20曲くらいの予定です。曲ごとの思いなどはお話ししますが、基本的にあまりトークはしないつもりです」と語った。また、歌は「母国語でなければ言葉が伝わりにくい」との思いから、日本語で歌う予定だ。
歌舞伎役者である玉三郎にとって、歌の仕事とはどういう意味を持つのか。「お客様が楽しんでくださって、聞くことによって、生きていてよかったな、とか、これからなんとかなるかな、と思えるような歌を届けられれば、歌う意味があるのではないかな、と思います。そういうことからも、5分以内に一つの人生が完結できるということは大きな意味がありますし、やはり人生を共有できるような歌も歌っていきたいと思います。歌というのは、自分の人生と共感できる瞬間がたくさんやってくるということが大事だと思うんです。歌手の皆さんはそれこそ、その時代の人生を歌ってきたと思いますから」と熱く語った。
歌の練習方法について問われると「やはり、練習だけでは歌が生きてこないんです。今日もこれから皆さんの前でリハーサルということで歌いますが、お客様の前で歌わないと出てこないものがあるんです。歌は、歌いこんだからこそ人生が出てくる、という部分があるので、そこは芝居と通じるところです」と、俳優だからこその思いを教えてくれた。
その後、玉三郎はコンサートで歌唱予定の2曲を披露。演奏は、弦楽カルテットにピアノ、コントラバスを加えた六重奏だ。ゴージャスな衣装に着替えた玉三郎の華やかな再登場に、思わず取材する報道陣から感嘆の声が上がった。
まずは『人生は歌だけ』。シャルル・デュモン作曲のこの曲は、越路吹雪も歌っていた名曲だ。玉三郎は哀愁たっぷりに、切々と歌い上げる。さすが歌舞伎俳優、歌詞の言葉の一つひとつがはっきりと聞く者の耳に届いてくる。「私には歌だけ」「歌のほかに なんにもないわ」という、歌詞に込められた人生の哀しさが胸に迫ってくるようだった。
そして、井上陽水の『つめたい部屋の世界地図』。船で旅に出る前向きな曲かと思いきや、やはりそこには人生の哀愁が漂っており、玉三郎の歌声も伸びやかな力強さの中にどこか憂いを感じさせるものがあった。
2曲のみではあったが、曲の世界観によって歌い方や声色、表情も使い分けるその表現の豊かさを存分に感じることができ、会場は大きな拍手に包まれた。
日生劇場のあの空間で、玉三郎の歌がどのような世界を観客に見せてくれるのか、ますます期待が高まった。
坂東玉三郎 撮影:岡本隆史
取材・文=久田絢子
公演情報
場所:日生劇場